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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第7話『狂騒 怪獣達の宴』〜再生怪獣軍団 怨念融合獣DE・O・TE登場〜
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#2 『その憎しみを侵略者共に』

 ユウタがユグドラシルを後にしたその日の夜のことです。


 CEF隊長を務める岩根(イワガネ)玄武(ゲンブ)は、司令室からエレベーターに乗り込み会議室へ向かっていました。


 地下百メートルから地下八〇メートルまで上昇し、そこにある会議室に入室します。


 部屋の中は円筒形で、十人も入ったら足の踏み場もないほどです。


 天井に照明があるだけで椅子もテーブルも見えず、ゲンブの姿しかありません。


 先ほど入ってきた出入り口の扉が閉まると同時に、天井の照明が徐々に照度を落としていきます。


 完全に暗くなるまでの数秒間、ゲンブは動じることなくその場に立っていました。


 視界が闇に閉ざされると同時に、隣から声をかけられます。


「相変わらず早いね。イワガネ隊長」


 声をかけられた方を見ると、軍服を着た恰幅の良い男性が椅子に深く腰掛けていました。


 ホログラムで映し出されている為、椅子を含めた全身はまるで幽霊のように半透明です。


 声をかけてきたのは、ゲンブの先輩である守崎(モリサキ)(タケル)長官です。


「君の行動力を僕も見習いたいよ」


 タケルは子供のように血色の良い頰を震わせながら、大きなお腹を撫でます。


 ゲンブが何か言う前に、タケルと同じ軍服の男性達が幽霊のような姿で一斉に現れました。


 いずれも男性で、皆ゲンブより十か二〇は歳上に見えます。


 五人の男性は各国の防衛軍支部の長官です。


 いつもなら長官達しか参加しないのですが、今回はゲンブも参加するようにと通達があったのです。


 長官達が全員揃ったと同時にゲンブは両腕を組みました。


 その仕草にタケル以外の長官は、勘に触ったように目を細めて威圧してきます。


 けれどもゲンブが赤鉄鉱の瞳を向けると目を逸らし、何事もなかったかのように会議を始めます。


 議題は防衛軍の予算や各国での怪獣対策の情報交換などで、はっきり言ってゲンブがここになくても問題はないものばかりでした。


 タケルを除く五人は、自分の支部に対する不満をここで発散しているかのようでした。


 やっと、ゲンブが関わりのある議題に変わりました。


 進行役となったタケルが次の議題を話し始めました。


「では次は、侵略者の拠点特定と直接攻撃についてですね」


 髪の薄いロシア長官が文字通り口火を切ります。


「イワガネ隊長。敵が潜伏していると思われる場所は特定できないのか」


「調査中ですが、以前特定できていません」


 黒髪をきっちりとセットした中国長官が続きます。


「我が国では、ここ二〇年間怪獣の攻撃はないが、いつ襲来するか予測できない。敵の拠点を攻撃するのは得策だと思う」


 更に金髪のアメリカ長官も加わりました。


「アメリカでは専門の部隊を結成し、特定した異星人犯罪者のアジトへの突入作戦により一定の成果を上げています」


 アメリカ長官が会議室中央のスクリーンに、捕らえた異星人を表示されます。


 その成功率を見てロシア長官は、興奮したような笑みを浮かべました。


「やはり攻勢に出るべきだ。皆もそう思うだろう?」


 アメリカと中国が同意する中、青い瞳のヨーロッパ長官は躊躇いを見せました。


 それをロシア長官に見つかってしまったようです。


「何か問題があるかね」


「いえ。攻勢をかけるにもヨーロッパ諸国では予算も兵器も不足気味でして……」


 遠回しに攻勢に反対と言うが、周りの圧力で今にも潰れてしまいそうです。


「それなら我が国で貸与しましょう。資金もこちらである程度なら用意できますよ」


 中国長官の言葉にアメリカ長官も同意するように優しい笑みで頷きます。


 ヨーロッパ長官は滝に流される小枝のように、超大国の申し出に逆らえそうにありませんでした。


 ロシア長官がタケルの方を指差します。


「それで、日本支部は賛成か反対かどちらかね」


 半ば脅すような口調でした。


 それでもタケルは子供のような笑みを絶やしません。


「皆さんの意見は理に叶っていますが、私は賛成できかねます」


「理由は?」


 ロシア長官が頭を突き出し睨みつけてきました。


 タケルは怯む事なく続けます。


「惑星を特定し進行した場合。とてつもない予算と人員が必要になります。更に人的被害が出た場合、国民から反発を受けるのは必至です」


「それは問題ない。我がロシアではドイツの科学者が設計した侵攻用の新型兵器を準備してある。怪獣も瞬殺できるほどのな」


 アメリカ長官も加わります。


「我が国では惑星破壊兵器を開発中です。まだ試験段階ですが、近日中に実用化できると報告を受けています」


 中国はもちろんアメリカとロシア寄りで、ヨーロッパ長官は何も言えません。


「しかし――」


 反論しようとするタケルの言葉を今まで無言だったゲンブが遮りました。


「話してもよろしいですか?」


 ロシア長官が肩を竦めて、先を促します。


「私は侵攻には反対です」


「お優しい敵が諦めるまで、怪獣共を倒し続けろと言うのかね」


「少し違います。侵略者も諦めるような守りの厚さを目指すべきなのです。

 我々は防衛軍。この地球の盾ではないといけません。

 その我々が盾を捨て剣や槍しか持たなくなった時、

 誰が地球を守れるのですか」


「だが、守ってばかりでは被害は大きい。現に君の国ではここ最近何度も攻撃を受けているではないか!」


ロシア長官のこめかみには、血管が浮き上がっていました。


「分かっています。その為のシェルターや防衛兵器の充実により、市民への被害は実質皆無です」


 タケルが捕捉します。


「それは事実です。避難時の混乱による転倒などの怪我人や、過度なストレスでの急病人は出ていますが、怪獣襲撃による直接的な死者は報告されていません」


 アメリカ、中国、ヨーロッパの長官が押し黙る中、ロシア長官だけが引き下がろうとしません。


「悠長なことを言ってられるか! 我がロシアは怪獣共にどれだけ祖国を蹂躙されたことか。その憎しみを侵略者共に味合わせなければ――」


「そんな事をしたら」


 怒りに燃えるロシア長官と対照的にゲンブは静かに自分の意見を述べます。


「侵攻した途端、貴方も私も侵略者です。汚名という名の焼印を後世の子供達に押し付けるのですか?

 もっと異星人(かれら)の文化を知ろうとしてもいいのではないでしょうか?」


「ぐぐぐ、ならどうすればこの戦争は終わるというのだ!」


「侵攻以外の方法はあるはずです。我々は攻めることだけに捉われずに様々な事を模索してみるべきです」


 この時、ゲンブはある少年を思い浮かべていました。


 悪を憎まず、誰かを助ける為だけに戦う彼が、世界が変われるキッカケになるかもしれないと考えていたのです。


―2―


 怒りのあまり血圧が上がりすぎたのか、ロシア長官は体調不良を訴えて退室してしまいました。


 それをきっかけに会議もお開きになり、他の長官達の姿も消えていきます。


 ヨーロッパ長官は去り際に小さく頭を下げていました。


 残ったタケルがゲンブに話しかけます。


「いや〜終わった。これで次の会議まで少し気分が楽になるよ。まあ結局会議はあるんだけどね」


 ゲンブは腕を組んだまま難しい顔をして聞いていました。


「戦いが終わる方法でも考えているのかい?」


「いつかはこの戦いを終わらせないといけない。せめて私が生きているうちには終わらせたいが……」


「だからといってヒーローである彼に任せっぱなしにしたくないんだろ」


 心の中を読まれてゲンブは微かな眉根を上げます。


「さすが先輩。よく分かっている」


「後輩の事はある程度わかっているつもりだよ」


「なら、今考えている事は分かりますか。先輩」


 ゲンブは鋭い目つきでタケルのお腹を睨みつけます。


「おっと急用を思い出した。お先に失礼するよ」


 タケルは平静を装いながらも額に汗を浮かべながら退室しました。


 ゲンブは、誰もいなくなった会議室を後にして司令室に戻ります。


 隊員達も各々仕事をしているので、指令室内に人の姿はありません。


 一つ嘆息すると、不意に声をかけられました。


『ゲンブ。お疲れのようですね』


 司令室中央の黄色い球体が輝きながら言葉を発します。


『疲れているなら、休息をお勧めします』


 ゲンブは腕を組んでモニターを見つめます。


「問題ない。何か変わった事はあったか?」


『いえ何も。市民からの通報は勿論、パトロールからも異変などは報告されていません』


「そうか」


 それ以上言葉は交わされず、司令室内は人がいるのに誰もいないかのように静かになりました。


 フリッカが逞しい背中に視線を送っている事に、ゲンブ本人は全く気付いていませんでした。



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