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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第6話《跳躍 宇宙まで僅か一秒》〜斧甲蟹獣カブヘルム登場〜
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#4 配属1460日目その2

 ―1―


「ヘェックション!」


 自強(ジキョウ)勉夢(ツトム)は大きなくしゃみで目を覚ました。


 身体を起こすと、セットしていない短い黒髪が無造作に動く。


 アメジストの瞳で腕時計型のオーパスを確認するとアラームが鳴る十秒前だった。


 時間になって目覚ましが鳴る直前に止めた。


「珍しいな。目覚まし鳴る前に起きるなんて。誰か噂したのか?」


 ツトムは鼻をすする。


 特に見当はつかなかったので、考える事をやめた。


 肌着姿のツトムはベッドから降りると、左腕のオーパスを操作し、スカウトスーツの外見を変化させる。


 肌着から黒のスーツ姿に身を包んだツトムは、ベッド脇に置いてあるメガネを手に取る。


 両手に持ったシルバーフレームの細長いメガネ。視力が悪いわけではないので度は入っていない。


 それは自分が今も憧れを抱く()()()()()()()が掛けていた物と同じ物。


 メガネを見ながら小さい頃を思い出す。


 見上げた先に見えるのは、大きな大きな鋼の背中。


 その頼もしさを、二〇年以上経っても忘れたことはない。


 このメガネを掛ければ、自分も偉大な存在になれると本気で信じていた時期もある。


 しかし、最近、この度が入っていないレンズに自分より年下の少年がチラつく。


 力を受け継いだというだけで、何も知らない無知な彼が、たった一日で世界を守るヒーローになってしまったのだ。


 上手く使えもしないのに、才能や力があるだけで、自分の頭上を踏みつけていく奴が嫌いだった。


 あのオドオドした少年もまた、今まで苦労してきた道を一瞬にして飛び越えて行ってしまった。


 でも彼は今旅行で日本にはいない。


 もしこの時、侵略者が現れた場合……。


「僕とヘビィトータスが全て撃破してやる」


 ツトムはメガネを掛けると自室を後にする。


 無人になった部屋の電気はひとりでに消灯した。


 ―2―


「おはようございます。イブゥ」


 地下二〇メートルの居住区からエレベーターを降り、地下百メートルの司令室へ向かう廊下を歩いていると、すれ違うOF-60が機械的な音声で挨拶してきた。


 ツトムは特に反応せずにすれ違った。


 司令室の扉を開け、集まっていた隊員と隊長に挨拶をする。


「お早うございます」


「おっ、おはようツトム君」


 右手を上げて、最初に返してくれたのは、隊一番の筋肉を持つ力持ち、金剛(コンゴウ)厚志(アツシ)だ。


 相変わらず、日に焼けた肌に包まれた鍛え上げられた筋肉が大きすぎて、スーツがはち切れそうだ。


 こちらに爽やかな笑顔を見せ、白い歯がキラリと光ると同時に、スキンヘッドも電灯の光を反射していた。


 アツシは地球人そっくりな容姿だが、ロッキュ星の生まれだ。


 ロッキュ星の人々は生まれつき、まるでアメリカの映画スターのように筋肉が発達しているそうだ。


 ツトムは見たことがないが、肌も鋼鉄のように硬化させることができるらしい。


 笑顔のアツシに会釈しながら、ツトムはこう考える。


 彼の筋力も生まれつき……と。


 ツトムも日々のトレーニングを欠かしてはいないが、アルプス山脈のようなアツシの筋肉には追いつけそうもなかった。


「ツトム殿。おはようッシュ」


 独特の語尾と共に突然視界に現れたのは、影隠(カゲガクレ)半蔵(ハンゾウ)だ。


「ッ、カゲガクレさん。おはようございます」


 ツトムは内心の動揺を押し殺して挨拶した。


「驚かしてしまったかなッシュ?」


「いえ、そんな事はないですよ」


「それならよかったッシュ。胸に手を当てているのでもしかしてと思ったッシュ」


 指摘されてすぐに手を下ろす。


「驚いていません」


 小さく頭を下げて、ハンゾウの脇を通る。


 細身で、髪を後ろに結わえ、開いているかどうか分からない糸目。


 そして気配もなく現れる。


 まるで忍者のような名前の彼もまた異星人である。


 ハンゾウの出身のニンジャカ星が侵略された時、地球から転移してきた()()に星を救われたそうだ。


 それからハンゾウの先祖達は忍術を学び体得したとか。


 なので、ニンジャカ星で生まれた人は全て忍術が扱えるとハンゾウ本人が言っていた。


 細身であるが、素早い動きは目にも留まらぬほどで、ツトムにはどうやっても追いつけるものではなかった。


「……ショウアイさん。お早うございます」


 ツトムはこちらに背を向けている唯一の女性隊員に挨拶した。


「おはよう」


 振り向いた女性隊員、照愛(ショウアイ)沙耶刀(サヤト)は短く返事すると、すぐに頭を戻してしまう。


 艶めく紫の髪をシニヨンに纏め、切れ長の瞳はアメジスト。


 無駄な肉一つないが丸みを帯びた身体は、名前の通り、まるで刀のよう。


 彼女は地球人で八歳も歳下であるが、苦手であった。


 ツトムよりも冷静な判断力と優れた運動神経を持ち合わせているからではない。


『自分が優れているのを自慢するのは勝手よ。だけど、その為にユウタ君を貶めるのはやめなさい』


 この前、そう注意された時、心を鋭い刃で斬られたような感覚に襲われたからだ。


 それ以来、以前にも増して会話は減る一方だ。


 気を取り直して、部屋の奥で腕を組む隊長に挨拶。


「お早うございます。隊長」


 ツトムは他の退院の時より心持ち頭を深く下げた。


「おはよう」


 短い返事を返して赤鉄鉱の瞳をこちらに向けてきた。


 短く刈り込んだ灰色の髪に顎髭、アツシほどではないが壮年である事を感じさせない鍛え上げられた肉体。


 彼こそが、ツトムを見出してくれた侵略者迎撃部隊CEF(セフ)の隊長、岩根(イワガネ)玄武(ゲンブ)。その人である。


 神獣の玄武のように落ち着いた姿勢はツトムの見習いたいところであった。


「全員揃ったところで、今日のブリーフィングを始める」


 ゲンブが聴いた瞬間思わず膝をつきたくなるような、低い声を発した。


 瞬間、隊員達は姿勢を正す。


「まずは今日発射されたロケット――」


『待ったゲンブ。先にオレに報告させてくれ』


 司令室天井のスピーカーから男子の声が聞こえてきた。


 続けて慌てた様子の女性の機械音声。


『ハ、ハカセ! 割り込みはダメですよ〜』


『アシタは黙ってろ。なあゲンブ。こっちの話も重要な話なんだぞ』


 ツトムは文句を言いたくなったが、先に口を開いたのはゲンブだ。


「分かったハカセ。先に話して構わない」


『サンキュー』


 ハカセはいつも自室に閉じこもって顔を見せる事は少ないが、たった一人でCEFの超兵器や新兵器を開発した人物である。


 彼の生まれたサイエン星は皆知能が高いらしく、本人曰く『これくらい朝飯前』だそうだ。


 自分もハカセと同じくらいの知能があったら、自分専用の超兵器を作りたいとツトムは思っていた。


『まずは、この前サヤトに言われたシルバーハウンドの消臭機能、改良しておいたぞ』


 怪獣の放った毒ガスの悪臭が車内に残った事を、サヤトはハカセに伝えていた。


「分かったわ」


 サヤトがスピーカーに向かって礼を言った。


『次、ゲンブとサヤト、それにツトム。三人の武器の転送装置が完成した』


 ツトムは自分の右腰に手を伸ばす。


 いつも提げている銃はそこにはない。


 今まではステルス迷彩で見えなくなっていたが、今は別の場所に保管されている。


『三人の銃は二四時間自動整備の保管庫の中だ』


 アシタが補足する。


『もちろん盗難対策もバッチリです〜』


『そんなのは当たり前! 最大の特徴はオレさまが作った物質転送装置だ』


 みんなの疑問を代弁して、サヤトが疑問を口にする。


「物質を転送、つまり保管庫から手元に転送されるという事?」


『そういう事。実践してみようぜサヤト。スーツを戦闘用に変えてくれ』


 サヤトは何も言わずに、レディーススーツのカムフラージュを解除して本来の姿になっていく。


 スタイルの良い肢体を身体にフィットした黒いスーツが覆いつくした。


『右手を上げてくれ。その位置でストップ』


 ハカセからは司令室が見えているようで、手を上げる位置を指定してきた。


 サヤトは右手を胸の上のあたりで止める。


『それで右の掌を見つめながら、脳内で自分の銃を思い浮かべてくれ』


  言われた通りに見つめていた掌に変化が起きた。


 何処からともなく拳銃が現れ、前からそこにあったかのように、サヤトの右手にすっぽりと収まる。


  鈍器にもなりそうな無骨な外見に、蓮根のように穴の開いたシリンダー。


 彼女専用のCEFピストルHRであった。


『上手く転送できたみたいだな』


 本物か確かめるように手の中の銃を見回しながらサヤトが答える。


「ええ。保管庫に戻す時はどうするの?」


『簡単だ『保管庫に戻したい』って頭に思い浮かべればいい。そうする事で脳波を感知したスーツが転送装置を起動してくれる』


 サヤトは声で返事をする代わりに、持っていた銃を掌から消す事で返した。


「簡単ね」


『だろ? 慣れればもっと自然に転送できるようになるぞ。ゲンブも練習しておくか?』


 ゲンブはゆっくりと首を横に振った。


「ブリーフィングが終わってからにしよう」


『そうかい。ツトムはどうする?』


 ツトムは隊長に倣う事にした。


『僕も後にしておきます』


『分かった。じゃあオレさまからは以上だ。じゃあな』


『割り込んでしまってすみませんでした〜』


 アシタの謝罪を最後にスピーカーは沈黙する。


 話を聞いているのかどうかは判断つかなかった。


「では、改めて先程話しかけた事を話そう」


 ゲンブは特に気にしている風もなく、ブリーフィングを再開したので、ゲンブも隊長の声に意識を集中させる。


「防衛軍本部からの連絡で、本日発射されたソユーズロケットは、問題なく太陽へのコースを取っているとの事だ」


 司令室のモニターに、発射されたソユーズが、地球から太陽へ向かうコースが赤いラインで表示された。


「順調にいけば、今日中に月を超える。何か問題があれば、監視しているRDステーションから連絡があるだろう」


 ツトムは一瞬、宇宙にいる姉の事を思う。


「次は、ここ一ヶ月に現れた怪獣の名前が決定した。今オーパスに転送するから各々確認しておいてくれ」


 左手の腕時計を見ると、怪獣の姿と名前がホログラムとなって表れた。


 ガーディマンが初めて戦い倒した、限界改造獣メカメカキョウボラス。


 後の調査で同じ個体だという事が判明したのは……。


 全身から眼球のような光線発射機関を持った双子怪獣レイ・ウラトロン。


 そして、ガーディマンが市民から非難される原因となった落花生のような甲殻に包まれた重厚怪獣グザ・エレトロン。


 次の二体は虫のような外見に空を飛ぶ怪獣だ。


 地球にいるマイマイガそっくりで最大三体表れた地醜蛾獣ソンブリブル。


 ショッピングモールを包み込むほどの巨大な蛾から現れた怪獣は、絶美蝶獣マトゥファーラと名付けられていた。


「隊長殿。拙者から、ひとつ質問があるッシュ」


 ハンゾウの言葉に一同、オーパスから彼に視線を向けた。


「なんだ」


「この怪獣の名称は一体誰がつけているッシュ」


「防衛軍内に専門の部署があって、百十五年前からそこで名付けられているが、私も詳細は知らない」


「そうかッシュ。疑問が晴れましたッシュ」


 ツトムはその正体は怪獣好きなのではないかと思っている。


 現にマトゥファーラが現れてから、今もネット上では『歴代最高の美しさ』と持て囃されているのだ。


「他に質問は……ないようだな。最後に、知っているとは思うがホシゾラ君は今日からロシア旅行で日本にはいない」


「旅行か。ロシアはここより涼しいから風邪引かないで楽しんできてくれればいいが」


 アツシはまるでお母さんのように心配している。


「ロシアといえば、最も早く忍者に興味を持った国ッシュ。拙者もロシア忍者と話をしてみたいッシュ」


 ハンゾウは、忍者が関わっているからか興味津々のようだ。


  一方、サヤトからは、こんな小さな呟きが聞こえてきた。


「……も行きたかったなぁ」


 一部しか聞こえなかったので、思わず聞き返してしまう。


「えっ?」


  サヤトの方を見ると、前を向いていた彼女が突然振り返った。


「何か?」


「い、いえ!」


 鋭い鏃のような視線にツトムはそう言うだけで精一杯。


 でも心の中では、世界を守る存在が気楽なもんだなとも思っていた。


「質問が無いなら、今日のブリーフィングはここまでだ。各々の仕事に就いてくれ」


 ゲンブの締めの言葉にツトムを含む四人は同時に返事する。


「「「了解」」」

「了解ッシュ」


 ―3―


 ブリーフィングを終え、司令室を出たツトムはトレーニングルームにいた。


 行なっているのは、ヘビィトータスの射撃訓練だ。


 車内と同じく、巨大なライフルのような発射装置を右肩に担ぎ、右眼で照準器を覗く。


 相手は今まで戦ってきた怪獣達だ。


 三百六十度回転する座席を時計回りや反時計回りに回転させながら、ホログラムの怪獣と対峙する。


 陸を動き回る怪獣も、空を飛び回る怪獣も撃ち落とした。


 後はこちらの砲撃を弾いた怪獣を撃ち抜くだけ。


 落花生のような甲殻が四本足で走りながら、距離を詰めてくる。


 関連だとわかっていても数十メートルの塊が迫ってくるのは、内心冷や汗が止まらない。


 だが、その恐怖を抑え込み、ツトムは解析された弱点を狙ってトリガーを引き絞った。


「ふう……」


 訓練を終えたツトムは額の汗をぬぐいながら、スポーツドリンクを飲む。


 座っていたとはいえ、集中力をかなり使って体力を消耗していた。


 少し休んで筋力トレーニングを行おうかと考えていると、左手のオーパスが着信を告げる。


「はい。ツトムです」


「ゲンブだ。緊急事態発生、全員その場で聞いてくれ」


 ツトムは内心の高揚が表情に出ないように注意した。


 ガーディマンが不在の今、怪獣を倒せるのは僕だけだ。そう心の中で呟く。


「本日未明、ナヌーク核廃棄施設から発射されたソユーズロケットが消息を絶ったとRDステーションから連絡があった」


 それを聞いたツトムは事故か何かと思い、あまり重要には思わない。


「全隊員は至急司令室へ。そこで詳細を確認してもらう」


「了解。すぐ向かいます」


 通信を終えたツトムは、トレーニングルームを後にした。


 事の重大さに気づくのはまだ少し後であった。

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