#10 その名は護振剣
―1―
ボナモールが正体不明の蛹のようなものに包まれて数時間。
その様子を報道していたソクホウカイは二人の警官に追い出された事と蛹から出てきた毒ガスのようなものによって避難を余儀なくされてしまった。
今彼女を含めたスタッフがいるのは、蛹から約二キロ離れた地下鉄の駅に設けられた救護所だ。
「CEFによって救助された人々が、ここで治療を受けている模様です」
そこまで言ったところで、救急車のサイレンが中継を遮った。
「重症の方もいるようで、今、最寄りの病院に搬送されていきます」
遠くから何かが崩れ落ちる音が微かに聞こえてきた。
それはカイだけではなかったようで、カメラマンも音がした方にカメラを向ける。
「大変です。ボナモールを覆い尽くしていた蛹のようなものが崩れ落ちています。
私たちが入手した情報では、まだ中に人がいるとの情報も――」
更に衝撃的な事が起きた。
蛹から成虫が出てくるように、スピネルのような蛹が崩壊し、中から回転しながら何かが飛び出た。
物凄い速さでカメラが追いつかない。
雲の晴れた夜空に飛び上がった物体は、掌に包まれているように半透明の翅を畳んでいる。
黒い縁の翅が開く。
開いた両掌から現れたのは、黒き女性であった。
細い手足に膨らんだ胸、くびれた腰と対照的に臀部はとても肉感的だ。
「あれ怪獣なの……?」
カイは、そのあまりの美しさに見惚れてリポートをするのを忘れてしまう。
それを指摘するものもおらず、皆空に浮かぶ蝶の翅を持つ女性のような怪獣に釘付けになっていた。
夜空に浮かぶ全裸の女性は、下界の人々の視線を気にすることもなく、夜空に浮かぶ月の方を向く。
何をするかと思えば、まるでシャワーを浴びるように全身に指を這わせて月光をその身いっぱいに浴びている。
その行動と青く輝いていく翅は、男女関わらず惹きつけてしまう妖艶さが漂っていた。
「綺麗……」
それはカイの口から出た無意識の呟きであった。
蝶の翅が動く度に黒い縁に付着している金の鱗粉が舞い落ちる。
黄金色の粉雪が、ゆっくりと落ちてくる光景は幻想的な美しさと表現するしかなかった。
ソレの行く末を見届けていると、ビルの屋上に触れた途端無数の爆発が起き、見惚れていた人々が正気に戻って声をあげた。
金の鱗粉は触れたところで爆発していき、恐怖と破壊を振りまく。
我に返った警官達が、救護所周辺にいる人たちを地下に避難誘導していく。
カイ達も警官達に押されるように地下に避難していくが、中継だけは忘れない。
「ボナモールから飛び出た怪獣が爆発する金の鱗粉を撒き散らしています! すでに何棟ものビルが破壊されました」
避難しながらリポートするカイの視界がボナモールがあったところから何か飛び出したのを目撃した。
それは小さくて肉眼ではよくわからなかったが、最大ズームしたカメラには映っていた。
人のようなものを抱える白銀の金属生命体が夜空に向かって飛び出していたのだ。
―2―
「『立ち止まるな。一歩踏み出せ!』」
キーワードを入力し、オーパスから緑色のリームエネルギーが流れ、ユウタの全身を変えていく。
頭からつま先までエメラルドグリーンの光を放ち、身長も百七〇センチまで伸びていく。
左手から離れたオーパスが胸部中央に装着。
すると銀色の皮膚で鎧であるナノメタルスキンが一瞬にして全身を覆い尽くす。
背中には円形のアンチグラビティブースター。
頭部も全体が覆われ、正義を象徴する十字状のゴーグル。
オーパスから全身に向かって、血管のようにエメラルドグリーンのラインが伸びて完了。
これが『みんなの希望』となったユウタの姿。
その名は『ガーディマン』という。
ユウタはガーディマンへ変身すると、落ちてきた自分よりも大きな瓦礫を片手で受け止める。
ボナモール全体が崩壊し、人を簡単に潰せる瓦礫が次々と落下して、床を破壊し埃と小さな欠片がが舞い上がる。
遂に瓦礫は床面を全て埋め尽くし、まるで子供の積み木遊びのように乱雑に積み上げられていく。
ガーディマンの支える瓦礫にも新たな瓦礫が落ちてきた。
片手では支えられなくなり、両手を使う。
踏ん張った両足が床を踏み抜き、足首まで埋まっていく。
(このままじゃ生き埋めだ)
埋まって冷たくなっていく自分を想像して身震いしながら、背中のアンチグラビティブースターを起動。
リング状の発光部が光り、緑の粒子が強い勢いで噴き出す。
まるで小さな爆発が起きたような勢いで支えていた瓦礫を吹き飛ばして飛び上がる。
両手には、あるものを抱えていくのも忘れない。
上から次々と落ちてくる瓦礫の隙間を縫うように回避しながら高度を上げていき、蛹と同化したボナモールを脱出。
数時間ぶりに見た空は闇に覆われ、金色の粉雪が降ってくる。
異質な存在を警戒し、それを避けるように軌道を変更する。
粉雪の範囲外にあるビルの屋上を見つけ、誰もいないことを確認してから着地。
今まで両手で持っているモノをそこに置いた。
それは愛用のリュックと、自分と同じ背丈の瓦礫である。
ガーディマンに助けられたというアリバイ工作はこれで完了した。
置いてから立ち上がると、背後が光り轟音が波となって襲ってきた。
振り向くと、金の粉雪が触れた所が次々と爆発していく。
舞い落ちる季節外れの粉雪が、ビル、標識、信号。
そして停車していたパトカーや消防車が吹き飛びまだ無事だった手近なビルに突っ込む。
粉雪を降らす原因を知るために視線を上へ向ける。
(見つけた)
天気予報通り雲ひとつない満点の星空に浮かぶのは、大きな蝶の翅を背中から生やした女性だ。
今にも落ちてきそうな大きな満月の方を見て体をくねらせている。
その度に翅から鱗粉が舞い落ち、街を傷つけていた。
ガーディマンは止めるために飛び上がろうとすると、怪獣向かう二機の飛行機の姿を見つける。
青い長剣ブルーストークと、紅い鏃レッドイーグルだ。
二機を援護するために空を飛び、高度を上げながら健やかに成長するかのごとく巨大化していく。
全長七〇メートルの巨人になったガーディマンはオーパスを介して連絡を取る。
「ブルーストーク、レッドイーグル応答してください。僕もお手伝いします」
ブルーストークからはすぐに返事が返ってくる。
視界のモニターに映ったのは玄武のマスク。
「こちらバサルト。援護感謝する。レッドイーグルはリィサが操縦している」
予想はしていたがリィサがいる事を認識して、萎縮してしまったのが口調に出てしまう。
「は、はい任せてください」
レッドイーグルの方からは返答はなく、返事を待つ暇もなく戦闘が始まってしまう。
ガーディマはレッドイーグルとブルーストークを後方から追いかける。
先に仕掛けたのはレッドイーグルだ。
逃げる蝶の怪獣に向けて機首のプラズマモータカノンを発射。
無数のプラズマは一直線に怪獣の背後に迫るが、まるで背中に目があるかのように避けられてしまう。
ブルーストークが剣の切っ先のような機首から細い糸状のリームレーザーを照射。
しかしそれも避けられてしまう。
レッドイーグルが最大八つの目標を追尾捕捉できるホーミングレーザーを撃った。
四つは回避されてしまうが、残りの四つが怪獣を捉えた。
しかし青い翅が輝いた瞬間、球体の障壁によって弾き返されてしまう。
『……バリア』
リィサの悔しそうな声が耳に届く。
その一言の鋭さは鉄をも切断できそうだった。
レッドイーグルが何度も攻撃を仕掛けるが、避けられるか弾かれるばかり。
「僕も攻撃します。ガーディビーム」
リィサに注意を伝えてから、十字状のゴーグルにリームエネルギーを集中させて放つ。
光速を超える速さの光線は蝶の怪獣に簡単に避けられてしまった。
『もっとちゃんと狙いなさい』
「ごめんなさい!」
光の速さで注意されてしまった。
怪獣が振り向き、瞳のない黄色い瞳でこちらを見てきた。
初めて見た表情は余裕を感じられる微笑みを浮かべていた。
その背後から死角をついてリームレーザーが迫るが、バリアで防がれてしまう。
翼長三〇〇メートルという大きな翅を広げ、怪獣はガーディマン達を無視するように背を向け飛び去ろうとする。
レッドイーグルが彗星のようにプラズマの炎を噴きながら、真っ先に動く。
ブルーストークとガーディマンも後を追う。
「リィサさん。一人で行ったら危ないですよ」
変わらず返事はなかった。
蝶の怪獣に追いついたレッドイーグルが一秒で二〇〇発を発射するプラズマモータカノンを撃つ。
まるで踊るように怪獣は攻撃を避け、翅の黒い縁から金色の鱗粉を撒き散らしてきた。
進路を塞がれながらも、リィサはすぐに安全なルートを解析して通り抜けていく。
ガーディマンも続こうとするが、隙間が見つからず遠回りすることになってしまった。
その間にも、怪獣とレッドイーグルとの距離が離れていってしまう。
『ガーディマン。私の後について来い』
ブルーストークが切り拓いた安全なルートを通ってレッドイーグルを追いかける。
怪獣は優雅に翅を動かし、レッドイーグルの攻撃を回避していく。
それは命がけの飛行というよりも、自分の美しさを見せつけているようだった。
後ろから追いかけて攻撃を続けるレッドイーグルの方が、どこか焦っているような印象を受ける。
突然、レッドイーグルが火を噴いた。
『被弾』
リィサとバサルトの声が聞こえてくる。
『飛行は可能か?』
『任務に支障はありません。すぐに復帰できます』
リィサはそう報告するが、レッドイーグルのエンジンは止まっているようで、通信が交わされている間にも高度が落ちていく。
『リィサ。高度が落ちている。すぐに離脱しろ』
『大丈夫です。エンジンもすぐに再始動します』
いつのまにか怪獣が高度を下げるレッドイーグルに近づいている。
「リィサさん。怪獣が近づいてきています。逃げてください」
ガーディマンの声で接近に気づいたようだが、レッドイーグルは高度を下げるだけ。
「バサルトさん。僕助けに行きます!」
「待てガーディマン」
バサルトの制止を無視して、レッドイーグルの元に一直線で駆けつける。
少しでも早く近づくために、鱗粉が舞う中を突っ込む。
身体に触れるたびに金の粒が爆発し、焼けるような痛みが広がっていく。
その痛みを堪えて、レッドイーグルの真上で手を伸ばす怪獣にタックル。
蝶の怪獣は回転しながら吹き飛んだ。
それを見ずに、リィサの乗るレッドイーグルを両手で壊さないように掴んで、その場を離脱
「大丈夫ですか?」
リィサから返事はない。
レッドイーグルを見ると、後部にある左上部ホーミングレーザーの発射口が損傷していた。
外見を見ただけでは大きいダメージはないが、もしかしたらパイロットは酷い怪我を負っているのかもしれない。
そう思うと居ても立っても居られなくなり、何度も呼びかける。
「リィサさん。リィサさん! 返事してください。リィサさん……サヤ――」
『コードネームで呼びなさい』
「ひゃっ、ごめんなさい」
返ってきたのは叱責でつい謝ってしまう。
「えっとリィサさん。大丈夫なんですか? 怪我とか」
モニターに映っているキツネのマスクはせわしなく動き、怪我をしているようには感じない。
『身体は問題なし。今はエンジンの再起動を試みてるの』
先日電話で言い争いをしてしまったからだろうか、いつもより言葉の刃が冷たく鋭い。
「機体も損傷してますし何かあったら大変ですよ。僕に任せてください」
『この機体の事は貴方よりよく分かっているわ。だから心配しなくて――』
「心配しますよ! 万が一、し、死……ぬ事があるなんて嫌です!」
モニターに映るキツネのマスクが、表情がないはずなのにビックリしたように顔を上げて、溜息をつく。
『……心配してくれてありがとう。でも私は行くわ』
「一人じゃ危ないです」
『だから、貴方の力を貸してくれる? 私やバサルトリーダーじゃ力不足みたいなの』
柔らかい声音と共に首を微かに傾けてきた。
頼りにされていることを知ってガーディマンは大きく頷く。
「任せてください!」
「ありがとう。じゃあ、機体を掴んだまま怪獣の方へ向かって。全速力でね」
「了解!」
リィサの期待に応える為に、背中のアンチグラビティブースターから緑の粒子を放ちながら弾丸のように空を駆ける。
『……怒ってごめんなさい』
怪獣に追いつく事に集中していて、リィサの小さな声は届かなかった。
―3―
怪獣に追いつくと、ブルーストークは攻撃を続けていた。
しかし、全く当てられないようだ。
『こちらリィサ。戦線復帰します』
『僕も戦線復帰しました』
リィサに釣られてガーディマンも報告してしまった。
『こちらバサルト。敵の目標はユグドラシルだ。このままでは到達を阻止できない。援護を頼む』
緊急事態だが、バサルトの口調に焦りは感じられない。
『了解。ガーディマン、そのまま速度を維持して……エンジン異常なし。武装はホーミングレーザーが使用不能』
リィサは返事を待たずにレッドイーグルのチェックを始める。
『チェック終了。エンジン始動。私が合図したら手を離して』
「はい」
両手に持つレッドイーグルのエンジンに火が点き、青く長い炎が噴き上がる。
お腹に当たるバックファイアの熱さは中々の物だが、我慢して合図を待つ。
『今よ』
待望の合図が来た。
ガーディマンは合図と共にレッドイーグルを離す。
レッドイーグルは飛行するガーディマンの勢いを借りて再び夜空を疾走する事に成功した。
レッドイーグルと一緒に動きの止めた怪獣に追いつく。
怪獣は蝶のような翅を動かしながらその場に浮遊している。その視線は大木のようなユグドラシルに注がれている。
全長六〇メートル五倍はある半透明の翅がオレンジ色に輝いていく。
後頭部には背中と繋がる長髪のようなケーブルがあり、それがオレンジ色の光を後頭部に送り込んでいた。
ブルーストークが攻撃を続けるが、怪獣は軽々と避け、めしべのような二つの触覚から螺旋状の光線を放つ。
光線はユグドラシルの張り巡らせたシールドとぶつかった。
『フリッカ。ダメージは?』
『シールドは健在。ですが二割のダメージを受けました。何度も耐えられるものではありません』
バサルトとフリッカが通信を交わす。
『MK-ビルディングの迎撃状況は』
『怪獣の動きが素早くて不規則な為、照準が追いつきません』
通信している間も、ブルーストークのレーザー。追いついたレッドイーグルとガーディマンも攻撃し続ける。
が、回避されてしまいユグドラシルのシールドに再び攻撃されてしまった。
『こちらバサルト。私とリィサで足止めする。ガーディマン。君の最大の攻撃でトドメを刺すんだ』
『こちらリィサ。了解』
「分かりました!」
レッドイーグルとブルーストークが蝶の怪獣を足止めする為に仕掛ける。
ガーディマンはその場にとどまり、怪獣の動きが止まるまで待つ。
待っていると、ハカセから通信が入ってきた。
『敵の攻撃パターンの解析が終わったぞ。翅が青い時はバリア。オレンジ色の時は触覚から光線を撃てるようだ。
それとバリアを張っている時は素早い動きは出来ないみたいだな』
『こちらバサルト。怪獣にバリアを張らせて動きを止める』
『リィサ了解』
レッドイーグルが纏わり付くように攻撃を続け、ブルーストークがリームレーザーを撃つ。
遂に避けきれなくなったのか、怪獣が翅を青く輝かせてバリアで防いだ。
『今よ。ガーディマン』
「はい」
胸部中央の長方形のリームクリスタルから伸びる血管のようなラインを伝って、左腕に持てる全てのエネルギーを溜める。
だが、両拳を打ち合わせる直前で身体が止まってしまう。
脳裏に浮かぶ非難の声。
ミドラルビームで怪獣のみならず、また街を破壊してしまうかもしれない。
前回は誰も犠牲にならなかったが、今回はその保証はない。
そして地上からはテレビ中継されていることにも気づいてしまった。
また自分の失態が晒される。
そう考えただけで、全身が不快な冷えに覆われ、鼓膜が破れるほどの大音量で心臓が脈打ち始める。
「撃てない……僕には撃てない!」
―4―
限界を迎えたブルーストークの攻撃が止まってしまった事で、バリアを解除した蝶の怪獣は素早く離脱してしまう。
レッドイーグルが追撃するが、舞い散る鱗粉に阻まれ攻撃できないようだ。
『フリッカ。MK-ビルディングで怪獣に攻撃しろ』
『今のままだと、命中率は限りなく低いです』
『構わない。相手の注意を一瞬でも逸らせればいい。それとマサシゲに至急レッドイーグルβでこちらに向かうように伝えたくれ』
『了解。MKビルディング攻撃開始します』
『ちょっと待った!』
ハカセが会話に割り込む。
『バサルト。もう一機増やしたところで勝算は低いぜ。ガーディマンにトドメを任せた方がいい。オレさまが必勝の作戦を考えた』
『ガーディマンは戦意喪失している。そんな状態では無理だ』
『オレさまが説得するよ。おいガーディマン聞いてるんだろう⁈』
ハカセは返事が返ってこなくても気にせず話し続ける。
『そんなところでウジウジしてんな。さっさと怪獣を倒すんだよ!』
「僕には出来ない。またミドラルビームを撃ったら街中に被害が及ぶかもしれないのに」
『じゃあ、何で変身したんだ? 自分から心の傷を抉るためにか? 違うだろう。平和を、街に住む人を守る為だろうが!』
ハカセの一言で、項垂れていたガーディマンの気持ちが、雨上がりの空のように晴れてきた。
『天才のオレさまがお前の為に新しい武器を開発してやったんだ。それを使って怪獣を倒したいか?』
「うん」
モニターに映るハカセが挑発するように、耳に手を当てた。
『声が小さくて聞こえないぞ』
「僕が街を護る。だからハカセ、力を貸して!」
『その意気だ。じゃあ、下から投げるから受け取れ』
「下から?」
下を向くと、巡航ミサイル発射用のMK-ビルディングが真ん中から割れ、中に格納されていたものを打ち上げてきた。
ガーディマンは細い筒のようなものをキャッチ。
それは剣の柄によく似ていた。
受け取ったものをよく見る。
柄から切っ先まで約百メートル。
青い鞘に包まれた刀身の幅は十メートルあり、鍔の中央には透明な宝玉が配置され、そこから柄と刀身に向かって縦横無尽にラインが伸びている。
手に持った剣は何処かで見たことがあった。
「これ結晶鋼人ガーディマンのツーハンドガーディソード?」
ユウタの大好きなヒーローの使っていた剣によく似ていたのだ。
『それを参考に作ったんだ。名前はお前が決めていいぞ』
「名前、僕が決めるの?」
『自分で名付けた方が感情移入できるだろ? よし、オレさまが足止めしてやるからお前は上空で待機してろ。
使い方はインストールされたマニュアル読んどけ』
「分かった」
ハカセの勢いに押されながらガーディマンは高度を上げて戦場を見下ろせる位置についた。
『よーし。バサルト、リィサ。何とか怪獣にバリアを張らせるんだ。そうすれば動きが遅くなる。
フリッカ。当たらなくていいからMK-ビルディングで対空砲火を頼むぜ』
いつのまにかハカセが指揮をとるようになった。
『……リィサ了解』
ちょっと釈然としない様子のリィサ。
『了解した』
バサルトはいつもと変わらなかった。
『MK-ビルディング攻撃開始します』
フリッカの言葉がスイッチとなって、街に配備されたレールガンとマイクロミサイルポッドが一斉に発射された。
電磁力で放たれた針のような弾体が下から上に夜空を切り裂き、小型ミサイルが蛇のように蛇行しながら怪獣に迫る。
だが、レールガンの弾体は踊るように避けられ、煙の尾を引くミサイルは触覚の螺旋光線で迎撃されてしまった。
目標に到達する前に破壊されたミサイルが一斉に爆発する光景は、まるで季節外れの花火大会のようだった。
その爆炎に魅入られていたのか、怪獣の動きが一秒だけ止まる。
リィサはそれを見逃さなかった。
ミサイルの花火に隠れ、動きの止めた怪獣に機首からプラズマ弾を撃ち込んだ。
怪獣の張ったバリアに阻まれてしまう。
少し遅れてブルーストークのレーザーがバリアとぶつかった。
これで目的は達せられた。
『貰ったぜ!』
MK-ビルディングから射出された四本のワイヤーが怪獣のバリアをすり抜け、全長より長い翅に巻きつく。
初めて怪獣の女性のような顔が歪んだように見えた。
『よっしっ。捕獲成功! やっぱりエネルギー弾しか防げないバリアだったな』
怪獣は脱出しようと翅を動かすが、ワイヤーはきつく締まるばかり。
『ガーディマン。鞘から剣を抜け』
「うん」
ガーディマンは大剣の鯉口を切る。
長さ百メートル近くもある剣をそのまま抜くことはできない。
だから鞘に秘密がある。
青い鞘はまるで竹が割れるように真ん中から二つに分かれた。
「この剣はみんなを護るために振るう力。その名は護振剣」
頭上に掲げた黄金の刀身が月明かりを反射して煌めいた。
体内のエネルギーを両手から柄に伝わらせる。
鍔の球体がエメラルドグリーンに輝き、ラインを通ったエネルギーが刃を翡翠色に輝かせた。
分かれた鞘は落ちていかずにガーディマンの両足に装着された。
『必殺技をぶちかませ!』
「ハカセ。必殺技じゃない。必勝技だよ」
ガーディマンは訂正してから、護振剣を左肩に担ぐように構え、背中のアンチグラビティブースターとスキー板のような鞘のブースターが同時に起動。
「護振剣必勝技。ビクトリィィィィ……スラッシュ!!」
四十五度の角度で急降下突撃。
怪獣がバリアを解除して、ワイヤーの絡む翅をオレンジ色に染めて触覚から螺旋状の光線を放ってきた。
ガーディマンは避けずに、護振剣の腹で受け止める。
防ぎ終わると同時に、もう一度左肩に構え、翡翠の刃を纏う黄金の両手剣を右から左に斜めに振り下ろした。
右肩から左脇腹まで斜め一直線に斬られた蝶の怪獣は助けを求めるように天に向かって両手を伸ばす。
切断面から光が溢れ爆発。
青とオレンジが混ざり合った爆炎に照らされたガーディマンは両手に持つ剣から目が離せなくなっていた。
護振剣全体に細かいヒビが走ったと思った直後、一瞬にして刀身が、鍔が砕け散ってしまったのだ。
残っていた柄も夜風に吹かれただけで消滅してしまう。
「えっとごめんハカセ。護振剣消滅しちゃった」
『あーやっぱ、もたなかったかー」
涙声のガーディマンと違い、ハカセは予想していたように返す。
『お前の力は強すぎるからなぁ。今地球にある材料じゃ一度使ったら壊れるとは予測してたけど、粉々になるのは予想外だった』
ハカセの口調からは悲観した様子は微塵も感じられなかった。
むしろ一撃で怪獣を倒せた事に満足しているようだ。
「そっか。でも助かったよハカセ。ありがとう」
『なーに。また新しい武器作っておくよ』
満月よりも明るい紫色の光が夜空とガーディマンを照らし続けているのだった。
―5―
蝶のような人型怪獣が倒された様子はテレビの生中継によって地下シェルターのモニターに映し出されていた。
避難していた人々の多くが歓声をあげる。
青とオレンジの爆発に染まるガーディマンの背中を見つめるアンナも、息子の無事な姿を見て胸をなでおろす。
「良かった。あの子、無事だったのね」
胸に抱いたホシニャンも、ヒゲを上にあげて嬉しそうに鳴いた。
「ええ。戦いは終わったわ。ユウタが怪獣を倒したのよ」
誰にも聞こえないように小さな声でそう言って、ホシニャンの頭を撫でる。
けれども、アンヌの顔はどこか浮かない。
「あいつもっと早く来いよな。街が滅茶苦茶だぞ」
「そうよ。もっと早く来れば、避難なんてしなくて済むのに、いちいち避難するこっちの事も考えてほしいわ」
歓声に混じって、ガーディマンを非難する声が聞こえたからだ。
「ちょっとごめんね」
ホシニャンを足元に下ろしたアンヌはオーパスを取り出しあるところに電話を掛ける。
「もしもし。CEF本部でしょうか。私はホシゾラアンヌといいます。イワガネゲンブ隊長に大切なお話があります。繋いでもらえますでしょうか」
―第6話へ続く―




