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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第5話《護振剣 それは護るために振るう力》〜地醜蛾獣ソンブリブル 絶美蝶獣マトゥファーラ 登場〜
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#9 僕にはコレがあります

 ―1―


 CEFが救助作戦を始める少し前……。


「くそ。何で出られないんだよ!」


「外はどうなってるんだ? 何にも分からないぞ」


「救助隊は何してるんだよー」


 ボナモールに閉じ込められた大人達が騒ぐ中、ユウタとフワリは床に座り込んでいた。


 出口を探して動き回っていた大人達も疲れ果て、今は人々が集まる一階に腰を下ろしている。


 それでも口が動くのは止められないようだ。


 ユウタは自分の後頭部を掻きながら、携帯端末(オーパス)を操作していた。


「うーん。繋がらないなー」


「やっぱりネット駄目?」


 傍に座るフワリが問いかけてきた。


「うん。電話もメールも全然繋がらない」


 自分がどんな状況に陥っているのか知るのも大事なのだが、それ以上にサヤトと連絡を取ろうと試みていた。


(サヤトさんと連絡取れれば直ぐに脱出できるのに!)


  すでに先日喧嘩したことは頭から追い出している。


 何度電話を掛けても繋がらず、焦りと苛立ちが募るだけだった。


 そんなユウタの頭が柔らかいものに包まれた。


「ぷふっ!」


 最初は何が起きたか分からなかったが、すぐに隣のフワリに抱きしめられたことに気づく。


「フワリ姉。こんな時に何するの⁉︎」


「ぎゅう。こんな時だから落ち着かないとダメだよユーくん。ぎゅう〜」


 フワリはこんな非常事態でもいつも通りで、ユウタの焦りを和らげてくれる。


 けれど、抱きしめるフワリが小さく震えている事にも気づいてしまう。


(フワリ姉も怖いんだ。何とかここから抜け出さないと、でも……)


 ユウタはどんよりと重い空気と暗闇に包まれた店内を見渡す。


 ぼんやりと見える正面入り口は紫色の宝石のようなもので覆われ、外には出れない。


 窓も非常口も塞がれて脱出は不可能だった。


 抱きしめられたままユウタは思う。


(やっぱり僕が変身すれば……)


 隣にフワリがいるが、最悪口止めをお願いすれば、周りに言いふらしはしないだろう。


 しかし、周囲に目を配る。


 イライラした大人達が立ち上がり、不毛な議論を繰り広げている。


「出口はないのか?」


「駄目だ。窓もドアも、外から紫色のキラキラしたのに塞がれて出れそうにない」


「CEFも防衛軍も役に立たないなぁ」


「あの自称ヒーローは助けに来ないのかよ」


「そうよガーディマンはいつ来るの?」


「彼の力ならすぐにここから出してもらえるぞ」


 大人達に少しだけ芽生えた希望。


「馬鹿。この前街にデカいクレーター作ったやつだぞ。俺たちも巻き添え食うかもしれないだろうが」


 その一言で儚く消え去ってしまった。


 ユウタの身体もフワリに抱きしめられたまま、刺されたように震え上がる。


「だ、大丈夫?」


 フワリに顔を覗き込まれる。


「大丈夫。何でもないよ」


 ユウタはしばらく震えが収まらない。


 テレビやネットで見た自分(ガーディマン)への誹謗中傷や悪夢を思い出し、寒気と脂汗が止まらなくなってしまった。


 気持ち悪く湿った頰に滑らかな感触が触れる。


「……フワリ姉」


「すごい汗かいてる。具合悪い?」


 フワリが持っていたハンカチでユウタの脂汗を拭き取ってくれる。


「空調も止まってるみたいだし。こんな辛い状態だから具合悪くなるよね。でも、もう少ししたら助けが来るから一緒に頑張ろう」


「うん。ありがとうフワリ姉」


 フワリの柔らかな笑顔で、少し気持ちが落ち着いてきた。


 けれども視線を上げる。


 電気が届かないばかりか、非常灯さえ機能しないせいで真っ暗になった店内。


 常人には見えない暗闇の中、ヒーローとして覚醒したユウタの視覚は聴覚と同じように強化されていた。


 だから否応無く見えてしまう。


 巨大な白い繭のようなものが、人々の頭上に吊り下がっている。


 大きさは数十メートルもある白い繭の中で、微かに動く黒い何か。


 流石にユウタにも詳細は分からないが、人の脛によく似ているようで、また新たな震えが襲ってくるのだった。


 ―2―


 相変わらず大人達は文句ばかりを言っている。


 今は強大な力を持て余すガーディマンに矛先が集中しているようだ。


「む〜〜ユーくん。向こう行こう」


「えっ、わっフワリ姉どこいくの?」


 頰を膨らませたフワリは、ユウタを立たせて手を引いていく。


「フワリ文句ばっか言ってる人達と一緒に居たくない」


 そう小声で囁いてくるが、口調には強い怒りが現れていた。


「僕も気持ちは分かるけど……」


 フワリに手を引かれたまま歩いていると、淀んだ空気には場違いな明るい声が聞こえてきた。


「歌声。そっち行ってみよう」


 近づいていくと、それは子供達の楽しげな声。


「「「……みんなのともだち。いつでもどこでもかけつける」」」


 真っ暗な店内でオーパスの微かな明かりで見えてきたのは一箇所に集まった子供達の姿。


 その中心にいるのは……。


「あっ、セフニャー」


  先ほどまでショーをやっていたセフニャーと司会のお姉さんだ。


「「「ともだちなかすわるいやつ。セフニャーぜったいゆるさない」」」


 司会のお姉さんとその周りに座る子供達が大きな声で歌い、セフニャーはその歌のダンスを踊っていた。


 まるでお通夜のような静まり返ったショッピングモールで、そこだけ希望に満ち満ちているようだった。


「おい。うるさいぞ!」


 振り向くと、強い光が視界に差し込まれ、思わず手で守る。


 どこかのレストランの店員だろうか、エプロンも制服も汚れた男性が現れた。


 オーパスのライトを照らしながら子供達に詰め寄ってくる。


「こっちは、外に出れなくてイライラしてるのによ。歌なんか歌ってるんじゃねえよ!」


 集まってた子供達の目に涙がたまっていき、座ったまま後退る。


 それでも店員は更に文句を言おうとしているのかライトを向けたまま近づいてくる。


 その前に立ち塞がったのはセフニャーだ。


「なんだよ。どけよ」


 セフニャーは両手を広げたまま大きな頭を左右に振る。


「今の状況が分かってないのか? 歌ってる場合じゃないんだよ。聞いてるとイライラしてくるんだよっ!」


 店員がセフニャーの肩に手を置いて退かそうとするが、全く動かない。


「何にも出来ないくせに邪魔なんだよ」


 店員は八つ当たりの相手を目の前の着ぐるみに決めたようだ。


 頭を叩いたり、足で小突いたりして、セフニャーで憂さを晴らしていく。


「ほら反撃してみろよ。どうせ何も出来ないくせに。ホラホラ!」


 店員が何度も何度も叩く中、セフニャーは腕を広げたまま、じっと耐えるように動こうとはしない。


「どうせ中に汗くせえおっさんが入ってるんだろ!」


 調子に乗った店員がセフニャーの頭を掴んで引っ張る。


「ほら子供達に見せてやる。現実ってやつをよ」


 セフニャーも頭を抑えるが、あと少しで取れてしまいそうだ。


 フワリがそんな非道を止めようと一歩踏み出すと、


「いやー!」


 店員を止めたのはそんな叫び声だった。


 一人の女の子が滝のように涙を流しながら、店員の腕を掴もうと必死に伸ばす。


「セフニャーいじめないで。ひどいことしないでー!」


 その迫力に押されて、店員がたじろぐ。そして何かを感じたのか、セフニャーの背後を見て目を大きく見開いていた。


 いたのはさっきまで泣いて後ずさっていた子供達だ。


「セフニャーにひどいことするな」


「頭ひっぱっらないで!」


「セフニャーを泣かすな」


 依然として涙を浮かべたままだが、少年少女達はセフニャーの前に立つと、守るように揃って両手を広げた。


 その騒動を聞きつけた他の大人達もやってきた。


「くそ」


 店員は自分が不利と悟ったのか、そう悪態をついて、セフニャーから離れていく。


 悪い奴が去ったことを確認した子供達がセフニャーの元に駆け寄る。


「セフニャー大丈夫?」


「悪いやつはもういないよ」


「痛いの、痛いの、とんでけー」


 子供達と同じ目線にしゃがんだセフニャーは両手を精一杯伸ばして彼等を抱きしめ、言葉ひとつひとつに頷く。


 ずっと笑顔で固定されている顔が、その時ばかりはありがとうと行っているように見えるのだった。


 ―3―


 セフニャーの周りに出来た子供達の輪の中に、ユウタとフワリもいる。


 ショーを観ていたのを覚えていたようで、子供達の方から誘われたのだ。


 あれから文句を言ってくる人は来ないが、いまだ外に出る事が出来ないでいた。


 更にユウタを不安にさせるのは、頭上にある白い繭だ。


 先ほど見上げた時よりも大きくなっていて、中にいる何かも大きくなっているように見える。


  数分前からは、心臓が脈打つような音が聞こえるようになってきた。


 どうやらユウタしかその音は捉えていないが、頭上から聞こえてくるところから、繭の中の何かの心臓音だろう。


 どんどん不安が高まる中、一人の女の子がこんな事を言い出した。


「セフニャーでも、ここから出れないの?」


 直接言われているわけでもないのに、ユウタの心臓が大きく脈打った。


 周りに集まっていた子供達が、セフニャーに向けて涙まじりの視線を送る。


「セフニャーはヒーローなのに、助けてくれないの?」


 体育座りをしていたユウタは隠れるように額を太ももに当てる。


 大人達の罵倒と違い、子供達の無垢な質問の方が、ユウタにとってきつい仕打ちとなっていた。


 ユウタが見ていない時、セフニャーが隣にいる司会のお姉さんに耳打ちする。


「みんな。セフニャーはみんなの友達でヒーローなのは変わらないよ」


 お姉さんが代弁している間、セフニャーも身振り手振りを交えて、子供達に伝える。


 もちろん夢を壊さないように最新の注意を払って。


「でもね。今のセフニャーにはパワーが足りないの」


「じゃあ『がんばれー』って、応援する」


 輪になった子供達が次々に『ぼくも』『わたしも』と賛同していく。


 セフニャーは司会のお姉さんにもう一度耳打ちしてから頭を下げた。


「みんな、ありがとう。それでもパワーが足りないんだ。だから()()()()()()()()()を待ってるんだよ」


 子供達が首を傾げた。


「もうひとり?」


「だれだれ?」


「わからないー。おしえてセフニャー」


 三度目の耳打ち。


「それはね。緑色の巨人なんだって。とても大きくて強くて、山みたいな悪い奴にも負けない。ヒーローなんだって。

  名前は、()()()()()()っていうらしいよ」


 ユウタは顔を上げてセフニャーの方を見る。


「セフニャーが怪我した時あったでしょ。その時に助けてくれたのがガーディマンなんだって」


 子供達が何かに気づいたように瞳を大きくし、口を開いた。


「ガーディマン、ぼく。知ってる」


「この前も、すごい大きな怪獣倒してくれたんだよ!」


「セフニャーはガーディマンとお友達なの。すごーい!」


「もう少ししたらガーディマンが助けに来てくれるよ。もうちょっと待てるかな?」


 司会のお姉さんの言葉に子供達はどんよりとした空気を吹き飛ばすほどの笑顔で返事する。


「「「はーい!」」」


 直後、一階の丁度誰もいない床が赤熱し、下から盛り上がった。


 ――4――


 ボナモール一階の床に、水に垂らした絵の具が広がるように、赤が広がっていく。


 赤くなった床は高熱を発し、人々は熱から逃げるために退がりながらも、目が離せないでいる。


  熱せられたチーズのように膨れ上がり、その下から現れたのは銀色の四角錐の塊。


「な、何あれ?」


 フワリも大人達も子供達も状態が分からない。


 けれどユウタだけは助けが来た事に、その大きな黒い瞳を輝かせる。


「フワリ姉、助けが来たんだよ」


「アレの正体知ってるの?」


 フワリは地下から現れた筍のような四角錐を指差す。


「うん。あれは――」


 ユウタの言葉は悲鳴に遮れた。


 見ると、銀の四角錐が四方に花開いている。


 完全に開いたところから、まるでバネ仕掛のように全身黒いタイツの人影が現れた。


  遠目からでも分かる山のように隆起した筋肉の身体にゴリラのようなマスク。


 その一見すると異様な風貌を目にし、大人子供関係なく喉から悲鳴がせり上がってくるように口が開いた。


 それが口から出る前に、ゴリラのマスクは敵意がない事を示すために大きな両掌を見せた。


「皆さん。落ち着いてください」


 低く頼もしい声が、マスク越しでも伝わり、敵意がないことが周囲に伝わったようだ。


「私はCEFの隊員です。皆さんを救助しに来たんです」


 その一言を聞いて、大人達がどよめき、何人かは膝から力が抜けたようだ。


「この車両で皆さんを隣の駅の救護所へ連れて行きます。近くに集まってください。

  動けない方や怪我した方はいませんか?」


 ゴリラのマスク、ドーラがボナモールに閉じ込められた人々を上手く誘導していく。


「申し訳ありませんが、子供や病人怪我人が先です。直ぐに戻ってきますので、ここで待っていてください」


 ドーラは辺りを見回し、上を見たところで一瞬動きを止めたが、何事もなかったかのように振る舞う。


 恐らく、頭上にある巨大な繭に気がついたのだろう。


 そしてユウタた目が合うと、小さく頷いた。ユウタもまたバレないように頷き返す。


 セフニャーと司会のお姉さんに連れられて、集まっていた子供達がグラウンドッグに入っていく。


 地下から現れた地底専車の通路は、上から見るとまるで穴が空いているようだ。


「さあ。手を伸ばすっシュ」


 その穴から手を伸ばすのは忍者の覆面のようなマスクを装着したマサシゲだ。


  手を引かれた子供がグラウンドッグの垂直の壁に足を置く。


 すると垂直だった壁が床になり普段と変わらず歩けるようになった。


 そのまま車両奥まで連れられ、ヒューマノイドOF-60に手伝われて、座席についた。


 司会のお姉さんが乗ったところで、ドーラが手を伸ばして列の動きを止める。


「申し訳ない。これ以上は乗れないんです。救護所まで行ってまた戻ってくるので、もう少し辛抱してください……行ってくれ」


 グラウンドッグのドリルが閉じ、地下に戻っていく。


 文句を言いたそうな大人もいたが、人間離れした筋肉の持ち主であるドーラが残っているので、誰も何も言い出せない。


 残ったセフニャーはグラウンドッグの姿が見えなくなるまで両手を大きく降っていた。


 ―5―


「さあ。乗ってください」


 救護所から戻ってきたグラウンドッグが大きくドリルを開き、ボナモールで閉じ込められていた人達を次々と救出していく。


 残りは後三〇人ほど。


 その中にはフワリとユウタもいて、セフニャーの姿もあった。


  勿論ユウタとドーラは面識があるが、お互い初対面の風を装っている。


 セフニャーは自ら残る事を選び、グラウンドッグを待つ人達の恐怖を少しでも和らげるために、元気よく手を振り続けていた。


 大人達は、今までセフニャーに向けた罵倒を思い出したのか、どこかバツが悪そうな表情をしている。


 グラウンドッグのドリルが開いた。残された最後の人達が続々と乗り込んでいく。


「やっと脱出できるね……ユーくん?」


 ユウタは上を見上げたまま、フワリに呼ばれた事に気付かない。


 先程から聞こえていた心音が大きくなり、白い繭がかすかに内側から押されるように動き出していた。


 その動きが激しくなり、鼓動もまた大きく脈打つ。


「何の音だ?」


 グラウンドッグに乗り込もうとした男性の一人が見上げる。


「な、なんだあれ!!」


 上に向けられた指を追って、残っていた全員の視線が頭上へ。


 フワリを入れた全員が暗がりの中で巨大な白い繭を発見する。


 その繭が形を変えるように動き、地震のような横揺れと共に瓦礫が落ちてくる。


 軽自動車ほどもありそうな瓦礫がグラウンドッグに向かって落ちてきた。


 待っていた人々は、死なないために四方八方に散らばる。


 フワリはユウタを庇うように抱きしめ、ドーラは相棒に助けを求めた。


「マサシゲ、頼む」


「任せろっシュ」


 グラウンドッグの前部ハッチから飛び出したマサシゲは左腰に提げていた筒のような物を右手に持つ。


 するとその筒から刃渡り約一メートルの銀色の刃が伸びる。


  両手で持った鍔のない刀で、落ちてくる瓦礫に向けて三度斬りつけた。


 普通なら、コンクリートを斬れるはずもないのに、まるで豆腐のように簡単に斬れ、六分割の欠片となってグラウンドッグの周りに落ちる。


 もちろん怪我人は誰一人いなかった。


 だが繭が動くたびに、同化していなかった建造物が雨のように降り注いでくる。


「みんな。早く乗り込め。ここは崩れ落ちるぞ!」


 ドーラの声に散り散りになった大人達が走り、我先にとグラウンドッグに乗り込もうとする。


 大人達の助かりたいという気持ちが行動に現れ、フワリとユウタは押しのけられてしまった。


 マサシゲが忍者のように残像を残しながら動き回り、全員乗り込むまで瓦礫を斬り裂き続けている。


 殆どの人が乗り込み、後はフワリとユウタを残すのみだ。


「さあ、二人も早く乗って」


 ドーラが手を伸ばしてきた。


「乗ろう、フワリ姉」


 ユウタはフワリを押すように歩き出す。


「しっかり掴まって。最初は落ちるみたいで怖いだろうけど、すぐに慣れるよ」


 ドーラに手を引かれながら、フワリがグラウンドッグの車内に消えていく。


「よし、次だ」


 中からドーラが右手を伸ばしたので、ユウタは掴もうとするが……。


「待ってくれ! 置いてかないでくれ〜!」


 今にも泣きそうな叫び声が聞こえてきた。


 振り向くと、さっきセフニャーに絡んでいた店員だ。


 どうやら逃げた時に足を怪我したようで左足を引きずりながら、こっちにやってくる。


「待ってくれ。()()を置いてかないでくれ!」


 そう、店員に肩を貸す存在を見て、ユウタは思わず声を出す。


「セフニャー」


 何度も罵倒され殴る蹴るの暴行を受けたのに、セフニャーは店員を助けていたのだ。


 落ちた瓦礫に挟まったのだろうか、店員は左足を引きずりながら力の限り手を振り、叫び、無事な足を動かす。


 セフニャーの姿を見て、ユウタは躊躇うことなく、二人のもとに駆け寄った。


「僕も手伝います」


 店員の空いている左肩に手を貸し、三人でグラウンドッグへ歩く。


(この人は酷い人だ。けれどセフニャーは助ける事を選んだ。どんな人だって助けを求める人をほっておくことなんてできない!)


 ユウタは以前、動画投稿者を助けた事を思い出していた。

 

  確かに助けた事で、街にクレーターを作ってしまった事を生配信されたが、それでも助けた事に後悔はしていない。


 もしあのまま見殺しにしていたら、きっと今よりもっと苦しんでいたかもしれない。


 ボナモールが崩れていく中、ユウタの心の檻も同時に崩れ落ちていく。


 三人で一歩一歩進んでいくうちに、後十歩も歩けば到着するところまできた。


 ユウタも店員も汗だくだ。きっとセフニャーの中の人も二人以上に疲労困憊しているはず。


 にもかかわらず、セフニャーは二人を引っ張るような勢いで歩いていた。


「痛え。足いてえよー」


 さっきの威勢は何処へやら、店員が子供みたいに泣きながら弱音を吐き続ける。


「もう少しで脱出できますよ――っとと」


  急に支えていた店員の重さが無くなった。見ると、店員の姿は無くなっている。


「二人ともよく頑張ったっシュ。後は拙者に任せるっシュ」


 瓦礫を斬っていたマサシゲが戻ってきて、男性店員を肩に抱えていた。


  その状態でジャンプし、グラウンドッグの中に飛び込んでいった。


「す、凄い」


 汗を拭きながら呟いたユウタの言葉に、隣のセフニャーも思わずといった様子で大きな頭を縦に振った。


 更に振動が大きくなり、立っていられないほどの揺れが二人を襲う。


 見上げると、繭が破裂しそうなほど、中から膨れ上がり――ユウタは初めて見るが――外側と同化していたスピネルの蛹も崩れ落ちてきた。


 ユウタはセフニャーに立たせてもらって二人でグラウンドッグへ。


「急げ」


 ドーラとマサシゲがユウタ達の方へ手を伸ばす。


 あと少し、というところで、真上から影が落ちてきた。


 見上げると、二人を簡単に押し潰さそうな紫色の瓦礫が落ちてくるではないか。


 このままでは二人とも潰れる。


 ユウタはセフニャーの背中を思いっきり押し込んだ。


 セフニャーが頭からグラウンドッグへ突っ込むが、ドーラとマサシゲが支えてそのまま中へ。


「後はユウタ君だけだ。急いで」


 誰にも聞かれないので、ドーラがユウタの名前を呼ぶ。


「僕に構わず先に行ってください」


 瓦礫は避けたが、高さはユウタの首くらいまであり、長さもバスほどありそうだ。


 登れないこともないが、表面は無数のナイフのように突き出ていて、とても歩けそうにない。


「僕には()()があります!」


 ユウタはナノメタルスキンに包まれ、銀色に輝く自らのオーパスをドーラに見せるように掲げる。


 意図が伝わったのかドーラが頷く。


「それと、フワリ姉には『ガーディマンが助けてくれた』って伝えてください!」


「……分かった!」


 崩れ落ちる瓦礫の音にかき消されないように大声で返事したドーラの頭が車内に消え、グラウンドッグのドリルが閉じていく。


 そして、地中に消えていった。


 見届けたユウタは一度大きく深呼吸し、みんなを護る為、左手に持ったオーパスにキーワードを音声入力する。


「『立ち止まるな。一歩踏み出せ』」


 全身がエメラルドグリーンの光に包まれた直後、大きな瓦礫がユウタの立っている場所に落ちた。

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