#7 チーズケーキ買っていこうかなって
―1―
ユウタとフワリはVRゲームをたっぷりと遊んでお腹が減ってきたので、ボナモールにあるファストフードに足を運んでいた。
二人は注文したセットを載せたトレーを持って、空いている席に向かい合わせで座る。
二人共ラージセットである。
「いただきます。お腹空いちゃった。VRゲームって結構体力使うんだね」
フワリはそう言いながら、前髪が垂れないように抑えながら、パティが二枚挟まったダブルバーガーを食べていく。
「そうだね。ほとんど現実と区別つかないくらいの迫力だから、その分体力使うのかも。いただきます」
ユウタが頼んだのは、パティが三枚も挟まれたトリプルバーガーだ。顎が外れないように気をつけながら頬張る。
半分ほど食べたところで、付け合わせのポテトを食べてから、大きな紙コップに入ったオレンジジュースを吸い込むように飲む。
「ユーくんってさ」
「ん? あーに?」
ジュースを飲みながら返事する。
「少し変わったよね。以前より逞しくなったような……最近何かあった?」
「ブフッ!」
飲んだジュースが逆流しそうになって噎せてしまう。
「な、何で急にそんな事聞くの?」
(もしかして僕がガーディマンだってバレた?)
ユウタの背中がじっとりと湿ってくる。
「だって、いつのまにか沢山食べるようになってるよ。今だってフワリより大きいサイズのハンバーガー食べてるし」
そういうフワリも、ダブルバーガーをとっくに完食していた。
「あ、ああ。それは……」
何と言い訳しようか答えの袋小路に詰まっていると、
「フワリ分かってるよ」
ユウタは唾を飲み込み、フワリの次の言葉を待つ。
「ズバリ……筋トレだね」
指を立てながら自信満々の姿に、違う意味で反論できなくなってしまった。
「最近流行ってるテレビ番組の影響受けたんだね。何だっけ……五分でムキムキ『ファイブサイズ』だ! アレ見たんでしょ?」
自身溢れるフワリの答えは全く違う。違うがユウタはそれに乗っかることにした。
「うん! 偶然見たらやってみようかなって思って」
「そうなんだ。でもフワリは今のままでいいんだけどな。むっきむきユーくんはちょっと違うと思うなー」
ユウタは自分がボディビルダーみたいなスタイルになっていることを想像する。
首から下ははち切れそうなくらいの筋肉の塊。なのに顔は全く変わっていない。
とてもアンバランスな姿だった。
「あんまり筋肉つけ過ぎないようにする」
「うんうん。ユーくんは可愛い方がいいよ。でも、何で鍛えようと思ったの?」
最後に残っていたアイスティーを飲み干しながらフワリが尋ねてきた。
「もしかして、誰か好きな人いるんでしょ?」
「エエッイナイヨ」
いきなりの的を射る質問に、思わず片言で返事してしまった。
「その動揺ぶり。どうやら間違ってないみたい。名探偵フワリの灰色の脳細胞が真実を暴いちゃうよ」
フワリは口髭を撫でるような仕草をしながら、自らの推理を披露していく。
「ズバリ……ユーくんの好きな人はお姉ちゃんでしょ!」
出てきたのはある意味一番遠い存在の名前だった。
「ち、違うよ! サヤトさんじゃないよ!」
ユウタは両手を激しく降って全否定。
すると何故かサヤトに対して酷い事を言っているような気がして、申し訳ない気持ちになってきた。
「あれ、お姉ちゃんじゃないの? 最近連絡取り合ってるから、もしかしてって思ったのに」
フワリが身を乗り出してきたので、ユウタは頭を後ろに下げる。
「じゃあ、だれだれ? 誰なの? フワリお姉さんに教えなさーい」
身を乗り出したフワリが、右手の人差し指でユウタのほっぺをグリグリしながら問い詰めてきた。
「……それは秘密だよー」
(ここでフワリ姉が好きです。何て言えないよ)
ファストフード店で戯れる二人は、側から見たらまるで仲の良い兄妹ようであった。
―2―
昼食を終えた二人は、騒がしく次の目的地に向かっていた。
「ねえユーくん。誰にも言わないから……駄目?」
「駄目」
ユウタは顔を赤くしながら首を左右に振った。
「ほらフワリ姉。着いたよ」
この話はお終いという代わりに、次の施設を指差す。
そこは映画館だ。
先日公開されたばかりの新作怪獣映画を観に来たのだ。
「早く入らないと始まっちゃう。パンフレット買うから先にグッズ売り場行こう」
言いながら歩き出す。
「は〜い。置いてかないでよー」
フワリも空気を読んでか、それ以上話題を蒸し返すことはなかった。
指定の劇場の席に着いて待つこと数分。照明が落とされ、新作やネット動画サービスの宣伝が終わり、本編が始まる。
『モンスター・オブ・ウォー』
洋上に作られた人工島。
そこでは極秘裏に、化石から採取した遺伝子を用いて、古代の生物達の再生作業が行われていた。
主役である恐竜型怪獣『ティラ』が瞼を開け、目の前にいたヒロインの女性科学者と視線を交差させるところから物語は幕を開ける。
人類の新たなステージが始まると思った矢先、古代生物達には遺伝子に刻まれたある目的があった。
急激に成長し巨大化した怪獣達は、蘇った人工島を舞台に、最後の一匹になるまでお互いの命を奪い合う。
そこに人類の介入する余地はなかった……。
―3―
「すっごい迫力だったね! あの映画。ティラの小さい時も予想外に可愛くて……あっヌイグルミある。ちょっと欲しいかも」
フワリはダウンロードしたパンフレットのグッズ紹介のページを眺めながら、ユウタに話しかける。
その口調からは、興奮冷めやらぬといった様子がはっきりと分かるものだった。
「……そうだね」
返事するユウタは反応が薄い。
それに気づいたのか、フワリがパンフレットからユウタの方を見る。
「面白くなかった?」
「ううん。怪獣達の動きも実際の動物の動きを取り入れてリアルだし、巨大な怪物達の戦いも画面に収まりきらないほどの迫力だったよ。そこは好きなんだけど、最後が、あんまり」
「あっラスト……。生き残ったティラに対して軍隊が攻撃したところ?」
ユウタは頷きながら映画のラストシーンを思い出す。
十体の怪獣が入り乱れる怪獣戦争を制したのは、成長を続けて二百メートルを超えたティラであった。
満身創痍になり、世話してくれた女性科学者を守るように行動したティラ。
しかし、人類は自らの脅威になると判断し、ティラのいる人工島に向けて大量破壊兵器を発射してしまう。
人工島は巨大なキノコ雲に包まれ、そこにいた全ての命は焼き尽くされた。
かと思った次の瞬間、爆炎の中に殺意に満ちた光る二つの目が、それはティラによく似ていた。
映画はそこで終わってしまう。
「CMとかじゃあんまり暗い印象じゃなかったんだけど、最後のアレはバッドエンドだよ。観終わって後味悪いっていうか」
嫌な事を忘れたかったユウタにとって『モンスター・オブ・ウォー』はあまり自分に合わなかった。
「あの映画を否定するわけじゃないけど、やっぱり物語はハッピーエンドがいいな」
「確かにティラ可哀想だったね。ごめんねフワリ一人で浮かれちゃって」
「そんな。別にフワリ姉を責めてないよ。ティラの小さい頃は可愛かったのは確かだし」
「ティラの可愛さに罪はないもんね。やっぱりぬいぐるみ買おうかな。でもお小遣い足りない……お姉ちゃんに相談してみよう。可愛いの好きだし……」
ユウタはそれ以外にも、別の理由があった。
(何か物足りなかったんだよな。でもそれが何だか分からない)
ユウタは次のイベントが始まるまで、パンフレットを眺めていると、ある文章に目を止める。
それは監督が実際に起きた怪獣事件の影響を受けていたとインタビューで明かしていたのだ。
(1984年12月にビキニ諸島に現れた怪獣。確か歴史上初めて核兵器が使われたって先生が言ってたっけ)
「あっユーくん。そろそろ時間になるよ。もうすぐ会えるよ」
テンションの上がっていくフワリの声を聞いて、ユウタはパンフレットから目を離す。
集中して読んでいて気づかなかったが、周りには沢山の親子連れが集まっていた。
「ママー。いつになったら始まるのー」
「もう疲れたー。座りたいー!」
待ちくたびれて、全身を使って抗議している子もいれば、
「クウースウー」
抱っこされたまま寝ている子供もいる。
いつのまにか周りが子供だらけになっていて、恥ずかしさでその場を離れようとしても、自分が立っているところ以外は、足の踏み場もない。
そう。フワリとユウタが見に来たイベントは子供向けのキャラクターショーであった。
司会進行のお姉さんがステージに現れる。
「みんなこんにちはー……元気なお返事ありがとう。それじゃあ元気よくみんなのお友達読んでくれるかな? せーの――」
「「「セフニャー!!」」」
子供達が大きな声で名前を呼ぶ中、フワリも一緒に呼んだ事に驚くユウタ。
子供はもちろん、フワリも大好きなキャラクターがちょっと恥ずかしそうに、けれど両手を振りながら現れた。
「ユーくん。ほら出てきた。セフニャー、本物だよ!」
現れたのは、CEFのスカウトスーツを着ているデフォルメされた猫、セフニャーである。
以前、ユウタが初めて変身する事になった事件があった。
その事件に巻き込まれたフワリを助けてくれたのが、ステージの上で手を振っているセフニャーだったのだ。
セフニャー自身も大怪我を負い、しばらくショーは開催されなかったのだが、つい最近活動を再開。
ここボナモールで、復活おめでとうショーが開かれることになったのだ。
フワリがユウタを誘ったのも、セフニャーに会う為である。
「きゃああ! セフニャー」
フワリは子供達と同じように左手を大きく上げて振りながら、右手に持った猫の顔を模したオーパスのシャッターを切りまくっていた。
セフニャーの元に子供たちが集まっていく。
「フワリも近くに行きたい! ユーくん行こう」
フワリは有無を言わさず、ユウタの手を引いて子供達が集まるところへ。
セフニャーがステージを降りようとした時、
『ハハハハハ』
ステージに取り付けられているスピーカーから、突然の高笑い。
「なんだ?」
ユウタは正体が分からないが、子供達やフワリは見当がついているようだ。
ステージの裏から新たに現れたのは赤いマントをたなびかせ、左目に海賊のような眼帯をした犬のキャラクターだ。
『ついに復活したな俺様の永遠のライバルセフニャーよ』
ステージの上から、上から目線でセフニャーを指差す。
「あれ誰?」
ショーの邪魔をしないように、フワリに小さな声で質問する。
「アレは「ケンアク」セフニャーのライバルを自称していて、世界中で人気の猫を蹴落として自分達が玉座につこうとしている悪いやつなの」
(それだけ聞くと凄い悪い奴には見えないけど)
周りの子供達は怯えた様子を見せ、今にも泣き出しそうな子もいる。どうやらかなり悪い奴のようだ。
『病み上がりのセフニャーは動きが鈍い。子供達を連れ去り、犬好きに洗脳してやる』
ケンアクの後ろから犬耳のカチューシャにマスクを被った全身タイツの戦闘員が現れた。
『子供達を連れ去れ!』
戦闘員が命令を受けて動く前に、セフニャーがステージに登り、子供達を守るように両手を広げて立ち塞がった。
「もう大丈夫。セフニャーがみんなを守るために戦ってくれるよ」
司会のお姉さんの言葉に子供達は笑顔を取り戻し、CEFと書かれた背中に声援を送る。
戦闘員三人がセフニャーを囲んで一斉に飛びかかる。
セフニャーは逃げようともせず、素早いジャブを三度放ち、戦闘員達をノックアウト。
倒された戦闘員達は邪魔にならないように退場していく。
『やるじゃないか。だがそこまでだ!』
ケンアクが距離を詰めて、右ストレートを繰り出した。
セフニャーはそれを軽やかに避けると、反撃の右フック。
ケンアクはそれを左手で受け止める。
『どうした。以前より勢いがないな』
セフニャーの全身が震えるように動いた。
その一瞬の隙を逃さず、ケンアクが拳の連打を叩き込む。
素早くかつステージに響くサンドバッグを叩くような重い音。
無数のパンチを喰らいセフニャーが仰向けに倒れた。
「「「セフニャー!」」」
フワリや子供達が悲鳴に似た叫びを上げる。
その叫びを聞いてケンアクが嬉しそうな声を上げた。
『ハハハハハ。無様なり。人気ナンバーワンの座は頂くぞ』
ケンアクがセフニャーを見下ろしてからステージ後ろを振り返ると、再び戦闘員が現れステージを降り、物凄くゆっくりと子供達に近づいていく。
「エェーン。セフニャーが負けちゃったよー!」
「怖いよ。こっち来ないで。セフニャー助けて!」
子供達が大泣きする中、受付のお姉さんが声を掛ける。
「みんな。セフニャーに力を貸してあげて「頑張れ』って『負けないで』って応援してあげるの。そうすればセフニャーはまた立ち上がってくれるわ」
それを聞いても子供達は迫り来る戦闘員の迫力に負けて、泣き止まない。
始めに声をあげたのは、フワリの隣にいる幼馴染だった。
「立って。セフニャー。お願い立ってー!」
フワリが率先して、セフニャーに声援を送る。
「このままじゃ皆が連れ去られちゃう。お願いだから立って!」
フワリな姿を見た子供達も、涙を拭い、一生懸命声を出す。
「がんばれー!」
「セフニャー。悪い奴をやっつけて!」
子供達の勢いに押されて、ユウタも声援を送る。
「が、頑張れ。セフニャー。みんなを救えるのは君だけなんだ!」
仰向けに倒れていたセフニャーの耳がピクリと動いたように見えた。
『ヌヌヌ。うるさい子供達だ。まずは桃色の髪の少女を連れてこい!』
三人の戦闘員が、指示を受けて桃色の髪の少女、フワリの方へ手を伸ばす。
「フワリ、狙われてる?」
(フワリ姉!)
ケンアクに指を指されて、少し嬉しそうなフワリ。
ショーという事も忘れて、フワリを護る為に足を動かす。
だが、ユウタが動くより早く、頭上から戦闘員とフワリの間に何か落ちてきた。
「セ、セフニャー?」
ステージから体操選手のように縦回転しながら飛び降りてきたセフニャーは、フワリの呼びかけに頷く。
セフニャーは立ち上がると、フワリに迫っていた戦闘員を容易く蹴散らし、ステージで待つ宿敵の元へ。
子供達の声援を受けて、セフニャーが怒涛の攻めでケンアクを追い詰める。
「みんな。セフニャーが必殺技を放つよ。みんなも名前を叫んでくれるかな?」
「「「はーい!」」」
「必殺技?」
その場で知らないのはユウタだけのようで一人ついていけない。
その様子を見たフワリがユウタに耳打ち。
「じゃあみんな。行くよ。せーの」
司会のお姉さんがマイクを子供達の方へ向けた。
「「「セフニャーロケットアタック!」」」
子供達とフワリ、ユウタも一緒になって必殺技を叫ぶと、セフニャーはロケットのように勢いよく飛ぶと、大きな頭でケンアクを吹っ飛ばす。
『グアアア。や、やられたー。セフニャー覚えていろー!』
そんな捨て台詞を残して、ケンアクは退場するのだった。
―4―
セフニャーのヒーローショーが終わり、今は握手会をしている。
子供達が長い列を作るその中に、フワリとユウタの姿があった。
「うわぁ。もう少しでセフニャーと握手できるよ〜」
「フワリ姉。僕分かったような気がする」
「何が分かったの?」
「うん。みんなの希望になるような存在って凄いなって思って」
「そうだね。セフニャーは立派なヒーローだよね」
フワリの視線の先を追うと、大喜びの子供達が握手したり、セフニャーに抱きしめられたりしている。
(僕も、僕もみんなからああやって慕われるような存在になりたかったな)
そんなことを思いながら、待っていると遂にフワリとユウタの番がやってきた。
「ああ、セフニャー復活してくれて嬉しいです〜。これからも応援してます。頑張ってください〜」
セフニャーが差し出した右手を、フワリは赤ちゃんを抱きかかえるように優しく両手で掴んでいた。
「あのあの。写真、ツーショット写真撮っても良いですか?」
セフニャーは快く応じてくれた。
「ユーくん。カメラお願いしていい?」
「いいよ」
ユウタは渡されたフワリのオーパスを使って、フワリとセフニャーの抱き合ったツーショットをファインダーに収めて左の人差し指でシャッターを切った。
「セフニャーと握手しちゃったし、ツーショットまで撮っちゃった! ほらほらユーくんも早く握手してもらいなよ」
「う、うん」
目の前にやってきたユウタに向けて、セフニャーが左手を差し出す。
ユウタは利き腕で、差し出された左手と握手。
(柔らか……)
ホシニャンの本物を触った事があるから分かるのだが、セフニャーの肉球がすごく柔らかいのだ。
着ぐるみとは思えない感触は、まるでお餅のような、パン生地のようなそれ以上に柔らかい……。
「ユーくん!」
「はい!」
フワリに呼ばれて気づく。セフニャーの肉球を執拗にモミモミしていたので、慌てて手を引っ込めた。
「ユーくん。ほら後ろの子達が凄い顔して見てるから」
待っている子供が『早くどいて』と言いたげに睨みつけてきた。
「うわわ。ご、ごめんなさーい」
子供達とセフニャーに頭を下げて、ユウタはその場を後にする。
セフニャーはそんな彼に手を振ってから、子供達の相手をするのだった。
―5―
「写真も一緒に取れたし、握手もできた。今日は幸せな一日だよ。ユーくんは楽しめた?」
ユウタはまだ肉球の感触が残る左手を見つめていた。
「えっ?」
「えっじゃなくて。ユーくんは今日楽しめた? 嫌なこと忘れられた?」
ユウタは今日一日を振り返る。
チケットがうまく取れなかったり、VRゲームでは、フワリが大活躍していいところ見せられなかったし、映画も思っていたラストとは違った。
けれども、セフニャーのショーは予想以上に楽しかったし、フワリと一緒に遊べたのはとても楽しかった。
「うん。とっても楽しかったよ。フワリ姉、今日はありがとうね」
聞いたフワリの顔が満開の桜のように染まって笑顔になった。
「えへへ。フワリも楽しかったよ。また来ようね」
ショーも終わり、セフニャーと触れ合っていた子供達も名残惜しそうにステージから離れていく。
そんな少しさ寂しそうな光景を見ながら、ユウタとフワリもその場を後にする。
「そうだフワリ姉。母さんにお土産買っていきたいんだけど……」
「おばさまに? いいね。何買うか決めてあるの?」
「うんチーズケーキ買っていこうかなって」
「チーズケーキか。じゃあ、あそこのお店がいいかな」
その時、ユウタの耳がある異音を捉えた。
何かガラスにヒビが入るような音。
ふと上を見上げると、沈みかけるオレンジの光に照らされた吹き抜けの窓。
一見異変は見当たらないと思われたが、すぐに異変が起こる。
砕けたガラスが落ちずに、もう一度つなぎ合わされ、紫色の硬質な物体に変化していく。
殻のような物体は瞬く間にボナモールを覆い尽くし、中にいた人達は閉じ込められて暗闇に包み込まれてしまった。




