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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第5話《護振剣 それは護るために振るう力》〜地醜蛾獣ソンブリブル 絶美蝶獣マトゥファーラ 登場〜
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#4 言うこと聞いてない

 ―1―


 翌日晴れた空と裏腹に、ユウタの気持ちは晴れない。


 食欲も湧かず、リビングで登校の時間になるまで待っていると、


『リポーターの速報快(ソクホウカイ)です。ガーディマンの攻撃によって、街の一画がクレーターと化して二週間が経過しました。

  ご覧ください。今はすっかり復興も完了し、巨大な爪痕は影も形もありません』


 まだ自分の事を言われている。ユウタは耳を塞ぐのもめんどくさくそのままニュースを何の気なしに眺める。


『次のニュースです。太平洋沖で製造されていたメガフロートが完成しました。

  ここには超大型の電磁投射砲が搭載されており、衛星軌道上の脅威にも対処……』


 ガーディマンのニュースは続くかと思ったが、すぐに話題は切り替わった。


(サヤトさんの言った通り。僕の話題も古い話題か)


『先日現れた蛾に酷似した怪獣は一週間前と三日前に二体現れています。

  防衛軍は今後も同じ個体が現れる可能性があるとして、出現に備えすぐ避難できるように準備を怠らないで欲しいとの事です』


「怪獣、そういえばここ最近出てたんだよね」


 二度出現しているが、二度共防衛軍が撃退していたので、ユウタは出動する機会がなかった。


 出動する気が無いとも言える。


  ニュースは天気予報をやっている。午前中は快晴だが徐々に雲が増え、夜は月も見えなくなるという事だった。


 天気予報を身終えて少し経つと、玄関のチャイムが軽やかになった。


 エプロンで手を拭きながらアンヌが応対する。


「はーい。あっフワリちゃん。いつも迎えに来てくれてありがとう。ユウタは――」


 アンヌが言い終える前に立ち上がって玄関へ向かう。


「ううん。何でもないわ。今出るから」


 ユウタの行動に言葉を詰まらせながらも、アンヌはフワリに普段と変わらぬ口調で話していた。


 靴を履いて扉を開けると、待っていたのは桃色のボブの綿菓子のような雰囲気の幼馴染。


「ユーくん。おはよう」


 照愛(ショウアイ)浮羽凛(フワリ)は右手を振って出迎えてくれた。


「……おはよう」


 ユウタは挨拶もそこそこに廊下を歩き始める。


「ああっ待ってユーくん! おばさま、ホシニャン。いってきます」


  フワリは二人に挨拶してからユウタの後を走って追いかけてきた。


 ―2―


 歩いている時もバスに乗っている時も学校の正門を通り抜けても、ユウタは無言。


 そんな彼を見て、フワリは話しかけようとしても中々話しかけられないように口を開閉させていた。


 午前の授業も終わり――ほとんど集中してないので何の授業覚えていない――昼休み。


 ユウタは屋上にあるベンチで何もせずに座っていた。


 太陽は柔らかな光を降り注ぐか、今のユウタの心は一向に温まらない。


「はぁ〜〜あ」


 また溜息。


(溜息つくと幸せ逃げるっていうけど、不幸も一緒に出ていってくれないのかな)


「ユーくん」


 声を掛けられた。意識を現実に戻すまで三秒。


「ユーくん」


 意識が戻ったので反応する。


「ああ。フワリ姉」


「『ああ。フワリ姉』じゃないの。屋上で何してるの?」


 フワリは声を掛けながらユウタの隣に座る。


「何ってお昼食べてたんだよ」


「ふう〜ん。じゃあ今膝の上に置いてあるのは何なのかな?」


 フワリが指差したところを見ると、蓋を開けた形跡のない弁当箱が置かれていた。


「箸も出してないし。最近様子変だよ。何かあったの。もしかして……おばさまと喧嘩でもしちゃった?」


 少し躊躇いながら尋ねてきた。


「違う」


(皆が僕を悪者扱いするんだ。ヒーローの僕がみんなを守ってるのに、皆悪口ばっかり。だから嫌になっちゃったんだ)


 と、吐露したくても出来るはずなく、そのまま押し黙る。


 言いあぐねていると、フワリがこんな事を言ってきた。


「もしかして、お姉ちゃんと喧嘩した?」


  なぜ急にサヤトが出てくるのか。


「ほら。最近ユーくんのアドレスお姉ちゃんに教えたじゃない。そしたらお姉ちゃんユーくんのことばっか話すんだよ」


 楽しそうに話すフワリ。ユウタはどんな話しをしているのか気になり、慌てて質問する。


「ど、どんな話し?」


「うん? 最近熱心に博物館に通ってて怪獣の歴史とかの勉強頑張ってるって言ってた」


「そう、なんだ」


 さすがにヒーローとして活躍していた事は言ってないらしい。


「でもね」


 フワリが急に寂しそうに目を伏せ指を組み合わせる。


「ここ一週間くらい、全然ユーくんの事話題に上がらないの。だから何かあったのかなって」


  ユウタは言おうか言わないか迷う。そして……。


「そのサヤトさんとは喧嘩してないよ。いつも博物館の事で丁寧に教えて……くれるから」


 なんだかフォローしていたら恥ずかしくなってきて、顔が赤くなってきた。


「良かった。お姉ちゃんと喧嘩してないんだね。フワリホッとしたよ〜」


 フワリは笑顔で手を叩くと「でも」と言う。疑問が湧き出てきたようだ。


「じゃあ何でユーくんは落ち込んでいるのかな?」


 話しが振り出しに戻ってしまった。


 このまま、はぐらかしてもフワリは諦めないだろう。


「もし何か悩み事抱えているなら聞かせて。きっと話した方が楽になると思うよ」


 綿菓子のような甘やかな雰囲気にユウタは逆らえなくなってしまい口を開く。


「その最近、さ」


「うん」


 ユウタは胸の内を明かす。


「最近、怪獣と戦うヒーローがいるじゃん」


「あっ、ガーディマンの事だね」


 ユウタは頷いて続ける。


「うん。そのガーディマンを応援してるんだけど。最近ニュースや動画とかで……」


 ガーディマンに変身している事は隠してフワリに心のモヤモヤを伝える。


「街を破壊したって報道の事?」


  「うん。あんなの酷いなって思って。ガーディマンは街のみんなを護る為に戦ってるんだよ。

 それなのにシェルターにいた人に被害が出たとか間違った情報まで流してさ」


 そう。街に大きなクレーターが出来、シェルター数メートルまで迫ったのは事実。


 しかし、シェルターの中の人は全員無事であった。


 何故そんな報道が出たかというと、クレーターがとてつもない大きさでガーディマンのミドラルビームの破壊力を物語り、シェルターの人が数日閉じ込められた事が原因であった。


「そうだね。間違った情報を流すのはいけない事だよね」


 フワリは空を見上げる。


「フワリもガーディマンの事は応援してるし、これからも応援していくつもり。でもこの前の戦いの姿はちょっと怖かった」


 幼馴染の口から信じられない単語が出てきた。


「怖かった? ガーディマンが?」


 それは自分が恐れられていると言われているようなもの。


「うん。あの凄く光輝く緑の光線。とても綺麗だったけど、なんて言うのかな。そう、言う事聞いてないように見えたんだ」


「言うこと聞いてない」


 フワリの指摘は正しい。


 ミドラルビームを放つ事には成功したが、制御しきれず身体の全ての力が吸い付くされるようだった。


 無理矢理止める事はできたが、あのまま全ての力を使い果たしていたら、本当にシェルターが消滅していたのかもしれない。


 ユウタは自分の身体を無意識に抱き締める。


「ユーくん。寒いの?」


「ううん。何でもないよ」


「でもフワリは応援してるから。ガーディマンはフワリ達を助けてくれる存在だって信じてるもん」


 ユウタの寒気が一瞬にして氷解した。


「もし本人に会えたらお礼言わないとね。いつも街を守ってくれてありがとうって」


「フワリ姉……」


 桃色の瞳と見つめ合う。


 そんな二人を茶化す存在が現れた。


「お前ら付き合っちまえよ」


「「えっ!」」


 二人で辺りを見回す。


 どこかで聞いたことのある男性の声だが、姿が見えない。


「どこ見てるんだよ二人共。俺はここだぜ。トウッ!」


 まるでヒーローのような掛け声と共に二人の頭上をボールのように身体を屈めながら縦回転して飛び越える存在がいた。


 見事に着地を決めたのは剣山のような黒髪に、全ての指で光る銀色の指輪が目立つ男子。


「よっ。ユウタ、フワリ」


 そんな存在は校内に一人しかいない。


 漆児(シツジ)爪牙(ソウガ)だった。


 ソウガは手を挙げながら、二人のところへ近づいてくる。


 いつも通り着崩した制服からはシャツに書かれた英字が覗いている。


 そこにはStrong jawと書かれていた。


「二人ともイチャついてるな。そこだけ真夏みたいだぞ?」


「ちょ――」


 ユウタが何か言う前にフワリが反論する。


「ちょっとソーくん。フワリ達は付き合ってないの! ねっ、ねっ?」


「う、うん」


 いつもは感じられないフワリからのプレッシャーに圧されてつい頷いてしまった。


「ほらフワリ達は付き合ってません」


 ちょっと寂しいユウタであった。


「んで。実際何してるんだ。二人で」


 ソウガは空いているユウタの隣へ腰を下ろした。


「ユーくんが落ち込んでいるから。どうしたのかと思って」


「何だユウタ。お前落ち込んでたのか? いつも通りにしか見えなかったぜ」


 ユウタの心に魚の骨が刺さる。


「ソーくん。そんな風に言わないの。ユーくん傷つけないで」


 フワリに抱きしめられる。恥ずかしさ以上に柔らかな感触で幸せな気持ちになっていく。


「ヘイヘイ。全く恋人同士というより母子みたいだなっと」


 ソウガは立ち上がり、両手をポケットに突っ込むと、屋上の出口へ歩いていく。


「じゃあな二人共。それとユウタ。俺午後の授業抜けるから」


「何処行くの?」


「んん。デート。ユウタみたいなお子ちゃまには刺激が強いかな」


 ソウガは「鼻血出すなよ」と言い残して屋上を後にした。


 ユウタは鼻を抑える。


「鼻血なんか出さないよ!」


 ソウガの姿が消えると同時にチャイムが鳴った。


 結局ユウタはお昼を食べることができずに午後の授業を受けるのだった。


 ―3―


 その夜は予報通り厚い雲に覆われ、星はおろか月も見えない。


 まだ食欲湧かないまま、部屋にいるとフワリからメールが届いた。


「何々。今度の休みに……ショッピングモールへ行こう⁈」


 寝転がって見ていたユウタはバネが仕込まれたように起き上がる。


「こ、これってデ、デ、デ、デート?」


 ユウタの心臓が激しいリズムを刻む。


  しばらくして落ち着いてからある事に気付いた。


「は、早く返事しないと!」


 ユウタは嬉しさで震える指で何度も間違えながら返信し、日程を決めていく。


「やったぁぁぁぁ!」


 ユウタは寝転がり、オーパスを恋人のように強く抱き寄せる。


「フワリ姉とデート、今度の休日デートだ! どうだソウガ君。僕だってもう子供じゃないんだぞー」


 フワリとのデートを夢想するだけで身体がコタツに入ったように温かくなり、僅かにお腹も減ってきた。


「お腹すいたけどもう遅いし。明日母さんに作ってもらおう」


 身勝手な考えを持ちながら瞼を閉じると、そのまま深い微睡みの中へ沈んでいく。


(今日はいい夢見れそう)


 ―4―


 耳が音を捉える。


 死人のうめき声のようでありながら耳障りな高い音。


 ここ最近頻繁に聞くようになった音。


「警報⁈」


 ユウタは飛び起きた。ら


 室内は明るい。どうやら電気を点けっぱなしで寝てしまったようだ。


「この音は警報だよね。じゃあ怪獣が接近してる」


 紺色のポロシャツのようなパジャマのまま部屋を出るとアンヌと目が合った。


 彼女も寝間着姿だ。


 灰色のゆったりしたスウェットと地味な格好である。


 いつもはポニーテールにした赤茶の髪を緩くサイドテールにしていて、ユウタは気づかないが、どこか色香が漂っていた。


「ユウタ。怪獣が街に近づいているわ」


 アンヌの胸元でホシニャンが丸くなっている。


「ホシニャンどうしたの?」


「警報の音が苦手みたい。ここ最近頻発してたから」


『う〜ん。この音キライ』


 ユウタの頭に弱々しいテレパシーが届いてきた。


  少しでも良くなるように、ホシニャンの頭を撫でていると、家の怪獣報知器が避難を促してくる。


『怪獣警報が発令されました。飛行怪獣が高速でこの街へ向かって西進しています。

  街全域に避難警報が発令されています。

 市民の皆さんは、付近のシェルターへ速やかに避難してください。

  繰り返します……』


「ユウタはどうするの?」


「僕は……」


 一瞬詰まるも、ユウタは考えていた事を口に出す。


「僕も避難する」


 叱責されるかと思ったが、アンヌは優しく微笑むと、顔を上げない息子の頭を撫でる。


「……分かったわ。じゃあ早く避難しましょう」


 外へ出ると、ユウタ達と同じように避難する人達が廊下を進んでいく。


 みんな殆ど寝間着姿で、事前に準備していた人はユウタの視界には映らなかった。


「そうだ。フワリちゃんは、もう避難したのかしら」


 ホシニャンを抱き抱えたままアンヌはフワリのドアをノックする。


 少し経ってドアが開いた。


 現れたのは、毛を刈る前のアルパカみたいにフワモコな、ピンクのパジャマを着たフワリの姿。


 上は長袖なのに、ショートパンツから伸びる肉付きの良い白い太ももがとても眩しくて、ユウタは目を逸らす。


 髪をケアする為の、レースのあしらわれたナイトキャップを被ったフワリは、避難するところだったのかオーパスを右手に持っている。


「おばさま……」


 ドアを開けて、アンヌの姿を認めた事で、緊張の糸が切れたのか瞳が潤んでいた。


「怪獣警報よ。一緒に避難しましょう」


 アンヌは頷くフワリを伴ってユウタのところへ歩いてくる。


 ユウタはというと廊下から分厚い雲に覆われた夜空を見上げていた。


「早くシェルター行くわよ」


「うん。母さん」


 警報に包まれた街中央に聳える世界樹(ユグドラシル)から二つの青い光が飛び立っていくのが見えだからだ。


(ごめんなさい)


 伝わらないのは分かっていても、ユウタは心の中で謝らずにはいられなかった。


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