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【ジェムストーンズ1人目 ガーディマン】〜みんなを護るため弱虫少年はヒーローになる〜  作者: 七乃ハフト
第5話《護振剣 それは護るために振るう力》〜地醜蛾獣ソンブリブル 絶美蝶獣マトゥファーラ 登場〜
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#2 貶めるのはやめなさい

―1―


  希望(のぞみ)市中心に聳えるのは、全高千メートルのCEF(セフ)本部ユグドラシル。


 その地下の司令室にメンバーが集まっていた。


 岩が根を張ったような落ち着いた声が隊員達に問いかける。


「全員集合したか?」


  CEF隊長岩根(イワガネ)玄武(ゲンブ)が腕を組んだまま室内を見回す。


 集まっているのは、


 隊一番の筋肉を持つ力持ち。金剛(コンゴウ)厚志(アツシ)


 髪をキッチリ七三分けにして、シルバーフレームのメガネのズレを直す自強(ジキョウ)(ツトム)


  まるで忍者のように細身で、開いているのか分からない糸目の忍者好き。影隠(カゲガクレ)半蔵(ハンゾウ)


 紫の髪をシニヨンに纏めた照愛(ショウアイ)沙耶刀(サヤト)は、ゲンブの質問を肯定できずに切れ長のアメジストの瞳を僅かに伏せる。


 五人全員黒のスーツ姿で、まだ来る気配のない一人を待っていた。


 ゲンブの問いに答えたのは室内中央の黄色い球体だ。


「後はハカセだけです。それ以外のメンバーは全員揃っています」


 この基地の管理・統括A Iフリッカが抑揚のない女性の声で報告する。


「……また寝坊」


 サヤトは刀のような鋭い声に苛立ちを含ませる。


 アツシだけは「まぁいつもの事」だと苦笑していた。


『ふわぁ〜〜。悪ぃ悪ぃ。待たせた』


  あくび混じりの通信が室内の全員の耳に聞こえてくる。


 ゲンブが天井に鋭い眼光を向ける。


「ハカセ。予定の時間は過ぎているぞ」


『怒るなよ。頼まれてた地底専車(グラウンドック)潜水艦(ホワイトクラーケン)のオーバーホールは終わらせたんだから』


「それは二十四時間前に頼んだ事だ。君は十二時間で終わらせると宣言しただろう」


『そうだったかな〜〜』


 ハカセが誤魔化すように口笛を吹き出した。


 ゲンブの目つきが鋭くなる。


 口が開いた途端に怒号が飛ぶと誰もが思ったその時、新たな声が天井のスピーカーから飛び込んでくる。


『すすす、すいませんー!』


 幼くも聞き取りやすい声。正体はハカセのアシスタントヒューマノイド。アシタだ。


『ハカセがご迷惑をお掛けしましたー。実はオーバーホールを終わらせた後、ずっとフィギュア作りに没頭してしまって。何度も注意したんですけどー』


 姿は見えないがアシタは何度も頭を下げているだろうと容易に想像できた。


 ゲンブの目つきが、ほんの少しだけ柔らかくなる。


「分かった。ハカセ、アシタに免じて今回の事は不問にする。だが、あまりハメを外しすぎるなよ」


『へーい』


 ゲンブの打ち込んだクギがハカセに刺さったどうかは、その返事からはよく分からなかった。


「では、全員揃ったところで本題に入る。フリッカ頼む」


「了解。皆さんメインスクリーンに御注目ください」


 室内が薄暗くなり、司令室の一番大きいスクリーンが光を放つ。


 同時に全員の足元から椅子が上がってきた。


 メンバー全員が着席したのを確認して、フリッカが進行していく。


「まずこの写真をご覧ください」


 写し出されたのは所々穴だらけになった灰色の蛾の死骸であった。


 皆平常心を保っているが、サヤトの眉が僅かに動く。


「これは今から六日前に防衛軍によって撃墜された怪獣です」


ツトムが事前に調べていたのか、最初に口を開く。


「確かスクランブルで出撃した戦闘機が遭遇した怪獣ですね」


「はい。遭遇した二機は撃墜されました」


 六日前の戦いがメインスクリーンに表示される。


 怪獣は赤丸。戦闘機は白い三角で表示された。


「二機撃墜された事により、日本支部は高麗支部と連携し、怪獣を南北より挟撃」


 画面中央の赤丸に、上下から四つずつの三角が顎を閉じるように迫っていく。


「怪獣の攻撃によって二機が落とされましたが、プラズマミサイルが命中し怪獣は日本海に落ちて活動を停止しました

  因みにパイロットは全員脱出に成功し無事です」


 サヤトが、(おとがい)に手を当てながら質問する。


「じゃあ、さっきの死骸は、その時の戦いで?」


「はい。海に落ちた残骸を防衛海軍が回収したものです」


 ゲンブが腕を組んだまま口を開く。


「解剖して分かったことを教えてくれ」


「はい。汎存種(はんぞんしゅ)のマイマイガに酷似していますが、体長は約百メートル。翼長約二百メートル。体重は約三万トンあります」


  アツシが答えを求めるように掌を見せる。


「それは姿形が似ているということかい? それとも……」


「遺伝子パターンは九割一致。ですが膨らんだ腹部の中に人工物が埋め込まれていました」


 メインスクリーンには、開かれた腹から明らかに自然のものではない装置が取り出されている写真が写し出された。


「この怪獣は攻撃手段として、触覚から光線を放つことが確認されています。その為のエネルギー増幅機関の可能性が高いです」


 グロテスクな解剖映像が映し出されている中でも、AIのフリッカの声音は微塵も変わらない。


「防衛軍は、何者かがマイマイガの遺伝子を改造して怪獣化させ、そこに光線発射機能を持たせた生体兵器であると結論を出しました」


 ハンゾウは独特の語尾を用いて尋ねる。


「でも誰が作ったかは、依然として分からないッシュ?」


「犯人は不明のままです。そして、その三日後。二匹目が現れました」


 次に現れたのは三日前の夜。太平洋上であった。


「直ちに周辺の空域と海域を封鎖。防衛軍は空軍と海軍に出動命令を下しました」


 日本から太平洋に現れた怪獣に向かって討伐隊が結成された。


「海軍の艦艇二隻と空軍の戦闘機八機で結成された部隊は洋上で怪獣と交戦」


 スクリーンで戦いが再現されていく。


 二機のE-ペッカーが先行し標的と接敵。


 怪獣はその二機を追い回す。


  だが二機は囮で、標的の背後に回った六機がプラズマミサイルで攻撃し命中。


 負傷した標的は対空に流れるも、待ち構えていたフリゲート艦二隻の巡航ミサイルでトドメを刺され、無数の肉片となって海に落ちていった。


「これが致命傷となって怪獣は墜落。二匹目の活動停止を確認しました」


 ツトムが今すぐ知りたいことがあるように身を乗り出す。


「僕の超兵器で倒せるんですよね」


「はい。解剖で得た情報から、CEFの超兵器で十分撃破可能です。例え一対一の戦いになっても勝率は高いです」


「ヘビィトータスでも勝てるんですね」


 ツトムは念を押すように聞いた。


「はい。相手の速度は早いですが、捉える事が出来れば一撃で倒せます」


「よしっ!」


 それを聞いたツトムは今にもガッツポーズしそうだった。


 対照的にフリッカの声は平坦な大地のようである。


「では、皆さんのオーパスにも怪獣のデータを転送しておきます。改めて確認しておいてください」


  データが転送された事を確認したサヤトが、ゲンブに声を掛ける。


「このデータを、ユウタ君に共有してもいいですか?」


「構わない」


「では、メールしておきます」


「ちょっと待ってください」


 ツトムが勢いよく立ち上がり、周りは何事かと視線を集中させる。


  周囲の視線を集めたツトムはメガネを直してから、自分の提案を口に出す。


「ガーディマン……ホシゾラユウタとの協力関係を解消すべきだと思います」


 司令室内の温度が少し下がったような気がした。


 ツトムが辺りを見回すも、他のメンバーは目を合わせこそすれ、賛同の声は上がらない。


  ゲンブは腕を組んだまま問いかける。


「解消しなければならない理由は」


「はい。ここ最近現れた怪獣や巨大兵器は全て我々の超兵器で撃破出来ることが実証されています」


 ゲンブがフリッカに確認すると「その通りです」と落ち着いた声が返ってきた。


 その言葉に背中を押されてツトムの舌が滑らかになる。


「それに、先日の戦いで彼の放った光線が、街にどれだけの被害を与え、()()()()()()()()()結果になったか」


 アツシもハンゾウも顔を伏せる。


 被害の余波は一週間以上たった今も下火にはなっていない事を知っているからだ。


「市民は恐れています。あの金属生命体が次に行動すれば、人命が失われるのではないかと」


 サヤトは何も言わない。


 ツトムが熱くなるのと対照的に、ゲンブは落ち着き払っている。


「ではジキョウ隊員。どう対処するのが最善だと思う?」


「はい。彼の持っているオーパス。これが変身アイテムになっているので、これを没収し我々が管理するのが最善の策だと考えます」


「これから現れるであろう脅威は、我々だけで対処できる。もうガーディマンの力は必要ない。と?」


 ツトムは深く頷く。


「はい。彼が正義の為に行動したことは評価できますが、力を制御できない存在は、どんな兵器より、下手をすれば侵略者より恐ろしい存在だと思います」


 そこまで言い切ったツトムは、堂々として胸を張っていた。


 ゲンブが結論を出す前に動いたのは、今まで何も言わなかったサヤトだった。


 立ち上がると、ツトムに顔が触れるくらい近づく。


「な、何か文句ありますか?」


 サヤトはアメジストの瞳でツトムの微かに揺れるアクアマリンの瞳に鋭い視線を注ぎ続ける。


 ツトムは続ける。


「ショウアイさんだって先日の被害を知っているでしょう。彼の攻撃でどれだけの損失が出てシェルターに避難した人に危険を及ぼしたのか」


「知っているわ」


「じゃ、じゃあ。分かっているはずです。このままガーディマンが侵略者と戦えば最悪の被害をもたらす可能性は高い。

  だったら僕達と防衛軍で迎え撃ったほうが遥かに効率が良く市民から罵声を浴びることもないはずです!」


  そこまで言い切ったツトムは、サヤトも納得せざるを得ないだろうと考えていた。


 が、返ってきた答えは予想を裏切る。


「自分が優れているのを自慢するのは勝手よ。だけど、その為にユウタ君を貶めるのはやめなさい」


  サヤトの声音は鋭い氷の刃となって、ツトムの心を一刀両断した。


 それだけでは済まず、司令室内の温度が確実に五度は下がっていた。


 ツトムのきっちりと分けられセットされた前髪が一房垂れる。


「えっ? あっすいません」


 ツトムは反論できずに無意識に謝罪を口にして、膝から力が抜けるように椅子に座り込むと、目の前のサヤトを見上げることしか出来なかった。


サヤトがゲンブに振り向く。


「隊長。ガーディマンとの協力関係を解消する提案は保留にしてもらっていいですか? 私が彼と話してみます」


「分かった。君に任せる……ショウアイ隊員。この後はパトロールだったな。少し頭を冷やしてから行きたまえ」


「はい。そうさせてもらいます」


 サヤトはゲンブに頭を下げると、見上げるツトムなど眼中にないように、そのまま司令室を後にした。


「では解散」


 ゲンブの簡潔な言葉に、残された隊員も各々動き出す。


 まずハンゾウが立ち上がり、ツトムの左肩に左手を置く。


「どんまいッシュ」


 まだ座り込んだツトムにアツシが優しい笑顔を見せながら近づく。


「ほらジキョウ君。そこで座っているのが君の仕事じゃないだろう」


「……はい。失礼します」


 ツトムとアツシは二人揃って司令室の両開きのスライドドアを開けて廊下に出た。


  いつのまにかハカセがいなくなっていたことに、誰も気づいていなかった。


―2―


 アツシは怒り肩のツトムの背中に話しかける。


「ジキョウ君。あんまりイライラするなよ」


「何故僕が怒られなければいけないのですか? 僕の言ったことは正論です!」


  アツシは綺麗に剃りあげた自らの後頭部を右手で撫でる。


「まあ正論だね」


 味方を得たとばかりにツトムの瞳が輝く。


「ですよね。だからガーディマンとの協力は解消したほうがいいんです」


「んー。なんか焦ってないかい?」


 アツシの言葉の意味が分からず首をかしげる。


「焦ってる。僕がですか?」


「うん。ある目標を成し遂げる為に、目の前の壁を手段を問わずに破壊しようとしている感じかな?」


「僕は焦っていません」


 目標を否定はしないツトムであった。


 アツシはそれ以上深く追求しない。


「そうかい。じゃあちょっとトレーニングルームにいかないかい? 汗を流せば、イライラも少しは解消できるよ」


 アツシの提案にツトムは否定も肯定もしなかった。


トレーニングルームには既にハンゾウがいて男三人で黙々と筋トレをした。


三人は言葉を交わさなかったが、同じ思いを抱いていた。


女性が怒ると怖いなぁ。と。

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