#4 安全装置解除 攻撃開始
バサルト達が操る超兵器が出撃し、無人になった司令室でモニターを見る存在がいる。
本部ユグドラシルの管理統括AI、フリッカだ。
監視するモニターでは、雨上がりの午後の空にできた穴から落ちてきた赤い首なし怪獣が、立ち上がろうとしている。
何をするかと思えば、子供が積み木を崩すように手近のビルを破壊していた。
その場からは動こうとせずに破壊する姿は、本当に子供のようだ。
「バサルト。怪獣は出現地点から動かず、付近のビルを破壊しています」
『本部を狙っている様子は?』
「ありません。手が届く距離の物を手当たり次第破壊しているようです」
『こちらもすぐに現場に到着する。その間牽制を頼む』
「了解」
通信を終えたフリッカは怪獣出現付近の防衛兵器を起こす。
「南東エリアのMK-ビルディング起動」
フリッカの声で防衛兵器が本来の姿に変形していく。
MK-ビルディング。
その名の通り、周りを警戒するために二足歩行で立ち上がるミーアキャットのように、ユグドラシルを除いたどの建造物よりも頭一つ抜きん出ている。
ただ偵察するだけではない。自ら街に迫る脅威を排除できる武力を備えている。
怪獣を映すモニターの一部に小さな画面が現れ状況を伝える。
映されたのは、街の十字路だ。
四つ角を囲むように窓のない真っ白なビルが四棟立っている。
その内の三つが本来の姿を取り戻していく。
二つのビルの上部には、二問のレールガンを装備した砲塔。
もう一つのビルの屋上が開き、二十四問のミサイルポッドが展開。
「巡航ミサイルは使用せず、ミサイルポッドとレールガンで迎撃」
破壊力と射程に優れる巡航ミサイルは街の外の敵を迎撃するためなので使用はできない。
そのため中距離のミサイルポッドと近距離のレールガンで対処する。
「全兵装ロックオン、安全装置解除。攻撃開始」
怪獣を射程に収めた四ヶ所のミサイルポッドが、二十四発のミサイルを一斉に垂直発射。
九十六発のミサイルは空に上がって直進し、怪獣の真上で降下。
両手でビルを折っていた怪獣の頭部に命中。
爆煙が辺りを包み込み、タコが墨を履いたように姿が見えなくなった。
モニターの中で煙が晴れた。
フリッカは抑揚のない声でバサルトに報告。
「バサルト。ミサイル全弾命中。ですが怪獣は健在です」
「攻撃を続けて足止めしろ」
バサルトもMK-ビルディングで怪獣を撃破できるとは思っていなかった。
「ミサイル再装填。レールガン攻撃開始」
発射して空になったポッドにミサイルが補充されている間、レールガンの砲塔が怪獣に狙いをつける。
十字路で対角線に配置された二つのビルにレールガンが配置されている。
一つの砲塔に二問のレールガン。合計四問の四角い砲口を怪獣に向けた。
MK-ビルディングに向けて手を伸ばす怪獣に向けて攻撃。
青いマズルフラッシュと共に細長い弾が放たれ、目にも留まらぬ速さで怪獣の胴体に直撃し爆発が起こる。
怪獣は嫌がるように一歩後退。
レールガンは瞬時に二十発を撃ち切る。
建物内では、空マガジンが下に降りて地下に収納され、新しいマガジンがビル内を昇って再装填。
その間に怪獣は近くのビルを掴んで折ると、両手で頭上に掲げ、MK-ビルディング目掛けて投げつけてきた。
投げられたビルは狙いを外れ建物間の道路を滑っていく。
レールガンは攻撃を再開。
爆発に包まれながら怪獣は新たなビルを両手に持つ。
再び再装填を済ませたレールガンにフリッカは指示を出す。
「ターゲット。怪獣の足部」
レールガンの砲口が、投げる動作をして体重をかけている左脚に集中砲火。
バランスを崩した怪獣は両手にビルを持ったまま、周りのまだ無事だったビルを巻き込みながら左手側に倒れた。
灰色の土煙に包まれ怪獣は動かない。
『現場に到着。これより我々も攻撃を開始する』
バサルト達が到着したようだ。
モニターにブルーストークとレッドイーグル二機の姿が映る。
近づいてきたのエンジン音のせいだろうか、倒れていた怪獣が動き出し立ち上がった。
「フリッカ。MK-ビルディングの状況を教えてくれ」
バサルトはブルーストークを操りながら、フリッカに尋ねた。
『レールガン依然攻撃中。ですが効果はあまり無いようです。ミサイルポッドは後一分で再装填が完了します』
「よし。こちらも射程内に収めた。レッドイーグルα、β。敵を翻弄しながら攻撃」
『『了解』』
同時に返事が返した二機のレッドイーグルは、攻撃する為に急上昇。
レッドイーグルが攻撃位置に向かう間、ブルーストークは底部のバーニアを作動させ、ホバリング。
頭のない巨人のような赤い怪獣は、MK-ビルディングのレールガンの砲撃から、身を守るように両手をかざしている。
バサルトは敵がこちらに気づいていないと判断し、速度を上げて攻撃位置である怪獣の右斜め前に陣取る。
『α、準備完了』
『βも準備完了っシュ』
レールガンが再装填の為に射撃を中断する。
「怪獣を殲滅しろ」
バサルトの一言で上空のレッドイーグル二機が急降下。
機首のプラズマモーターカノンが青い火を噴いた。
無数のプラズマ弾が炸裂し、青い爆発が赤い怪獣を包み込む。
二機は射撃しながら、怪獣にぶつかる寸前まで迫り、交差しながら急上昇。
怪獣は攻撃を遮るように両手を翳しながら、その場に立っている。
「再度、攻撃しろ」
バサルトの命令で赤い鏃のようなレッドイーグル二機が急降下射撃を繰り返す。
怪獣は攻撃で怯むが倒れず、レッドイーグルを掴もうと両手を動かしていた。
バサルトはこのままでは危険と判断した。
「α、β。次の攻撃で上空へ退避。こちらで攻撃を仕掛ける」
『了解』
『了解っシュ』
「ドーラ。リームレーザー発射準備」
ドーラは「準備万端」と返した。
「狙うは、怪獣の胸から股間。真っ直ぐ両断しろ」
ドーラは支持された通りに狙いをつける。
彼の前にはモニターらしきものは見当たらない。
両手は半円状のセンサーに置かれている。
そこから信号がスーツに送られていて、ゴリラのようなマスクに外の様子が表示されているのだ。
ドーラが視線を動かすと、画面内の怪獣の真ん中に赤い縦線が引かれる。
「目標ロックオン。エネルギー充填完了。いつでも撃てます」
「攻撃を許可する」
「リームレーザー発射!」
発射の電気信号がスーツから機体に送られた。
ブルーストークの切っ先のような機首にエメラルドグリーンのエネルギーが集まり、細い光線が一直線に放たれる。
怪獣に命中し、ドーラが描いた通りに、怪獣の胸から股間まで一直線になぞった。
怪獣の赤い表皮に緑の線が出来た直後、爆発が起きた。
胴体から黒煙を上げながら、怪獣は両手を挙げたまま、仰向けに倒れる。
隊員たちの歓声が聞こえる中、バサルトは冷静に事態を見守る。
「油断するな。ヘビィトータスはいつでも攻撃できるようにしておけ。レッドイーグル二機は上空で――」
言い終わらないうちに、怪獣に動きがあった。
全身の赤い表皮が一斉に裂け、そこから緑色の眼球が現れたのだ。
最初は緑だったが、まるで信号のように黄色に変わり、赤に変わった。
赤い眼球が輝き、光が段々と強くなっていく。
バサルトの本能が危険だと告げた。
「全機、退避!」
短い言葉だったが、隊員達は意図を汲み取り素早くその場を離れる。
直後、赤い怪獣から無数の赤く光る針が伸びた。
それは破壊光線であった。
まるで散弾銃のように辺り一面に広がり、ビルに穴を開け、車を爆発させ、OF-60を原型を留めないほど溶かしてしまった。
バサルトは迫る光線を避けれないと瞬時に判断し、機体のエネルギーをレーザーからバリヤーに切り替える。
間一髪。ブルーストークの周囲に張られたエネルギーの障壁が光線を防ぐ。
着弾の衝撃がバサルトとドーラの身体を激しく揺すった。
光線を撃った怪獣が立ち上がる。全身の眼球は青くなり、膨らんでいた腹が引っ込んでいた。
本部にいるハカセから通信が入る。
『おいバサルト。今の攻撃はヤベーぞ!』
「分かってる。バリヤーの蓄積ダメージが二割を超えた」
『レッドイーグルは近づけない方がいいぞ。紙装甲なんだからな!』
ゲンブは思案する。
「ヘビィトータスの方で怪獣を攻撃できるか?」
二秒ほど間があってから返事が来る。
『無理です。倒壊した建物のせいで照準不可能。攻撃態勢を解除し、今から攻撃可能ポイントに移動します』
「了解。その間こちらで引きつける。フリッカ、MK-ビルディングとブルーストークで牽制するぞ」
「了解。レールガンで再度攻撃。ミサイルポッドも再装填完了次第発射します」
バサルトは、二機のレッドイーグルに上空の正二十面体に向かうよう指示を出し、ブルーストークのバリヤーを解除して攻撃態勢に入る。
怪獣全身の眼球が青から黄色に変わろうとし、腹が膨らみ始めていた。




