#3 全てのセンサーに反応はありませんでした
ユウタが変身する少し前。
希望市中央に位置するCEF本部ユグドラシルでは、異常な数値のエネルギーを検出していた。
CEFの隊長である岩根玄武は両腕を組み、地下百メートルにある司令室のメインモニターを凝視する。
モニターに映し出されているのは、希望市南東の空だ。
空の一部がひび割れ内側から見えない手で広げられるように、大穴が開いている。
「フリッカ。こうなる前に異変は探知できなかったのか?」
ゲンブは振り向かずに、背後にある黄色い球体に話しかける。
「はい。全てのセンサーに反応はありませんでした」
質問に答えたのは、ユグドラシルの統括・管理AIであるフリッカだ。
その間も状況は進行していて、空の穴から二本の足が見えてきた。
ゲンブはモニターを見たまま指示を出す。
「MK-ビルディングとリーフシールドを発動。同時に超兵器の発進準備」
フリッカはAI特有の抑揚のない女性の声で答える。
「了解。怪獣出現付近の全防衛兵器を起動。同時にユグドラシルのシールドを発動させます」
言い終わる前に指令室の扉が開く。
ゲンブに召集された隊員達が集まったのだ。
メインモニターを見つめていたゲンブは集まった彼らの方を振り向く。
筋骨逞しい金剛厚志。
細い身体に糸目が特徴的な影隠半蔵。
七三分けした髪と眼鏡をかけた自強勉夢
そして艶のある黒髪をシニヨンに纏めた紅一点の照愛沙耶刀。
ゲンブは、黒スーツ姿の四人の隊員達に状況を説明する。
「見ての通り、空に開いた穴から二本の足の出現を確認した」
改めてモニターを見ると、すでに腰まで出てきていて、握り拳のようなものも見えてきていた。
「アレが街に落ちてくるのは確実だ。防衛兵器で迎撃するが、それで止められるとは思わない。すぐに我々も超兵器で出動する」
隊員達は声を揃えて返事する。
「「了解」」
全員が一斉に腕時計を操作。
すると黒のスーツが一瞬にして、ボディスーツに変わり、指先からつま先まで覆っていく。
次に、スーツに収納されている各隊員達のイメージに合ったメカニカルなマスクを頭部に装着。
ここからは作戦用のコードネームで呼び合う。
ゲンブはバサルトとなり、伝説の動物である玄武のマスク。
アツシはドーラとなりゴリラのマスク。
ツトムはイブゥとなってフクロウのマスク。
サヤトはキツネのマスクを装着し、コードネームはリィサである。
ハンゾウだけは、長いマフラーに覆面とまるで忍者のようで、覆面から覗くのは赤い満月のような一つ目だ。
コードネームはマサシゲである。
これが彼らCEFメンバーの迎撃スタイルであった。
準備を終えたタイミングに合わせるようにフリッカが報告。
「超兵器の準備完了」
「よし。ここは任せる」
「お任せください」
フリッカにユグドラシルの事を任せ、バサルトと四人の隊員達は指令室を出てエレベーターへ。
五人は同じエレベーターに乗り込んで上昇。
地下五〇メートルのところでイブゥが先に降りた。
彼が任されている超兵器は地下に格納されているからだ。
イブゥが格納庫に降りると室内の明かりがつく。
その明かりに照らされて、五両編成の列車が止まっているのが確認できた。
全長は百メートルほどで黄土色に黒のライン。一見すると工場車両のように見えるが、車体には地球を背にして、黄色い大砲を腰だめに構えた騎士のエンブレムが描かれている。
れっきとした怪獣戦用の兵器である。
ツトムは、二両の車両に挟まれた中央の一際大きな車両に向かっていく。
高さはビルの三階くらいあり、幅は線路四本分。
大きいのには理由がある。
内部には、対象の装甲や外殻を貫くスティペネ合金製の弾体が十発。それを発射する薬室が収められているからだ。
車両に乗り込みながらイブゥは、いつもこう思っていた。
一発で十分だ。と。
中央の車両に乗り、彼専用の砲手席に腰を下ろすと、運転士を務めるOF-60に通信。
「準備できた。発進してくれ」
『了解しました』
短い返事の後に都市絶対防衛車両ヘビィトータスは音もなく発進する。
『ヘビィトータス発進しました』
フリッカがゲンブに報告。
「分かった。こちらも……今着いたところだ」
目的の階に到着したエレベーターが止まり扉が開く。
そこは地上から高さ六百五〇メートル。ユグドラシルのタワー内部にある格納庫だ。
ここで出撃を待つのは三機の、空を飛ぶ守護者達。
バサルトとドーラは格納庫西側に駐機されている万能主力攻撃機ブルーストークに向かう。
全長は四〇メートル、全高十メートルで全幅二〇メートル。上から見ると、美しい長剣の形をした蒼い攻撃機だ。
垂直尾翼に描かれている地球を抱き蒼き大剣を掲げた騎士のエンブレムが誇らしい。
二人は分離してあるコックピットブロックに搭乗。
中は非常灯の明かりで薄暗いが、二人共慣れているので迷う事なく座席につく。
操縦士のバサルトは操縦席、副操縦士のドーラは攻撃を担当するガンナー席へ。
二人が席に着くと格納庫のクレーンが動き、コックピットブロックを持ち上げてブルーストーク本体とドッキング。
補助電源だけだったコックピットに完全に火が着いた。
バサルトの前方と左右のモニターが付き外の格納庫が映し出された。
ブルーストークを載せたリフトは回転しながら上昇。
地上から八百五〇メートルのところで停止し、ハッチが開く。
タワー全体がシールドに包まれた中、ブルーストークはエンジンを始動。
リフトのロックが解除され、ブルーストークが重力から解放されたように浮き上がる。
後部にある三つのバーニアから緑の炎が噴き出した。
バサルトがスロットルを開くと、ブルーストークはその巨体からは想像できない勢いでユグドラシルから出撃した。
バサルト達がブルーストークに乗り込んだ頃、リィサとマサシゲは格納庫東側へ向かっていた。
彼女達が目指す先に駐機していたのは二機の超速迎撃機レッドイーグルだ。
翼らしきものはなく、全長十三メートル、全幅六メートルの赤い鏃そのものだ。
二人はそれぞれ、レッドイーグル手前に設置された紅い球体、チックポッドに飛び込む。
ポッド中央にはバイクによく似た操縦席がある。
リィサがそこに跨ると、かすかな振動が外から伝わってきた。
クレーンゲームよろしく、クレーンがチックポッドを掴みそのまま持ち上げたのだ。
チックポッドとレッドイーグルがドッキング。
ポッド内の全天球モニターが点灯。
上下左右三百六〇度の視界が確保され、操縦席に跨ったリィサは宙に浮いているようだ。
二人を乗せたレッドイーグルは、垂直に立ち上がる。
中の二人の身体も天を向くように持ち上がる。
身体がズレ落ちたりしないのは、人工重力装置が働いているからだ。
マスクに隠れて表情は分からないが、二人共何度も体験しているので落ち着いていた。
レッドイーグルは垂直のまま格納庫を移動し、タワーの外へ出る。
外壁に二本の電磁カタパルトが空に向かって伸びていく。
カタパルト後端にレッドイーグルがセッティング。
カタパルトのシグナルが赤、赤、赤、青と点灯。
二人は衝撃に身構える。
カタパルトによって音速を超える速さで射出された。
そのまま垂直上昇。
ある程度高度を取ったところで、急降下。
いつも通り、心臓が口から飛び出してきそうな感覚に耐えながら、降下していく勢いで速度を上げて怪獣が暴れる場所へ急行する。




