#10 メカキョウボラス、出現
不意をつかれたスティール・オブ・ジャスティスは、迫る球体を避けきれずにぶつかってしまい、高度一〇万メートルから地上目掛けて落ちます。
意志を持つかのようにぶつかって来た大きさ四〇メートル程の白い球体から脱出しようと、アンチグラビティブースターを発動させようとしますが……。
突然目眩にも似た症状が出て力が入らなくなります。
まずい。リームエネルギーが!
そのままスティール・オブ・ジャスティスは球体と共に、東京近郊にある紅葉に染まった高尾山付近に墜落し、土煙が辺りを覆い尽くしました。
その中でスティール・オブ・ジャスティスは立ち上がる。だが、身体が思うように動かず、膝から力が抜けそうになります。
慌てて両膝に意識を集中させて持ち堪えました。
球体が地面にぶつかる直前、めまいを押さえ込んでアンチグラビティブースターを最大出力で発動させます。
何とか脱出する事が出来たが、その為に体内のリームエネルギーを大量に消費してしまいました。
身体中に鉛を流し込まれたように全身が重く、視界が船をこぐように動き、吐き気が止まりません。
地球の大気にはリームエネルギーがごく僅かしかなく、回復が間に合わないのです。
二年経っても完全に環境に適応できず、出来る事なら今すぐ意識を手放して楽になりたいと思ったほどです。
なんて事だ。イレイド星人は僕の力が枯渇したタイミングを読んでいたのか?
そんな彼の状況を御構い無しに、イレイド星人の置き土産が動き出そうとしていました。
土煙が薄れると、球体は地面に半分以上めり込んだままでした。
見る限り、傷一つないように見えます。
透視しようとするが、視界が一八〇度回転しそうになり、確認が出来ません。
その時、球体が微かに震えたかと思うと音もなく浮かびあがりました。
墜落した時に巻き上げられ付着した土塊をばらばらと落としながら、白い卵のような球体はゆっくりと高度を上げていきます。
完全に地面から出てくると同時に、球体にヒビが入り、それは全体に広がっていきました。
卵から孵る雛が、内側から殻を破るように、何かが球体の内部から力を加えて外に出てこようとしています。
球体は衝撃に耐えきれなくなったのか、大きな破砕音を立てて、木っ端微塵に砕け細かい破片となりました。
その場に現れたのは、二本の手足と長大な尻尾を、丸めた姿勢で浮かぶ生命体です。
アルマジロのように丸めた身体を伸ばした生命体は、丸太のように太く、四本の長い爪を生やした両足で着地します。
その衝撃で大地が爆発するように土が舞い上がりました。
先端にいくにつれ細くなっていく尻尾の長さは約四〇メートルもあり、まるで中に人が入っているかのように背筋をまっすぐ伸ばした全長は約七〇メートルもあります。
全身の皮膚は、分厚く彫刻刀で荒く削ったかのような質感で、四本の指から伸びた爪はビルを易々と切り裂けそうなほど鋭そうです。
威嚇するように開かれたワニのような口から覗くのは、歯並びは悪いがなんでも噛み砕けそう牙です。
それを見せつけるように何度か開いたり閉じたりを繰り返していました。
けれども怪獣の最大の特徴は、長い尻尾でも大きな口でもない。ヘルメットのような機械を被った頭部です。
頭に被った機械は、激しい動きでも外れないようにか顔にボルトのようなもので直接固定され、伸びたコードが首に突き刺さっていました。
目のところにら細長いゴーグルのようなものが装着されていて、赤い光が弾かれるように左右に忙しなく動いています。
こいつが、メカキョウボラスか……。
体調が優れないスティール・オブ・ジャスティスは、現れた怪獣メカキョウボラスを前にしても仁王立ちのまま微動だにしません。
いや動けないのです。
全身に力が入らず、それを見破られないように虚勢を張って立つのがやっとでした。
まるで、どちらかの末路を暗示しているかのように、血の色をした夕陽が二人を赤く染めあげています。
スティール・オブ・ジャスティスは、両腕に無駄な力を込めないで下におろし、肩幅に足を開いて立ちました。
大分回復してきたが、視界はまだ波間に浮かぶ船の甲板に立っているかのように揺れています。
メカキョウボラスはゆっくりと一歩踏み出すと、速度を上げながら、スティールオブジャスティスに迫って来ます。
尻尾を激しく振りながら、走るように近づいて来ると、踏み出した右足に全体重を込め、右肩からぶつかるように体当たりしてきました。
スティール・オブ・ジャスティスは避ける事が出来ずに胸部に思いっきり体当たりを喰らってしまいます。
衝撃で肺の中の空気を吐き出しながら、後方にバク転するように一回転して吹き飛んでしまいました。
腹から落ちる直前、何とか両手両足で受け身を取る。
顔を上げると、メカキョウボラスは口を閉じ顔を上に向けています。
鼻の穴が限界まで開いて息を大きく吸い、スティール・オブ・ジャスティスに向けて大きく口を開きました。
放たれたのは肺に溜め込んだ空気と、視界を覆い尽くすほどの巨大な火球でした。




