見ましたか?
そんな話をしていたら、まどかが気付いたようで、手を振りながら海から出てきた。
砂浜を勢い良く、駆け寄ってくる。
「師匠ぉー!」
まどかの嬉しそうな笑顔と声で、つられて笑顔になった誠が手を振り返した。
まどかは空のような青さの、ビキニタイプの水着を着ていた。
花のような小さな模様が散りばめられていて、とても清潔感があり可愛らしい。
長い手足に、小さな顔。
長くない髪が、風に揺れていた。
綺麗だな……。
誠は思わず見惚れていた。
が、近寄ってくるにつれて、別のことに気付いてしまった。
勢い良く駆けてくるため、大きな胸が上下に揺れている。
その質感と柔らかさを示すように、躍動感を持って動くまどかの胸の様子を見て、誠は一気に顔を赤くした。
本人は気付いていないようだが、誠には倒れそうになるほど刺激的な光景だった。
しかも誠のもとに駆け寄ると、座っている誠に視線を合わせるために、まどかが自然と前かがみになる。
すると、ちょうど誠の目の前に寄せられた大きな二つの胸があらわれて、しかもまどかの荒い呼吸につられてゆっくりと上下に揺れている。
海の水が胸の谷間を通って、胸の先から滴り落ちていた。
誠はあまりの刺激に、一瞬意識が遠のきかけた。
「師匠、大丈夫ですか?」
「はっ、はい」
まどかの声に、何とか意識を取り戻す。
誠の返事を聞いてまどかは嬉しそうに微笑むと、誠の手を取って引っ張り上げた。
「じゃあ、一緒に海に入りましょ!」
「あっ、はい」
誠もつられて立ち上がり、まどかに引っ張られながら海を向かった。
後ろから、美緒の「行ってらっしゃーい」という嬉しそうな声が聞こえて、誠は軽く頭を下げた。
海に行くと、麻友や桜が少し沖で、曜子や薫子が波打ち際で、凛が砂浜で遊んでいた。
まどかは迷わず誠を海の中に誘うと、海の水をすくって誠にかけてくる。
冷たい刺激に、思わず「冷た!」と叫んでしまう。
それを見て、曜子も水をかけてきた。
「ほらほら、せっかく海に来たんだから」
曜子はセパレートタイプで、フリルの付いた意外に可愛らしい水着を着ていた。
思っていた以上に、スレンダーな体型だった。
誠もつられて、水をすくってまどかや曜子にかけると、ふたりとも嬉しそうに逃げまわり、また水の掛け合いになる。
すこし海の冷たさに慣れると、まどかがまた手を引っ張って海に導いてきた。
「もう大丈夫ですよね。泳ぎますよ」
そう言うと、どんどんと海に入っていく。
沖の方の桜と麻友が手を振っていた。
あそこまで行くらしい。
「よーし」
誠も気合を入れなおして、まどかに連れて歩を進め、水が胸の位置まで来ると平泳ぎで泳ぎ始めた。
まどかは、きれいなクロールでどんどん先へ進んでいく。
やっぱりまどかは運動が得意なようだ。
誠も負けないよにう、速度を上げた。
「おーい、まーちゃーん」
桜の声が聞こえてきて、誠も海面から顔を上げた。
麻友は大きな浮輪にお尻を入れる形で、桜は人が横になれる大きさのボード状のものにつかまって海に漂っていた。
まどかと一緒にふたりの近くまで泳いでいくと、桜がニヤニヤしながら聞いてきた。
「まーちゃん、誰の着替えが一番刺激的だった? まどかちゃん? それとも私?」
「私の着替えよねー。見ていたの解ってたもん」
麻友がとんでもないことを言い始めた。
あの着替えのタイミングはわざとだったのか。
「そうなんですか? 師匠」
海水並みに冷たい、まどかの声が響いた。
どこかに怒りのポイントがあったらしい。
誠は慌てた。
「いや、見ていません。……いや、見えただけです。意図して見たわけでは……」
まどかが、じとっとした視線で見つめてくる。
今ひとつ信頼されていないらしい。
「いいじゃない、まどかちゃん。見せて減るものでもないし」
「そうじゃなくて……他の人の着替えを見て、どきどきしていたら嫌だな、と思って」
まどかはそう言って、ちょっとふくれた。
どうやら怒っていたポイントはそこらしい。
「じゃあ、まどかちゃんの着替えを見て、どきどきするのは良いってこと?」
桜が意地悪そうに、突っ込んできた。
「いや、それは……その……」
「他の人のを見られるよりはいいでしょ?」
桜が問い詰めると、まどかはうーんと恥ずかしそうに悩みながら、うん、とうなずいた。
それを見て、桜と麻友が嬉しそうにはしゃぐ。
「いや、でも、恥ずかしいです!」
「恥ずかしいけど、まーちゃんなら着替えを見られても許せるでしょ?」
麻友がぷかぷか浮きながら、嬉しそうに聞いてきた。
まどかが麻友を見て、うーっ、とうなり声をあげる。
「やっぱり、否定しないんだ!」
麻友が嬉しそうに叫ぶ。
まどかが、ぷいっと方向を変え、誠の手を引っ張った。
「師匠、行きましょう」
「はっ、はい」
「ごめん、ごめん。待ってー」
桜と麻友の謝る声が聞こえたが、まどかは気にせずに誠の手を引っ張って泳いでいく。
しばらく泳いでふたりきりになると、ようやくまどかも止まってくれた。
後ろ向きだが、耳まで赤くなっているのに気付いた。
まどかも恥ずかしかったのだ。
誠はどう声をかけていいか悩んだ。
「あの、その、水着……とっても似あっていますよ」
まどかが振り向いてくれた。
恥ずかしそうだけど、ちょっと嬉しそうに笑っている。
「曜子とふたりで探しに行ったんです。いつもは競泳用の水着だから、ちょっと恥ずかしいけれど、褒めてもらえたから満足です」
どうやら少し機嫌が治ってくれたらしい。
でも残念ながら、話題を変えることは出来なかった。
「着替え、見ていました?」
「えっ、えっと……」
「私の着替え」
素直に答えるべきか、嘘を付くべきか。
そんな誠の心を見透かしたように、まどかが誠に伝えた。
「私の前では素直でいて欲しいです」
そうだ。
コミュニケーション能力の低い誠、互いに恋愛経験のないふたりの間の約束。
素直に、恥ずかしがらず、嘘をつかずに伝えること。
誠はどう思われるか心配だったが、その約束に従って答えた。
「ごめんなさい。見ました」
「他の人のは?」
「一番最初に着替え始めた麻友さんのは見てしまいました」
「他の人は……」
「まどかさんの後で意識がなくなったので、憶えていません」
誠の答えに、まどかは再び顔を赤くした。
「それってつまり……私の着替えで倒れたってことですか?」
「あっ……はい……」
しばらく、ふたりの間に沈黙が広がった。
まどかの表情を見ると、恥ずかしがっているようにも、悩んでいるようにも見える。
素直に答えたが、あれで良かったのか、誠の心に不安が広がる。
まどかはにっこりと笑ってくれた。
「許します!」
「えっ!?」
「着替えを見たこと、許します」
許すもなにも、砂浜で着替えていたから見えてしまうこともあるわけで……。
誠はそんなことを考えていたが、何はともあれまどかの機嫌が治ったことに、ひと安心した。
「着替えを見られたのは恥ずかしいですが、師匠が女の子として見てくれたことは、なんだか嬉しいです。私の着替えなんか、そんなに色っぽいものとも思えないのに」
まどかもちゃんと素直に気持ちを伝えてくれた。
そんなふうに考えていたなんて、誠には思いもしなかった。
これだけ女の子らしい体型なのに、相変わらずまどかは自分自身のことを男の子のようだと思い込んでいるらしい。
もっと、自信と自覚を持ってもらってもいいのに。
「まどかさんは、女の子です。今日はどきどきしっぱなしです」
今だって。
「良かった……。さあ、もう少し泳ぎましょう」
そう言って、まどかは笑顔で泳ぎ始める。
誠もあとを追って泳ぐことにした。




