話下手
「怖いよ」
「話し方が地味に怖い」
大成のずっと冷静に話す口調と、その眼に浮かぶような内容に、一同はかなり怖い思いをした。
まどかは曜子にしがみついて、軽く失神寸前だ。
誠は相変わらず、何かをノートに書き込んでいたが。
桜は満足そうに「はい、次」と指示を出す。
次と言われたのは、誠だった。
ノートを書いていて気付かなかったが誠だが、桜に小突かれて顔を上げる。
「えっ、僕?」
「そう、まーちゃん」
えっと……怖い話?
「…………」
「無いの?」
誠は今までに、霊とやらにお会いしたことはない。
「あの……怖い話ではないのかも知れないのですが、霊と死後の世界について少し……」
「霊と死後の世界なのに怖くないの?」
「以前、霊を科学的に解明しようとする研究がありまして」
「……そんな研究があったの?」
何名かが驚く。
「亡くなりそうな方を体重計に乗せ、亡くなった直後に体重が変化するかを計測したらしいのです」
「つまり、霊というか、命の体重を測ろうっていうこと?」
「はい」
「……で、変わったの?」
「数グラムの変化が出たそうです」
何とも言えない微妙な空気が流れる。
感心すべきか、誤差範囲というか。
「死後の世界についてですが」
「霊の話は、それで終わり!?」
「死ぬ瞬間について、沢山の事例を元に体系化したことで有名になった、エリザベス・キュブラー・ロスという精神科医がいまして、その方が次に臨死体験を経験した人に話を聞いて回ったそうなんです」
「臨死体験……それで死後の世界ね」
「そうしたら、臨死体験をした人の経験がかなり類似をしていたと発表しています」
ここまでは、興味がそそられる。
「まさか三途の川とか?」
「海外なので……。お花畑とか、何かとてもきれいなところで、神様の愛に包まれる経験をするそうです」
「…………」
「とても幸せな体験で、死は全く怖くなかった、と口々に臨死体験者は語った、とのことでした」
やっぱり微妙な空気が流れる。
「ただこの結果は、死の恐怖をくつがえし自殺者を助長すると言われ、だいぶ叩かれたようですが」
「そっ、そうなんだ」
さすがの桜も、どう反応して良いか、解らないようだ。
まどかはなるほど、と感心してうなずいていた。
「……次に行こうか」
桜の指示で、桜を飛ばして真や茜、尊と続く。
それなりに怖かったが、どうも誠の空気が影響して、微妙に盛り上がりにかけてしまった。
そこに突然、まどかを探して訪ねてきた悠太が現れ、さらに女の子達が多数押しかけてしまい、部屋の中は大変な数の人になってしまった。
結局、まとまりがつかなくなったところに先生がやってきて、それぞれの部屋に戻されてしまった。
平穏を取り戻した部屋で、誠達はあきらめて布団を敷き直し、その日は眠ることにした。
「やっぱり人が集まったね」
横になる準備をしながら大成がつぶやくと、何名かがうなずく。
「まーちゃん、有り難う」
真が布団の中からお礼を言ったので、誠が驚いた。
「僕?」
「そうそう」
「なんで?」
「自覚ないの?」
「…………」
「まあ、その方がいいけど」
怖い話ひとつできずに、盛り上げることも出来なかった。
話も聞かれたことに答えるばかりで、自分から話を作ることもできなかった。
反省ばかりで、ノートは他の人の勉強になる話し方で埋まったというのに。
飽きられないように、明日はもう少し頑張ろう。
そう決心し、誠は眠りについた。




