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勉強の神様は人見知り  作者: 京夜
神様の自信
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部屋員




 その日は奈良市内の旅館に泊まることになっていた。

 6人毎に部屋が割り当てられ、誠は名前の近い、相葉、伊藤、一柳、上田、大鹿、加藤の6名でひとつの部屋となった。

 一年で一緒だったような顔も見られるが、誠にとってはどの人も初対面同然で、緊張が取れない。

 部屋の片隅で荷物をおろし、今日あったことをノートにでも書こうかと、バッグを開けたところで声をかけられた。


「一柳くん」

「はっ、はい!」


 思わぬ声かけに、誠は飛び上がるように振り返った。

 声をかけた方がビックリするほどの反応に、部屋中の男子が振り返る。


「席が近いから挨拶はしているけれど、あらためてよろしく。伊藤 大成(たいせい)。大成でいいから」

「あっ、あの……一柳誠です」

「うん。知ってる。有名人だから」

「ゆっ、有名人?」


 大成は背格好も誠と同じぐらい、メガネをかけているところまで似ている。

 顔立ちは優しげな感じで、今は穏やかな笑顔を浮かべていた。


「うん。勉強の神様、女の子よりきれいな女装、如月まどかさんの彼氏」

「えぇぇっっ!!」


 いつのまに、そんな噂がっっ!

 しかも、有名って?


「ゆ、有名なの?」

「みんな知っているよね?」


 大成が他の部屋員達を振り返ってみると、全員がうなずいた。


 はっ、はは……。


 誠は事態が飲み込めず、乾いた笑いを浮かべる。


「俺も話しかけたかったから、今日は一緒の部屋で嬉しいよ。相葉 (さとし)。智で」

「あっ、じゃあ僕も。上田 隆成(りゅうせい)です。よろしく」

「はいはい。大鹿 (まこと)。『まこと』同士よろしく」

「加藤 (たける)。よろしく」


 一度に挨拶され、誠は驚きながらも必死に名前を憶えようとした。


「えーと、大成くん、智くん、隆成くん、真くん、尊くん?」

「そうそう。……なんでノートに書いてるの?」

「あっ、習慣で」

「やっぱり面白いね」


 大成がそう言って笑うと、その人懐っこそうな笑みのお陰で、誠の緊張も少しずつ和らいでいった。


「噂が先行していたからどんな人かと思っていたけれど、安心した。これからもよろしく」

「はい……こちらこそ」


 ふたりの間に、真が入り込んでくる。

 彼は髪を立てたりしていて、この中では一番格好に気を付けているのが解る。

 顔立ちも悪くない。やや軽そうではあるが。


「まーちゃんが一緒だと女の子が寄ってきそうで、いい部屋に当たったな、って思ったよ」

「……まーちゃん……」

「えっ? そう呼ばれているって聞いたけど?」

「あまり良い記憶ではないので」

「いいじゃん! 気にしない、気にしない」


 真は馴れ馴れしく、誠の背中を叩いた。


 何はともあれ、旅行中に同室になりそうな面々とは仲良くやっていけそうで、誠としてはほっとした。


 しかし、有名って……しかも、いつのまにまどかさんとお付き合いしていることが広まっているんだろう……。


 ふたりだけの事だと考えていた誠は、どこまで噂が広まっているのだろうかと想像して、身震いした。

 注目されることには、慣れていなかった。



 戸惑う誠だったが、大成達が一緒になって食事やお風呂に付き合ってくれた。

 誠は質問に答えるばかりだったが、話をするに連れて、少しずつどんな人達かが見えてきた。


 智は人付き合いのバランスがいい。自己主張しすぎずに、会話を盛り上げてくれる。

 顔立ちも男らしくて、清潔感がある。


 隆成は男としては背が小さくて、大人しそうな雰囲気がある。

 慣れてくるとよく話すが、基本的には聞き役に徹している。


 尊はほとんど話をしない。表情も変えないので機嫌が悪いのかと思えば、そうではなく付き合いは悪くない。よく見ていて、ちょっとした気遣いができる。


 そんなわけで、遠慮なく聞いてくる真と、見かけよりもリーダーシップのある大成が話しの中心となって、結構盛り上がる。

 とは言え、誠がかなり話のネタにされてしまっているが。


 食事が終わり、部屋に戻ると就寝時間までまだ時間があり、どうしようかと話していた。


「女子を誘って、ゲームでもしよう」


 と真が言い出す。


「悪くないけど、誰が誰を誘うの?」


 大成が真に尋ねると、真はさも当然のようにこう答えた。


「そりゃあ、まーちゃんが行けば、誰だって受けてくれるさ」


 言われた誠は吹き出しそうになった。


「ぼっ、僕?」


「そうだよ。ここはひとつ、俺達のために頑張ってくれ! お願い!」


「……無理です。男に対してだって緊張するのに」


「じゃあ、如月さんを呼んでよ」


「拒否します」


「つまんないなぁ」


 それ以上には突っ込んでこないようで、誠はほっとした。




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