手を繋ぐ
午前中だけで各種の絶叫系アトラクションを乗り倒し、さすがに声を上げすぎ、力を入れすぎで疲れたふたりは、お昼をとることにした。
寒いので屋内のレストランに入り、四人がけの席にふたりで向い合って座ると、知らずに冷えてきていた身体に暖房がここちよく感じた。
メニューを見ながらそれぞれに好きなパスタを頼むと、注文を聞いた店員さんも離れ、ふたたびふたりだけの空間となった。
話し始めたのは誠の方だった。
「遊園地がこんなに楽しいところだったなんて、びっくりしました」
「良かったぁ。師匠が喜んでくれるのは、私もとっても嬉しいです。私も、今まで来た中で一番楽しかったです」
「同じ遊園地なのに?」
まどかは嬉しそうにうなずく。
「女の子同士で来たのも楽しかったのですが、今日はまったく別の楽しさで……」
「……?」
「その……好きな人と……一緒だと、もっと楽しいものなんだな……って」
まどかが恥ずかしそうにつぶやくと、何を伝えたかったか理解した誠はやっぱり顔を赤くした。
「僕も……そう思います」
「師匠もですか?」
「はい。まどかさんが嬉しそうな笑顔を見ると、こちらまで楽しくなってきて……何かこう、どきどきする気持ちが胸の中で膨らんでいくような感じです」
「解ります。それに」
「それに?」
「手を離していると……ちょっと寂しいです」
気づいたら、遊んでいる間はずっと手をつないでいた。
アトラクションに乗っている間も、順番を待っている時も。
こうして向かい合わせに座るために手を離したけれど、相手の感触だけ残した手は、何かを求めているようにも感じる。
「僕もだ……不思議です……今までは繋いでいなかったことが自然だったのに」
「そうですね。最初は手を繋ぐのも、緊張しました」
「まどかさんも?」
「そうですよ。一緒です」
何となく机の上に出して互いの手が、ゆっくりと近づいていく。
緊張するが、触れていたい。
思いは一緒なのだから。
「お待たせしました!」
手が触れるかどうかの瞬間、料理が運び込まれる。
おもわず、ふたりはさっと手を引いて、こわばる笑顔で店員さんにお礼を言う。
店員さんは、見事な営業スマイルでふたりのことを見ると、そのまま一礼して戻って行ってしまった。
「えっ、えっと……食べましょう」
「そっ、そうですね」
恥ずかしいふたりは、思わず黙々とスパゲティを食べ始める。
頬を赤くしながら食べるふたりを、店員さんが微笑ましく眺めていたことを、ふたりは知らない。
午後は比較的おとなしく、メリーゴーランドに乗ったり、ゴーカートで競争したり、ティーカップで回りまくったり。
……それはそれで、アトラクションを満喫したふたりだった。
そして、やっぱり最後は観覧車に乗ることになった。
ただ、観覧車の列に並ぶと、誠の挙動が不審になった。
目が泳いで、落ち着きがない。
「師匠、どうしたのですか?」
「いやっ……その……えーと……」
誠はいつになく落ち着かず、言葉も続かない。
「もしかして……曜子からなにか指示されてます?」
誠の顔の動きがピタっと止まり、うなだれるように頭をさげる。
「……観覧車に乗ったら、どうするように言われたんですか?」
「………………」
誠が小さな声でつぶやいたが、小さすぎて近くにいたまどかさえ聞こえない。
「えっ、聞こえない……」
「その……キス……するように……と」
「!!」
前後3組のカップルの動きがぴたっと止まる。
そして、ちらちらと眺めているのが、まどかにも解った。
何かを話しているか内容までは解らない……けれど、想像だけはできて、まどかも顔を赤くした。
観覧車にキスは付きものですかっ!
と言うより、曜子ちゃん、師匠に何を教えてるんですかっっ!
まどかは心の中で、曜子に対して突っ込みを入れる。
何となく曜子の笑う声が聞こえてくるようだった。
気まずい二人は黙って順番を待ったが、前後カップルからの視線と話し声が痛かった。
別に悪いことをしようとしているわけではないのだけれど…………悪いのかな?




