ジェットコースター
遊園地には開園前に着くことができた。
入園券を買ってもかなり前の方に並ぶことができ、これならば待ち時間なく乗り物にも乗れそうだった。
門の近くから見える、高くうねったジェットコースターを見上げながら、まどかがつぶやく。
「まずは、あれに乗りませんか?」
「この遊園地の一番人気。もっとも高低差のあるジェットコースターですね」
「……もしかして予習を?」
「しました」
「さすが師匠!」
まどかが笑い、誠も恥ずかしそうに笑う。
ふたりは開門と同時に、手をつないでジェットコースターへと向かった。
「さっ、走りましょう!」
「はい!」
頬にあたる風は冷たかったけれど、つないだ手は温かかった。
ジェットコースターには、一番に乗ることができた。
ふたりで一番前に乗り込み、案内に従って安全バーをロックする。
準備は整った。
「初めてなので、どきどきします」
「これがいいんです!」
まどかがそう言いながら、誠の手を握ってくれる。
それはそれで、別の意味でどきどきするが。
ジェットコースターが開始のベルと共に、ゆっくりと動き出す。
ガタッ……ガタン……タッ……タッ…タッ…
急な勾配を、ゆっくりと車両が持ち上げられていく。
カタカタ言う音が、心臓の鼓動に合わせて鳴り響く。
10m……20m……
下を見ると、地上がはるか下にあり、人が小さくなっている。
空の中に吸い込まれていくようだ。
やがて、頂上にたどり着くと、ゆっくりと下降を始めた。
「いきますよ!」
まどかの声と共に、急激なGがかかる。
圧倒的な速さで駆け下りて、そのままループを回っていく。
「きゃぁーー!」
「おぉぉっ!」
まどかが嬉しそうに歓声を上げる。
誠も、迫力に思わず声が上がる。
急な横カーブを曲がり、再度上昇して、ふたたび急降下。
大きなループに、小さなループ。
完全に頭が下に、足が空へ向く。
まどかにつられて、誠も両手を上げる。
「「わぁぁ!!」」
いつまでも続くと思われた加速とカーブは、いくつもの繰り返しの後、ようやく終着点へと向かい始める。
最後のカーブを曲がり、速度ががくんと落ち、ゆっくりとホームへ戻って行く。
ホームへ着いて、安全バーが上がり、ふたりは手をつないだまま車両から降りた。
あたりは他の観客の安堵の息と、新たに乗り込むお客の歓声で賑やかしい。
「どうでした? 初ジェットコースターは」
まどかの質問に誠は興奮気味に答えた。
「興奮しました! 高さのエネルギーが加速度に変換されて、遠心力で落ちないようにするなんて!」
そこですか!!!
誠のコメントに、まどかは声を出して笑ってしまった。
「……変ですか?」
「いえ! 師匠らしくていいです!」
「だって、思わず計算したくなりません? 車両の重量が500kgぐらいとして、高さも目算できますから、速度やエネルギー量が出ますよ!」
真面目に答える誠に、ツボにはまってしまったまどかは腹を抱えて笑い出した。
「そっ、そんなに可笑しいですか?」
「いやっ、そのっ、ごっごめんなさい」
そう言いながら、まどかは笑いを抑えようとするが、思い出すと噴きだしてしまう。
誠はどこまでいっても誠であることが、まどかには何となく嬉しかった。
「いやぁ、物理の教科書の知識をこんなふうに体感できるなんて……ちょっと感動ものだったので」
「わっ、笑ってごめんなさい。師匠らしくて、嬉しかったんです。本当に」
「嬉しいと笑えるのですか?」
「嬉しすぎると、笑えます」
まどかの今まで見たこともないような笑顔はあまりにも可愛くて、誠は胸がドキッとして、頬がかあっとした。
「そっ、それなら良かったです」
「はい! とっても良かったです。さっ、次に行きましょう!」
まどかはつないだ手を引っ張り、次のアトラクションへと急ぐ。
まだまだ時間も、アトラクションもたくさん残っていた。




