Happy Birthday
実がうなずき、話し始める。
「話しにくい話をさせてしまい、申し訳ありませんでした。誠くんにも、突然のことで申し訳ないことをした」
実に頭を下げられて、誠はびっくりした。
「そんな……頭を上げてください……。ただ、確かにびっくりしました」
真穂が苦笑いをして、誠に伝える。
「私もいつ伝えようか、悩んだの。最初は大学に入学してからと思ったのだけれど、誠がまどかさんとお付き合いさせてもらっていて、ご両親にも変な心配はかけられない、と思って」
「えっ、お付き合い……?」
実がその部分で驚いた顔をした。
芳子は、真穂から教えてもらっていて知っていたが、実にはまだ誰も知らせていなかった。
慌てたのはまどかだった。
「あっ、あの、その……つい最近から……お付き合いを……」
まどかは顔を真赤にしながら、実に報告をする。
誠もつられて顔を赤くした。
「あの……御免なさい……お、おつ、お付きき……ああいい……」
誠はかなりどもる。
二人の様子を見て、実はようやく落ち着きを取り戻したようだ。
「そうか、まあそうなるかな、とは思っていたが。そうか、おめでとう」
「あっ……有り難うございます」
真穂が咳払いをして、話を続けた。
「すみません、続きです。……それと、誠にも大学を受ける前に話したほうが良いのかも、と思い直して……」
「……なぜ?」
「まどかちゃんが医師を目指したい、と聞いてふと思ったの。誠も、父親と出会ったら、同じ医師の道を進みたいと思うかも知れないって……」
「…………」
「誠の夢は昔から変わっていないけれど、もしそうだったら、いらない寄り道をさせてしまうかも知れない、と思って。話すなら今なのかも、と」
「はい……」
実が、うん、とうなずく。
「真穂さんのことも、誠くんのことも、私は信頼します。これからも娘のことをよろしくお願いします。ただふたりとも」
「はい」「はい!」
「私はふたりが、互いに高め合う仲だと感じて交際を許すが、くれぐれも織姫と彦星にならないように」
実の言葉に、誠はぼんっと音が出そうな勢いで顔を赤くした。
一方で、まどかは今一つ理解出来ていないようだった。
「織姫と彦星って……?」
まどかの質問に、答えにくそうに誠が答えた。
「織姫は布を織る仕事を、彦星は牛飼いで、共にとても働き者でした。ですが、ふたりが一緒になってからは、仕事がおろそかになってみんなが困ってしまい、神様がふたりが会えるのを一年に一回……七夕の日だけにした、という話です」
つまり、イチャイチャしてばかりで、勉強が疎かにならないように……ということか。
まどかもようやく理解して、頬を赤くした。
でも、イチャイチャしていません。
その後は、ふたりの付き合い始めの様子などを質問され、しどろもどろになりながら明るく時間が過ぎ、食事は終わった。
テーブルの上が片付けられると、冷蔵庫からケーキが出された。
ショートケーキがホールのまま。
ろうそくと共に、チョコレートのボードには、
Happy Birthday Makoto & Madoka
と書かれていた。
誕生日らしいケーキの登場に、誠は何となく嬉しくなるのを感じる。
誕生日のたびに「別にいいや」と思っていたが、こうしてホールのケーキに名前も書いてあるのを見ると、やっぱり嬉しい。
ケーキは誠とまどかの前に置かれ、ろうそくに火が灯される。
室内の電気が消され、真っ暗な中に、ろうそくの揺らめく明かりが浮かび上がる。
静かに、ろうそくの淡いあたたかな光に照らされ、それぞれの笑顔が並ぶ。
たぶん、この時のシーンは一生忘れない、と誠は感じていた。
胸がじんっと熱くなるのを感じる。
芳子の掛け声とともに、Happy Birthdayをみんなで歌い始めた。
互いに手拍子を加え、恥ずかしそうに、でも少し大きな声で、歌いあげる。
名前のところは、 Makoto & Madoka で呼ばれると、何となく気恥ずかしい気持ちになる。
そして歌が終わり、誠とまどかは一緒になってろうそくの火を消した。
ふたりで息を吹きかけたので、一息ですべてのろうそくの火が消え去った。
拍手とともに、部屋の明かりが戻る。
「じゃあ、切り分けましょう。誠くんには、ちょっと大きめにね」
芳子が嬉しそうに言いながら、ケーキを寄せて切り始めた。




