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勉強の神様は人見知り  作者: 京夜
神様と天使の祝福
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両親来訪

 そんな中、とうとう恐れていた人が来た。

 入ってきた途端に誠も気がついた…………真穂だ。

 いつもより、おしゃれをしてやって来ている。

 まどかもすぐに気がついて、手を振りながら駆け寄っていく。

 誠は恐る恐る静かに近寄ることにした。


 真穂はまどかに案内されて、近くの椅子に座る。


「まどかちゃん、本当に可愛い! ちょっと写真撮らせて」

「はい、こんな格好でよろしければ」

「なに言ってるの。男達が寄ってきて大変でしょ。こんな可愛くちゃ」


 真穂のお世辞に、まどかは笑って返した。


「あはは、他にも可愛い子がたくさんいますから、そんなことないですよ」

「ううん、まどかちゃんがNo.1! 本当に可愛いわ」


 そんなことを言いながら、真穂は何枚か携帯で写真を撮り始める。

 その出来上がりを確認しながら、ふと思い出したように真穂が聞いてきた。


「……でっ、誠はどこに?」


 真穂はあたりを見渡す。


 ……目の前にいますが……。 


 誠は作り笑いを続け、どうしたら良いか迷っていた。

 まどかが苦笑いをしながら、真穂に手で誠のことを指し示す。


「あの……こちらに……」

「えっ……?」


 真穂がじっと顔を見る。


 誠の笑顔がすこしだけ引きつった。


 数秒の間を置いて、真穂は座ったまま後ずさる。


「まっ……」


 まどかがさっと真穂の口を押さえてくれた。


 グッジョブ!

 

 あぐあぐと声にならない声を真穂はあげていた。


「さすが、真穂さんと似ていらっしゃっていて、可愛いですよね」


 まどかがニッコリと笑って、あるべき話の斜め上の解説をしてくれると、真穂もようやく落ち着いたようだ。

 まどかの手をどけて、ふぅっとひとつ大きなため息をついた。


「全然、想像していなかった……」


 僕もです……。


「娘を産んだつもりはなかったから……」


 そこからですか?


 まどかが、くすくすと笑っていた。


「真穂さん、良ければご注文いかがですか? 私がおごりますよ」


 真穂は顔を上げ、ようやくペースを取り戻す。


「やだ、私がおごろうと思っていたのに。気にしないで、このぐらいは貢献させて」

「有り難うございます。こちらがメニューです」


 真穂は飲み物と焼きそばを注文してくれた。

 まどかがそれを厨房に伝えに行くと、真穂と誠はふたりきりになってしまった。


「まあ、でも良かったわ。誠がクラスに馴染んでいるみたいで。安心した」

「母さん……」

「でも、女装が似合い過ぎなのが心配だけど……」

「…………」


 心配は無用です。



 そんな時、今度はまどかの両親がやって来た。

 入口のところで、中をうかがっている様子を発見した。


 あっ、挨拶をしなくちゃ……と身体を動かしたところで、はたっと気づいた。


 こっ、この格好で……まどかさんのご両親にご挨拶っっ!


 こんな時、本当に汗が流れることを、誠は実感していた。

 額と背中にじっとりと嫌な汗が流れる。


 あぁ、化粧が……ハンカチで押して汗を吸い取らなくちゃ……って、そんな場合かっ!


 そんな誠をよそに、まどかのご両親にきづいた真穂が声をかけた。


「如月さん、どうも。こちらでご一緒しませんか?」


 まずいっ、まずいよ、母さん。

 息子が大変なことになっていますよっ!


 誠はとりあえず、他人を装った。


「いっ、いらっしゃいませ」


 作り笑いだけは楓も合格点を出した。

 今回の最大の成果だ。


 芳子さんと、今回はちゃんとお父さんも一緒にいらしている。


 あぁぁ……、大事な人に久しぶりにお会いしているのに……声もかけられない……。


 まどかがちょうど戻ってきた。

 両親の存在に気づいて、嬉しそうに声をかける。


「わあ、来てくれたんだ。有り難う」

「まどかのかわいい姿も見れるらしいし、誠くんも参加しているんでしょ? 一度見ておこうと思って」

 芳子の言葉を聞きながら、誠はゆっくりと後ずさった。


 今は逃げるしかない。


 走りだそうとした瞬間、まどかに手を掴まれた。

 まどかさん、今は手をつなぐ時ではないです!


「大丈夫ですよ。心配しないでください」


 いや、大丈夫じゃない!

 まどかさん、今だけは君の感覚を疑います!


 誠は頭を横に振り、何とか気持ちを理解してもらおうと表情で訴えた。


「あら、まどかのお友達?」


 芳子がそう声をかけてくる。


「うん……その……」


 まどかも大丈夫と言いながら、歯切れが悪い。

 真穂も同じように歯切れが悪いが、まどかの代わりに伝えてしまった。


「ええ……まあ……私の息子です……」


 まどかのご両親が、ふたりともそのままの形で固まった。

 気まずい沈黙が流れ、誠は顔を赤くしてうつむく。


 ああ……やっぱり……失敗した……。


 誠の気持ちはどん底まで落ち込んでいた。



 沈黙を破ったのは、まどかの父親である如月 (みのる)だった。


「あの、誠くんは、こうした趣味があるのかな……?」

「えっ……?」


 当然といえば当然の質問だったが、一瞬だけ誠は理解をするのに時間がかかってしまった。

 そして、誠は激しく横に首を振る。


「いえ! けっして、そんなことは……。僕もこんな格好にさせられるなんて、昨日まで知らなくて……その……」


 誠のしどろもどろの説明に、実は、うん、とうなずく。


「前会った時と見た目があまりに違うからびっくりしたが、中身は変わっていないようだ。一生懸命やっているようだし、似合っているし、いいんじゃないかな」


 実は、そう言ってくれた。


 お父様、度量が大きすぎです…………誠は安堵しつつも、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「そうね。新しい息子のような気持ちでいたけれど、ふたり目の娘でも悪く無いわね」


 芳子はフォローとも、追い討ちともとれる言葉をかけてくれた。


「私も、いつのまに娘を産んだのかと、真剣に悩みそうでした」


 真穂の言葉に、両親三人で、はははっ、と笑う。


 ……笑うところなのだろうか……。


 まどかが脇を突いてくる。


「良かったですね。師匠」

「心臓が止まるかと思いました……」

「大げさですよ」


 まどかが笑って、背中をポンっと叩く。


 いや、真面目に寿命が何年かは縮みました。

 本当に。


 慣れてきたのか、芳子まで誠の写真をいくつか撮ると、両親三人でなにやら歓談しながら、食事と飲み物を注文してくれた。

 忙しくなって、あまり席に立ち寄ることが出来なかったが、そんな様子の子供たちをときおり見つめては、嬉しそうにしていたから良いのだろう……多分。


 三人でそろって帰ることになり、まどかと誠が揃ってお見送りをする。

 誠は見えなくなるまで、何度も頭を下げた。

 階段を降りていき姿が見えなくなると、誠はほっとするような、すこし寂しいような気持ちになった。

 またきっと、まどかさんのご両親とはゆっくり会って話ができるはず…………今度は男の姿で……。


 まだまだ仕事はこれからだった。




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