クラスの衝撃
見渡してみると、それぞれに似合った可愛らしい服を着ている。
凛はまどかと同じような服を着ている。
小さくて、可愛らしい、という言葉が似合う。
桜と美緒は、一種の男装……なのか? 髪を後ろにまとめて、白いワイシャツに黒くて長いパンツ、茶色の前掛けを腰にかけている。
イタリアンレストランの格好いいウェイター、といった感じか。
確かに似合っていて、女性ウケしそうだった。
薫子は、秋を感じさせる色合いの着物。
髪を上に纏めあげ、うなじがきれいに見えている。
赤く塗った口紅がとても似合っていた。
麻友は、誠と同じ柄のブレザーだった。
まさかのペア。
それに気づいた麻友が近寄って来て、軽く胸を叩く。
「同じ学校の制服だね。女の子同士仲良くしてね」
そう言って、嬉しそうに笑顔を浮かべる。
麻友はブレザー姿が本当に似合っている。
こう言うのを、小悪魔というのかも知れない。
自分の姿は……割愛しよう。
可愛い……らしい。
みんなで楓の家の車に乗り込んだ。
8人乗りのワンボックスカーだったので、まずは接客係だけが乗ることになった。
運転手は楓のお母さんがやってくれる。
車中の短い時間だが、ほとんど女子会トーク。
あの……ここに男が一人いるのですが……。
「まーちゃんは、好きな彼とかいるの?」とか聞かれても困ります。
学校の表玄関近くに着くと、車を止め、みんなで降りて歩くこととなる。
ちょうど、文化祭のために登校して来た学生たちのなかを、7人で仲良く歩いた。
目立っていた。
汗が出るぐらい、注目をされている。
他の子達が可愛くて、華やかだからしょうがない。
こんな格好した女の子達が6名もまとまって歩いていたら、それは目を引くだろう。
……自分がそのなかでどう映っているのかは、知らないけど。
ただ、楓の「常に胸をはって、前を向いて。恥ずかしげに下を向いたら、本当に恥ずかしくなる。恥ずかしい時ほど胸をはって」という言葉を思い出す。
男の時だって恥ずかしくて、背を丸めていたこともある。
これもひとつの訓練。
前を向いて。
……いやぁ……恥ずかしい。
そんな様子をまどかが気づいてくれた。
そっと横に並んで、手を握ってくれる。
「師匠、大丈夫です。きれいですよ。自信持ってください」
誠はその手のぬくもりに、心が柔らかくなるのを感じた。
すこし、勇気が出る。
「まどかさん、ありがとう。頑張ります」
誠の言葉に、まどかはにっこり笑う。
そして、まどかは耳元に寄って、小さな声でつぶやいた。
「女の私が見ても、どきっ、とします。あとで写真、撮らせてくださいね」
誠はすこし頬が赤くなるのを感じる。
どきっとするのは、まどかの姿のほうだ……あとで写真、撮りたいな……。
7名は教室に着くまでの道のりで、たくさんの視線を集めつつ、無事に時間までにたどり着くことができた。
教室では最後の準備が急ピッチに進められていて、慌ただしく人が動いていた。
7名が教室に入ると、その可愛らしさ、綺麗さに歓声が響いた。
「可愛い!」
「似合う!」
「素敵」
いろんな褒め言葉が、雨のように降り注ぐ。
まどかも桜も、それぞれに嬉しそうに応えていた。
誠は隠れたい気持ちをぐっとこらえて、その側で作り笑いを続けている。
「あれ、この子、うちのクラス?」
誠の存在に気づいた生徒がいた。
誠は笑顔のまま、背中に汗が流れるのを感じる。
そんな時、麻友が腕をからめてきて、嬉しそうに言った。
「私と同じ学校の、まーちゃん。よろしくね!」
その説明に、麻友と同じ中学の子なのか……という空気が広がり始めたが、ひとりの女の子が気づいてしまった。
「もしかして、一柳くん!?」
彼女の一言と、周囲の衝撃を表す言葉が見つからない。
強いて言うなら、
! ! ! ! !
と言ったところか。
誠は引きつった笑いのまま、軽く手を振ってみた。
「かっ……」
か?
「可愛い!!」
その声から、クラスが騒然となった。
「嘘だろ。女にしか見えねぇ」
「女の私より可愛いってどういうこと?」
「やばい、彼女にしたい……」
「ちょ、写真、写真……」
誠は一歩、後ずさった。
さっと後ろを向き、逃げようとしたところを、桜と美緒にきれいに脇をとられた。
「はい、逃げない」
「まーちゃん、一緒にがんばろ!」
まーちゃん、言わないでくれ……。
誠は逃げたい気持ちで一杯だったが、ここはあきらめるしかなかった。
今日一日……今日一日、頑張るんだ。
負けるな誠。
そう、自分に言い聞かせる。
「そっか。それで集まる場所が別だったんだ」
宗志の声だった。
振り返ると、宗志は上下のスーツに革靴、それに黒縁の眼鏡をしていた。
……これは、サラリーマンか。
横にいる、玲と涼は武士の姿? 和装を着崩して、荒々しい雰囲気だった。
坂本龍馬をイメージしているのだろうか。
賢治と洋介は、執事か。
黒いスーツに、黒いネクタイ。白いワイシャツが似合っている。
身長もあるので、立ち姿が決まっている。
……そちらのほうが良かった……。
誠はがっくりとうなだれた。
なぜ僕だけこんな姿……。
誠は泣きたい気持ちをぐっとこらえる。
右手の握りこぶしが、悲しげに震えた。
泣いたら、化粧が崩れる……。
そんなことを考える、自分が悲しかったが……。




