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勉強の神様は人見知り  作者: 京夜
神様の戸惑い
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文化祭の決め事

 


 中間試験が終わると、学校は文化祭一色に染まり始める。

 まどか達のクラスでも出し物を何にするかの検討会が、毎日のように開かれていた。

 中心となっているのは、文化祭実行委員の男女ふたり……涼と麻友だが、なかなか男子と女子の折り合いがつかずに、決めきれずにいた。


 男子はメイド服などのコスチュームを女子に着させて喫茶店を開きたかった。

 女子はそれに反対し、ダンスを主体にした舞台はどうか、と提案していた。


 平行線のまま交わらないと思われた話し合いは、宗志の一言で決着を見た。


「解った。男子もコスチュームを着る方に参加する、ということで手を打たないか」


 しばらくの沈黙の後、宗志の意見は万雷の拍手で迎えられた。

 女子は男子の、男子は女子の着替えに期待していたが、自分達がその役目となることは想定していなかった。


 問題は、その役に誰がなるかだった。

 立候補はいないと思っていた接客係に、曜子が手を上げる。

 公然とコスプレが出来ることに、曜子はむしろ喜びを感じていることはあえて明言しなかった。

 性格に難はあれど、容姿のいい曜子の立候補に、異を唱える人はいなかった。

 あとのメンバーは推薦となる。


 女子は、まどか、凛、麻友、それに桜、薫子、美緒とクラス内の綺麗どころが選ばれる。

 選ばれた女子の何名かは嫌がったが、男子から土下座をして頼まれると、しぶしぶと承諾してくれた。


 男子は、宗志、涼、玲、賢治、洋介、そして誠が選ばれる。

 彼らに拒否権はなかった。 

 選ばれた男子は、どんな姿をさせられるかを考え、沈み込んだ。


 衣装の作成、教室の準備、食事作成の裏方などは、順調に割り振りがされていく。

 接客係は当日頑張ってもらう代わりに、事前の仕事は免除されることになった。

 ただし、何を着せられるかは、当日まで解らないというおまけ付きだが。


 誠が初めての経験に恐れおののいていると、曜子が、


「後でまどかと二人でうちに来なさい。コスプレがどんなものか教えてあげるから」


 と声をかけてきた。

 それがいっそう誠の恐怖に輪をかけていたのだが。



 中間試験結果の報告とともに、文化祭のお知らせを兼ねて、まどかは一柳家を訪れていた。

 試験結果は順調に良くなってきており、順位は出ていないがおそらくクラスでも上位に入り始めている点数となっていた。

 真穂はいつものように、激しくまどかのことを褒めてくれる。

 頭をなで、抱きしめられが、毎回のことなのにまどかはとても嬉しかった。


 そして、文化祭の話になり、まどかも誠も接客係で参加することに、真穂は嬉しそうにうなずく。


「いつもはほとんど参加していないのに、文化祭で誠がそんな係になるなんてね……本当にこの数ヶ月で、誠の環境も変わったわ。あらためて有り難うね、まどかちゃん」

「いえいえ、師匠が頑張ったんです。本当に」


 まどかは本当にそう考えていた。

 初めての挨拶の時も、髪を切った後も、ノートの時も、本人が頑張らないと何も変わることはない。

 自分の勉強もそうだ。

 確かに、誠や真穂のアドバイス、学校の先生の授業がなければ、成績は上がらない。

 でも結局、勉強をするのは自分なんだ、ということを意識せずにはいられない。

 だからこそ真穂はいつも、よく頑張ってるね、と褒めてくれる。

 自分を褒めてあげなさい、とも真穂からよく言われていた。

 自分を褒めてあげることは、とても大切なのだと、繰り返し教えられた。

 大切な事なんだろう、と今はまどかも理解できる。


「どんな衣装を着るのか、当日までわからないの?」


 真穂の質問に、あらためて誠が落ち込んだ。

 曜子の家で見せられた、コミケでコスプレをする人たちの写真の衝撃を、思い出しているようだった。

 今の格好が限界なのに、あんな格好をするなんて……。

 はたで見ていて解るほどの落ち込みに、まどかは思わず慰めずにいられなかった。


「師匠、私も一緒ですから。頑張りましょう。たった一日の我慢です」

「でも、クラスの人だけでなく、他のクラスの人も来るんですよね……」

「何いってるの。私だっていくわよ。他校の人も来たりするんじゃない?」


 真穂は容赦なく事実を伝える。

 まどかの応援むなしく、誠の気持ちは浮上することはなかった。



 一柳家からの帰り道も、誠はため息のつきどおしで、せっかくのまどかと二人きりの時間を味わう余裕もなかった。

 あまりの落ち込みように、さすがにまどかも誠を不憫に思った。


「最近まで、挨拶するだけで精一杯でしたもんね。いきなりこれは、つらいですよね……」

「はい……」


 まどかは優しく、誠に声をかけた。


「師匠、私の方からみんなに説明をして、今回の件はお断りしましょうか」

「えっ……?」


 拒否権無し、という前提の取り決めに、誠はそんな選択肢があることを想像していなかった。

 しばらく呆然として、そして、まどかの言葉の意味を噛み締めていたが、誠は小さく横に首を振った。


「誰だって、好きで選ばれたわけではありません。それでもちゃんと役目を果たそうとしています。僕だけそれを逃れるわけにはいきません」


 そうだ。

 これは、やらなくてはいけないことなんだ。

 自分のこれからにも決して無駄にはならないはず。

 そして、みんなが喜んでくれるのであれば、頑張らなくてはいけない。


 誠はあらためて心を強くもとう、と決心した。


 まどかの携帯からメールの着信がなり、まどかは携帯を鞄から取り出して、メールをチェックした。

 差出人は曜子だった。

 内容は……ああ、はい……そうね。

 まどかは携帯を閉じて、鞄にしまう。

 そして、その内容を誠に伝えるべきか、まどかは悩んだ。

 ちらっと横を見ると、誠と視線が合う。

 どうしたの? と、問いかけるような表情の誠に、まどかは申し訳なさそうに伝えた。


「師匠……当日までに慣れておいたほうがいいので、一度試着をしましょう、って曜子ちゃんからです……」


 あぁぁぁぁ……………………。



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