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勉強の神様は人見知り  作者: 京夜
神様と天使の夏休み
36/123

メガネ男子

 翌日の朝、まずは髪からと、まどか行きつけの美容院に三人で押しかけた。

 誠は、

「美容院は女の人が行くところでしょ?」

 と恥ずかしがって抵抗したが、

「いつの時代の話よ」

 と真穂が言い、

「いまは男性も多いですよ」

 とまどかがフォローすると、誠も観念した。


 駅からほど近くにある、外から中の様子がよく見える、おしゃれなお店だった。

 誠は椅子に座らされ、店の人と真穂とまどかと三人で、ああでもない、こうでもない、と髪型について議論を重ねていた。


「眼鏡は外せないから、メガネ男子風にするのはどうでしょうか」

「悪くないけど、それだとあまり変化がないから却下」

「コンセプトは、爽やかですか、格好いいですか?」

「まどかちゃんは何がいいと思う?」

「私、爽やかな人、好きです」

「じゃあ、短めかな」

「二宮和也くんとか、松山ケンイチくんとか」

「あまり短くないような気がしますけど」


 大体のイメージが決まると、あとはお任せして、真穂とまどかは服を選びに外に出ることにした。


「どんな服がいいかな」

「真穂さん、服の前にぜひ選ぶものが」

「えっ、なに?」


「メガネです。印象が変わりますよ」


 まどかの提案に、真穂は大きくうなずいた。


「なるほど、それだわ。制服でもメガネはいつでも使うものだから大切ね。よしまずはメガネから行こ」


 ちょうど店の人が格好いいメガネをしていたので、どこで購入したのかをたずね、その店に行くことにした。

 お店近くにある大きなデパートに店舗を構えたメガネ専門店だった。

 店に入っても、ふたりの勢いは止まらなかった。


「ねえねえ真穂さん、これなんてどうですか?」

「フチ無しメガネね。いいわね、印象がかなり変わりそう。これはどう?」

「黒で違和感がないけど、柄の部分がおしゃれですね。細かいところのおしゃれって、いいですね」

「丸い縁だと穏やかな感じですね。四角だと格好いいというか」

「どちらが似合うかは、後のお楽しみね。どちらも似合わなかったらどうしよう」


 店の女性店員さんも二人のテンションにやや苦笑いしながら、対応してくれていた。


 同じデパート内のメンズ衣料品店にもすこし顔を出していると、あっという間に時間になり、ふたりは急いで美容院へ戻った。



「どう、どんな感じになった?」


 真穂が店の扉をあけて、ふたりは誠のもとへと急いだ。

 誠はだいたいのカットが終わり、整髪剤を使って髪の毛をいじられているところだった。

 二人の声に、誠は閉じていた目をうっすらと開け、鏡越しに目があった。

 かなり短くなったが、緩やかに波打つ爽やかな髪。

 メガネも取られ、眉毛も整えられていた。

 顔立ちもこうしてみると、真穂にどことなく似ていて、凛々しくもどこか可愛らしい。


 その出来に、思わずふたりは歓声を上げた。


「いいじゃない! 誠。やっぱり私の子ね!」

「師匠! 格好いいです!」


 誠はメガネをかけていないせいで、自分の姿がどうなったか、今一つ理解出来ていなかった。

 当初は戸惑っていたが、ふたりの感想を聞いて一気に顔を赤くした。

 耳まで赤くして、恥ずかしさを耐えるようにうつむいた。

 その様子がまた初々しくて、ふたりは店の中であることを忘れて、「いい感じ!」「かわいい!」と声を上げていた。

 思わず他の客まで顔を伸ばして見始めたが、誠の容姿をみて納得してうなずくも人もいた。 


「これは幸先がいいわ。ありがとうね、素敵にやってもらって」

「有り難うございます」


 カットしてくれた女性も、出来に満足そうだった。

 最後にこまかな調整をして、ついた髪の毛を払い、誠にメガネを返した。

 誠はメガネを受け取り、初めて自分の姿を見た。


「……誰、これ」

「いやあねぇ、自分に決まっているでしょ。あまりにイケメンで自分でびっくりした?」

「……この姿で、これから生活するの?」


 誠はむしろ不安な様子で、どこか落ち込んでさえ見えた。

 鏡に写った顔は、今までの自分と違いすぎて、違和感のほうが強かった。

 そんな誠の気持ちを察したのか、まどかが顔を近づけてフォローしてくれた。


「この顔をもまた、師匠の姿の一つです。真穂さんに似ていますよ。親から授かったものですから、大切にしましょう!」


 頬が触れ合うほどに近づいたまどかに、誠はまた耳まで赤くしながら、こくん、とうなずいた。

 その様子に、またふたりで「かわいい!」と喜んび、誠は恥ずかしさのあまり早く出ようとうながした。


 真穂がお金を払うと、三人は先程のメガネ店へ向かった。

 メガネ店では、誠を見た女性店員さんが色めきだって、先ほど以上に高いテンションで、いろいろなメガネを勧めてくれた。

 容姿を邪魔しない、フチ無しの丸めがねが一番似合ったが、「これじゃあ、学校に行けない」と誠の強硬な反対にあって、黒縁の四角いメガネに落ち着いた。

 柄の部分が格好良く、これはこれで誠によく似合っていた。


「いい。いいわ。メガネ男子。向井理……? 成宮寛貴……?」

「誰か解らないけれど、たぶん違うと思う」


 真穂の感想に、誠はそっけなく答えた。

 そのメガネ男子ってなんですか……もともとメガネ男子です。


「師匠、そのメガネもとっても似あっていますよ」


 笑顔のまどかの言葉を聞くと、誠は照れて顔を赤くして「ありがとう」とお礼を言った。


「私の時とずいぶん対応が違うわね……まあいいわ」


 度の入っていないメガネを店員さんに渡し、視力測定をして、レンズ作成をお願いした。1時間半ほどかかるらしい。

 その間に、今度は服を選ぶことにした。


 ここまで来ると、だいたいコンセプトが見え始めていた。

 凛々しくも可愛いメガネ男子……似合う服は、むしろオーソドックスに真面目な服。イギリス有名校の寮生あたりが着ていそうなものが似合いそうだった。


 爽やかなブルーのワイシャツに、クリームベージュのチノツータックパンツ。

 シャツは縦のストライプをもう一つ追加し、下着から、靴まで揃えた。

 せっかくだからと、そのまま新しい服を着させ、靴も変えさせた。


 調度良い時間になってメガネ屋に戻ると、新しいメガネも出来上がっていた。

 メガネを変えさせて、あらためてふたりで誠を眺めた。


「いい出来だわ……」

「真穂さん、私ちょっとどきどきしてきました」


 誠は恥ずかしそうにうつむいた。


「これは何かの罰ゲームですか……」

「何言っているんですか、似あってます。師匠」 

「でも、恥ずかしい」

「何事も慣れです。あっ、写真撮らせてください」


 まどかが急いで携帯のカメラを起動させた。

 誠はもう抵抗するのをあきらめた。

 真穂も自分の携帯を取り出して、写真を撮り始めた。


「まどかちゃんも横に並んで。二人の写真を撮らせて」

「あっ、はい」


 まどかは素直に誠の隣に立った。

 恥ずかしそうにちょっと距離をおこうとした誠の腕をつかんで、まどかは誠を引き寄せた。

 ふたりの腕が触れ合う。


「……!」


 誠が耳まで真っ赤にしながらうつむいたところを、真穂に何枚か写真を取られた。

 撮った写真を眺め、真穂は満足気にうなずいた。


「うん、いい写真がとれた。よし、じゃあお昼を食べに行こう」

「はい! ほら、師匠。行きますよ」


 まどかに腕を引っ張られ、抵抗もできずに後をついて行った。


 街中を歩くと、姿勢のいい誠は容姿や格好もあって、目立っていた。

 通り過ぎる女の子がチラチラと誠を見ているのがわかる。

 誠は気づかないように、考えないようにと、まっすぐ前だけを見て歩いていた。

 そんな様子の誠を見て、真穂とまどかはふたりで笑った。


 長かった夏休みも、こうして終わりを告げようとしていた。

 明日からは新学期だった。





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