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勉強の神様は人見知り  作者: 京夜
神様と天使の夏休み
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悠太の告白

 家に着くと、まどかはシャワーを浴びて、汗を流した。

 体を拭いて、楽な部屋着に着替えてしまうと、携帯に着信があることに気づいた。


 誰かと思って見てみると、曜子からだった。

 まどかはすぐにかけ直した。

 電話はすぐに出た。


「曜子ちゃん? 私、まどか。電話くれた?」


「うん、もう帰った頃かな、と思って。それともまだ、桜井くんがいる?」


「! 何で会っていたこと知ってるの?」


「あっ、もういないんだ。だってカラオケの時に私、隣にいて話し聞いてるよ」


「だって、日にちと時間は言っていないような……」


「そこは、桜井に無理やり聞いた」


「…………」


「で、どうだった。初デート」


 まどかは携帯を肩と顎ではさみながら、台所で冷蔵庫から麦茶を取り出して、コップにうつして飲んだ。


「デートじゃないし。曜子ちゃんだって聞いていたでしょ?」


「……そうか、桜井は撃沈したか……かわいそうに」


「……何が?」


「いや、こちらの話。あっ、そうそう、私、武田くんに余計なおせっかいをしてしまった」


 曜子は急に、まどかの幼なじみの名前を出した。


「余計なおせっかい? どんな?」


「そのうち解ると思う。先に謝っておく。ごめん」


「?? 解らない……」


「いいから、いいから。要件はそれだけ、じゃあね!」


 電話はそれで切れた。


「なんだろう」


 まどかは首をかしげながら、自室へ戻った。

 窓を開けて網戸にする。

 外からは暑いが、心地よい風が吹いてきた。

 しばらくその風にあたって涼んでいたら、再び携帯が鳴った。


 表示を見ると、悠太、と出ていた。


 曜子が話していたら、早速電話がかかってきたようだ。

 まどかはその電話に出た。


「もしもし、まどかです」


「俺、悠太」


「うん、どうしたの?」


「今日、桜井とデートしたった本当か?」


 このことか……まどかはため息をついた。


「デートじゃないし」


「でも二人きりで出かけたんだろ?」


「そうだけど、頼まれて洋服を選んであげただけだよ」


 電話の向こうで舌打ちするような音が聞こえた。


「それをデートっていうんだよ……相変わらずにぶいな」


「あれがデートなら、悠太ともデートしたことになるじゃない」


 幼なじみの悠太とは、住んでいる場所が近所ということもあって、よく二人で遊びにでかけたりしていた。部活が忙しくなってからは、機会が減ってきているが。


「だからにぶいって言っているんだ……」


「どういうこと?」


 電話の向こうで、質問に応えるべきか悠太は悩んでいるようだった。


「くそっ、電話なんかで言うつもりじゃなかったのに……。俺はずーっとデートのつもりだったの」


「…………え?」


「だから、お前のことが昔から好きだったの」


 まどかはびっくりして、声が上ずってしまった。


「えっ、いつから……」


「小学校の時からだよ。だから、お前はにぶいって言ってるんだ」


「……全然気づかなかった」


 まどかはそのまま床に座り込んでしまった。


「明日は暇か?」


 まどかは、悠太の質問の意味が理解できなかった。


「え?」


「だから、明日は暇なのかって、聞いてるんだ」


「えっ……明日は陸上……」


「じゃあ、週末は?」


「週末は大丈夫……」


「よし、じゃあ土曜日。午前9時に迎えに行くから」


「……えっ?!」


「遊園地に二人でデートに行くぞ」


「ええっ!!」


「桜井とは行って、俺とは行けないなんて言わせないぞ」


 まどかは、どう答えればいいか解らなかった。


「それじゃあ、約束だからな」


 無言を了解と受け取った悠太は、自分から電話を切ってしまった。

 まどかは呆然として、しばらく携帯を離せずにいた。


 悠太が私のことを好きって……本当?

 何かのいたずらじゃなくて?


 幼なじみで、友達じゃなかったの?


 まどかの頭の中で疑問ばかりがぐるぐると駆け回った。


「…………」


 まどかは混乱しながら、おぼつかない手で携帯のボタンを押した。

 しばらく呼び出し音が続き、そして相手が出た。


「武田くんから電話があった?」


 携帯から曜子の声が聞こえた。


「あった。告白された」


「おっと、さすが。桜井のヘタレとはちょっと違うな」


「曜子は知っていたの?」


「見ていれば解るよ」


「私は気付かなかった……」


「本人は気づかないものかもね」


「……もしかして、桜井くんのことも本当なの?」


「そうよ。問いただしたら、まどかのこと好きだって、白状した」


「全然、気づかなかった……」


「まあ、彼は隠していたからね」


 まどかは呆然としてしまった。

 想像もしていなかった出来事に、頭は混乱していた。


「で、どうするの?」


「……何が?」


「どちらかと付き合うの?」


「……今まで友達としてしか見ていなかったのに、突然そんなこと言われても……」


「このままだとずっと気づいてくれないと思って、二人は行動に出たと思うけれど」


「そうかも知れないけれど……」


 だからと言って、まどかは二人の気持ちに応えることはできなかった。


「桜井くんは友達だし、悠太は幼なじみだし。それ以上でも、それ以下でもないよ」


「じゃあ、ちゃんと断らないとね」


「う……ん……」


 まどかは迷ったが、曜子には伝えることにした。


「悠太から、遊園地に行こうって、無理やり決められちゃった」


「押しが強いねぇ。それぐらいしないとね。いいじゃない。一度行って、自分の気持ちを確かめてみたら」


「確かめるって言われても……」


「それとも誠のことが好きなの?」


「えっ……? 師匠と弟子だよ……」


 二人の間にしばらく沈黙が流れた。


「 まっ、そうかもね」


「そうかもね……って」


「 じゃあ、なおさら問題ないじゃない。一度、デートと思って体験してみるのも勉強じゃない?」


「そんな気持ちで行っていいの?」


「武田くんは、それでいいって言っていたんでしょ?」


「何も聞かないで、勝手に決められちゃった」


「それは、了解している、ということよ」


「…………」


「報告、楽しみにしているわよ」


 曜子は、そのまま「じゃあね」と言って電話を切ってしまった。

 まどかは電話を切り、しばらく窓から外の景色を眺めた。

 まだ外は明るかったが、時間的には夕になってきていた。


 まどかの頭はまだ混乱していた。

 一つ一つ整理をして、迷いながらも一つの決心をした。

 携帯電話を手に、宗志に電話をかけた。

 4つほどのコール音の後に、宗志が電話口に出た。


「 桜井です。まどかちゃん?」


「まどかです。今日はありがとう」


「 こちらの方こそ……どうしたの?」


「あの……その……、変なこと聞いてごめんね? ……あの、私のこと……」


 電話の向こうで、察したようだ。


「 誰かに聞いたの?」


「……うん。曜子ちゃんに」


「 ちっ……あいつ余計なことを」


「本当なんだ」


「 うん。まどかちゃんのこと、好きだよ」


「…………」


「大丈夫、気づいていないことも、気がないことも解っているから」


「……ごめん」


「 いいよ、こればかりはしょうがない。でも、友達でいてくれよな」


「もちろん!」


「 それでいいよ。ありがとう。……それじゃあね」


「うん……それじゃあ」


 電話は宗志の方から切れた。


 まどかは疲れたように、そのままベッドへもたれかかった。


「曜子ちゃんの言ってたこと、本当だったんだ……」


 今まではからかっているだけだと思っていた。

 自分が誰かから好きになってもらうなんて、想像もしていなかった。

 まどかはただ呆然として、しばらくは何も考えることも出来なかった。 



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