お風呂
花火が終わった後、みんなで大浴場へ行くことにした。
ホテルの大浴場は内風呂の他に露天風呂もあって、お風呂から海が眺められる。
今は漆黒の海と夜空が広がっているが、夕方や朝方はきれいな景色が広がっているのだろう。
時間がずれたせいか、ほとんどお客のいない脱衣所でそれぞれに服を脱いでいく。
互いに水着姿を見たが、裸になるとやっぱり互いのスタイルが気になってしまうようだ。
特に桜はまるでエロ親父のように、みんなの裸を舐め回すように眺めてくる。
「ちょっと桜さん。恥ずかしいです」
凛が服で胸元を隠しながら、抵抗した。
「いいじゃない。女の子同士。裸の付き合い」
「桜さんぐらいスタイルが良ければいいですけど。私なんて……」
桜はまだいくらか幼さは残るが、数年もすればモデルになるか、ミス・ユニバースあたりに応募できそうなスタイルの良さと美貌を持ち合わせている。
それに対して凛はどちらかというと、容姿・体型ともに幼い印象が強い。
胸もわずかに隆起している程度で、恥ずかしがるのも仕方ないかも知れない。
「凛ちゃん。あんなおっぱいの悩みのない人達のことは放っておこう」
声をかけてきたのは、長身ながら細身で、胸もほとんどない曜子だった。
互いに胸の大きさを確認すると、思わずがっしりと握手した。
同盟が出来上がったようだ。
「じゃあ、私も誰かとおっぱい同盟でも組もうかな」
「なに、その変なネーミング」
「あっ、麻友は仲間ね」
「あまり入りたくないけど」
麻友は身長こそ低めだが、出るところは出ていて、引っ込むところは引っこんでいる。
「何か麻友の裸って、エロっぽいんだよね」
「今夜、襲わないでね」
「本当は襲って欲しいとか?」
「……私も少し、世界を広げてみようかしら」
「……ごめんなさい。私が悪かった」
みんなで笑いながら、浴室に入って行く。
「で、やっぱり一番大きいのはまどかか。美緒も意外にいい勝負なのよね」
桜が相変わらず、おっぱい談義に花を咲かせていた。
言われたまどかは、身体を洗いながら恥ずかしそうに胸を隠した。
「隠されるとよけい触りたくなる」
「桜さん!」
「おっ、やわらかぁーい」
まどかが身体を洗っているのを良い事に、桜は後ろからがしっとまどかの胸をつかむ。
逃げるようにまどかが前屈みになって、胸元を隠そうとするが、すでに差し入れられた桜の手をどけることが出来なかった。
むにむに、と桜は遠慮なくまどかの胸を揉みしだく。
桜の両手でもあふれる膨らみは、心地よい柔らかさだった。
「やめてください!」
「うーん、気持ちいい。満足、満足」
桜はするっと手を抜いて、次の獲物を探し始めた。
「やっぱり次は美緒かな」
「私?」
美緒はすぐ近くで髪を丁寧に洗っているところだった。
「ちょっと胸を触らせて」
「いいわよー、どうぞ」
美緒は桜の方向に身体を向けると、恥ずかしげもなく両方の胸を差し出した。
可愛らしい顔立ちには似つかない、形のよい胸が盛り上がっている。
桜は嬉しそうに、両手で美緒の胸を触り始めた。
「おっ、こちらもなかなか」
「どちらのほうが大きい?」
「うーん、甲乙つけがたいけど、まどかかな?」
「あら……残念」
美緒は胸を触られながら、ちょっと残念そうな表情を浮かべる。
「まどかちゃん、陸上やってるのに大きいよね。羨ましい」
美緒がまどかに声をかけると、まどかは恥ずかしそうに自分の胸に手を置いた。
「中学の時は小さかったんです。中学3年の後半ぐらいから大きくなり始めて。今は走るときに痛くて困っています」
「お母さんが大きいのかな?」
「おばあちゃんがとっても大きかったんです。遺伝なんでしょうか」
曜子と凛が小さな声で「羨ましい……」とつぶやいた声は、誰の耳にも届かなった。
ちなみに、薫子は桜と凛の間ぐらいの胸の大きさで、まるで聞こえていないかのように淡々と身体を洗っていた。
一通りおっぱい談義がすむと桜も満足したようで、さっさと身体と頭を洗って、露天風呂へ移動した。
「わあ、いい景色」
「心地いいね」
ホテルの上の階にある露天風呂なので、外から見られる心配もない。
裸のまま思いっきり伸びをして、体全体に心地良く吹きかける海風を感じる。
「たのしい旅行だったなぁ。毎年やりたいぐらい」
桜が独り言のようにつぶやくと、それぞれにうなずく。
気心の知れた友達との旅行で、思っていた以上に楽しめた一日だった。
「まーちゃんの存在も、やっぱり良かったし」
「不思議な人だよね。女の子の中に男ひとりなのに」
桜の言葉に、美緒が付け加える。
誠を誘うことを言い出した人間ではあるが、後になって一抹の不安もあった。
自分がもう少し仲良くなりたいだけで誘ってしまったが、せっかくの旅行を駄目にしないかという思いもあった。
一日が終わろうとしてほっとする心もあり、少し距離を縮められた嬉しさも美緒は感じていた。
「まどかちゃん。夜、頑張ってね」
美緒がぽんっとまどかの肩を叩いて微笑んだ。
とたんに、まどかの顔が真っ赤に染まる。
まどか自身も今の今まで忘れていたが、指摘されて急に緊張してきた。
「そうだ。まだひとつビッグイベントが残されていた! 頑張ってね!」
桜が嬉しそうにまどかに寄りかかってくる。
「まどかが頑張っちゃ駄目でしょう。まーちゃんが頑張らないと。ここで女に頑張らせる男は駄目よ」
露天風呂の縁でゆったりと海を眺める麻友がつぶやく。
麻友の心中は穏やかではないが、一途な誠を応援したい気持ちもあるのが正直なところだった。
「キスぐらいはね」
「そうね、ヘタレでもそれぐらいは」
まどかの周りで勝手に話が進んでいる。
人の彼氏を捕まえてヘタレとは……ともまどかは思ったが、恋については強く否定できない。
お風呂を出てそれぞれの部屋へ向かう途中、みんなが万歳三唱で部屋に戻るまどかを送り出す。
「静かに!」
まどかは怒りながら、顔を真っ赤にして部屋の中へ入って行ったのだった。




