第80話 サッカーしようぜ!相手はイケオジ……?
「なあ、あれ見られてるよな?」
「せやな、ずっと見とるであのおっさん。なんちゅー格好しとるんや、ヤクザやないか?」
「この区にヤクザなんていないだろう。きっと、どこかの企業の社長さんだよ!きっと!」
「いやいや、俺ちゃんが思うにあれはラスボス、いや裏ボスだね。」
数時間前から、俺たちの練習を覗き見ている人がいた。狩人高校の一年がグラウンドでZONEありのハチャメチャ練習をしているから、見栄えがいいのはわかる。だとしてもだ、この練習が始まって数時間張り付いたように見ている人がいた。
派手な赤色のスーツに黒いサングラスをかけ、銀と金髪が入り混じった少しパーマがかったショートヘア。あまりカタギには見えない強面の四五十代ほどのイケオジの大男だった。
「なあ、巴。あのおじさん知ってる?」
「さあ?誰かの親とか?」
「東雲たちは?」
東雲たちは一斉に首を横に振る。マジで誰も知らないのか。だとしたら、あのおじさん一体誰だ?そう思いながら練習をして休憩をとっていると、ベンチに座っていたヤクザが立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。
「ん?あの袋は……」
俺の目に留まったのは、イケオジが手にぶら下げたナンデモートの買い物袋だった。
「なんや?星谷はん、気になる事でもあったか?」
「ああ、ちょっとな。」
なんであの人があの袋を持ってるんだ?しかも、あの袋の中身、やけに角ばっているような気がする。それに、結構な量が入っている。
「やあ、君たちは狩人高校の生徒たちかな?」
館長とは別ベクトルのねっとりとした渋めのおっさんボイスぅ。マジでヤクザとか、戦闘員とか中尉とか裏社会の悪のカリスマみたいなそんな声してやがる。
「えーっと、はい。そうですけど」
「なるほど、通りで活気盛んな訳だ。今は練習中かい?」
「休憩時間ではあるけど、練習はしてます!」
「そうか、それじゃあもう試合はできるくらいには上達したのかな?」
「そ、それはまだやったことはないからわからないけど、連携なら多少は取れると思います。」
「そうだ、おじさんと一つ勝負をしないかい?」
「勝負?」
「君たちと試合して、君たちが一点でもシュートを決められたら、おじさんがあそこのコンビニで好きなものをなんでも一つ買ってあげよう。もちろん全員分ね。」
「で、そっちが勝ったら?」
「そうだなあ、火野真理と話をさせてもらえないかな?」
俺はその言葉を聞いて絶句する。火野真理。それは火野さんの本当の本名。普段は火野真里亞で通っているはずなのに、このイケオジは、君たちの担任ではなく、火野さんを本名で名指しをした。この人、もしかしてとんでもない人なんじゃ……
そう思考を巡らせながらイケオジの返答を考えていると、ガマたちが俺を引きずって近くの物陰に隠れさせる。
「星谷はん、こいつヤバいで。」
「そりゃわかってるって!火野さんの本名を知ってるレベルだ。EDEN財団関係者の可能性だってありえるし……」
「そうやもんな、せやけど。この賭けはワシらが有利や。見たところ周辺にはヤクザオヤジの仲間らしき人もおらへん。サッカーの試合っちゅうことは、ここから10人は集まらんとあかん。あのおじさんにはできっこあらへん。」
「それもそうか」
俺は再びイケオジのところに戻る。
「その勝負乗った!ただし、試合は今からだ。」
「いい返答だ。それじゃ、グラウンドに移ろうか。」
グラウンドに移って各々準備運動を始める。俺も体をほぐしたりしているが、やはりあのイケオジ、一人で挑む気だ。顔に自信が満ち溢れている。まるで負ける気などないようにただただ自信と余裕に満ち溢れた顔を浮かべながら、俺たちの準備運動を眺めていた。
そして、俺たち全員がグラウンドのコートに入って、フォーメーションを組む。組んだフォーメーションは、戦力的にフォーメーション:4-4-2が一番適していると早苗監督が言っていた。4-4-2のフォーメーションは、ゴールを死守するディフェンスが四人、中央で幅広く動くミッドフィルダーが四人、シュートを決める攻めのフォワードの二人で構成されている。
ガロウ 巴
ガマ 星谷 早苗 小野田
東雲 アンディー 冰鞠 龍之介
石田
並びとして図に表すのならこんな感じだろう。網玉がやられると、このチームの連携が取り難くなるため、早苗監督が選手として登場しているが、これは全体の作戦指揮を任せてほしいとの監督からの指示だ。早苗監督の自己満話を聞かされた時、生前では天才ゲームメーカーと呼ばれていたとか言ってたし、まあ、任せて大丈夫だろう。
それよりも、不可解なのはやっぱりイケオジチームだった。
「準備は済んだかい?」
そう平然と話しかけるイケオジだったが、その場所は何とミッドフィルダーの位置にたった一人だけイケオジがぽつんと立っている。嘘かと目を疑ったが本当に一人で戦うつもりらしい。試合時間は一応三十分としているが、三十分間一人で戦うとか無謀にもほどがある。
火野さんとの模擬戦は、ボスバトルみたいな感じで成立はしていたものの、このイケオジ一人VS狩高サッカーチームは、もはやオヤジ狩りとかそういう次元の話になるだろう。
「ああ、網玉。ホイッスル頼む!」
ピィーー!!!
試合開始のホイッスルの合図と共に巴がボールを蹴り出しドリブルを始める。それに追従するようにガロウも上がっていく。俺たちは、ラインを上げながらイケオジの動きを観察する。
しかし、イケオジに動きはなく、巴たちがイケオジを真横を通過し、そのままゴールに直行する。そして、そのままガロウにパスが周り、強烈なロングシュート放つ。空気を裂くような異音を奏でながらゴールへと向かうボールを見て、誰もが決まったと思った次の瞬間。前方、巴達の方から驚きの声が上がる。
「この人いつの間に!?」
「軽々と片手で止めやがった……」
ゴールの方を見ると、そこにはちゃっかりグローブを身につけて回転するボールを片手で受け止めるイケオジの姿があった。だが、目の前には笑みを浮かべるイケオジがいる。そして、他にもイケオジがサッカーの人数分。それぞれポジションについている。
「イケオジがたくさんいる!?」
「流石に一人じゃ僕も手が回らないからねえ。それにゲームも成り立たない。だから、僕が十一人分になる。それと、僕の名前は皇。皇帝の皇の字で、すめらぎと読む。覚えておいてくれよ。星谷の坊や?」
「ん!?坊や!?」
頭の中にあった引っかかる部分にガチッと当てはまった。
「あんた、もしかしてあの時の「お姉さん」!?」
「お、気付いた?」
「ええ……中身おっさんだったのか……」
「どちらともあり得るとだけ言っておくよ。僕自身、能力の使い過ぎで分からなくなっちゃってねえ。性別というのは些細な違い。本質は変わらないから気にしない方針でよろしく頼むよ。」
そう目の前の皇さんが言ったと同時に、キーパーがボールを蹴り上げパスを回して皇チームが攻撃へと移る。俺たちを急いでラインを下げ、守備の体勢へと入る。そして、ボールはコートの右側へと移動し、右サイドハーフの小野田が食い止めようと動く。
「行かせない!ななななななななな!!!!!!!!」
小野田の「ななななななななな」が実体化し、コートを真っ二つに分かつ。小野田の擬音掃射は即席で壁を作ることができる。文字と文字の間や隙間をくぐり抜けて移動しない限り、決して向こう側に渡ることはできない。同じ右サイドバックに龍之介を入れることで、龍之介が安全にボールを運ぶことができるという利点もある。
「最近の若者はこんなZONEも持っているんだねえ。だが」
そう言って、左トップ皇は、ボールを蹴りながら空中へと駆け上がり、楽々と文字の壁を突破する。
「分身の次は空中浮遊だと!?」
「ここは任せろ!ノンプロブレム!」
空中に駆け上がった左トップ皇を静止させるように、龍之介は姿を龍へと変え、ハンドにならないように腕を後ろに回し体だけを使って覆うように皇を包み込む。
「これなら動けない!ボールは貰うぜ!」
「いい作戦だけど、僕には通用しない。」
皇は、指をおでこあたりに当てながらボールと共に瞬間移動し龍之介の包囲から抜け出す。そして、そのままゴールへとドリブルし、シュートの体勢に入る。ボールを空中へと謎の力で持ち上げたかと思うと、巨大なエネルギー弾へと形を変える。そして、ボールの上へと瞬間移動すると、踵落としでボール蹴る。
「さあ、これでジ・エンドだ。」
迫るボールを目の前に、石田は覚悟を決め、手に力を籠め始める。体は岩へと姿を変え、地面に突き刺すように両足でガッチリと構える。
「ゴーレム――」
「――アイスウォール!」
石田の目の前に氷の城壁が現れ、ゴールを防ぐ。弾かれたボールを胸トラップで受け止めたのは、冰鞠の姿だった。
「冰鞠君!助かった!」
「こ、困った時は、お互い様でしょ……」
「いいぞ冰鞠!よし、こっから反撃開始だ!」




