第124話 最強の五体。ただし一体。
俺が攻撃に周り、防御は自分が引き受けると言われた時は半信半疑だった。いや、正直に言えば疑っていた。AIが優秀なのは分かっている。だが、実戦、それもこの密度で動く戦場で、完全に身を預けるなんて正気の沙汰じゃないと思っていた。
──結果から言えば、俺はAIのことを完全に舐めていた。
「オラッ!」
『背後からドウナガの突進を確認。回避を行う。』
鎧のどっかに小型カメラでも付いているのか、四方八方から来る攻撃に対し適確にブースターを使った回避を自動で行ってくれる。まるで補助輪つけた自転車を両手離しで漕いでいるような感覚だ。怖くはあるが、転ばない自信のおかげか五体の異常個体の特徴が分かって来た。
五体の異常個体は、互いの距離と動きを完全に把握しているかのように、無駄のない間合いで俺を包囲していた。アシナガは常に正面から圧をかけ、長い脚で牽制と攻撃を同時に成立させる。ミギナガとヒダリナガは左右に展開し、片腕だけを異様に肥大させた身体で、掴みと打撃を織り交ぜてくる。ドウナガは距離を保ちつつ、突進のタイミングを計り、カオデカは一歩引いた位置から全体を見渡すように動いていた。
個別の意思ではなく、群れとしての判断が先にあり、それに従って肉体が追随している。明らかに役割分担がある。偶発的な連携じゃない。最初から「そう使う」前提で進化したか、あるいは何かに操られているか……
そう思考しながら機械剣でドウナガの背後を攻撃していると、俺が踏み出すより早く、ブースターが噴いた。足元の地面を蹴る感覚すらなく、身体が横に滑る。次の瞬間、さっきまで俺が立っていた空間を、ミギナガの鋭い爪が切り裂いた。
「おい、速すぎだろ……!体が持ってかれたかと思ったぞ!」
『問題ない。君の身体負荷は許容範囲内だ。』
ミギナガの踏み込みに合わせ、ブースターを最低出力で噴射。地面を滑るように後退し、拳が胸部装甲を掠めるのを紙一重で躱した次の瞬間、ヒダリナガが無数の石を投げてきた。俺は即座に機械剣を逆手に持ち替え、刃の腹で叩き落とす。それでも弾ききれなかった石に被弾する寸前にブースターが断続的に点火。俺の意思とは関係なく、身体が最適解へと運ばれる。
「……はは、当たらねぇな!」
『当然だ。君は今、最適解の上にいる。』
五体は常に包囲陣形を保ち、誰かが攻撃に出れば、他が退路を潰す。逃げ場を消す戦い方だ。だが、AIのブースター制御は、それすら織り込んでいる。だが、一つだけ違和感がある。俺は攻撃を行いながらAIへと質問を投げかける。
「なあ、さっきからスカイラン・スクワールの異常個体以外の攻撃がないのどう思う!」
俺の感じている違和感は、異常個体以外のスカイラン・スクワールの横やりがぱったりと消えたことだ。俺が一時空中に離脱する以前、スカイラン・スクワールの横やりが入っていた。うざかった。だが、そのうざったらしい攻撃が消えるのが違和感でしかない。
あっぶね!ドウナガ突進ナイス回避。飴も溶けきったし冴えてきた。
『新顔の見解を聞こう。』
「考えてねぇのかよ!あーそうだな、逃げては無いよな。そんな雰囲気じゃねぇ炎描く居合軌道!」
炎の斬撃を飛ばし、アシナガの接近を防ぎながらダメージを与える。ミギナガのアッパーを回避しホバリングで滑らかに移動し追撃しようとするヒダリナガと距離を取りつつ、炎で怯んだアシナガに近づき機械剣からマンティスガントレットに切り替え
「パージボルト5%・小雷激震!」
ブレード部分から電撃を斬り浴びせ麻痺させる。そして一度離脱し、ヒダリナガの投擲をブースターで躱しながらAIは答えた。
『同意見ではある。だが、君の倒した個体数的にまだ複数体いるはずのスカイラン・スクワールの姿は確認できず、逃げ出した形跡も隠れることができる場所もない。そこで考えられるのは、幻影効果だ。』
「幻影効果?……ああ、スイミーみたいなやつか。」
鬱陶しいヒダリナガにパージボルト30%の雷翔拳をぶち込みダウンさせ、体が痺れてもなお機敏に動くアシナガの蹴りを対処する。
『弱い個体が群れることで巨大な姿であると捕食者に誤認させ攻撃を避ける幻影効果。それが何らかのZONEによる影響で、実際に集まった群れが統合され一体の個体として存在しているのが、あの五体の異形だ。そしてあの五体の異形が一体の身体を構成する一つ一つのパーツであるのなら、これよりも先の段階がある。』
「合体してさらに大きな幻影、いや実体を持つことになると……ヤバくね?今でさえ、ちょっと苦戦してるってのに!」
いい加減落ちろと小雷激震をアシナガに二発ぶち込み。ドウナガの押しつぶしを避ける。
『引き下がる質でもないだろう。解決策は新顔、君自身持ち合わせている。』
「切り札、尻尾か。」
確かに、あの尻尾はガロウの一式「破壊」と同程度とまではいかないが、それぐらいの火力がある。こいつをイェーガーの加速と共にぶち込めば木っ端肉微塵にできるはず。試してみる価値はある。
「よし、それで行くぞ!」
俺はお尻辺りを力む。そうすると尻尾が生える。尻尾が干渉しないように背面ブースターの角度を調整し、やつらの方へと突っ切って行く。アシナガ、ミギナガ、ヒダリナガ、ドウナガ。俺は眼中にそいつらはいない。あるのは、カオデカだ。なんでこいつだけカオデカなのか疑問に思っていたが、合体という統合でピンときた。群れには必ず司令塔となるリーダーがいる。俺らの戦況を眺めて作戦を伝えれるのは、カオデカいるだろうあの位置しかない。仲間との統合によって肥大化した脳は作戦を練るのに十分に有効活用できるだろうしな!
やつらもそれに気付いたのか、カオデカが移動を始めた。そして俺が追おうと動くも行く手を阻むかのように四体の異形は襲い掛かる。
「ちぃ!行く手を阻む気か。だがなぁ!」
ブースターで体を持ち上げ、そのまま加速しやつらを跳び箱のように飛び越える。そしてそのまま木々を蹴りジグザグと動きながら、カオデカへと近づいて行く。俺を追って後ろから石を投擲してくるミギナガとヒダリナガだったが、まず当たらないし。左右非対称の腕のせいかスピードはドウナガの次に遅かった。
「不格好で動きにくいだろ!アシナガしか俺をまともに追えてねぇぞオラッ!」
ここまで順調!さあ、そのデカい頭かち割ってリーダー引きづりだしてやら……ん?あいつ急に止まった?カオデカが動いた。視線が合う。次の瞬間、地面を蹴って突進してきた。頭突きだ。巨大な頭部が凶器そのもの。この状況、好都合!
「このまま加速しろ!やつのデカ面に尻尾を叩き込むッ!」
『了解。』
イェーガーのブースターのジェット噴射の勢いが増していく。そして、カオデカとの距離が近づいて来る。体を捻り尻尾をカオデカの方へと向け、準備は整った。
「食らえオラァ!!!」
身体を捻り、すれ違いざまにカオデカのデカ面に尻尾を叩き込もうとしたその一瞬だけだったが、俺の白い尻尾にエネルギーが具現化したような淡い青色の稲妻のようなものが流れた。そして、俺の尻尾がデカ面に叩き込まれた……はずだった。
「な、にっ!?」
やつの顔面が崩れた。尻尾が当たるその寸前にやつの顔面を構成するスカイラン・スクワールの何体かが顔から飛び出し、顔面の形を変えた。抉れるように崩れたカオデカのデカ面に俺の尻尾はスカされた。ブースターの勢いのまま俺はカオデカを通り越してしまった。緊急停止をかけ振り向いた時にはもう遅かった。
『異常個体の統合開始を確認。』




