第109話 不死身の男、ゾンビ
「スーパーヒーロー着地ッ!……アークソクソクソクソ……ウゥゥ……この着地の仕方、やっぱ実戦向きじゃないっての。でも、かっこいいからいいか。製作陣には拍手と手榴弾を届けたいね。」
三点着地……いや、片手・片足・膝・つま先使ってるから四点着地か?なんにせよ、屋上の貯水タンクの上から着地してかっこよく悶絶しながらアンディーは立ち上がる。元気そうで何よりだが、何でここにいるんだ?
「ええ……アンディー、お前が来るのかよ。どうせ来るなら他のやつらも呼んで来いよ。というか、他の奴らはどこ行った?今頃なら、ほとんどの戦闘は終わってるはずだろ。」
そう言うと、アンディーは少し真剣そうな顔で話す。
「実はな、少々前にクラスラインに大変ヤバめな情報が入った。みんな戦闘中でボッチだった俺ちゃんはその対処のために、旗持ち逃げ全振りの東雲・馬場ペアを拠点方面に何とか走らせていたのだよ。他の奴らももう拠点方向に向かってるし、ここに残っているのは俺ちゃんたちだけよ。」
「は!?えっ、ちょ、ちょっと待て、旗はどうした!?拠点の位置がバレるだろ!?」
「そこは安心してKO。俺ちゃんがしっかりと握りしめてる。」
確かにアンディーの後ろポケットに赤旗が入っている。獄堂には見えないようにしてる辺り、そこらへんはちゃっかりしてるんだよな。まあ、口頭で俺に伝えてる時点でアンディーが赤旗を持ってることが獄堂にはバレバレだが。
「グフハハハ!!!まさにカモがネギを持ってやって来おった!そこの道化ゾンビ、アンディーとかいったな。ここに来たことを地獄の底で後悔させてやろう!」
「悪いけど、俺ちゃんは地獄から使わされてきた死者だから。代わりにお前が地獄に行きやがれ。」
さっと俺に赤旗を投げ渡し、チェンソーを吹かしながら、アンディーは獄堂へと向かって走る。
「気を付けろアンディー!そいつは攻撃も効かねえし、攻撃も重い。悔しいが、俺らに打つ手はない!」
「皆まで言うな!ここは、トラディショナルでデンジャラスな作戦で行く!」
「はあ?トラディショナルでデンジャラス?」
「俺ちゃんが無限に特攻する作戦よッ!」
「ゾンビ戦法じゃねえか!」
「破道獄堂!ウォームボディやらキュアードとか知らないけど、俺ちゃんは基本バラバラにされても再生する不死身ちゃんだから。そこんとこシクヨロ!」
アンディーは一気に距離を縮め、獄堂の懐に入りチェンソーを振り上げる。
「よく喋るゾンビだ!その口から粉砕してくれる!」
しかし、獄堂が棍棒を振りかざしてチェンソーを上から叩きつける。そしてそのままアンディーの体にチェンソーを押し込みめり込めせ、回転するチェンソーの刃がアンディーの傷つかせ出血させる。さらに獄堂は棍棒を振り上げてアンディーの下あごに強烈なアッパーを食らわせる。その衝撃でアンディーの下あごが取れ床に落ちる。
「ひ、酷いな!俺ちゃんのアイデンティティたるお喋りを封じるとは!」
アンディーは床に落ちた下あごを拾い、下あごがあった場所へと戻すと、アンディーは一気に距離を詰め、チェンソーを振り上げる。獄堂は棍棒を振りかぶってそれを真正面から叩き落とした。金属と金属がぶつかる甲高い音が響き、アンディーの体が真っ二つに裂ける。血飛沫が屋上に散り、チェンソーが床に転がる。
「グフハハハ!一撃で両断とは上出来!」
だが、次の瞬間、裂けた体が蠢き、肉片が這い寄って元通りになる。アンディーはニヤリと笑い、チェンソーを拾い上げて再び突っ込む。
「まだまだぁ!」
「しぶとい奴め!」
棍棒が横薙ぎに振るわれ、アンディーの頭部だけが宙を舞い、落下地点にアンディーの体が移動し、首が着地すると同時に体がくっついて再生。そのまま左のホルスターから左手で拳銃を抜き、早打ちする。放たれた弾丸は獄堂の脳天にクリーンヒット。そのままぶち抜かれるかと思ったが、獄堂の脳天は傷一つついていない。やっぱこいつおかしいよ。
「げぇ……俺ちゃんの脳天直撃早打ちでもダメ?もっといろいろ試すか。よいしょ。」
アンディーは、銃をホルスターに入れると、軽いノリで腹を扉のようにこじ開ける。そして細長い何かを……いや、あれ小腸と大腸じゃね?二つ合わせて取り出した全長約7メートルの腸。血こそ付いているけど茶色い内容物はしっかり除去されている綺麗な腸を鞭のようにしならせブンブンと振り回して獄堂を威嚇する。
「さあ、俺ちゃんの小腸と大腸を使った、績きゅん仕込みの超腸鞭をカニバなリズムで叩き込んであげよう!」
音速の一撃、確かにそれは試してないな。鞭の先端は攻撃の際に一時的に音速を超える。その切れ味は非常に鋭く、鞭で大根やアルミ缶などを切断することができるとか。だが、鞭の先端速度が音速を超えるのは、投げ放たれた鞭の先端が後方から急速に引っぱられて回れ右をするその一瞬だけ。素人がそう易々と連続して出せる攻撃じゃない。アンディーは何かを探っているのか?
アンディーは左手で鞭を振り回し、獄堂へと迫る。獄堂は、その奇怪な攻撃方法に若干引きながらも、うなる鞭を棍棒で叩き落とし、寄せ付けない。いや、近寄りたくなのかもしれない。それは俺も同意見。純粋に内臓を振り回している光景が異様だし、ゾンビの内臓に触れられたいとは思わない。
獄堂はアンディーの攻撃の隙を突いて強力な一撃を何度も叩き込んだ。しかし、何度も何度も叩き込み、アンディーの体がバラバラになろうと、即座にアンディーの体は元通りにくっついて再び獄堂へと襲い掛かる。しかし、再生しても体力は削れていく。アンディーは痛みに耐えながらも攻撃を続ける。
「ぜぇぜぇ……お前もそろそろ体力現界なんじゃなーい?」
ボロボロのアンディーの攻撃は最初とは比べ物にならないほどに力が入っておらず、鈍かった。
「ちっ……」
しかし、最初と違うのは獄堂も同じだった。
なんだ?やけに避けるようになった?あいつほどのタフネスなら避けるまでもないような攻撃のはず。何かやつのZONEの発動条件に引っ掛かるような行動をアンディーがしているのか?
俺が考察に頭を割き始め、ある一つの結論にたどり着こうとした矢先
「いい加減……鬱陶しいわ!」
獄堂が鞭の合間を縫うようにアンディーの飛び込む。そして、さっきのように棍棒を振り上げようとしたその瞬間、やつの棍棒の表面が膨れ上がる。そして、まるで風船のように膨らんだそれをアンディーの右手に持つチェンソーを使って、風船を割るように破裂させた。そして、爆ぜた棍棒から色付きのガスが噴射された。
「吸うなアンディー!」
「へ?」
しまった。アンディーが至近距離でもろ食らっちまった。おそらくあれは、屋薬のZONEで作ったであろうガスだ。既に空中に霧散しているが、一度でも吸い込めばよほどの激痛でもない限り耐えることはまず不可能だ。俺は右腕の負傷が激しかったがアンディーは……あれ?これ大丈夫じゃね?
「グフハハハ!!!そいつは、屋薬が独自に調合した高濃度の麻酔ガスよ!一瞬でも吸い込めば五分で立てなくなり、効果は1時間続く。これで貴様はこれ以上戦闘できまい!」
「俺ちゃん、だう……ん……」
アンディーは地面へと倒れる直前に目で俺へと合図を送った。俺はその意図を理解し、まるで仲間が死んだようなリアクションで
「アンディー!!!!」
と迫真の演技で叫ぶ。俺とアンディーの迫真の演技に騙された獄堂は、アンディーに目もくれず、俺の方へと歩みを始める。
「さあ、これで一人始末完了。残るは星谷世一、貴様だけだ。」
「よくもアンディーを……!」
俺は獄堂へと睨みを利かせ、機械剣を引き抜き獄堂へと斬りかかる。獄堂は避けることなく、俺の攻撃を体で受け止め話し続ける。
「無駄だと言っておるだろう!貴様の全力の攻撃は吾輩には聞かぬと!往生際が悪いぞ星谷世一!」
「そんなことわかってんだよ!俺の全力でお前を倒せないことぐらい!わかってんだよ!」
一度距離を離し、右手のマンティスガントレットを起動し、左腕のマンティスガントレットから電力を供給し、右手に電力を溜める。そして、溜め終わった電気を機械剣へと纏わせもう一度、必殺の構えを取る。
「だから、この一撃に全てを込めてぶちのめす!」
「グフハハハ!!!威勢良し!その全力を吾輩の身にぶつけ、己の無力に打ちひしがれ絶望の淵へと沈みゆくがいい!」
避ける気は無しか。
俺は獄堂に向かって全力で突進する。機械剣に纏わせた電気はバチバチと音を立て、青白い光を放ちながら獄堂の体を斬り裂く軌道を描く。獄堂は棍棒を構え、俺の攻撃を受け止める姿勢を取る。だが、斬りかかる瞬間に、俺は機械剣を思いきり投げ捨てた。
「なにッ……!?」
獄堂の目が驚きに見開かれる。剣を捨てた俺は、代わりに右腕を軽く振り、獄堂の腹を軽く小突くような、超弱いパンチを放つ。まるで子供の遊びのような、力の入っていない一撃だ。
「グフッ……!?」
しかし、その小突きが獄堂の体を吹き飛ばす。獄堂の巨体が後ろに飛ばされ、屋上のフェンスに激突してへこむ。棍棒が手から離れ、転がり落ちる音が響く。獄堂は信じられないという表情で俺を睨む。
「まさか貴様……吾輩のZONEを見破ったとでもいうのか……!?」
「そうだよ。お前のZONEは、強い攻撃を弱く、弱い攻撃を強くするあべこべなものだろ?俺も最初は絶望したさ。全力を出した攻撃を尽く真っ正面から受けられて、反撃に食らった棍棒の軟そうな攻撃がアホみたいに重くてよお。最初は、屋薬のガスを浴びた影響だとも考えた。だが、あんた避け過ぎた。アンディーの弱攻撃をよ。」
「っ……!?」
「アンディーのゾンビ戦法を傍から見た時はわかりやすかった。アンディーの鞭の攻撃とか銃撃ではびくともしなかったが、ボロボロになったアンディーの弱弱しい攻撃はしっかりと避けてたからな。アンディーが来てくれなきゃ、俺はあの場でやられてただろうな。」
「フフフ……半分正解と入ったところだな。」
獄堂はゆっくりと立ち上がり、棍棒を拾い上げる。表情は余裕を装っているが、声にわずかな震えが混じっている。
「だが、それを知ったところで何だ?貴様の攻撃が吾輩に通じるとでも?」
「いや、通じるさ。お前のZONEの詳細は知らないが、弱い攻撃を強くするなら、俺のこの小突きは十分だ。」
獄堂の目がわずかに揺れる。俺は右腕の痛みを無視し、再び構える。獄堂は棍棒を握りしめ、俺に向かって突進してくる。だが、その動きは先ほどより慎重だ。弱い攻撃を避けようとするあまり、隙が生まれている。
「貴様……!」
獄堂が棍棒を振り下ろす。俺はそれをかわし、軽く小突くようなパンチを腹に当てる。獄堂の体が再び吹き飛び、フェンスに激突する。今度は棍棒を落とさず、すぐに立ち上がるが、息が荒い。
「くそ……この痛み……!」
「どうだ?お前のZONEが仇になったな。」
獄堂は悔しげに歯を食いしばる。だが、次の瞬間、棍棒を投げ捨て、俺に飛びかかる。棍棒を捨てたことで動きが速くなり、俺の小突きを避けようとする。だが、俺の動きも速い。左腕で機械剣を拾い、電気を纏わせて獄堂を牽制する。
「貴様のその剣は強い攻撃だ。吾輩には効かぬわ!足が動かない……ぬっ!?」
「俺ちゃんだよ」
獄堂が棍棒を拾ったその直後、待機していたアンディーが、両足を両手でガッチリホールド。一瞬の隙を見逃さず、俺は獄堂の腹に小突きを入れる。獄堂の体がまた吹き飛び、アンディーは手を持っていかれる。
「ぐあっ……!」
「俺ちゃんの手が!?!?」
獄堂は地面に転がり、棍棒を握りしめる。俺はゆっくりと近づく。
「もう終わりだ。降参しろ。」
獄堂は地面に膝をつき、息を荒げながら笑う。
「フフフ……貴様、よく吾輩のZONEを見抜いたな。だが、まだ終わっていない。」
「何?」
獄堂は棍棒を地面に叩きつけ、棍棒が再び膨れ上がる。さっきのアンディーへの攻撃と同じだ。棍棒が破裂し、ガスが噴射される。
「またガスか!」
俺は鼻と口を覆い、後退する。だが、獄堂はガスを噴射しながら俺に近づく。ガス自体に痛みなどは感じなかった、ガスが濃密すぎて視界が塞がれ、完全に屋上がガスに包まれ、獄堂の位置を見失う。
「くそ、どこ行った……!」
そして、ガスの霧が晴れた頃、視界に写ったのは獄堂が俺たちの赤旗を手に取り
「──帰って来なさいッ!!!!!!!!!!!!!」
ヘビメタチックな派手ポージングと共に紫の光の軌跡を残しながら大府駅方面へと消えていく。くそっ!赤旗を盗まれちまった!あいつ、棍棒を爆破させたのは俺の視界を奪うためだったのか!?追いかけたいが、時間も体力も残ってねえ。くそっ、悔しいが、赤旗は諦めて拠点に戻るしかないか……
「ハッハッハッ……すり替えておいたのさ!」
そう言ってアンディーが貯水タンクから本物の赤旗を取り出す。俺は一瞬ポカンとして、それから笑った。
「お前、いつすり替えたんだよ!」
「貯水タンクから前口上してる時からだよん。これから戦闘するのに赤旗持って戦うとか優柔不断にもほどがあるし。」
「ナイスアンディー!これで赤旗は入手できた!」
そして、一安心したところにアンディーが言いにくそうな感じで言った。
「クラスラインの話なんだけどさ。すっごく言いにくいんだが……拠点が狩北の襲撃を受けた。」
「え……?」
「詳しくはわからないけど、クラスラインでみんなが大慌てだ。神楽坂が来たってよ。」
「神楽坂……!くそっ、急いで戻るぞ!」
俺たちは屋上を飛び出し、階段を駆け下りる。心臓が激しく鼓動し、右腕の痛みも忘れるほどに焦りが募る。拠点が襲撃されたということは、旗が危ない。いや、それ以上にみんなの安全が……
学校の正門を出て、樹海を駆け抜ける。木々がぼやけて見えるほど速く走るが、頭の中は混乱でいっぱいだ。神楽坂の目的は何だ?俺を狙ってるのか?それとも旗か?いずれにせよ、急がねえと……
樹海を抜け、大府東高校の正門が見えてきた。だが、そこには煙が立ち上り、戦いの痕跡が残っている。心臓が止まりそうになる。
「みんな……!」
俺は叫びながら中へ飛び込む。果たして、拠点の状況は……
パロディ全開の男!アンディッ!を書いてるとですね、楽しいんですけど、一生書籍化とか無理だよなあって思う。どこに頭下げればいいか分かりきってるけど数が多すぎる。銀魂みたいになる。あと、単純に描写というかグロい。
ちなみに、偽の赤旗には「偽物!」と書かれたシールが貼ってある。




