第108話 キューティクルでグロテスク
「なんだ!?」
けたたましい爆発音と共に学校全体が揺れる。爆心地は、さっきまでいた屋薬の教室だろう。冰鞠は大丈夫だろうか?一旦戻って様子を確認すべきか……いやいや、せっかく冰鞠がくれたチャンスを安々と無駄にはできない。
屋上へ続く階段の踊り場に立つ。重たい鉄製の扉は鍵がかかっているようにも見えたが、引くとガタつくだけで開かない。建付けの悪いタイプだ。ならば、仕方なし、伝家の宝刀を使うか。
「ドーン!……おっ、開いてんじゃーん!」
蹴り開けた勢いのまま屋上へ飛び出すと、監獄真面目と破道獄堂が運動場を見下ろして立っていた。真面目に制服を着ている監獄真面目とフニャっと曲がった柔らかいクッションのような見た目の白ベースに緑や黄色の水玉模様が入ったキューティクルな棍棒にヘビィメタ風のグロテスクなファッションという乖離しすぎた属性に目眩がする。
「どうやら、石田たちがよくやってくれたみたいだぜ?残るは、お前らだけだ。」
「貴様の言う通りのようだな。だか、吾輩らの手駒たちはいくら倒れようと、再びゾンビの如く立ち上がる。手駒は所詮手駒よ。期待など最初からしとらんわ!」
「彼の言う通りのです。そして私達の目的は青旗を入手すること。それは既に達成されています。」
そう言って真面目は手に握りしめた青旗を見せつけるように取り出す。
「お前が持ってたのか!」
「その通りです。」
「だが、馬鹿正直に見せるのは愚策だったな。そっちの一人の能力は既に割れてる。そしてもう片方は、ひょろひょろの肉無し。こっちはガロウを負かしたことのあるZONE無しのフィジカルモンスター。どっちに勝利の女神が微笑むか、戦うまでもないことはわかるな?」
俺はマンティスガントレットを起動し、横壁を左手でぶん殴って破壊して見せる。フィジカルを見せつけて、少しは怯んでくれるといいんだが……
「どうする?このまま旗を渡して降参するか、ボロボロにされて旗を奪われた挙げ句、拠点の位置までバラされるか、どっちがいい?」
「グフハハハ!面白いことをいうな。吾輩らがそう簡単に旗を思うなよ小童が!」
「ポイントを確実なものとするため、私は拠点へと帰らせてもらいます。では、獄堂君。後始末はよろしくお願いします。──帰って来なさい。」
真面目は獄堂の肩に手を置くと紫色に発光したと思うと、紫色の軌跡を残しながら大府駅方面へと消えていった。今のはワープ系の能力か?だとしたら、今の方向に南高の拠点があるってことだよな?今度偵察班に頼んで見てもらうか。
「お前ら馬鹿だろ。これでお前らは、粗方拠点の位置も割られ、数的有利もなくなった。こっちは旗は入手できないし、真面目が消えたおかげで俺らは逃げられる。お互い旨みはもうない。」
残った獄堂は一人にも関わらず、満面の笑みで棍棒をぶん回し、狂気じみたテンションで叫んだ。
「その通りだ。これで旗が盗まれることもなければ、他の奴らがここに登ってくることもない。気兼ねなく、貴様を地獄へと叩き落とせるというわけよ!」
啖呵を切った瞬間、獄堂が飛び込んでくる。俺は左手で機械剣を引き抜いてガードする。ガードする必要が無いほどに軟い攻撃だと思っていた。だが、やつの棍棒は想像以上に
「重っ……!?」
「グフハハハ!!!……吾輩のこの一撃を耐えてなお踏み止まれるフィジカルか。実に面白いぞ、伊達に狩高の生徒ではないようだな!」
なんでこんなやつに力負けしてるんだ!?佐々木と同じく技能系……?いやいや、技能系ならこっちが力負けするようなことはない。だとしたら肉体系か、こんなヒョロガリからはあり得ないくらいのパワー。通常のフィジカルだけなら、あの黒石ゴリラ以上のパワーがあるにもしれない。
「ナメんな!」
機械剣にマンティスガントレットのブレードの手持ち部分を繋いで蟷螂モードへと切り替えてマンティスガントレットから電気を流し、機械剣全体を包み込んでいく。そしてそのままパージボルトで電気を放出させ、電撃を浴びせる。
「パージボルト30%!」
電撃を浴びた獄堂の体からは黒い煙が立ち昇っていたが、それを意に介さぬように獄堂は棍棒を振り回し攻撃を続ける。
「静電気でも流したか?効かぬわぁ!吾輩を倒したくば、落雷以上のものを持ってこい!」
どんなタフネスしてんだ!?30%なら100%感電して気絶するはず……黒石のゴリラボディでも一撃入れたら気絶したのに、この獄堂とかいうやつのZONEの底が知らない。流石はブラックアウト幹部を名乗るだけあるってところか。
「なら、こいつでどうだ!」
振るわれる棍棒を避け、右腕のマンティスガントレットを起動。激痛に耐えながら、右手で機械剣を引き抜き、点火させる。炎が機械剣を覆い、その刀身を炎の赤と電気の光に色付く。点火とパージボルトの合わせ技。火野さん戦以来のお披露目!
「阿修羅電斬撃!オォォラァァァ!!!!」
両の手から放たれる阿修羅の如き斬撃の嵐を獄堂の武器にぶつける。連戦続きではあったが、火野さんだって身をよろけさせるほどの連続攻撃だ。これならやつを倒せるはず。だが、やつは身をよろけさせるどころか、その場で立ち尽くして、正面から受けきりやがった。
「これも効かねえのか……」
「貴様の全力では吾輩を倒すことは不可能!」
こっちは全力出してるのに、獄堂の野郎はまるで空気に揺さぶられて踊るエアロダンサーのように気が抜けた動きから繰り出される黒石並みのパワーの連打。柔らかい棍棒を叩き切ろうとも、むしろ押されて攻撃のリズムが崩れ、向こうのペースに乗らされる。このままだと、いや、このメンバーでこいつに勝てるのか?近づけさせないことはできるだろうが、それは勝ったとは言えない。旗は入手できないし、ここで戦うのは得策じゃない。逃げるか?この負傷で?無理だ。今でさえ、やつの攻撃に対処するのに精一杯なのに、逃げるなんて夢のまた夢。
「星谷世一、思い知っただろう!貴様の全力では、吾輩を倒すことは不可能だということを!さあ、吾輩に屈服し貴様らの拠点の位置、旗の場所、ZONEの詳細、その全ての情報を献上するがいい!」
「誰が情報を渡すかよ!」
これはあくまで対クリーチャー用の火力補助。対人相手に使わないと決めてたが、早々に使う機会が来ちまった。コンクリを破壊するのと溶かすのとでは訳が違う。破壊とは物理的衝撃のこと。だが溶かすのは熱エネルギーによるもの。前者は治療でどうにかなるだろうが、後者に関してはその再生そのものを封じる恐れがある。
攻撃を躱しながらある程度の距離を取り、ビームライフルを取り出して引き金に手をかける。
確かに獄堂のZONEは強い。だが、戦闘面は大雑把で大振りの素人だ。避け切れないわけじゃない。そして、それは攻撃だけじゃなく、防御も同様。素人の反応速度で避け切れない。だから、あくまで足止めだ。狙うは足!さあ、避けてみろ。いや、避けろ。危機を感じて回避してみろ!
「食らえオラァ!!」
発射される光弾。コンクリならジュッ!と音を立てて溶けるレベルの熱量。それが獄堂の右足へと着弾する。やはり、やつの運動能力ではこの光弾を避けることはできなかった。しかし、やつが燃えたのは衣服の一部分のみ、皮膚が焼けることが無ければ、爛れることもない。そして、ヤツは余裕の表情。
「マジかよ……」
ZONEの有り無しでここまで一方的な差になるのか。オーバーゾーンを切るか……いや、あれを切っても精々思考力、反応速度とかの戦闘に直結した能力じゃないし、かといって尻尾。確かにパワーはある。だが、現状パワーで押すことができてないし、切り札である尻尾を知られたらむしろマイナス。残り時間はあと1時間を切っている。無理をしてでも逃げるが勝ちか……
「――待て!」
屋上の貯水タンクの上に変なポーズを取りながら叫ぶ人影が現れる。
「何者だ貴様!」
「あどけない子供の命を脅かすブラックアウト、許せん!冷血動物苔魔猪殺しの専門家、孤独な少年のためにむせび泣き、悪のカラクリを粉砕する情け無用の不死身の男!」
「長い!!」「長いわ貴様!!」
「え……あ、そう?じゃ、縮めて――不死身の男、アンディッ!」
大学用の小説に追われながら書いてます。馬場と東雲?やつらは逃げに徹してます。




