82 不穏な秋 ミサ返り討ちにする。
ミサ「どんどんバトルよー」
ライオネル「まじでやめろ。」
貴族、それ4家の人間を狙った明らかな犯罪行為。これは国への反逆である。だから事件のあらましは王城へ連絡する必要がある。
「よくやった、あとは任せてくれ。」
「ああ?」
「いや、その男の尋問のことだ。だからその剣をしまえ。」
警邏に男を引き渡したあとで、事態を重く見た兵士さんに連れ来られた王城の一室、そこにやってきた殿下相手にメンチを切った私はラグに頭をはたかれた。
「ごめんって。」
「不敬罪で捕まるよ、そのうち。」
弟よ、その時は殿下の味方をするんだろうなー。うん止めてくれよな弟よ。
「で、今回の件、殿下は何か知っているんですか?」
「おまえ、なんだその態度。」
べーつーにー、ソファーに座ってふんぞり返っているだけだよ?
「まあいい。お前たちも知っていると思うが王都で騒ぎが起きている。」
興味ないのでスルー。
「ええっと、確か伯爵家の子息が誘拐されたとか、子爵家の横領が見つかったとか。断片的に見聞きした噂だけですけど。」
「ああ、下位貴族というのは憚れるが伯爵以下の貴族家でトラブルが相次いでいる。幸い、誘拐された子息は無事に保護されたし、横領も微々たるものだ。だがそれをうるさく騒ぐ輩がいる。」
「王都を騒がせて、警備の隙を作る?」
「そうだ、そしてその隙をついて。」
「私たちが襲われたと。」
どうにもきな臭い話よね。
「なんかピリピリしていた空気だとは思っていたけど、まさかこんなことになっているなんて。」
「そうだな、まさか4家の人間を狙うとは。」
「「命知らずだ。」」
期せずして私と殿下の言葉がかぶる。
4家の人間に手を出すこと、それは国家への反逆行為である以前に圧倒的に難易度が高い無理ゲーだ。王都の治安を担うロムレス家の治安部隊の実力はほかの4家と比べても遜色なく強い上に横の連携が強い。何かトラブルがあれば即座に王都中に連絡が届き対策が立てられる。だから不審者が王都に入ることがまず無理ゲー。仮に侵入できたとしても殿下やマリアンヌ様はともかく、ファルちゃんも私たち姉弟も本来なら幾重もの護衛がついている。よほどの腕と覚悟がなければまず成功しないだろう。
「だが、そんな命知らずが王都に潜伏している。これは確定情報だ。」
「へえー。」
潜伏しているということは、王城に裏切者がいる。暗に殿下はそういっているということだ。だとしてもあの程度の刺客でなんとかなると思うのは不本意だ。
「おいおい、悪い顔になってるぞ。くれぐれも。」
「わかっています。ソルベの方でも護衛を増やすとここに来る前に連絡をもらっています。望まれば操作には協力しますけど。学生にそれを望むなんてことは。」
「ああ、もちろんない。俺もマリアンヌもほとぼりが冷めるまで王城から出るなと言われている。解決はまだ俺たちの仕事じゃないとな。ファムアットの方にも連絡が行った。」
となると事件が解決するまでファルちゃんも実家から帰ってこないか。
「ラグ、残念ね。やっぱり一緒に行くべきだったのでは?いっそ今から行くのもいいわね。」
「いやいや、この状況で王都から離れるなんて。」
「殿下せっかくですので、ラグはこのまま城に待機させてください。いざというときは盾にでもつかってください。」
「ちょ、姉さん。」
「私はゲストハウスに忘れ物を取りに行ってから、王城に戻ります。」
「そうか、なら護衛を。」
「城外にラニーニャが待機しているはずです。だから大丈夫です。」
答えは聞かずに執務室からでる。わたしのこういった行動は珍しくないので驚きつつも城の人達が私を止めることはない。
「ソルベの扱い雑すぎないかなー?」
ラグは今頃殿下が止めてくれているだろう。すたすたと城の出口へ向かえば。顔色を悪くしたラニーニャが待っていた。
「おじょーさーまー。ご無事で。」
「ありがとう、オオカミよりも歯ごたえがない相手だったから大丈夫。」
「でーすがー。」
ごねるラニーニャの肩をポンポンと叩き、用意させておいた馬車に乗る。
「一度ゲストハウスに戻るわ。そのあとは王城で待機らしいからあなたも荷物をまとめてね。」
「はい。」
別邸へ行くという選択肢もあるけれど王都にいるソルベの要人が私とラグだけなら王城で保護するのが確実だ。そのあたりは事前に王城と別邸で話が済んでいるのだろう。ラニーニャもそれ以上はごねずに馬車に乗り込む。
「ベルカは?」
「ソルベについたと連絡がありました。無事です。」
「まあ心配するだけ無駄でしょ。」
「またーまたー。」
馬車を走らせるラニーニャにベルカの動向を確認する。思えばベルカがソルベに派遣されたの相手の策略だったのかもしれない。
ただやることがあまりに雑というか中途半端なんだよねー。それだけ王都の警備は厳重なのか、それとも。
「お嬢様ー、そろそろつきますよ。」
と取り留めないことを考えているとゲストハウスにはすぐついた。そして・・・
「あからさますぎない?」
「いやいやー、わかってて、もどったのでは?」
言いながらいつの間にかいつものハンマーを構えるラニーニャ。別にわがままな主に腹を立てたわけじゃなく、迎撃のためだ。
「私は右、あんたは左よ。」
「私としてはーすべてまかせていただきたいんですけーど。」
「だーめ。」
冗談半分なやり取りをしながら私はゲストハウスの右側へと走り出す。
「くくく、挑発に乗ってきたぞ、囲め。」
聞こえてくるのは闇に紛れてこちらを狙っている10の目。
「また5人か、まあラニーニャの方も合わせれば10人ってことかな。」
暗闇で潜む相手に氷で生み出したナイフを投げつける。
「ぐっ。」「ぐえ。」
「な、何でこちらの居場所が。」
馬鹿みたいに声を出すからよ。
ドーーン。
と思ったら反対側で地面を揺るがすような大きな音がする。うん、ラニーニャも大丈夫そうだ。
「なんだよ、腕自慢って聞いたけど困難なんて聞いて。」
とか言っている間に残った3人のうちの1人に接敵してその喉を切り裂く。首を切り落としたいところだけど手もちの剣が痛むのはなんかいやだ。
「ひ、ひえ。」
怯える二人に再び氷のナイフを投げて命を刈り取る。
うーーん、先ほどはラグも狙われたこともあって血が上ったけど。
「やっぱり大したことないなー。」
それなりに動けそうだけど、一般兵士かそれ以下。チンピラが黒い服を着ているのと変わらない。
「ひどいなー、これでも王都のスラムでは顔役をしているような人達なんですよ。」
「ふーーん。」
突然近寄ってくる声に私は驚くわけでもなく、ゆらりと構える。
「広場のも使い捨てってこと?」
「さて、なんのことでしょう?」
ニコリと笑う男は、リラックスしたようにこちらを見ていた。
「噂にたがわぬ腕前ですね、ミス・ソルベ。」
拍手をしながらこちらに近寄るとその姿が分かる。なんとも特徴の薄いというか強そうには見えない街中ですれ違えば気づかずに忘れてしまいそうなそんな希薄さ。なのに、目をそらしたら致命傷を負いそうな血生臭い気配。
なるほど、本命はこれか。
流れは見えないけど、直観でわかる。
「主力を引っ張り出せたなら、忘れ物は回収ね。」
にんまりと笑いながら私は剣を構えるのであった。
動きが少ないとどうしても会話が多くなってしまうのが悩み。
そろそろ黒幕とか登場、そんなこともない。




