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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
夏休み編

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80 ミサ 夏休み 後片付けでもめる。

どうしてもファルちゃんの視点を先に書きたかった。

片付けまではお祭りです。

 準備や本番で色々とイレギュラーなことがあったけど、夏祭りは大成功に終わった。それも近年で見られない演出と盛り上がりで領民の人達も大満足だったわけだけど。問題が、それもかなり大きな問題が残った。

「おも、これ氷だよな、どうしてこんなに重いんだよ。」

「てか地面に固定されてないか、ミサさま、どうなんですかー?」

 祭りの広場で大声を上げる領民や兵士たち、彼らがしているのはお祭りの片付けだ。

 お祭りテンションで結構好評だった私の調象だけど、熱も冷めれば通りを塞ぐそれらは邪魔でしかない。

「やだー、これのこーす。」

「お家持って帰る―。」

 砕いてしまえばいいのだけれど、それに待ったをかけたのは子供たちだった。娯楽の少ない彼らにとって彫像は楽しさと思い出の象徴であり、まだまだ眺めたり遊んだりしたいものらしく、お気に入りの彫像の前で大人をけん制している。

 ちなみに女子に一番人気なのはデフォルメしたクマさんで、男子はソルベ城とリアルな狼が人気を分けている。ってそれはいいか。

「うーん気合入れて作ったからな―。」

 子供たちの抵抗はささやかなもので、問題は予想以上に硬い彫像は壊すどころか運ぶことも難しいということだ。近くの彫像をコンコンと叩けば金属のような手ごたえがかえってくる。うん、気合いいれたから一か月は溶けないぞ、これ。

「火であぶるには燃料がもったいないよねー。」

「魔法で溶かすにも限りがありそうです。あとなんか呪われそうです。」

 ファルちゃん、流石にそれはないから。

「いやです、こんな芸術品に魔法を打ち込むなんて私にはできません。」

 一番可能性があるとしたら火魔法が得意なメイカちゃんだけど、彼女は子供たちと一緒に撤去の反対をしている。意外とそういうところがあってびっくりだ。

 といった、物理的、心情的な問題ゆえに、彫像の片付けは私たちに押し付けらた。

「姉さん。」「お義姉様。」

 はい、私が父様にげんこつとともに言いつけられました。みんな(メイカちゃん以外)はこうして手伝いに来てくれているのだ。

「とにもかくにも壊すしかないだろ。とりあえずは人気のないもので試してみるか?」

 一番乗り気なのは、ライオネル殿下だった。昨日の試合のダメージも一晩寝たら回復したらしく、朝一番に手伝いを申し出てくれた。

「あっライオネルでんかだー。おはよ。」

「殿下坊ちゃん、もう大丈夫なのかい?」

「殿下、次は勝てるさ、勝負ってのは、最期の最後で勝てばいいんだ。」

「また、殿下に賭けたのに大損じゃねえか。」

 やだ、うちの領民てはフレンドリーすぎない。不敬罪とかにならないかしら。

「ははは。民衆に慕われる王というのは理想だろ。」

「殿下、威厳が目減りしている事実を受け入れてください。」

 マリアンヌ様もあきれ顔だ。ちなみに彼女はゆっくりと彫像を見たいとのことで参加してくれた。

「では、殿下一先ず、無難なものを試してみましょうか。」

「おう、任せろ。」

 バチバチにやり合ったようで殿下は私に対してわだかまりがない。むしろお互いに全力でじゃれ合えるので嫌いではない。尊敬はないけど。

 ちなみに、ちゃんと加減したよ、むしろ私の拳の方がダメージあったからね。まあ多少のダメージは身体強化の魔法でケアーした後でゆっくり眠れば回復する。だからこそ私も殿下のやり取りはだんだんと派手になっていくわけなんだけど。

「では、殿下、こちらのマッチョマンをやってください。」

「こ、これはまた見事な筋肉。ってお前こそ不敬罪で罰してやろうか?」

 そんな殿下にお願いしたのは、マチョな男の像だった。全体にがっしりとして強そうだけど、剣とかを持たせなかったからあまり人気がない彫像。どことなく顔が殿下に似ていなくもない。

「いやいや、流石に殿下たちをモデルにはしないですよ。ほんとですよ。」

「・・・そういうことにしておこう。」

 そういいながら殿下はマッチョ像の前に立ち観察する。

「これ、持って帰れないか?」

「殿下?」

「わかっている、そうにらむなマリアンヌ。」

 そんなやり取りの中殿下が拳を握りゆっくりと彫像にあてる。

 ポン。そんなゆるい音が聞こえたような錯覚を覚えるほど、気合いの入っていない攻撃。だが、直後に彫像にヒビができ、そのまま粉々に砕けていく。

「ふっ、魔法を使っていいならこんなものだ。」

「すご、ライにい、殿下一体どうやって。」

「ふふふ、すごいだろラグ。音魔法にはこういう応用があるんだ。」

 真っ先におどろくラグに、殿下が得意げに解説をする。

「音とは空気の振動だ。そしてクラウンの魔法はその振動を操作する。だから拳に振動を纏わせれば動かない的ならばこのように。」

 そう言って近くの彫像を次々に粉々にしていく殿下。うん、これ人に向けてうっちゃダメな奴だ。

 「音魔法」というのはクラウンのお家芸だ。それをほいほいと見せていいのかと思わなくもないけど楽しそうだからよし。

「殿下すげー。」

「かっこいい。」

「はは、危ないから離れて見ていろよ。」

 まるで魔法のようなパフォーマンスは子供たちの心をがっちりつかみ、いつの間にか子供たちの半分以上は殿下に群がっていた。ぐぬぬ、なんか悔しいなー。

「なら、私も。」

 とか思っていたら、ファルちゃんが両手に剣を携えて彫像の前に立つ。

「せい。」

 交差するように素早く降られた剣の動きを終えた人間は限られるだろう。だが結果は、

「おお、一発、いや二発か。」

 彫像は瞬く間に砕け散る。

「物体というのは何かと当たると一瞬こわばるんです。その瞬間を狙って次の手を打てるとこのように固い物ほど砕けやすいんです。」

「やるな、ファル。」

 確かに、鍛冶仕事は金属を叩くことで硬く丈夫なものを作る。だが硬すぎるものは案外外からの衝撃に弱いということだ。

「ってことは、私も。」

 面白くなって私も彫像にこぶしをくっつける。そして、一気に力を籠める。

「はっ?」「ええ。」

 私の行動に一番驚いたのは殿下とファルちゃんだった。まあ二人の術理を真似た一撃だしね。

「すげえ、ミサ様、触っただけで氷をくだいたぞ。」

「最初からそれやってくれよ。」

 ほとんどの人間には私が魔法を解除したように見えただろう。だが

「おい、ファルベルト今のって。」

「純粋な体術ですね。魔法は使っていません。」

 二人は気づいていた。正直いって私は氷魔法以外は苦手だ、身体強化はできるけどそれなり。だけど体の使い方は分かる。今のは足から全身の筋肉を利用した寸打という技だ。遠しの技術も応用してインパクトの衝撃を彫像の中に発生させて構成そのものを破壊する。

 まあ動かなくてある程度硬い素材限定の技だけど、うまくいって何よりだ。

「お義姉さま、それって武術でも奥義とかそういうレベルですよ。」

「でも、動く相手じゃ使えないよ。殿下やファルちゃんのはまだ実戦的じだから。」

 動かない敵、硬いだけの敵なんて普通はいない。あるとすれば処刑とか、うん物騒だな。

「どの道、使いどころには気を付けてくださいね、3人とも。」

「はい、マリアンヌ様。」

 あきれ顔のアリアンヌ様だけど、私たちの行動には慣れたご様子だった。

「とりあえず、分担して壊して回るぞ。他のものは俺たちのフォローを頼む。」

「はい。」

 ここぞとばかりにリーダーシップを発揮した殿下の指揮のもと、お昼前にはすべての彫像が壊されることになった。

 ちなみにだけど父様や母様、兵士の一部には私たち以上に効率的に彫像を破壊できる猛者がいるけど、私たちだけだったのは、お騒がせしたお仕置き的な意味もあったらしい。


 余談1

 彫像が壊されることにテンションが上がっていた子供たちだったけど、すべての彫像が壊されて、我に返ってかなり落ち込んでいた。

「あらあら、これは仕方ないわねー、大サービスよー。」

 そこにさっそうと現れたローちゃんは、子どもたちに例のぬいぐるみを配っていた。なんか犬耳バージョンとか狼やクマさんモデルとかもあったけど、いつの間に用意したのか。

「ふふふ、ソルベのメイドさん達はいい仕事をしてくれるわー。うちで雇いたいくらい。」

「やめてねー。」

 本気で引き抜きを駆けたらソルベは空前絶後の人手不足になるから。


 余談2

「ライオネル、またミサに負けたらしいなー。」

「はい、父上、己の不甲斐なさを悔いております。」

「その割には楽しそうだな。」

「い、いえ。そのようなことは。」

「世の中には、痛みに快楽を覚えるものもいるらしいが、王にはふさわしくないから隠せよ。」

「ち、違います、誤解です父上。」

 この会話を聞いた王城の重鎮たちの間で殿下への距離感が微妙になったとかならなかったとか。


 余談3

「ミサ、騎士服も似合っているけど、淑女してこういうも着慣れなさい。」

「マリアンヌ様、これって。」

「王都で流行りのドレスよ、早速来てみなさい。」

「ど、どれをですか?}

「全部よ。」

「待ってください、うれしいけど、これ全部?」

「そうよ、馬車につめるだけ積んできたの。あっつファルの分もあるわよ。」

「えっ、私も。」

「あらあら、マリアンヌ様、素晴らしいですわ。ファルちゃんもミサもおしゃれをしましょうね。」

「母様、まって、逃げないからその手を放して。」

 マリアンヌ様、母様が揃うと最強であることを、ミサとファルベルトはその日、知ることになった。

 なお男性陣にはかなり好評だった模様。


 余談4

「そうだ、今度はここの温度を。」

「はい。」

「筋がいいな嬢ちゃん、先代も凄腕だけどそれ以上かもしれない。」

「そ、そうですか。」

「なんなら槌も持ってみるか。きっといい武器を作れるぜ。」

「ちょ、ちょっとだけ。」

 そんな中、メイカさんは確実に鍛冶スキルを上げていた。鍛冶場では男女の優劣など存在しない。


夏祭りは終わるけど

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