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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
夏休み編

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74 ミサ 夏休み 山狩り  また上位魔物と遭遇する。

チーム戦開始と思いきや

 ソルベ兵の総力を挙げた威圧によるソルベの山の中の獣の魔物のほとんどは山向こうへと追いやられる。でもパニックになって、でたらめに走る獣や、逆に身を潜めたり狂暴化したりする例外が存在する。これらを放置した場合、蓄えや一般人が狙われたり余計に繁殖したりする。

 それらを見逃さないように山狩りが行われるわけだけど。

「いないわねー。」

 担当する区域に獣の気配のなさに私はがっかりしていた。

「そりゃ、一番の若手が担当している区域なんだから、それに姉さんと父様の威圧が一番届いた場所なんだよ、生き物がいるとか思えないんだけど。」

「ラグ様、いけません。そういうのは。」

「なんで。」

「そういう、ありえないとかもう大丈夫といった表現は危険なんです。戦場でそういうことを言う人は真っ先にやられるんです。」

 うん、君たち二人も緊張感ないよね。まあ、それだけ自分たちの索敵能力には自信があるわけだけど。

「ほかは割と賑やかそうなのに。」

 耳を澄ませばやる気に溢れた兵士達の叫び声や獣の咆哮が風にのって聞こえてくる。山の一部を根こそぎにするのだ、獲物は多いはずなんだけど。

「いやだなー、静かすぎる。」

 つい最近似たような空気を感じたあとで、とんでもない目にあったわけで。

「ファルちゃん、ラグ、練習した通りにやるよ。」

 油断も慢心も容赦も遠慮も必要ない。

 私とファルちゃんは協力して魔法を発動し、ラグは周囲を警戒。準備は万端だ。


(???視点)

 ソレは自分のルーツを知らない。

 自身の存在を認識してから周囲には同類はおろか敵すらおらず、周囲はすべて餌であった。

「ナンダ、アレハ?」

 ゆえに強敵の気配にほかの獣たちが逃げ出す中、それは新たな餌の出現と思い前にでた。

「デカカッタ。」

「ハヤカッタ。」

 いつの間にか増えていたソレの仲間たちも集まって言葉を交わすが、得体のしれない大きな気配の正体はわからない。

「キットウマイ。」

「アッチダ。」

 生まれながらの強者であるがゆえの傲慢と無知。存在して初めて遭遇した圧倒的な存在の気配に向かってソレラは一斉になって駆け出していく。

「アッチダ。」

「ココダ。」

「ウマイヤツ。」

 全部で10の個体の群れであったソレらはやがて、小さな存在を見つけた。

 自分たちよりも小さく、爪も牙もない。たまに山で見かける猿のようだが毛が少なくてうまそう。

「タベルゾ。」

 それが目的の存在だったのかは関係ない。目の前にうまそうな存在がいれば食らいつくす。腹が満ちれば眠る。ソレの振る舞いをとがめる存在もいなければ、止めらる存在もいなかった。

「ぐああああああ。」

 歓喜の声を上げて、仲間の一部、せっかちな個体が速度を上げて、小さな餌に向かっていく。

「ズルイ。」 

 慌ててあとを追う残りの個体だが、その先で、冷たく美しい花が咲き誇った。


(ミサ視点)

 準備が完了したタイミングで突然こちらに向かってくる獣の気配に、私の意識は高ぶっていた。

「これは。」

「上位魔物、たぶん、ワーウルフね。」

 手を繋いだファルちゃんの手が緊張で遊ばんでいる。 ラグが剣を握る手がいつもより力んでいる。

「大丈夫よ。落ち着きなさい。」

 武器を構えて、意識を集中する。

「手筈通り、まずは後ろに。」

 指示をだせば二人は私の後ろに移動する。二人の安全のためではなく、思いっきり攻撃するためだ。

「ぐわあああああ。」

 やがて前方の木々の間を縫うように、巨大な獣が飛び込んでくる。速すぎてぼやけて見えるけどその大きさはソルベの兵士たちよりも大きく、速い。オオカミにしては大きすぎて、クマや猿にしては速すぎる。獣ではなく魔物、一般人には絶望的な脅威。

「でも、それだけじゃね。」

 こちらに向かって馬鹿正直な突撃。しかも私の前で大きなジャンプをして飛び込んでくるという愚策。反撃されるなんて欠片も思ってもいないこちらを侮った表情も、私たちには見えている。

「咲け。」

 思わず緩むほほを引き締めるように、キーワードを口にする。イメージするのは氷の櫓。氷で作った無数のスパイクが私たちを囲むように発生し、空中にいたソレらを串刺しにする。

「ぐああ。」

「まだ息がある。二人とも。」

「はい。」「おう。」

 全身を無数のスパイクに貫かれて空中に縫い留められても生きているあたり、すごい生命力だけど、ここまでは想定の範囲だ。獣は逃げるから、まずは動きを止める。そのうえで。

「首をしっかりと斬り落とさないとね。」

 目の前の一体の首を切り落とせば。左側にいた二匹の首をファルちゃんが、右側にいた二匹は、ラグによって胴体で切り捨てられる。

「ラグ、ちゃんと首を斬り落としなさい。」

 落とした首を蹴り飛ばしながらラグにそう注意する。

 ワーウルフは、ゴブリンと同じ上位魔物だ。山奥での生存競争に勝ち続けたオオカミが突然変異を起こした二足歩行のオオカミで、俊敏さと筋力、何より知性を伴う強敵だ。

「と聞いていたんだけどね。」

 最初に飛び込んできた5匹は若い個体だったのか、警戒もなく私たちに飛び込んできて罠にかかった。まあファルちゃんの風の魔法による協力と学園で学んだ知識のおかげで予想以上に大きな罠になったんだけど、こんなにあっさり引っかかるなんて。

「姉さん、まだ来るよ。」

 そう思っている間にラグが叫ぶ。ちなみにラグが倒したワーウルフはきっちりと首が切られている。なるほど、先に機動力を奪ってから首を狙ったということだろう。

「なかなかやるじゃない。」

 言いながら氷に込めた魔力を弱めればスパイクがボロボロと崩れていく。

「ぐはははは。」

 遠巻きに仲間が罠にかかるのを見ていた残りの個体がそれを見て、こちらへ駆け出してくる。

 うん、これだけの規模の魔法だから使い捨てにしたと思っても無理はない。なにより、自分たちなら躱せるとおもっているのだろう。

「二人とも。」

 地を這うように素早く寄ってくる残りのワーウルフ達。それを見て二人もすぐに私の近くに集まる。よし、これなら遠慮なくいける。

 まずは、ファルちゃんが風を送って周囲の気圧を下げる。そしてラグがあらかじめ魔法で捲いておいた水に私が魔力を通す。

 私1人でも実現は可能だけど。協力することで、より強力な現象を魔法は引き起こす。

「咲き乱れなさい。」

 発動するのは私たちを中心作る氷のドーム。まずは私たちの身を守るための壁、壁面には先程と同じく無数に生えた氷のスパイク。前にローちゃんが教えてくれた「ハリネズミ」という異国の獣からイメージを得た、攻防一体、いや防御よりの魔法。実験と練習通りに発動した巨大な氷はとびかかってきたワーウルフ達を絡めとり。

「ぎゃ?」

 突然の事態に驚くワーウルフ達をそのまま浸食し、凍らせていく。

「これは、」

「ひどい。」

 息の合ったリアクションをするファルちゃんとラグだけど、私もそう思った。過剰に冷やされた空間によって串刺しになりながら、氷の彫像になっていくワーウルフ達の様子が、ドームの内側からははっきりと見えてしまった。

 とどめを刺すまでもなく、その命がなくなっていることが分かる。まあ、結果オーライだ。戦わずにして勝てたんだし。

「ところで、姉さん、これどうやってでるの?」

「あっ。」

 ラグの指摘で自分たちが閉じ込められている事実に気づく。

「うん、悪くない作戦だと思ったけど、没ね。」

 安全な狩りの仕方と思って考えた作戦だけど、実戦で使うと欠陥だらけだ。籠城するにはあまりに無謀だ。

「いや、だから、どうやってでるの。」

「安心しなさい、魔法を解除すれば、全部消えるわ。」

 そういって魔法を解除すれば、ドームもスパイクはホロホロと崩れていき、氷の彫刻となっていたワーウルフ達が地面に落ちて砕けていく。

「これは素材の回収もできない。欠陥ね。」

「お義姉さま、お願いですから人に向けては使わないでくださいね。これはあまりにもむごいです。」

「しないよ、それにファルちゃんとラグの支援がないと無理だから。」

 生き物を相手に使ったのは初めてだけど、これは封印だなー。とか思いつつ心配そうに私を見ている妹と弟の頭をなでる。

「ここからは普通に行きましょう。競争なんてどうかしら?」

 ワーウルフなんてイレギュラーはもうでないだろうし、ここからは好きにやってもいいだろう。

「そうですね。」「そうだね。」

 初めてとのことで安全策に安全を重ねた作戦だったけど、もういいだろう。

「じゃあ、お互いフォローできる範囲で、バラバラに行くよ。」

 その後は、何かあれば気づける程度に離れつつ、山狩りを行った。

 ファルちゃんは大きな山鳥を、ラグは大きなイノシシを狩ることができた。

 私? 私は寝ぼけていたクマを狩っただけだから二人には負けるかなー。

 そんな感じにあっという間かつ、大戦果で山狩りは過ぎていくのでした。



 


上位魔物程度では動じないミサさんご一向。

そして、見せ場なくやられるワーウルフたち。

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