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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
夏休み編

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72 ミサ 夏休み ミサ 夏祭りと山狩りの説明をする。

夏祭り。

 なんだかんだ友達が来て三日ほど過ぎて、みんなすっかりソルベの風土に染まっていた。

「いやいや、ミサさん、それはないですわ。」

 ほっかむりに化粧っ気のない顔のメイナちゃんが可愛い顔で抗議しているが、一番染まったのは彼女だろう。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ、すっぴんでもメイカちゃんはかわいいから。ほんと肌がきれいよねー。スキンケアが上手だからか、汗をたくさん書いているからかしら。」

「ちょ、ローズ様やめてください。」

「うんうん、むしろ肌艶がよくなってるわねー、何か秘密があるのかしら?」

 そう言っていやいやしているメイナちゃんの顔をマッサージしていたローちゃんだったけど、不意にその腕をつかまれる。

「ジャネット様、嫌がってますので、そのあたりで。」

 にっこりと笑って、ゆっくりと手を引きはがすのが、この三日間ですっかりたくましくなったファス君だった。

「ふぁ、ファス。ちょっと今は。」

「いやいや、きれいだよ。なんていうか、あれ卵肌ってやつ?」

「も、もう。」

 はいはい、御馳走様です。

 なんだかんだ、この三日間で一気に距離が縮んだのよね、あの二人。

「姉さん、それは命の危機に瀕した仲間の絆ってやつだよ。」

「そうですね、メイカさんもファス君もがんばりました。ほんとに。」

 しみじみと言うラグとファスちゃんには何があったかわかっているらしい。うんゲストの相手を二人に任せて自由にしてたのは私だけどさあ。なんだろう、この疎外感。

「まあ、結果として父様の誤解も解けたけど。」

「二日目からはご自身で向かわれてましたよね、二人とも。」

 何があったかホント気になる。あと詳しく聞こう。

 ともあれ三日目にしてやっと時間がそろったのでこうして6人でお茶をすることになったわけだ。ちなみにサーブされているのは、ローちゃんとメイドたちによる渾身の新作だ。

「それで、ミサちゃんソルベの夏祭りというのは結局いつになるの?」

 集まった理由がローちゃんが切り出したそれだ。もうすぐ行われるソルベの夏祭りのことだ。

 ソルベの冬は長く、到来も早い。それゆえに夏のうちに主だった収穫を済ませて、厳しい冬を迎える前に領内を上げて一年の働きをねぎらい、祝うそんなお祭りがあるのだ。

「それは、それは賑やかなものだと、聞いていますわ。」

 ウキウキとしているファルちゃんもなんだかんだ今回が初参加だ。去年はあれだ、ファムアットの領地に遊びに行ってたりしたので参加できなかったけど。

「ラグと私、ファスちゃんは今年は準備から参加するのよ。」

「準備ですか?」

「うん、ソルベでは一人前の証として、祭りの準備への参加が許されるのよ。」

 首をかしげるファス君に私はニコニコで説明をする。

「お祭りで振る舞われるお肉は、ソルベの兵士たちが総出で山狩りをして確保するのよ。これは冬になって寒くなる前に獣たちを間引いておく意味もあってね、冬の間の安全を確保する兵士達の一番のお仕事なの。」

「基本的には、宿泊体験と同じだ。ソルベの兵士や男衆で山を半円形で囲って一斉に威圧をする。大半の獣や魔物は山向こうへと逃げだ出すんだけ、残りの獣や魔物たちの数も決して少なくないんだ。」

「それをグループに分かれて狩りとるというわけでしたね。」

 言いながら2人ともとってもいい顔をしていた。まあ私もだけど。

「それって、軍事行動なのでは?」

「道理で鍛冶場が忙しいわけです。」

 理解半分、困惑半分といったファス君とメイカちゃん。そして難しい顔をして黙っているローちゃん。まあ、ソルベの夏祭りもその夏祭りの準備の楽しさを理解するに至っていないのだろう。

「ローちゃん、これはソルベの環境を維持する意味でも必要なんだよ。」

 ソルベの生き物は強い。植物も獣もまれにみる魔物も、放っておくとすぐにあふれて森を超えてソルベの地を覆ってしまう。一年に一度の山狩りは獣や魔物を間引くだけでなく、動く獣たちによって適度に植物を荒らさせて地面を掘り起こすこともできる。一時的に森は荒れるが、そのまま冬を超えて、春と夏と過ぎて豊かすぎる自然環境を復活させるのだ。

「まあ、冬越えの蓄えも必要だからこれでもかってくらい事前に採取するんだけどねー。」

 そう言って説明を終えるとローちゃんは納得したようだった。

「なるほど、聞くたびにソルベの自然と生き方には驚かされるわ。」

 王都とは違う。それは最近痛いほどわかった。

 ただ、どちらがいいかなんてことは未だにわからない。

 王都のにぎやかで平和な日々も楽しいと思う。ただ、久しぶりのソルベの刺激的で自然豊か日々が私にはあっているのだろう。

「これはますます、お相手が見つからないんじゃない?」

「いっそ、ローズ様がもらってくれません。」

「無理ーよー私の手には負えないわー。わかるわよねーファス君。」

「ええっと、ついていける気がしないです。」

 何やら男どもとが集まってこそこそ言っているが、そんなことよりも明日からの山狩りである。

「3人は、母様たちと一緒にお城のバルコニーから見学もできるし、街の方へ行ってもいいけど。」

「せっかくですから見学させていただきますわ。」

 元気よく答えるメイカちゃんもどこかウキウキしているようだ。さすがに現場には連れていけないけど、ローズ母様と一緒というところが好ポイントなんだろう。

「ローズ様とお話できるせっかくの機会ですもの。」

 うっとりとしているメイカちゃんの顔にそれは確信に変わった。

 うん、母様は私と違って夢を壊すようなことをしないだろうから、きっと大丈夫。

次回は、聞こえてくるのは、獣の悲鳴かミサの喜びか。山狩りでまたバトル回です。

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