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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
夏休み編

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71 ミサ 夏休み  友人を巻き込む。

ソルベのチート環境と王都貴族の実態

 ローちゃんがソルベにきて三日。そろそろファス君やメイナちゃんたちも遊びに来るだろうと思ったとき。ローちゃんはすっかりソルベの研究室になじんでいた。

「ローズさま、見てください、教えていただいた配合を試したらニキビが消えました。」

「まさか、玉ねぎの皮でこんな鮮やかな染料がとれるなんて。目からうろこでしたわ。」

「そういえば、此方のハーブの薬効はご存じですか?」

「あらあら、みんな一段と美しくなっちゃって、うれしいわ。磨けば光る宝石ってほんと素敵。」

 とこんな感じにメイドたちに囲まれながら研究室で次々に化粧品やら美容用品とか染料などを量産している。訓練だなんだで私が席を外している間にいつの間にか馴染んでいたし、信者が増えているのは王都と変わらない。

 連日、新たな素材や効果的と思われるあれやこれが持ち込まれ研究室も満杯だ。

「ねえ、ミサちゃん、調子にのっていろいろ使って今更なんだけど、これって大丈夫なの?」

 そんな楽しい時間の休憩中にふとローちゃんがそんなことを言った。

「このバーブとか、王都だとかなりの高級品なのよ。小箱で宝石ぐらいの価値があるはず。」

「そうなの?」

「それこそ軒先に生えてますよねー。」

 近くのメイドに確認してもその通りだった。ローちゃんが指摘したハーブはソルベならありふれたものだ。香りが独特なので虫よけに使っているものだ。

「舶来の品で、これでお茶を淹れるのが貴族様の間で流行っているというのに。」

 私は好きじゃないんだけどねとローちゃんは苦笑する。それ、詐欺なのでは?

「そうやって、珍しい物を有難がるおバカさんはどこにでもいるのよ。」

「そうなんだ、よし今度、殿下にお出ししてみよう。」

「やめたげなさないな、マリアンヌ様には通じないわよ。」

「残念。」

 ともあれだ。ここに持ってきたサンプルの多くはソルベではありふれたものばかり、多少珍しいものもあるが、採取可能なものばかりなのだけど。

「だからこそ、驚きなのよ。ソルベから王都に流れてくるのって食肉とか木材ばかりだったから。ほんと驚いたわ。」

「王都の人々は、ソルベのことを山猿と侮っていますからね。」

「それよ、それ。ちょっと考えればわかることなのに、植生とか兵の力だけをみたらソルベってかなり強いのよねー。」

 訓練も見学してきたローちゃんは、ソルベの国力を確実に把握しているようだった。うん、これまずいかなー、父様あたりが怒りそう。

「だいじょーぶよ。私ってば美容とか商品開発には興味はあるけど、儲ける気はないから。広く言いまわる気はないわー。それに私の言葉なんて貴族様は話半分だから。」

 ローちゃんのお茶ら気に研究室の空気が軽くなる。

 確かに、ローちゃんの場合、作り出す作品と本人のインパクトが強すぎて、その先まで興味をもってもらえないんだろうなー。

「だかね、このあたりはお互いに融通して頂戴。」

「まあ、父様たちと相談してからになるけど、大丈夫じゃないかな。」

「そうね、ここの自然の価値は分かる人だけ、分かっていればいいのよ。」

 ローちゃんも職人だ。

「ミサ様、御友人の方々がご到着されたと連絡がありました。」

「あら、お迎えに行かないとね。」

「そだね。」

 研究は一区切りにして私たちは友人を迎えに行ったのだった。


「お義ねえさまあーーーーーー。」

「ファルちゃーーーーん。」

 元気よく馬車から飛び出してきたファルちゃんとぶつかり合うようにハグをする。うん、いい香りだ。

「あれ、香水つけてる?なんかいい香り。」

「お義姉様こそ、花の香りが溢れていますわー。」

 ふふ、お互い女子力があがっているようで何よりだ。 

「絵になるわねー。あっファスちゃんにメイカちゃんも久しぶり。」

「はは、久しぶりです。といっても一週間ぐらいですけど。」

「ローズ様は、なんというか馴染んでますね。」

 そして遅れて降りてくるファス君とメイカさん。夏仕様の私服は新鮮だけど元気そうで何よりだ。

「二人とも、ようこそソルベへ、歓迎するわ。ラグもすぐ来ると思う。」

「はい。」「お世話になりますわ。」

 やや緊張した面持ちだけど、きっとすぐに馴染むだろうな、二人なら。

「お嬢、此方のお嬢さんが、噂のラス家のお嬢さんですか。」

「あれ、ベンジャミンとベルカじゃない。どうしたの?」

 まずはお茶でも思ったら、やたらテンションの高いベンジャミンとそれに引きずられるように連れてこられたベルカの親子が乱入してきた。

「申し訳ありません。メイカ様のことを父に話したところどうしても会いたいと。」

「いやいや、ラスの先代には世話になったからな。わしの槍もラス家の作品なんですよ。」

 あの化け物槍か。たしかにそこらの職人に作れるものとは思えないけど、世間は狭いわ。

「まあ、祖父をご存じなんですか、光栄ですわ。私、メイカ・ラスと言います。ええっと」

「ベンジャミンだ。ソルベの特攻隊長とはわしのことよ。」

「ああ、あれ兵士長だから、ただの、メイカちゃん。うん、怖くないよ。」

「は、はい。」

 うん、いきなりこんなおっさんが迫ってきたら怖いよねー。ファス君、かばうように立ったのは立派だよ。足が震えていることは見て見ぬふりをしておくね。

「ははは、これは失敬。だがこのタイミングでラス家の人間が来てくれるとは渡りに船。それも凄腕というんだから天命と言える。」

「凄腕なんて、私なんてまだまだ。」

「いやいや、謙遜をラス家直伝の炎の操作は見事とミサ様も娘も言っておりますぞ。」

「父様、それは内緒だと。」

 ベルカかが顔を真っ赤にしている。うん、ベルカも認める腕前となれば気になるよねー。

「というわけで、ミサ様。こちらのご令嬢をお借りしますぞ。」

「はっ。」

「あれです。ベルカもずいぶんと腕を上げたのでな、槍を新しく作ろらせようと思ったのですが、鍛冶屋の小僧が火力が足りないと言い訳しおってな。そこでラス家の令嬢の話だ。これで最強の槍を作ってやれるわい。」

「え、ええ。私、鍛冶はできませんよ。」

「わかっておる。ちょっとばかし窯の火力を上げてくればいいんじゃ。すぐにすむ。」

「て、えええ、ファス、助け。」

「すみませんメイカ様、こうなると父は止まりません。」

 気づけば荷物のように抱えられ、メイカさんは連れ去られてしまった。

「ええっと、ミサさん?」

「うん、大丈夫、ベルカおいるからひどいことにはならないと思う。」

「はあ。」

 あまりのことに呆然とするファス君だが、彼の背後にも迫っていた。

「おお、そうか君がファス君か。ミサとラグがお世話になっていると聞く。」

 威厳がある声と圧倒的な強者の気配。それにファス君が振り返ると。

「初めまして、ミサの父のベガだ。王都では時間がなくて挨拶ができなくてすまない。」

「あああ、は、はじめして閣下。お会いできて光栄です。ファス・ファーストと言います。」

「うむ、挨拶ができるとはいいな。挨拶がきちんとできるのはそれだけで好感が持てる。」

 ニコニコと笑みを浮かべているが、まとっている覇気がやばい。端から見ている私たちですら身震いするほどだ。しかも気配を消して近づいて不意打ち気味に威圧するとか、大人気ない。

「お父様、気配を消して近づくのはあれだと思いますわ。」

「そうか、すまない。癖でね。」

 どんな癖だよ。

「ファス、大丈夫か。気をしっかりもて。」

「ら、ラグ。この人が国内最強と言われるベガ様?」

「そうだ。だが大丈夫だ、噛みついたりしないから。」

 ラグよまるで猛獣のような、いや間違ってないな。あれは猛獣だ。

「いやいや、ミサから優秀な兵士志望と聞いたからな。ついつい実力を試したかったんだ。だがあれだ、私が現れてもしっかりと立っている。若いのになかなか鍛えているじゃないか。」

「ははは、ラグやミサ様と一緒に訓練をさせていただいているので、」

 うん、場数という意味ではほかの学生の比じゃないよ。だけどね、父様、子どもを威圧するなよ。

「お詫びと言ってはあれだ。ソルベの訓練に招待しよう。兵士たちも楽しみにしている。」

 有無を言わさずに連行されるファス君。

「ね、姉さん。ファス、ごめん。俺はあっちについてくね。」

「うん、万が一でもファス君が折れないようにフォローしてあげて。」

「ラグ様、お気をつけて。」

「ああ、行ってくる。」

 言い残してラグも父様を追って走っていく。うんまあ、ラグがいれば死ぬことはないだろう。

「なんで前線送りみたいなことになってるの?」

 ローちゃんの指摘はごもっともだ。

 だが結果として、二人はすぐにソルベに馴染んだ。

 染められたともいえる。






すっかりなじんだローちゃん、そして秒で取り込まれる友人たち。

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