EX11 氷の国 【正史版 ソルベ領】
ミサがお転婆じゃない場合のソルベ なおラグ君はリタイアしてます。
ソルベ辺境伯家、建国当初から王国北部の守り手を担う伝統ある名家であり、建国以来、何人もその領土を踏みにじることを許さなかった武門の家である。
現当主であるベガ・ソルベは、開祖の血を引く直系であり、代々受け継がれる武勇の才と民と家族を愛する徳を持っている由緒ある貴族であり、武人と称され、王の覚えもめでたい。その実、奥方としてめとったのは、現王の妹妃であり女性でありながら文武両道と名高いローズ妃であり、美男美女であり圧倒的な武勇を誇る夫婦は、貴族たちからは羨望と嫉妬を、国民からは人気を、領民からは尊敬と忠誠をもって慕われている。代々の発展を超え、ベガ侯爵の代、ソルベ領は更なる発展を迎え、王都すら凌ぐではないかとも言われている。
「ラグの件は残念だった。」
その立役者であるベガ・ソルベは執務室にて、義理の息子の死を嘆いていた。
「だが、同時に誇らしい死であったと思う。ミサを守って、ミサのために死ぬ。あの子が望んでいたことだ。」
「ええ、わしの娘にも見習わせたいものです。」
執務室に立ち並ぶ兵士長の1人の言葉にほかのものもうなづく。
「そうだな、実の息子と思って育ててきたが、あれもまたソルベの男だったということだ。」
「そうです、ボスピンもあの世でラグを誉めていることでしょう。」
「そうだな、では勇敢な二人に黙祷。」
義理の息子の訃報。そして愛娘であるミサが魔法を発動したという吉報。その両方が届けられたときベガがすぐに兵士長たちを自分の執務室へ招集し、そのことを話した。
妻と娘たちを愛していた彼にとってラグの訃報はそれだけ衝撃的であった。
「ラグよ、これからだというのにな。」
黙祷が終わったときに誰かがつぶやき、やはり空気が重たくなる。ミサを守るためと訓練にのめり込むラグのことを兵士長たちは好ましく思っていた。できることならば自分の娘や息子たちとともに次代の主であるミサを支えてほしかった。後悔にも似た苦々しい気持ち、それはだれもが抱いていた。
「この件は、ローズ様には。」
「先に伝えてある。城のものにはローズから伝えてもらうことになっている。」
「そうですか、ローズ様もお辛いでしょうに。」
実際、それを伝えたときのローズの落ち込みかたはベガの心を痛めた。だが、ローズも領主の妻としての役目は分かっている。だからこそ、自分たちもがんばらないとならない。
「今回の王家の失態、度し難い。だが、信用して王都での護衛をおろそかにしたのは我々の落ち度だ。」
「たしかに、王都ならば安全と、ラグとほか数名だけでしたからな。せめて兵士長の1人でも。」
「だが、そうなると王家やファムアット家を刺激しかねないぞ。」
「かまわん、それで向こうが何かしてくるなら、返り討ちすればいい。」
「おい、それは。」
血の気多い会話を前にベガはこっそりとため息をつく。自分が起こした過去の出来事のせいで4家の中は微妙である。そしてライオネル殿下がミサにたびたびちょっかいをだしに来訪しているせいで、ソルベの人間たちにとってクラウン家への信用は限りなく低くなっている。
「あれは、あれでできた子なんだけどな。」
父親に似た気品と努力を惜しまない姿勢は好感がもてる。だが父親と似て自信家で、許嫁がいるにもかかわらず愛娘にちょっかいをかけようとする姿勢も気に入らない。あれが次代の王となるならばいっそ。
「いやいや、落ち着こう。」
自分も危険な思考になりそうだったので、ベガは声を出して兵士長を止める。
「王都別邸の人員を増やすし、ミサの護衛も増やす。今回の一件が合った以上王家もファムアットもうるさくは言ってこないだろ。むしろファムアットも人員は増やしてくるだろう、お互いの子どもを守るために協力は難しくても、不可侵ぐらいの約定は取り付ける。」
「リンゴ様でしたっけ、あれはあれで娘思いな御仁ですからなー。」
「ああ、気に入らないやつだが、あいつだって人の親だ。だからこそそこで無茶なことは言ってこないさ。」
「だと、いいのですが。」
不安は尽きない。そもそもことの発端もおかしい。
「ミサを中心にいろんなことが起こりすぎる。」
報告を聞く限りでは、ミサを中心に宰相の息子や、大商人の息子、近衛候補生なども派閥ができつつある。そして、魔法が発動してしまったという事実。
「ミサの相手を名言していなかったのが、面倒になっている。」
魔法、それも規格外の魔力をもり、国の中心にもパイプを持っている相手のいない女。ほかの貴族たちも欲しがることになるだろう。
「頭が痛い問題だが、ミサには安心して学生生活を過ごしてほしい。ましてラグを失って落ち込んでいるんだ、あの子にこれ以上。」
「いうまでもありませんぞ。」
親ばかなことを言いかけて、それを兵士長たちにさえぎられる。
「ベガ様がこの地の領主であるように、ミサ様はソルベの姫君であり、我らの宝です。」
「我ら一同、娘や息子たちもミサ様をお守りするためなら、喜んでこの命を差し出しましょう。」
その言葉にベガは目頭が熱くなる。
そうだ、ミサは宝だ。愛すべきローズとの愛の結晶であるし、歴代のソルベを体現したような美しさと才能をもった至宝。
「おいおい、物騒なことを言うな。命大事にな。」
いざとなったら彼らをすりつぶしてもミサを守る。
(ラグよ、あとは任せなさい。)
天国へと旅立った息子を思い。ベガは決意を新たにする。
愛に殉じた息子、その思いを受け継ぎ、ソルベの民たちは一層ミサに愛情を注ぐことになる。
そしてそれは、ふくらみ、いずれは王国の危機を招くことになる。
正史
豊かな自然と山からの脅威に立ち向かうためにたくましき兵士主体の領地
改変
豊かな自然と山からの脅威に立ち向かう一騎当千の兵士たち、そして商品価値が高すぎる特産品




