69 ミサ 夏休み ローちゃんがきた。
夏休み、もといソルベ開発機
兵士さんたちとの充実した訓練の後、私は母様に呼び出されてお茶を飲んでいた。
「ふふ、所作が大分落ち着いてきたわね。ミサ。」
「はい、母さま。マリアンヌ様がたくさん教えてくれましたから。」
ひとまずの合格点をもらってほっとしていると、ルネとリカッソが母様から離れてよちよちと私のもとにくる。
「ねえねえ。」「ミーちゃん」
「あらあら、二人とも大きくなったわねー。」
抱える二人の体温は相変わらず温かく、ちょっと重い。どこまでも愛おしい存在なのだけれども二人が持っているぬいぐるみが少し気になる。
「ぬいのクオリティーが上がっているような。」
「それをあなたが言う?王都でも開発してたらしいじゃない。その技術がこっちにも流れてきたのよ。質のいい布を仕入れるルートやデザイン。あなた学校で何をしているの?」
「ええ、普通の学生だと思うけどな―。」
「まあ、そういうものよねー。」
どうしたものかとため息をつく母様。そういえば、今日はやけに肌の質がいいような。
「あら、気づいてくれた。前にミサが送ってくれたクリーム、アレを試してからだいぶ肌の質がよくなったのよ。」
さすがはローちゃん特性クリーム。出産とかなんだで荒れ気味だった母さまの肌がぴちぴちだ。
「ねーねーすごい。」「かあさま、すべすべ、ごきげん。」
ニコニコと笑うルネとリカッソを見てから私は悪戯っぽく微笑む。
「すごいですよねー、それも王都でできた友人が作ってくれたんですよ。」
「そうらしいわね。先方のお家というかお店の方から挨拶があったわ。それと招待もしたんでしょ。」
「はい、ローちゃんとファルちゃん、あとファス君とメイカちゃんも、招待させていただきました。」
「ふふふ、友達がたくさんね。」
母様はとてもうれしそうだった。お転婆な娘に友達ができたことがうれしいんだろう。失礼な。
「ローちゃんはとってもかわいいんだよ。おしゃれも美容も詳しいから、母様ともすぐ仲良くなれるわ。」
自信をもって言う私を見て、母様はとても穏やかに微笑んでくれた。
微笑えんでくれてたはずなんだけどなー。
「きゃーー、ミサちゃん、久しぶりー。」
「ローちゃん、今日もいけてるー。」
馬車から降りるなりキャーキャーと騒ぐ私とローちゃんんをみて、なぜか母様は固まっていた。
「あれ、ローちゃん匂いが違う、もしかして新作?」
「そうなの、日焼け止めクリームの新商品。ミント系を強めにしたら暑さ対策まで可能なのができちゃったのよー。」
「ええ、じゃあここじゃ寒いぐらいじゃない?」
「そうなのよ、だからこの日差しでも上着が欲しいくらいなの。」
「いいじゃん、重ね着はおしゃれの基本だもんねー。」
「ふふ、ミサちゃんわかってるーーー。ところで、今日のお洋服はあれ、ソルベの特産品?」
ローちゃんはいつも通りフルスロットルだ。ファス君たちよりもだいぶ早くやってきたあたり、新商品の開発の話はマジなんだろう。
「よし、行くわよ。」
「ええ、まだ見ぬ素材が私たちを待っているわ。」
私はあらかじめ用意しておいた研究室へとローちゃんを案内するのだった。
(ローズ視点)
娘に友達ができた。その話を聞いたときは半信半疑だった。あのお転婆娘の常識は一般的なそれとはずれ、実力はけた違いで大人の兵士達では相手にならない。義妹となるファルちゃんやライオネル殿下との出会いでそれは加速した。だから学園からの手紙に書いてあったローちゃんとメイナ様という先輩、それにメイナちゃんという同級生の話が書いてあったときはうれしくも疑ってしまった。母親としてどうなんだろうと、割と真剣にへこんだ。
だが、よく読めば手紙の内容は素敵な花やお菓子の話。お土産のかわいいぬいぐるみの開発の相談や美容用品。女の子らしい話に興味をもっていたことにも驚いたが、女の子らしいことばかりを語っている娘の姿があまりに嬉しかった。
「マリアンヌ様も素敵な淑女だったけど。このローちゃんはほんと女の子らしい子なのね。」
かわいいという言葉が無数に並べられた手紙と、届けられたお土産の数々。可愛い女の子友達ができ、ミサが年相応の女子らしいわがままを手紙に書いている。
そう思っていた。実際にミサの話を聞いてそれは確信に変わっていた。
「ねえ、ラグ。」
ニコニコと楽し気に去っていく娘を見ながら、同じように呆然としているラグに問いかける。
「あれって、男のよね。」
「ああ、そうだよ。本名はたしか、ライナー・ジャネット。ジェネット商会の跡継ぎなんだよね、ローちゃん先輩。」
「ローちゃんっていうのは?」
「あだ名。ローズというのは芸名なんだって。」
「聞いてないわよおおお。」
あんなに仲良しな男の子を、しかも家に招待した。それって、つまり。
「ローズ母様。それはたぶん違うよ。うん、そこだけは安心していいから。」
「だってー、娘が男の子を家に招待するってそういうことじゃない?」
「うーーん、説明が難しいけど。あれだ、うん、すぐにわかると思うよ。」
要領を得ない息子の言葉に私はますます混乱した。たしかに、可愛らしい人だったけど。だからこそミサの好みと一致したってことなんじゃ?
「だい、大丈夫だからね。もしそうだとしたら、俺よりも先にベガ父様が暴れてるから。」
「つまり、旦那様も公認?」
「ちがう、ちがうからね。」
「だ、大丈夫、大丈夫よ。そうよね、ファルちゃんとラグも正式に婚約したんだから、ミサにだってボーイフレンドの1人や2人。そうだ、ファルちゃんにもお揃いのソルベのベールを作ってあげないといけないんだった。」
「落ち着いて、いやこれだめだ。誰か―、ベガ父様を呼んできてたー。」
気づけば息子と一緒になってあたふたした自分があとに、なってすごく恥ずかしかった。
ローちゃんもたいがい。
ミサと関わるといろいろな意味でぶっとんでくる。




