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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
夏休み編

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67 ミサ夏休み 実家に帰る。

なんやかんや夏休みです。

 辛く退屈な別邸でのお仕置きと父様との特別訓練。そんなことをしているうちに一週間はあっという間に終わり、私は拉致されるままに馬車に放り込まれて懐かしのソルベの家へと運ばれていた。

「ねえ、逃げないからこれほどいてくれない?」

「ベガ様よりも城につくまでは何があってもほどくなとの命令です。」

「ごめんなーさいねー。ミサ様。」

 両サイドに座るベルカとラニーニャは申し訳なさそうな言葉とは裏腹に笑いをこらえている。

「らーぐー。」

「いやいや、自由にしたらどこへ、ぷぷ。」

「あんたね、せめて言い切りなさいよ。」

「いや、だって、もう駄目だ。」

「ラグ君、だめー。ぶふふ。」

 対面に座っていたラグが決壊したことで、私以外の全員が腹を抱えて笑い出す。

 うん、まあわかるよ。今の私を客観的にみたら私だって笑う。

 馬車の真ん中にあしらわれたクッション。それに包まれるように座らせられた私は包帯とベルトによって拘束、いや梱包され顔だけが見える状態。巨大な繭に包まれたモンスターと言っても過言ではない。王都で出発するときに殿下とマリアンヌ様に大爆笑されたことは絶対に忘れない。

「お嬢様は自由にしてはならないとのことでした。」

「馬車は特急便ですらか、一日もかかりませんよー。」

 うん、覚悟の上だよ。ギリギリトイレとか食欲も我慢できる行程表は何度も確認したから。軍としての行軍訓練だってやってきた私に隙はない。

「ぶは。やめて、そのどや顔。」

 笑いが溢れる馬車の中。ちなみに外で馬に乗っている父様や兵士たちも爆笑している。

「しかし、ベガ様だけでも過剰戦力なのに、兵士長が2人も同行するなんて豪華ですね。」

 平行する兵士さんたちを見てベルカが目を細める。

 ちなみにだけど、帰省のタイミングでベンジャミンとグラークが護衛の応援という名目で王都に迎えに来ていた。あれだ、なんだかんだ娘であるベルカとラニーニャに早く会いたかったのだろう。が2人とも私の姿を見て爆笑してこちらを見ないようにしている。うん、護衛としてどうなんだ、おい。いざとなったら逃げだす、おい。

「ははは、逃がしませんよ、ミサ様。」

「にがしまーせん。」

 とちょっとでも気配を匂わせれば両サイドから抱きしめられて、ほぺったをつんつんされて意識をそがれる。なんだこの完璧すぎる梱包は。

 

 そんなこんなで八割ほどの道のりを全力で駆け抜けた私たち一向の前には、懐かしのソルベの山が見えていた。

「懐かしい、帰ってきたって感じね。」

「そうだね、風が冷たい。」

 一年中雪で覆われた山頂から吹き降ろされる涼しい風と豊かな自然。王都では見られないこの光景、実に落ち着くし、血が騒ぐ。

「報告、前方の森より獣の気配です。おそらくはウルフが10頭と思われます。」

「うん、ソルベだわ。」

 唐突に現れる森からの脅威。人の多い村や町には近づかず、少数の旅人を狙う狡猾な魔物。なぜか出ていくものは追わず、来るものを狙う独特で狡猾な生態の魔物。

「ははは、わざわざ弱いふりをしていた甲斐があるものですな、大将。」

「ベンジャミン、壊滅するぞ、グラートは馬車を守れ。」

 嬉々して駆け出すベンジャミンとベガ父様、黙々と馬車の近くに愛牛をよせるグラート

「何分かかると思う?」

「何分というか、一撃では?」

「だよねー。」

 のほほんとする私たち女性陣と万が一に備えて気を引き締めるラグ。うん、まあソルベの人間にとってこの魔物の習性は慣れたものである。だからこそほかの集団に先んじて少数精鋭で街道を進み、魔物を吊り上げる。この程度の群れならば撃退を、大規模な場合はあらかじめ示し合わせた合流ポイントまでつり出すのだ。もっとも

「ははは、娘の前だ、ドジはふまんよ。」

 特大の馬上槍をもってウルフの群れに突っ込んだベンジャミンが槍を振り回させ場半数のウルフは何もできずに吹き飛ばされる。まさしく人馬一体、生きた嵐だ。それでもでるうち漏らしも、ベガ父様があっさりと切り伏せてしまう。

 うん、速すぎて何をしていたか見えなかった。馬車の中からじゃ限界があるわー。

「どうする大将、追い討つか?」

「いや、今日はここまでいい。どのみち大掃除はするからな。」

「歯がゆいですなー、グラートも活躍の場がなくて凹んでいるぞい。」

 のんびりと話しながら戻ってくる二人にはケガ一つなければ汗一つかいた様子もない。

 ふざけていても、ソルベの最強戦力の一角である。ウルフごときではどうにもならないということなんだろう。

「ああ、もったいない。私もやりたかった。」

「そのまま群れのボスを追っかけそうだから梱包されたの忘れたの、姉さん。」

 あきれるラグだが、緊張はとけてリラックスしている。まだまだ心配性なのよね、この子。

「それにしても、これがソルベの釣りなのねー。」

「はい、お嬢様たちは初めてでしたね。」

 私のつぶやきにベルカが反応する。

「7年前より考案された魔族の間引きと、この釣り体制のおかげでソルベの治安はかなり安定したんですよねー。グラート父様が牛が襲われなくなったて喜んでました。」

 7年前、私がまだ5歳で、まだ城の外で自由に動けなかったころだ。

「どこかのお転婆さんが、どこへ行ってもいいように考案された、試策の一つだよ。」

「あら、父様。それは相当なお転婆さんなんですね。」

「ああ、心配で閉じ込めてもおいても逃げ出すようなやつだ。」

 そんなこんなで、無事に私たちは懐かしきソルベの城へとたどり着くのだった。


 

領地に帰ったミサを待っていたのは、新たなる冒険か、それとも・・・

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