66 ミサ 夏休み おおいに怒られて反省する。
なんだかんだ、ミサ様はお嬢様で、ベガ様は父様で貴族様
ソルベ家は大貴族だ。辺境伯という地位の序列こと上はいるがその実権は王家であるクラウンと同列という話だ。そのため、王都のソルベ別邸もそれなりの大きさで、人員も優秀な人が集まっている。
「そうだな、建った二日で学園の設備を手配して護衛から運営、賭け事の胴元まで実現したいという、どこかのお嬢様のわがままを実現できるぐらいには有能だ。」
「反省はしてますよー。」
その中で一番豪華な執務室の一角で、私はベガ父様にネチネチとお説教されながら反省文もとい事態の収拾を図るべく書類仕事を手伝わされていた。
「我ながら、バカだったわー。」
カッとなってやった。殿下もマリアンヌ様もノリノリだった。その上で学園を巻き込んでのあの騒ぎはやりすぎだったと思う。反省はしていません。
「いや、反省はしなさい。十分にな。」
にんまりとほほが緩みそうなタイミングでベガ父様から石が投げられる。まったく、娘に石を投げるなんてとんだ虐待親だ。
「訓練を付けてほしいと言ったのはお前だろ。ならこのくらい対応して見せなさい。」
「はーーい。」
言いながら石を投げ返す。こんな形でのお遊びが許されたのもついさっきだ。
いろいろやらかしたお仕置きとして私は別邸からの外出を禁止され、昼間は父様の執務の手伝いを夜は自室でおとなしくしていることを命じられていた。
外に出れないからといって筋トレや素振りといった基礎訓練は欠かしてなかったけど。それを知った父様により、昼間の執務室でこのようなキャッチボールが行われるようになった。
「そういえば、ミサ。ゴブリンと遭遇したと報告を受けていたが、本当か?」バシ。
「一か月ぐらい前の話ですよ、今更じゃないですか?」ビューン
「国始まって以来の重大事項が今更になるほどお前が問題を起こしまくってるからだろ。」バシ。
「そうですか?」バン
「お前なー、上位魔物が国内で発見されたこと自体が十年ぶり、あの地域での発見は史上初だ。それも念入りに間引きと探査が行われた上での発見だ。死体が泣ければ嘘だと思いたいくらいだ。」バシ
「だからこそ、大型の一匹は氷漬けにしておいたんですよ。証拠になったでしょ。」ビュン
「教員と傭兵の目撃情報とも一致すしている。お前の言葉を疑う気はない。あくまで確認だ。」ポイ。
「そうなんですか、優しいですね。」ビュン。
実際のところ、ベガ父様が王都に来ていたのも、その一件が原因だった。国の歴史でもありえない異常事態に対して魔物との戦闘経験が豊富なソルベの人間への応援要請があり、それを口実に出張ってきたいうことらしい。
「引継ぎだなんだを慌てて済ませて、王都に来てみればあの騒ぎだ。ほかにも殿下の近衛や同級生との乱闘騒ぎに、新技術の発見。おとなしく勉学に励むという気はないのか?」ポイ
「ええ、それを父様が言いますか?いろいろ聞いてますよ、先輩たちから。」ヒョーイ
「それは、誇張された話ばかりだ。俺のは闘技場の柱と武闘会だけだ。」バン。
「いや、それだけでもすごい伝説じゃないですか、できたら来る前に知りたかったですわ。」バン。
「知ってたら、お前真似したろ。ソルベの城壁で。」バシ
「しませんよ。そこまでお転婆じゃないです。」ポイ
「お二人ともそれくらいで。見ていて怖いです。」
「「はーーい。」」
目の前で繰り広げられるキャッチボールならぬキャッチストーンに控えていたメイドさんが悲鳴を上げて私たちは手を止める。
ちなみにだけどその間も書類は読んでいるし、必要なことは書いてるよ。導入した人員とか、予算はラニーニャたち任せだったけど、ちゃんと把握はしていたから楽勝だ。
「そうだ、経緯はともあくとしてゴブリン討伐は見事だった。死体を見たが理想的な切り口と運用法だった。人型の魔物を相手にしてもひるまず力を発揮できたようで、父としては誇らしいぞ。」
「ふふ、ウルフやクマと大差なかったわ。」
「まあ、慣れればな。普通は慣れることもないんだけど。」
「やっぱり、父様も戦ったことがあるの?」
「ああ、山越えをすると結構な数がでてくるからな。いずれお前やラグも連れていくことになる。覚悟はしておくように。」
「はい。」
そう、私たちはまだ子供でソルベの本領と言える山越えをしたことがない。山向こうはもっと険しく、どう猛な魔物も多いと聞く。かつてボスピンがなくなったのは、そこから紛れ込んだ上位魔物から近くの村を守るために単独で戦うことになったからだとも・・・
「安心しろ。あの一件とお前の働きかけもあり、ソルベのバカどもは体制を整えたし無理はしなくなった。よほどのイレギュラーが起きない限りソルベが崩れることはない。」
「じゃあ、あのゴブリンはよほどのことだったてこと?」
「そうだな。あんな場所に上位魔物が現れた。ならほかの場所にも現れるかもしれない。お前があっさりと倒したからこそ問題になっていないが。」
「ならいいじゃないですか。」
「国の中央にはそれを危険視していないバカが多いんだ。たかが小娘に倒せるていどならってな。」
「ふーーん。」
それは舐められたものだ。ソルベを山猿というバカな人達ってのはどこにでもいるらしい。
うん、わかってるよ。大人しくします。だからそんな怖い目でみないでください。お休み中も自宅待機とか泣くわよ。
「まあ、何かあるとしても夏季休暇が終わってからだ。お前はこのまま別邸で待機して、私と一緒にソルベに帰るぞ。」
「ええ、学校は?」
「成績優秀でよかったな。残りの授業はレポートの提出で免除だそうだ。明日にでもマリアンヌ嬢が持って来てくださるそうだ。」
ええ、それはいやだ。外出する理由がなくなってしまうじゃないか。
「あと一週間もない、おとなしくしておくことだ。」
「はーい。」
まあ張り切りすぎた結果だ。むしろこの程度ですんでよかったと思うしかない。
「ところで、父様。この動員人数の書類、数字の計算が間違ってますよ。」
「な、まじか。」
「0が一つが多いです。気を付けて確認してください。」
まずはさりげなく手伝わされている父様の仕事を終わらせて自由の身になることにしよう。
代官を領地に置いて王都で生活する貴族もいれば、ベガのように領地に引きこもって、めったに出てこないタイプの貴族もいる。
実は、娘たちが心配で無理を言って王都へ来ていたことは、娘には内緒




