EX9 ラグ・ソルベの青春
前回の話の続きです。ファルちゃんとラグ君がイチャイチャします。
ミサとライオネルがそれぞれの親に絞られている頃のお話。
「そういえば、ここにくるのは初めてだったね。」
「そうですね、私たちはいつでも歓迎ですけど。」
ゲストハウスの応接室で向かい合いながらそんな他愛無い話をしながら、ラグとファルの表情はお互いに穏やかだった。
「それにしてもずるいですわ、あの攻撃、お義姉様に教えてもらてましたけど本当に3連撃になるなんて。しかも私が避けるのを見越して。」
「いやいや、2撃目のときに後ろに引いてたら躱されてたらそれまでだっだよ。でも。」
「私なら攻めてくると。」
「うん。」
茶化すように先をとるファルにラグは苦笑する。だが、不思議と先ほどの戦いは勝てると思ってもいた。
「不思議と最後のタイミングでファルならきっとああ動くって信じれたんだ。」
「ふふふ。まあたしかに。」
ファルとしてもラグの必殺を乗り越えてこその勝利を望んできた。それでこその完全勝利。ファルベルトの家の人間として、いや1人の乙女としてそれを乗り越えたかったのだ。
「難しいですね、あれを超える動きは思いつきませんし、きっとまだ連撃ができますよね。」
「それはどうだろう。」
「あら、意地悪ですわ。」
拗ねたように顔を背けながらもファルはご機嫌だった。自分がこの人と思った思い人。それがどこまでも真摯に自分と向か気あい、先を歩こうとしている。それがうれしくてたまらないのだ。
「私、ラグ様をお慕いしていますわ。」
「・・・ありがとう。」
まっすぐな好意。出会って2年、それでも変わらない好意、そしてその気質に少年の心臓は高鳴る。それでも。
「ねえ、ファル。僕も君のことが好きだよ。」
正直な思いを口にしてもラグの顔はどこか後ろめたさがあった。
「やっぱり気になるんですか、ご自身の出自が。」
「ああ、それは前に話したっけ。」
ラグはソルベの養子でしかない。それを気にしない程度にはソルベの人間、特に姉と両親からは愛情も厳しさももらっている。だからこそ実力を示しつつもミサたファルに一歩引いた立場だった。
ライオネル殿下になついたのも、ことあるごとにラグ個人を必要とされてきたからかもしれない。それくらい自分の出自に本人はコンプレックスをもっていた。
「まあ、最近はそれほど感じないかな。みんな家とか関係なくすごいじゃないか。だから自分の未熟さに悔しくなることはあってもそこは気にしてないよ。僕はラグ・ソルベ。ミサ姉さんの妹で、最強の剣士になる男だから。」
すがすがしい思いとともに言葉にしてしまえば、自分の考えていたことがどれほど愚かしいことかラグは笑いたくなった。
「5歳の時にとおちゃんが死んで、ソルベの家に引き取られた。それから悲しむ間もなく今日まで生きてきたけど、最近になって色々わかったんだ。」
初めて話す胸のうちがファルでよかった。そう思いながらラグは言葉を紡ぐ。
「俺の必殺のあの剣。あれはね、とおちゃん、ソルベで最強の兵士だったボスピンのもっていた技なんだ。」
「ええ、よくお義姉様が話してくれます。いまだに自分では一撃しか再現できないって。」
「ふふふ、そこは、ボスピンから受け継いだ俺の手首の才能なんだって。」
一見すれば変わらないが、人並み外れた握力と柔軟性、それを教えてくれたのはミサで、実感させてくれたのは一緒に切磋琢磨したファルだった。
「実は俺のとうちゃんって、各地で武者修行をしてなんやかんやあってソルベにたどり着いたらしいんだ。そこで結婚して、俺は生まれた。」
出自を隠さなければおどろいたことにボスピンの名を知るものが多かった。ベガ父様をはじめとするソルベの兵士たち、1年前に行ったファムアットの地や王都ではとおちゃんの名は悪名となっていた。それが面白くて、誇らしくて、ラグという個人の思いとなった。
「ファル、俺の将来は分からない。ソルベで兵士として戦うのか、姉さんを支えて領主補佐になるのか、それともファルベルトに婿入りするのかただの兵士になるのか。どの道を選んでも後悔はない。」
「はい。」
「だけど、その前にもっとこの国を、世界を見てみたい。とおちゃんボスピンが見てきた以上のものを見てみたいんだ。」
「そうですか。だから私の。」
「違う。」
婚約を断るか先延ばしにしたいという意図を悟ったファルに詰め寄ってラグは否定する。
「学園を卒業してからになると思うけど、ファルにも一緒に行ってほしい。俺とともに強くなってほしい。俺と一緒に来てくれ。」
そういって差し出されたのは、一凛の赤いバラだった。
「まあ。」
「いやなら断ってくれていい。俺はそれでも進む。」
そこまで言って、捨てられた子犬のような顔。
「ふふふ、なつかしいですね。」
出会ったときはまだ髪も長くてふわふわした巻き毛は子犬のようだった。髪を切り、体つきも2年でがしりと男らしくなった。それでも出会ったときのようにやさしく、頼りなくほおっておけない。
「余計なことを言わずについてこいだけで、私は充分ですのに。」
顔を真っ赤にしながらファルはバラを受け取り。ほほ笑んだ。
「・・・ありがとう。でもきっと俺はこんなだから。」
「仕方ない人ですね。」
惚れた弱みというべきだろうか。弱弱しく笑うラグの頭を抱きしめながらファルは自分の将来を思うのであった。
次回はEX10、正史ルートでラグ君が生存していた場合はどうなるかという話。




