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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
「花告げの日々」

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64  ミサ『花告げの日々』 男子寮攻略編4 ミサ今更ながら我に返る。

ステージ5という名のオチです。

 数多の強敵と戦い、なんやかんやばったばったな時間を超えて気づけば男子寮5階。トリダート先輩の話通り、そこには廊下で困惑したように立っているラグがいた。

「姉さん、結局この状況はなんなの?」

「そういえば、そうね?」

 廊下で向き合いながら私も首をかしげる。

「私はラグに話が合っただけなのに、男子寮を上げて歓迎されるとは思わなかったわ。」

「歓迎って。非常時の防戦マニュアルの訓練じゃないの?」

「そうなの?」

 逃げたラブを追おうとしたら、なぜか男子寮全体で歓迎されたけど、これはつまり壮大な勘違いだったというわけか。

「紛らわしいことしないでほしいわ。」

「木刀を持って乗り込んできた姉さん言うことじゃないでしょ。」

「わりと前からやってるじゃない。」

 とんでもない勘違いをされたものだ。万が一にも跡が残るけがを私がしていたら大問題になってたわね、これ。勘違いとはいえ、訪ねてきた貴族令嬢相手に何やってんだこの人達。

「姉さんたちの日頃の行いの所為でしょ。てっきり抜き打ち訓練だと思って慌てて持ち場についちゃったじゃないか。」

「つまり、あれ、私を見て逃げたのは後ろめたいことがあったんじゃなくて、訓練に遅れないためってこと?」

「うん、ライオネル殿下が提案した訓練で、今度姉さんに襲撃者役をお願いするって聞いてたから。」

 あの色ボケ王子はあとでボコるとしよう。というか誰か1人ぐらい説明とか確認してくれればいいのに。なんというか必死だったよ。

「いや、それも姉さんの日頃の行いでしょ。」

 ごもっともです。問答無用で襲い掛かりました。

「まあいいか、ちなみにだけでここが最終関門ってこと?」

「そうだよ、ここで殿下と僕で足止めしている間に援軍を待つんだって。」

「なるほどねー。」

 いろいろと穴があるけれど、正面から乗り込んでくるならなかなかに効率的な防衛プランかもしれない。まあ学園内で男子寮で籠城するなんてシチュエーションが現実的じゃないけど。

「はあ、なんかすごく疲れた。」

「うんとりあえず、他に連絡するね。」

 脱力して壁に寄りかかる私に断りを入れてラグは壁につるされていた紐を引っ張る。するとカランコロンと鐘の音が響き、寮内にあった緊張感が和らぐ。

「普段は朝の起床時間を知らせるものだけど、今回は訓練終了のお知らせなんだって。」

「うん、そう。」

 なんだかわからないは男の子ってやつは。


 すったもんだあって私は男子寮のエントランスでお茶をもらうことになった。

「はあ、なんだかすごい疲れた。」

「いやはや、すまなかった。まさか殿下がまだ伝えていないとは思わなかったのだ。」

「ふん、状況を楽しんでいただろ。」

 ヘイルズ先輩もトリダート先輩の天然にも困ったものだ。ちなみにだけど数分気絶する程度に手加減はしてたよ。

「しかし、ソルベさんの腕前には驚きました。まさか手も足もでないとは。」

「まあ、頑張った方だと思うよ俺たち。」

「精進します。」

 新入生たち3人も回復して同じ席でお茶を飲んでいる。作戦も態度も立派だったけどまだまだ経験が足りなかったよねー。でもまあ武器を奪えた時点で合格じゃないだろうか。

「まあ、あとで殿下にはいろいろ聞くとして、皆さんお疲れ様です。突然のことでおどろきましたが、大変有意義気な訓練でした。」

 すれ違いだったという事情はみんなが知っている。だが大きなけがもなかったこともありこれで水に流すことになりそうだ。

 しかし、何かを忘れているような?

「お嬢様、ラグ君は捕まりましたかー。」

「別邸のおーえんの人達も帰りたがってますよー。」

 そうだ、忘れてたラグに用事があったんだ。

「そうよ、ラグ。あんたちょっとそこに正座なさい。」

「いやすでに座ってるけど。」

「ああ。」

 思い出すとともに怒りがこみあげてくる。なんだってこんな回り道をしないといけないのだろうか。

「おいおい、ミサ嬢。何事だ。」

「家のことならば俺たちは離れるが。」

「いや、みなさんも一緒に聞いたげてください。」

「はい。」

 やけに素直な男子一同。うん、やはり一緒に訓練すると仲良くなれるよねー。

「あんた、今日から何の日かは知っているよね?」

「ああ、『花告げの日々』だよね。殿下も先輩たちも街へデートに行ってたみたいだね。」

 ラグの言葉にトリダート先輩たち一部の男子生徒たちが照れたように顔をそらす。うん、まあ恋人のいる人達にとっては大事な日だよね。ちなみに殿下はマリアンヌ様と夕食をご一緒しているらしい。

 そう、そんな幸せな空気を感じて一日が終わるはずだったのに。

「ラグ、正直に答えなさい。ファルちゃんに何色の花をプレゼントしたの?」

 証拠は挙がってんだぞおら。気づけば別邸の人達も窓からこちらの様子をうかがっている。うん終わらせて早く帰らせてあげないとだけど。

「えっ、それは。」

 この期に及んで逃げ腰になっているラグにイラっとする。これはお仕置きだね。

「ふふふ、あんたよりにもよって、ファルちゃんにピンクの花をプレゼントしたんだって?」

「うぐ、はい。」

 みんなの前でバラすのはマナーが悪いと思ったけど、これは仕方ない。

「マジかラグ、お前最低だな。」

「女の敵。」

「もげちまえー。」

 途端にヒートアップする周囲。それはそうだろう。ファルちゃんとラグは許嫁だし、二人の仲はそれなりだ。だというのに、赤ではなくピンクを渡すというのは恋する気はないという失礼なものだ。

「いや、ファルも納得してたことだから。」

「しるかー。乙女の気持ちを踏みにじっておいて。」

「そうだ、そうだ。」

 ファルちゃんがラグに遠慮しているのは分かる。ラグ自身、他に相手はいないのに思いきれていない。だけど、ピンクの花はさすがにひどい。

「自信がないからこそ、『花告げの日々』では赤い花を渡す。それが男だろ。」

「仮に別れることになったとしてもだ。」

「そうだそうだ、俺なんて最初から相手もいねえよ。」

「贅沢な悩みをしやがって。」

 ここに男子寮の結束は崩壊する。

「いやだって、姉さんは知っているだろ。俺たちの関係の決着。」

 もみくちゃにされながらラグが必死に抗弁するが、同情の余地はない。

「だったら勝負をつけちゃいなさいよ。勝ってファルちゃんをお嫁にもらってもよし。負けてお婿になっても私は反対しないわ。」

 今更の話である。私やソルベの人間にとってラグは特別な存在だ。たとえ他所へ行っても家族であることを辞める気はない。ファルちゃんの実家はファルちゃんがお嫁にいくのはいやみたいだけど。それだって流れ次第だ。

「ラグ君、男らしくないですよ。」

「そうだ、一日見守っていた私たちの苦労とピンクの花を見たときのがっかり感をなんだと思っているんですか、情けないですよ。」

 いつの間にかソルベ関係者も寮内に入っている。

「ああ、もうだって今更勝負とか。」

「よし分かった。」

 ラグの気持ちは今更だし、ファルちゃんの気持ちも学内では有名だ。

 そして二人の関係が決闘によるものだというならば。

「あんた、ファルちゃんと決闘なさい。私たちが立ち会うわ。」

 ミサ・ソルベの名のもとに命令しよう。

「ソルベ次期当主であるミサ・ソルベがここに宣言しまう。我が弟、ラグ・ソルベは、ファルベルト・ファムアットに対して公式に決闘を申し込みます。」

「よっしゃああああああああ。」

 一瞬の静寂のあと、寮内は歓声に包まれた。

 うん、みんな酔っ払ってたのかな?

 後になってそう思ったのは内緒だ。


 ミサさんはあほの子じゃないよ。残念な子なんだよー。

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