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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
「花告げの日々」

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63 ミサ『花告げの日々』 男子寮攻略編3 トリダート先輩はそれなりに強かった。

ステージ4

 勢い余って到着したのは4階。さてさて誰が待ち受けているやら。

「とまれ、それ以上進んだ場合は攻撃を開始する。」

「あっ、陰険メガネだ。」

「この期に及んで失礼な奴だな、おい。」

 腕を組んで廊下の真ん中に仁王立ちしながら私を待ち構えていたのはトリダート先輩だった。威風堂々とした佇まいなのにメガネがやっぱり似合ってない。

「あれー、ここはトリダート先輩だけなんですか?」

「まあ実験的な訓練らしいからな、ここは俺だけだ。ついでに言えば殿下は留守なので俺が最終関門だ。」

 説明乙。ともあれここにきてトリダート先輩1人で迎撃に立っているというのはいささか寂しいものだ。あれだ、きっと友達が少ないんだろう。

「って、うわ。」

 とか思っていたら私の立っていた場所に空気の塊が打ち出されて慌ててよける。

「っち、外したか。」

 腕を組んだまま偉そうに舌打ちしながらトリダート先輩はそういい捨てた。

「なるほど、圧縮した空気による攻撃ですか、これは痛そうです。」

「初見看破はほめてやろう。だが、このまま進めるとは思うなよ。」

 言っている傍から再びの攻撃の予兆に私はその場から離れる。うん、微妙に空気が震えるから軌道は読みやすいけど狭い廊下だといずれ追い詰められそうだ。

「どんどん行くぞ。」

 私が状況を理解したのを待っていたのか、トリダート先輩は右手の先を私に向けて魔法を発動する。

「はや。」

 魔法はイメージだ。場所や起こる変化をイメージして魔力を流して自分の外の魔法の性質を変化させて物理現象を引き起こす。だから身振りや詠唱なんかでイメージは補強されるけど、トリダート先輩は手で狙いをつけることで空気弾の速度を上げてきたというわけだ。

「ずいぶんとお優しいですね。」

 次々に来る空気弾の兆候を察知しながら私は話しかける。

「ふん、不意打ちが通じるか試しただけだ。」

 最初は腕組み状態で魔法を見せてから、速度を上げる。廊下に上がってきた瞬間に攻撃していれば私でも回避はできなかったかもしれない。だが声をかけて、テレホンな一撃を見せている。

 この人って、口は悪いけど、悪い人じゃないんだよねー。

 なんだかんだ文句は言いつつ、メイナ様やライオネル殿下の無茶ぶりにも付き合っているし、こんな男子寮のノリにも付き合っている。その上で私をケガさせないように気を使っているのだ。

「とはいえ、これは手強いなー。」

 木刀があれば防御しながら突破できたかもしれないし、左手の痛みで集中力が阻害されなければ発動の隙をついて飛び込むことができそうなんだけど・・・

「そんなことさせると思うか。」

 トリダート先輩のセンスも馬鹿にできない。小さくまとめた空気弾の隙をついて私が飛び込もうとすると廊下全体をカバーする壁のような空気の塊を作り出して私の動きをけん制する。大きくなっている分ダメージは少ないけど、そこに足を取られてたら間を開けず追撃される。

 そんなコンビネーションを前に私は廊下をほとんど進むことができずに手詰まりとなってしまう。

「ふん、運動能力も反射神経もお前の方が優れているが、経験と魔力操作に関しては負けてないからな。ちなみに持久戦でも負ける気はない。」

 何より緩急がやらしい、間断なく攻めていれば息切れをするかもしれない。かといって私が適度に休めないタイミングで魔法が飛んでくるので意識を集中し続けないといけないから、地味にしんどい。持久戦になったら私の勝ち目は薄い。いやそれ以上に時間はかけたくない。

「参りました。トリダート先輩、さすがは殿下の側近ですね。見事な魔法と運用です。」

「ふん、この状況じゃなければ、回り込まれて終わってるけどな。」

 うん、冷静に状況を分析しているそれもまた先輩らしい。口は悪いしメガネは似合ってないけどこの人もなかなかの強者だ。

 仕方ない。

「じゃあ、決めさせてもらいます。」

 言って息を大きく吸って息を止める。無呼吸のとき人のポテンシャルは一時的に上がる。短距離走や打ち合いなどで短期決戦を仕掛ける場合の戦法で、制限時間は10秒程度。十分すぎる。

「ふん、来るなら来い。」

 走り出した私に対して飛んでくるのは無数の空気弾。最初の一撃は右斜め前に踏み込んで躱し、次の一撃は伏せるように潜り込む。そしてそこを狙った攻撃は無理やり床を蹴って飛び上がる。

「甘い。」

 加速する思考の中で勝ち誇ったトリダート先輩の顔を見て、私は目を細める。うん、空中じゃ躱しようがない。だけど距離的に次の空気弾はないはず。

「前からだと思ったのはお前の敗因だ。」

 ああ、やっぱりやさしいなこの人。だからこそ勝てるんだけど。

 天井と床から挟み込むように押し出される空気の壁。まるでギロチンやトラばさみのような圧縮された空気の壁はここに来て一番の威力。速度こそ遅いけど、空中では躱しようがない。

「と思いますよね。」

 でもね、先輩。魔法が使えるのは先輩だけじゃないんですよ。」

「せい。」

 瞬間的に作った氷で、捻った状態の足先を凍らせる。突発的な重さにより加速した私の身体は下から押し上げる空気の影を突き破り床に瑕を付けて着地をする。

「なっ、むちゃくちゃだ。」 

 うん、足がめっちゃ痛い。だけどそこで氷を解除して軽くなった足で再度地面を蹴って今度こそトリダート先輩に肉薄する。

「初見殺しで失礼します。」

 この戦法はやや捨て身だ。足が痛いし次からは対処されてしまう可能性が高い。

「ぐえ。」

 そのまま遠慮なく腹に一撃を加えて意識を奪う。うん、どんな形であれ勝ちは勝ちだ。

「ふう、危なかった。空気弾で追撃されてたら負けてたかも。」

 何か奇策があると予想しての行動だったけど、トリダート先輩は正攻法で空気弾を連射していたら私は先に進めなかったかもしれない。

「まさか、魔法まで使うことになるなんて、さすがでしたよ。先輩。」

 泡を吹いて気絶するトリダート先輩は、ちょっとカッコよかった。あとでメイナ先輩に謝ろうと私はその姿にこっそり思った。

 

さすがにそろそろゴールです。

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