61 ミサ『花告げの日々』 男子寮攻略編1 同級生にも意地がある。
ステージ2
男子寮はエントランスと食堂と浴場を兼ねた1階、2階から上は、個人部屋と廊下だけのシンプルな作りになっている。
「いちいち廊下を通らないといけないのって、最上階の生徒ほど不便じゃないのかしら?」
「まあそこはなれですよ、ソルベ様。」
「防犯とかの都合もあるみたいですけど、時間感覚と運土不足の解消のためらしいですよ。」
幅2メートルほどの廊下に無数の扉。そこに立ちはだかっていたの最近たくましくなってきたファス君とコリンズと方向音痴の新入生のトリオだった。
「ほかの人は?」
「先輩たちは上の階に、ほとんどの生徒は自室へ避難しています。」
「ありがとう、ファス君。でもその大盾はなに?」
めっちゃ丁寧に説明してくれるけど、時間稼ぎだよねー、これ。殿下は何との闘いを想定しているんだろうか?
「ソルベ様、ここは対話の余地があると思うのですが。」
「コリンズさん、ここに至って言葉は不要よ。」
同じく大盾を構える二人に私はニコリと微笑む。なにか壮大なすれ違いがある気もするけど。弟に会いに来た姉の道を阻んでいる時点で言い訳は通じない。
「いやいやいや、ミサさん、落ち着いてください。ここには平民もいるんです、さすがにお戯れがすぎますよ。」
「ひいい、お助け。」
いや、なんで彼をそこに置いたんだ。でもまあ、
「大丈夫、そういうのはね。」
自信満々に私は背中に隠してた木刀を見せる。
「なっそれは。」
「ふふふ、これなら良心は痛まないわ。」
私の木刀には柔らかそうな布に包まれた刀身があった。一階で使われていた棒の先にあった布を拝借して巻き付けてたのだ。思った以上にモコモコしていてこれなら全力でふってもケガには至らないだろう。
「まって、まってください。なんですかそれ。」
「コリンズさん。貴族たるもの、むやみに暴力をふるうものではないわよね。」
平民のあの子がここにいるのは、私が暴力に訴えるのをためらわさせるためだ。コリンズとファス君がここにいるのはその意図を気づかせるため。時間稼ぎにしてこの狭い立地なら攻撃をためらう私が3人を突破することはかなり難しい。
「だけど、これならお遊びで済みます。ちょっとハードな枕投げみたいなものですから。」
手加減が難しいなら武器を工夫すればいい。1階で得た学びは確実に私を強くしていた。
「く、くそー。トリダート先輩の言う通りじないか。」
「だ、大丈夫だファス、作戦通りに俺たちで止めるぞ。あとは。」
「わ、分かりました。」
ゆっくりと近づく私に対してファス君とコリンズ君は盾を構えて前に出る。よく見れば盾の表面にもあの布が張り付けてある。ということは。
「行くよ。」
意図を察した私は、床を傷めない程度に加減をして踏み込んで二人に激突する。剣を横に向けて剣の腹と柄で二人の盾の重心をとらえ拮抗する。
「嘘だろ、初見で盾の重心をとらえた。それも二人相手で。」
「いやファス君は一緒に冒険した仲じゃない。」
うん、お互い無駄なくいいシールドチャージだ。この柔らか武器シリーズは実力を試すという意味ではいいものかもしれない。お互い手加減がなくていい。
「いや、動きは止まった、今だ。」
「そう来るよねー。」
だが迷いのない攻撃と、膨れ上がった魔法の気配で狙いはバレバレだった。だからタイミングよく力を抜いて剣を手放して、二人が前のめりなったタイミングで再び床をけって隙間にむかって飛び込む。
「えっ。」
魔法というのはあれで集中力を必要とする。狭い場所で被害を抑えるために私を押さえつけて水か何かをかけようとしていたのだろうけど。だったら虚を突けばいい。
「残念。」
にっこり笑って抱き着くように床に引き倒せば、その直後にコリンズ君とファス君の背中に結構な量の水が降りかかる。
「危ない危ない。さすがに服が濡れたら撤退してたわ。あっごめんね。」
「だ、だいじょうぶでひゅ。」
驚きに顔を真っ赤にしている彼に謝りつつ私は立ち上がる。
「うん、3人ともやるね。少なくとも武器は奪えたよ。」
まあなくてもどうにでもなるけど。それは言わないお約束。
「む、無念です。」
「いやはや、まだまだですわ。」
そんな風に言いながら木刀はがっちり抑え込んでいる二人に一礼して私は廊下をかけだして、次の階を目指した。
うん、次はどうなるか、ちょっと楽しみになってきた。
ステージ2をあっさりと攻略したミサちゃん、さて次の刺客は?




