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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
「花告げの日々」

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60 ミサ『花告げの日々』 お姉ちゃん、男子寮を襲撃する。

ピンクは友人や家族に向けるもの。気になる女性に送る場合は・・・

 女子エリアの厳重さやゲストハウスの男子禁制などについては以前も語ったこともあるかもしれない。そして、それは男子寮にも言えることだ。用がない場合は女子は男子寮へ近づくことは許されない。ただ、私の場合は身内であるラグに会いに行くという建前があるので問題はない。

「あ、あのソルベ君。なぜそんなに物々しいのかな。」

「そんなことありませんよ、久しぶりに弟に稽古をつけてあげようと思っただけです。」

「な、なるほど。まあ日も暮れるから早めに戻る様に。」

「はい、わかりました。」

 すっかり顔なじみになった守衛さんと挨拶を交わして男子エリアに入り込めば、すぐに目立って騒がしくなる。なぜだろう、木刀をもって男子寮へ遊びに来るなんて珍しくもないはずだけど。

「おい、あれって。」

「いや、なんだあの気配。」

 勘のいい生徒は私の機嫌を察してすぐに道を開ける。なんならどこか遠くへ避難していく。

 ちなみにラグのもとへはベルカが先行して呼び出しをしていたので、男子寮の玄関のところにラグはまっていた。ふふふ、何も考えてないのんきな顔をしているわね。

「らーぐー、ちょっとお話があるからこっちへ来なさい。」

「あっやばい。」

 昔から何か都合が悪いことがあると逃げて時間を稼ぐ習性のあるのがラグ・ソルベという人間だ。だからこの状況で私と出会ったら男子寮の奥へと逃げ込んで時間を稼ごうとするのは予想ができていた。

「あらあら、お姉ちゃん悲しい。」

 だからあえてゆっくりと歩みを進める。裏口と側面はラニーニャとベルカ、そしてソルベの別邸から読んだ人間たちが見張っている。逃がす気なんてないよー。

「まてまて、ミサ嬢。さすがに男子寮へそんな物々しい気配で、ぐは。」

 何かうるさい先輩らしき壁があったけどとりあえず足を払って追い払う。

「だめだ、これ、総員第一種戦闘配置。日頃の訓練の成果を見えるときだ。」

「エマージェンシー、エマージェンシー。繰り返すこれは訓練じゃない、男子寮への侵入者だ、総員迎撃態勢。ラグを守るんだ。」

 なにこれ、やけに動きがよくない。思わず見惚れて相手の準備をまってしまったよ。

 手近にいた生徒はテーブルを立ててバリケードに、奥にいた生徒たちは壁に立てかけてあった槍のような棒、身長ほどの長さに先っちょは半円形に曲げられた棒とフワフワのクッション。なるほど身を守りつつ侵入者を安全に捕獲する運きということなんだろう。

「まさか、殿下不在のタイミングでくるとは、だが我ら男子寮一同、女子の1人に遅れをとるわけにはいかないんだ。」

 声高に宣言する生徒。うんよく訓練でボコボコにしているライオネル殿下の自称側近の1人。その言葉に呼応するようにエントランスにいた学生たちが棒を構えて私に迫る。その数10人、学生とは思えない覚悟と訓練された動きに私は素直に感心した。

「バリケードによるルートの制限と長い武器による恐怖心の緩和。これならば限られた人員でも防衛は可能ですね。あくまで撃退を主体としているから退路は残しつつ時間を稼ぐ。実に合理的で素晴らしいです。」

 対人戦に置いて意外と無視できないのは、人を殴ることへの忌避感だ。どんなに立派な武器も、どんなに立派な体格でも攻撃することをためらってしまえばそれらが生かされることはない。

「いいか、無理はするな、ミサ嬢が進むルートは限られている。訓練通り、合図で一斉に取り押さえるんだ。大丈夫、どちらもけがなく制圧できる。」

 その点、あの棒はいい。ケガをさせる心配がない。相手と距離が取れる。それだけで心理的な余裕が生まれて、指示によって動きが的確になっていく。

「殿下、学園でいったい何と戦おうとしているんですか?」

 嘆かわしいのは一般学生まで巻き込んでこんな訓練をしていたことだろう。うん、説教案件が増えた。

「守るべき人間に守られるのがソルベの人間ですか。」

 聞こえないであろうことを承知で私はつぶやいた。

「く、くるぞ。ひるむな。」

 私が用があるのは、ラグだけだ。ラグだけだった。

 だけど、殿下こんな面白いことを勝手にやっているというのは、4家として見過ごせないですね。

「みなさんとてもがんばってます。戦闘訓練が授業にあるとはいえ、ほとんど実戦経験もないでしょうに。恐れも戸惑いも乗り越えてここにいるんですね。」

 とても立派な心掛けだ。だけど。

「だが、無意味です。」

 ふらりと身体を傾けてから、一気にトップスピードになってテーブルのバリケードに突っ込む。

「なっ、こっち?」

 驚く指揮役の先輩には構わず床をけってバリケードを超えて、木刀を振り下ろす。

「あが。」

 時間が惜しいので手加減はなしで、意識を刈り取る。

「ただ、戦うのは兵士の仕事です。素人は引っ込んでいなさい。」

 着地と同時に振り上げた足でテーブルを反対に倒してバリケードの意味をなくす。

「ひ、ひいいいい。」

 数秒の静寂のあと、指揮役を失った残りの生徒たちは腰を抜かして悲鳴を上げる。そうそれでいい。戦うのは私たちの役目だ。役目じゃない人間に武器を取らせることをは私の主義に反する。

「まあ、そのあたりは殿下と話しあうとして。みなさんどいていただけますか?」

 にこりと笑えばその場にいた生徒たちはコクコクとうなづいて道を開けた。

 どんな武器も作戦も、個人の武の前には無意味だ。

「くくく、ミサ嬢。甘いぞ。時間は稼げた。男子寮の警備体制はもう整った。どこまで進めるかな。」

 最初に転ばせた先輩がそんなことを言う。

 あれれ、なんだろうこの状況。なんか楽しくなってきた。

「では、そのことごとくを食い散らかしてあげますわ。」

 その時の顔を、先輩は気絶するほど恐ろしかったとのちに語ったそうだ。

 実に失礼な話である。


 

 

盛り上がってきた『花告げの日々』はもうちょっと続きます。

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