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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
「花告げの日々」

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57 ミサ 『花告げの日々』 ローちゃんが大変だった。

ヒロインの活動がいろいろ影響しているようです。

「ミサちゃん、助けって――――。」

 ゲストハウスに飛び込んできた珍客、もといローちゃんは、私に会うなりそう叫んだ。

「ローちゃん、どうしたの。いつもの可愛さがないよ。いい恰好なのに残念感がすごい。」

 びっくりしつつもそこはローちゃん、フリフリやレースなどを使って可愛く改造した制服を着こなし、ピンクの髪もおしゃれにアレンジしている。だからこそ男性でありながら女性エリア、それも最もセキュリティーが頑丈なゲストハウスにも顔パスでこれるわけだ。だが恰好はともかく、覇気がないせいでなんだかすごく残念だ。例えるならば洗っていない泥だらけの犬に可愛い服を着せているような、すっごく高級な額縁に落書きが飾ってあるようなそんな感じだ。

「うう、ごめん、ごめんね、急にきて。でもミサちゃんしか頼れそうになくて。」

「うん、わかった、わかったからとりあえずお茶にしよう。」

 どんよりと落ち込むローちゃんをともない客間へ、お茶とお菓子を運んで人心地ついたところで、ローちゃんはやっと事情を話す気になったらしい。

「お花が足りなくなるかもしれないの。」

「お花?」

 

 詳しく話を聞けば。最近のローちゃんの新商品が原因で『花告げの日々』で使われる花の供給に支障がでるかもしれないとのことだった。

「日焼け止めとか虫よけとか効能つきのクリームがめっちゃ流行ったでしょ。」

「うんうん。」

「それで前にミサちゃんのアドバイス通り、いろんな香料を含ませたタイプを出したら、びっくりするぐらい売れたのよ。それこぞ生産が追い付かないぐらい。」

「うん?」

 いや確か私が言ったのは男性の向けの無香料のはず。いや違う、ローちゃんの温室でソルベで使われるハーブ系の料理と香料の話をめっちゃした。そして花の香りとかいいですよねーって言ったわ。

「でも、それでなんで花が足りなくなるの?」

「ミサちゃん、「花告げの日々」で贈る花と言えば?」

「赤の花?」

「おしい、その中で特に人気なのは?」

「バラ系、ああなるほど。」

 学生たちにはなかなか手は出せないけれど、バラ系の香りは今やマダムや貴族女性が血眼になって求めているものだ。ソルベにいる母様たちからもなんとか送りなさいとお手紙で急かされたのでよく覚えている。

「発案というほどのことをしたわけじゃないですけど、そんなにですか?」

「そんなになのよ。ほら、スキンケアとかシャンプーとか石鹸とかにも応用が利いちゃったから。春先からバラの花の消費量が倍増しちゃったのよ。」

「うれしい悲鳴とはいいがたいですね。」

 花は本来は愛でるもので観賞用やプレゼント用だ。だから一定の需要はあってもこのような爆発的な利用の増加は想定されてなかった。

「今はまだ大丈夫なんだけど、ほかの業者もバラの利用価値を考えたり、イベントに向けて先物買い的なことをしたりする人がでてきて、贈り物ようのバラが足りなくなってきたの。」

 先物買いというのはよくわからない。まあ要するにバラが足りないということだ。

「状況はよくわかったけど。なんで私に?」

「うん、ごめん、困るよね。でもこの相談がしやすいのってミサちゃんだけなのよ。同業の人とか職員はもうかるからいいじゃないって言うし、マリアンヌ様とかほかの女の子には。」

「ああ、みんな楽しみにしてるもんね。」

「ミサちゃんのそういう察しがいいところ大好きよ。」

「私もローちゃんのそういう素直なところ好きだよ。」

 現状で独り身、許嫁も恋人もいないから相談されたという事実に地味にダメージがあるけど。ただ、親友であり可愛いの追求者であるローちゃんの頼みなので私もいろいろ考えないといけない。

「バラが足りないってことなんだよね。赤も?」

「そうね、商品にするのは赤じゃなくてもいいから、赤の確保はできるけど。それ以外だと。」

 イベントでもっとも大事な赤のバラ。それをつぎ込むような愚かなことはなかったらしい。

「となると、ピンクとか白の家族や友人向けのバラが足りないってことなんだよね。ほかの花はだめなの?」

「ううん、好みによってほかの花も一緒に花束にするけど、王都ではやっぱりバラなのよねー。」

 なるほど。なんとなくわかる。ソルベはもともと植生が豊富なので日々色んな花が見れるのでバラだけというのは逆に目立って新鮮な気持ちになる。ファムアットは温暖な気候なのでヒマワリや青蘭など黄色や緑が多い。だからこそファルちゃんは真っ赤なはバラの花束にあこがれているのだ。

「入手困難な赤いバラで花束を作る。うん男性の活躍の場って感じですね。」

「ふふふ、そうなのよ、この時期はどっちにしろ赤いバラの人気は高まるの。高いお金を出すか、産地まで遠出をして奥様や恋人のために花束を用意するのがこの時期の男の甲斐性というものなのよ。」

「ロマンティックだねー。」

 思った以上にハードなイベントらしい。そういえば。

「あっ、そういえば、ラニーニャ、ちょっとお願いしていい?」

「はーーい、なんですかーー?」

 私は思いついたことの一つを実施すべく、控えていたラニーニャをよんでこっそり指示をだす。

「なるほどー、それは面白いですねー。」

 ラニーニャは私の意図を察して、すぐに厨房へと向かった。

「ねえ、ローちゃん赤い塗料ってない、できれば害のないやつ。」

「えっ、あるけど。あっこれね。口にいれても大丈夫なやつ。」

 何事と思っていたローちゃんからは赤い塗料を受け取り、水差しに入れる。

「うわ、すぐに赤くなった。これ結構いい奴じゃない?」

「チェリーの花ビラを加工したものよ、春先にたくさん咲いたものを保存して加工したものよ。」

 真っ赤に染まった水の出来に満足しつつ、それを手のひらにこぼす。

「見ててね。」

「うん、だけどミサちゃん、血まみれみたいでなかなかグロイわ。」

 自分でもそう思う。だが初めてのことなのでこうしないと集中できない。

 イメージするのは、ソルベで何度か父様が見せてくれた自慢の魔法。バラには飽きたという母様を満足させるために父様が苦心して生み出した氷の造形だ。

「できた!」

 ほどなくして生まれたのは、氷で作られた真っ赤なバラだった。花びらから学や枝、すべてが赤いクリムゾンアイスローズ。母様をイメージしたと言われるソルベの幻の花。

「すてき、魔法ってほんと便利ね。こんな美しいバラは初めてみたわ。」

 ローちゃんはうっとりと見とれている。だけど。

「でもローちゃん、これは解決にはならないね。」

「そうね、とっても素敵だから何かの機会で使わせてほしいけど。」

 やってみてあれだが、これは私と父様にしかできない魔法だ。ガラスや別の何かで作るとしても、このレベルのものが作れる職人も時間もたぶん足りない。

「それに高級路線になってしまうから、気軽にプレゼントできないんわ。」

「そうだった。」

「でもでも、あれね、他の何かで代用するというのは言い案だと思うわよ。」

 慰められるが、根本的な解決にならない。うん、私だって素敵な男の子から赤いバラとかこんなバラのオブジェをプレゼントとされたいと思うけど、友人からだとちょっと重い。

「お嬢様、注文の品ができましたので、お持ちしました。」

「ローズもよかったらー、御試食ください。」

 思考が止まりそうなタイミングで勢いよく扉があき、姦しいメイド二人が搭乗した。その手には素敵な料理が。

「こちら、ハムのバラ盛りでございます。」

「こっちはソルベパフェの花盛です。」

 ふふふ、次の提案もソルベでわりと食べられるようになった、バラを模した料理だ。

「なるほどハムを重ねてバラのように盛り付けているのね。素敵だわ」

「おほめに授かり光栄です、切り方と盛り付けが分かれば見た目はばっちりです、さらにこのソースをおかけしてお召し上がりください。」

 ベルカの給仕と説明にローちゃんは目を輝かせる。かけられたソースはほんのりとバラの香りがするが、なんとバラは使っていない。

「こちらはソルベの特産でして、複数のハーブを組み合わせてバラに似た香りを再現した物んだんです。こちらは肉料理にも甘いものにもあいます。」

 ソルベの特産、ローズオイル。これもローズ母様のために父様が開発したスペシャルソースである。

「うん、お肉もおいしいし、ソルベのフラットの味がソースと合うわ。」

 可愛くておいしいものにローちゃんのテンションが上がり、私たちはハイタッチをする。なんだかんだ、ラニーニャもベルカもローちゃんのことが大好きだし、ソルベの特産品を自慢するのが大好きなのだ。これは勝ったな。

「ミサちゃん、このソースのレシピ。」

「もちろん、ベルカ。」

「はい、こちらにメモしておきました。」

 素早く渡されたメモを見てローちゃんはしばしうなったあと。

「うん、これなら在庫で十分な量を供給できるわ。うん、もちろんレシピ料は支払わせてもらうからね。」

 あまり言いたくないがこれなら食事以外に香りづけにも使えるかもしれない。あとは専門家であるローちゃんに任せればいいだろう。うん、ほんとソルベの植物の知識は有用だ。

「ふふふ、一度ソルベへ遊びに行きたいわ。きっと素敵なものがいっぱいね。」

「ローちゃんならいつでも歓迎だよ。ね。」

「はい」「はーーい。」

 なんだかんだローちゃんにはお世話になっているし、ローちゃんの技術と知識は素晴らしい。ソルベの地にある色んな可能性をきっと発掘してくれるだろう。あと美容系のテクニックを母様や妹たちにもふるってほしい。手紙での嫉妬がすごいから。

「ところで、ローズさま、僭越ながら今回の件、私たちも愚考したのですが。」

「しょーじき、これでいいのかなって思いもあるのですが。」

「なになに、二人の考えることならきっと素敵なことだと思うわ。教えて教えて。」

 かしこまった二人に対して、ローちゃんはゴキゲンでうなづく。解決の手立てはたくさん欲しいのだろう。それにローちゃんもなんだかんだ二人と仲良しなのだ。

「「こういった商品はいかがでしょうか?」」

 そういって二人がテーブルにおいたものだ。それは

「また、これなの。」

 思わず突っ込んだそれは、赤い髪をしたぬいぐるみだった。ただ髪というには一つ一つが大きくまるで花びらのようなもの。来ているのも緑の洋服でまるで花の妖精のようだが。

「ミサちゃん人形、バラの妖精バージョンです。」

「ほかのバージョンもありますよーー。」

 やっぱり私か、私なのか。デフォルメされているのにどこか私の特徴をとらえたぬいぐるみは相変わらず質が良くてかわいい。あれだね、私ベースのぬいぐるみの頭の部分を花っぽくしたものだ。

「いいわ!!」

 ローちゃんが叫び声をあげて、ぬいぐるみを抱きしめる。

「すばらしい、すばらしいわ。恋人には例年通り赤いバラを。親しい人にはバラを模した装飾品やぬいぐるみをプレゼントする。これならお花の市場への影響を減らしつつ、新規市場としても儲かる。なにより、かわいいいいいい。」

 ローちゃんの可愛いもの好きがここに極まった。まあ、これでローちゃんの心配が少しでも減るならばぬいシリーズの新作も許可しよう。だが、売れるのか?

「いや、ミサ様、実は王都ではミサ様のぬいぐるみはひそかにブームなんですよ。確実に売れます。」

「なんでもー、魔除けになるとかー、子どもが健康になるお守りだとかー。」

 なにそれ、初耳なんだけど。騒がしいのが嫌で学園に引きこもっているうちに何がおこっているの?

「大丈夫です、マリアンヌ様いか、他のシリーズも大人気です。」

「ちっとも大丈夫じゃないよ。」

 今度、王都へ買い物に行こうと思っていたのに、怖くなったじゃないか。

 知らずに進んでいたとんでもないプロジェクトに私は身震いするのだった。

 浸食するソルベの文化とぬいシリーズ。

 武闘派で素直であるがゆえに今のミサの魅力が世間を狂わせていく(笑)


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