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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
「花告げの日々」

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56 ミサ コイバナに付き合う。

 コイバナは乙女のたしなみ

 夏も近づくなんとやら、気づけば学園生活も数か月。新しい環境にもなれて周囲をみる余裕が見えてくる。そんな時期になると私の奇行もとい活躍も周囲に認知され落ち着いたものだ。むしろ目前に迫った夏季休暇を前にどこか気の抜けた空気を感じる。

「そう思っているのはお前だけだからな。もう少し落ち着きを覚えろ。ラグを見習え、ラグを。」

「ふふふ、そのセリフ。倒れ伏してなければ説得力がありますよ、殿下。」

 見慣れた訓練場に広がる見慣れた死屍累々。その死体筆頭であるライオネル殿下はまだまだ余裕があるのか私に悪態をつく。それもいつものことだ。

「ちゃんと手加減してますよ、今日は一撃で決めてませんもん。」

「姉さん、乱戦でで10人相手に攻撃をいなし続けるのは手加減とは言わないよ。」

 同じくボロボロになっているが膝はついていないラグもなかなかに鍛えれているので姉としては満足だ。いや倒れるまで打ち込みを続けた殿下と自称取り巻きの人達の方が根性があるのだろうか?ちなみに今日は学生だけで近衛の人達はいない。まあ学生の訓練に現役が混ざるのも珍しいし大人気ないから。

「違うわよ、ミサ。どこかの誰かさんが上位魔物に遭遇しちゃって、しかもそれを倒しちゃったから、王都どころか国中で大騒ぎなのよー。」

「そうなんですか、マリアンヌ様。」

 というか、私、口にだしていた?

「あなたの考えることなんで大体想像がつくだけよ、ああもう訓練のときはちゃんと髪を結びなさい。ぼさぼさじゃない。」

 マリアンヌ様は後ろから私を抱きしめながら乱れた髪を梳きながらそんなことを話す。ちなみにだか絶妙なテクニックなので私は猫のように目を細めながら身を任せることにしている。

「学生が参加するような安全とされている森での異常事態なのよ。各所では原因の究明と安全の確認のために大騒ぎ。近衛以下、兵士たちは守るべきVIPが強すぎるから訓練に一層熱がこもる。良くも悪くも国中大騒ぎなのよ。」

「それにしては、マリアンヌ様も殿下の周りって変わりませんよねー。」

「それは、大人の意地なんだって。学園からの出入りはそれはもう厳重な警備が敷かれているらしいわ。だから、夏季休暇で帰省するなら早めに準備と手続きをしておきなさい。」

「はーい。」

「ふふ、お義姉さまったら猫みたいですわ。」

「次はファルですわ。あなたもなかなかにぼさぼさよ。こっちに来なさい。」

「え、ええ、お願いしますわ。」

 今日は一緒に訓練していたファルちゃんの髪もそこそこに乱れていた。なんなら私がしてあげたいけど、マリアンヌ様がそこは譲ってくれない。

「ふえー、やっぱりマリアンヌ様はお上手です。」

「ふふふ、二人とも猫みたいね。」

 近くのベンチに移動して三人で寄り添うように座り私たちはマリアンヌ様のお手入れを受ける。気づけばそうされるのが当たり前になっている。

 次期国母に対してこれでいいのだろうか? うんマリアンヌ様も楽しそうだからよしとしよう。

「あれ、マリアンヌ様、なにか香りが変わりましたね。オレンジ系ですか?」

「そうなのよ、例の新作を殿下がプレゼントしてくれたの。」

 学生向けの肌ケア用品。例のごとくローちゃんの新作で売り切れ必死のアイテムを使いこなすマリアンヌ様。そして殿下、なかなかの甲斐性ですね。

「これは、お日様を連想させめすね、マリアンヌ様にぴったりです。」

「そうね、ファルはレモン系の方が似合いそうね。ミサはミント系なんかいいんじゃないかしら。」

「そうですね、私たちも普段はそれを使っています。」

 ミントやレモン系のクリームの開発には私もかかわっている。だからファルちゃんや侍女たちにもおすそ分けをしている。オレンジ系はベストセラー品でお店で買わないといけない。

「バラやユリとかのお花系も素敵なんだけど、この時期はねー。」

「そうですね、この時期は。」

 基本は植物由来、それか無香料を付けるのがこの時期のマナーだ。というか流行りなのだ。話していてファルちゃんとマリアンヌ様の顔もほんのり赤くなり期待するように男性陣を見ている。

「『花告げの日々』でしたっけ、去年までは家族だけだったから、ちょっとだけ楽しみなんですの。」

 乙女の顔になったファルちゃんは可愛くて私は頭をなでる。うん、私はあんまり変わらないけどね。

「殿下は毎年、赤い花を花束で送ってくれますの。」

 ニコニコのマリアンヌ様も楽しそうだ。

『花告げの日々』というのは夏季休暇の直前に行われるお祭りのようなものだ。特別な行事というわけではないけれど、この時期は花の屋台がたくさんでて、親しい人やお世話になった人に花を贈る。

 始まりは、初代王が開拓の日々の中で奥様に真っ赤な花を贈るために1人で大遠征をしたということを言われてとしている。

 赤い花というのは意外と珍しい。今でこそ農家が副業で育てているが、その当時は危険な旅の先に手に入る貴重な花という認識があり、初代王の奥様への深い愛情をうかがえるエピソードとされている。それにあやかり『花告げの日々』の時期になると赤い花は恋人に、家族や親しい人間にはピンクの花を贈るというのがこの国の麗しき風習となっている。

「そういえば、ファルちゃんは、ラグと許嫁になってから初めての『花告げの日々』だもんね。これは、なかなか。」

「いえ、まだ正式に決まったものではないですし。」

「ファル、自信をもっていいわ。ラグ君はあなたにメロメロよ。こんなに可愛いんだもの。」

「マリアンヌ様、私は。」

「ミサも可愛いわ。」

 きゃああとはしゃぐ私たち。

 ただ、私たちはまだ知らなかった。『花告げの日々』がなかなか愉快なことになることを。

 そして、私たちの様子に男性陣が焦りまくっていたことを

 どこかの水の惑星でありそうな、素敵な風習でした。

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