55 ミサ 1年生 さらっと宣伝する。
学園あるある、新入生のあるある話
ルールや規則には根拠がある。安全のためだったり平和のためだったりと様々な根拠があるが、根拠を理解しているかいないかでは、している方が守ろうとする意識が生まれるものだ。
「ちょっと、あんた何考えてんのよ。」
「これだから、平民はだめなのよ、教養が足りないのよ。」
「ひいいごめんなさい、ごめんなさい。」
目の前に繰り広げられる光景はまさにそれである。一年生と思われる貴族令嬢二人が、平民と思われる作業服の生徒にお冠、よくあると言えばよくある、平民と貴族の認識の違いによるトラブル。
「あらあら、大変ですねー。」
「メイカ様、どうしましょう?」
先日に引き続き、メイナ様の実験に付き合った帰り道。私はこの場面に遭遇していた。関らないことが一番だが建物のエントランスで行われているので避ければ遠回りになってしまう。
「うーーん、仕方ないですね、それにあの子はお説教です。手伝ってもらえます?」
「はあ?」
あの子というのが誰のことなのかわからないけれど、メイナ様が行くというなら付き従うしかない。
「ちょっと失礼しますよー。」
水を差す、もとい風を起こしてメイナ様は3人の間に気流を起こして風を巻き上げる。
「あれ?」
「すごい魔法、えあれって、ミサ様じゃない?」
堂々と近づくメイナ様と付き従う私。うん私は学内でも有名で、それが付き従っている時点でメイナ様がただならぬ人ということは分かったのだろう、貴族の二人はすぐに姿勢を正す。
「アッ助かった、ありがとうござい。」
「何っやってるんですか、アナタは!」
場が中断されたと思った平民男子に対して、メイナ様は低く不機嫌な声で叱責した。
「その恰好と手に持っているカゴから察するに、基礎製薬の実験だったんでしょ。なぜそれを1人で、ここにもっているんですか?」
「あっそうか、実験の廃液が必ず裏口から処理場へ行くんでしたね。」
これは平民の男子が悪い。
基礎製薬の実験というのは1年生が最初にならう実験で、薬品の実験などででた廃液を処理する薬品の配合を学ぶ授業だ。私たちはこれからだが、作業服や実験きっとを一通り用意したり、実験室の使い方を学ぶことでもある。
「あっ、急いで処理場にもっていかないとと思いまして。」
「ああ、あるあるでしたか。そういえば新学期でした。」
男子の言い訳にメイナ様はため息をついた。それほどのことだろうかと私と女子二人は首をかしげる。
「いいですか、今回の実験の廃液が無害ですが、匂いが強いです。それはどうしてだと思いますか?」
その場に居合わせたほかの生徒にも問いかけるように声をあげるメイナ様。
「廃液の中には持ち歩くだけでも危険なものがあります。だからこそ、実験室は安全に処理場まで運べるような場所にあるんです。多少不便でもかならず安全服を着て、決められたルートを通る。これは授業で一番最初にならうことでしょうに。」
「あっ!」
メイナ様の言葉に顔を青くして何かを思い出す男子生徒。そして勝ち誇る女生徒たち、だが。
「あなたたちも何かあったのかわかりませんけど、薬品や廃液をもった人に近づきすぎです。自己防衛は大事ですよ。基本は近づかない、万が一廃液や薬液がかかったならすぐに洗い流すか、医務室へ行くべきです。」
「えっ。」「すいません。」
「まあ、気持ちはわかりますよー。この廃液ってそのために臭いですから。」
ただメイナ様からすると女子生徒たちも減点だったらしい。
「あああああ、お前にここにいたのか。」
そんなことを言っていたら、実験室のほうから作業服をきた男子生徒が声を上げて走ってきた。
「あっ、コリンズさんだ。」
ドタドタという特徴的な足音と、見覚えのある顔で私はその男子生徒が顔見知りであることにきづいた。
「あっ、ミサさん、ごきげんよう。いや、大丈夫ですか、こいつ何かやっ、やってしまったようですね・・・。」
状況を察したららしくポム・コリンズことコリンズは男子生徒と周囲を見比べて察したらしくすぐに頭を下げる。
「す、すまない。ペアでの活動なのに目を離してしまった。」
「えっ、ええっと大丈夫です。ちょっと薬液がかかっただけだから。」
「「いや、それ大問題だから。」」
私とコリンズの言葉がかぶる。うん、男子生徒よ、というかあれだ、初日にコリンズともめていた男子生徒じゃないかこの人。
「す、すいませんコリンズさん。」
「俺じゃなくて、みなさんに謝れ、そして今はすぐに戻るぞ。」
「は、はい。すいませんでした。」
態度こそ変わっていないようにも思えるが、コリンズ言っていることは間違っていない。平民だとさげすむのではなく、相手の行動に対して注意する。うん成長したものだ。髪型もださいピッチリではなく流し気味のパーマーになっているせいかどこかさわやかだ。体格が今後の課題かな?
「うん、よかった。ここは私たちでやっておきますので、お二人は処理場へ行ってください。」
「あっはい、ありがとうございます。報告は先生のほうに必要があれば。」
「大じょーぶですよー。メイナ・ラシェードが対応したと先生にはお伝えくださると助かります。」
「ラシェード、はいでは、ラシェード先輩、よろしくお願いいたします。」
メイナ様の名前に覚えがあったのだろう。だがそれ以上に場を収めるべくコリンズは余計な事は言わずに礼を言って男子生徒を引きずってその場を去っていた。
うん、人間変わるものだ。さすが学園。
「さて、とりあえず匂いは風で押し流すとして、問題はあなたたちの制服ですね。見せていただいても?」
ドタドタと遠ざかっていく男子二人に呆気に取られていた女生徒二人にメイナ様は近づき、手をとったり、顔を見る。
「ええっとスカートに・・・」
「私は手の裾にかかってしまって。」
落ち着いたのか女生徒が泣きそうになって廃液のかかった制服を見せる。茶色のシミができてしまい、たしかにちょっと匂う。1年生、それもまだ制服に着られているような子たちだ、制服にこんなシミができたら悲しくもなるし、怒りたくもなるだろう。
「これは、気の毒してたねー。でも大丈夫ですよー。」
そういってメイナ様はポーチから布をだし持っていた薬液を付けてシミをトントンと叩く。
「染み抜き用の薬です。薬学の授業で習いますので小瓶で持ち歩いておくのをおすすめします。まあ実験等や医務室に常備されていますから、何かあったら相談するといいです。」
「はい。」「ありがとうございます。」
シミは確かに消えた。ただ落ち込んだ気分とどこかいやなにおいが女生徒たちから消えない。いくら換気してもそういう気分はなかなか復調しない。だからこそ、男子生徒にもあれだけ怒ったし、今になって悲しくなってしまったのだろう。うん、どうしよう。
「あっそうだ。二人ともよかったらこれを使ってみて。」
いいものを持っていた。それを思い出せたのは、ついさっきまでローちゃんも一緒に実験をしていたからだろう。
「あっミサ様。これって。」
渡された小さな金属容器、そこにはいったロゴマークを見て女生徒の1人が目を丸くして問い返した。
「そうだよ、ジャネットの新商品の試作品、リラックス効果のあるハーブ系のハンドクリーム。香水じゃないから授業中に着けててもOKなやつなんだ。」
「ジェネットの新商品って、いやいや通常商品でも人気がありすぎてめったに手に入らないものですよ。」
「ううん、これは開発に関ったお礼にもらったものだから。それにローちゃ、ローズさんならこういうときにこそ使ってほしいと思うよ。」
高級品、もとい希少品である。ジャネットの化粧品は今や大人気で貴族であっても学生がおいそれと持てるものじゃない。だからこそ女生徒たちのテンションは高い。
「もしよかったら感想を聞かせてね、私はかなり気に入っているの。」
そう言って右手を見せれば、うっすらとハーブ系の香りが広がり、すべすべの手が見える。
「ジャネットの新商品でこの香り。」
「しかもソルベのお姫様も愛用している品。」
ごくりと周囲の女生徒たちが反応したような気がした。うん、これは。
「よかったら皆さんも試してくれませんか?まだサンプルはありますの?」
引きつりそうになるのをぐっとこらえて私は優雅に周囲の生徒たちに声をかける。
「いいんですか?」
「きゃあーー、ジャネットの新商品よ。」
「ああ、かわいいこんな後輩がほしい。」
途端に群がってくる女生徒たち。うん美容とか健康なら気になっちゃうようよねー。
「じゃあ、ラウンジに移動しましょう、そこで。」
そっと女生徒たちの手をとり私は移動を開始する。
「あっ、ここの片づけと確認は私がしておきますよー。」
「ありがとうございます。」
先輩に任せるとい、うしろめたさを感じつつも興味がまさった女生徒たちの顔にも気づけば笑顔が戻っていた。
その後、ラウンジに集まった女生徒たちに試供品を配り、感想を必死にレポートに取っていたら、女生徒二人にはすごく感謝された。まあ同級生だらね、困ったときはお互いさまだ。ついでに言うと、お店に未発売のハンドクリームを求める女子が殺到してローちゃんにぷりぷり怒られたりもした。
コリンズと男子生徒は連帯責任で怒られてエントランスの掃除を言いつけられたらしい。だがコリンズはことが大きくならなかったことと女性生徒へのフォローに感謝された。そこで聞いたが、なんだかんだ同じクラスになった平民男子の世話を焼いているそうだ。あのテンプレ貴族がずいぶんと丸くなったものだ。学園さまさまである。
ちなみにだが、1年生が、処理室への移動をめんどくさがったり急いだりして近道をしようとエントランスを通って怒られるというのは毎年の風物詩なのだだとか。
「ちなみに、去年は殿下がやらかしてな。マリアンヌ様にものすごく怒られていた。」
というのはトリダート先輩情報だ。
学校のルールを守らないで怒られる新入生、それを見て学ぶ周囲。




