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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
学園編

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53 ミサ 1年生 父の黒歴史を知る。

 ゲームの設定的なエッセンスを語り忘れていたミサさんたち

ベガ・ソルベ、パムロット・クラウン、リンゴ・ファムアットはそれぞれのパパさんたちです。

 ソルベとファムアット、そして王家はもともとは独立した国だった。だから基本的にそれぞれは独立している。そんな事実は別として、父様世代とかはめちゃくちゃ仲が悪い。

「おじい様なんかはその典型ですね。ファムアットが一番で、交易がなければ他の家とは交流はしないぞって言ってますからねー。」

「ああ、あの人はそういうところありそうだよね。」

 昼食の席でそんな話題が上がったのは、ファス君が授業でそんな疑問を口にしたからだ。歴史の授業ではお互いに助けあっている事実はあるし、お互いに必要だとは思っている。だが父様達とファムアットのおじい様、そして王家とロムレス家の親世代は非常に仲が悪い。それは王国の人間なら常識ともいわれるエピソードだ。

「きっかけは4家の中で一番強いのはだれかっていう話だったな。ちち、陛下が戯れにそんなことを言ったのがきっかけで、」

「4家とその関係者から代表選手を募って、御前試合があったんですの。まあ、私たちが生まる前、20年ぐらい昔の話ですわ。私だって知っているのは伝聞ですわよ。」

 気になって訪ねたのはマリアンヌ様とライオネル殿下だ。二人なら、私たちよりも国の歴史に詳しいと思ってお食事に招待して話を聞くことにしたのだ。

「まあ、ラグも含めて俺たちの認識の違いを確認するのも面白いかもしれないな。

 4家の時代が同じ食卓を囲っている。親世代からすると信じられない話らしいことだが、私たちは基本的には仲良しだ。なにせ、親世代の仲の悪さをしったのだって入学時に母様から注意として聞かされて、私とラグは初めて知ったぐらいだ。


 およそ20年前、ベガ・ソルベ、パムロット・クラウン、リンゴ・ファムアットの3人が学園で過ごしていたときのことだった。

「なあ、結局のところ、俺たちで一番強いのって誰だろうな?」

 まだ王太子であったパムロットがほかの二人にそんなことを訪ねた。食事時のちょっとした雑談、冗談ともとれる会話だった。

「魔法抜きなら、俺だな。」「魔法抜きなら私ですね。」

 だが、声をかぶらせたベガとリンゴにとってそれは致命的なものだった。

「はは、ベガは年上を立てることを知らないな、先輩だぞ俺。」

「私は正直な所感を述べただけです。」

 3つ年上のリンゴに対してベガは不遜な態度を崩さない。身体のレベルと経験のバランスが取れる十代半ば特有の自信にあふれた態度に年上二人はむっとする。

「ふふふ、ベガの自信過剰は相変わらずだな、ローズが感化されるわけだ。兄としては複雑だがな。」

「一回、身の程を知った方がいいな。うん、この際だ卒業前に先輩の偉大さを教えてやるべきだ。」

「悲しいですね、現実を見れないとは、これが大人ですか?」

 どっちもどっちだが、当時を語る人間いわく、すべてはベガ・ソルベの不遜さが原因であった。


「もともと伯母上との関係で、ベガ様は学園でもかなりの目立っていたそうだ。そこを陛下やリンゴ殿がフォローしていたらしいのだが、そのやり取りをきっかけに、国中を巻き込んだ大武闘会が開催されたらしい。これは学園と王城にきちんと記録されいてる。」

「私の父、ロムレスの現当主とファルさんのおじい様、そして先代のソルベ様の署名入りできっかけのやり取りが公文書に残されているんですの。」

「なにやってんの、お父様!!私の事言えないじゃん。」

「姉さん、そこら辺の自覚はあったんだね。」

 大武闘会の話は私もラグも知っていた。ソルベの兵士長の何人かと父様、パムロット陛下とマリアンヌ様のお父様、ファムアットのおじいさまやリンゴさん。などなど腕に覚えのある人達が集まった。そして、ベガ父様はその大会で優勝したことで国内最強と言われるようになったのだと。

「そのきっかけは実にくだらない意地の張り合いであったというわけだ。」

「殿下、それを言うなら、事あるごとにミサに絡んでいるあなたも同じですよ。いい加減に負けを認めてしまえばいいじゃないですか。」

「ぐっ、それとこれとは話が別だ。」

「大武闘会でのやりとりをきっかけにおじい様がベガ様や陛下をクソガキと呼ぶようになったとも聞いていますけど。舞踏会自体もなかなかに大人げないものだったらしいですねー。」

「ああ、リンゴ様がおしゃっていたな。不意打ち、だまし討ち、闇討ちなんでもあり、場外乱闘で参加者が半分ぐらいリタイアしたとか。」

「うん、やるわ。父様とボスピンたちなら勝てばよかろうの精神とかいってそういうことすると思う。」

 正々堂々戦って勝てばよし、負けたなら勝つための努力を怠ったというだろう。そういう蛮族的なところがあるからな、みんな。

「百年の平穏をぶち壊す大騒動、王都ではそう伝えられていますからねー。」

「マリアンヌ様、それはちょっと言い過ぎでは?それに、なんだかんだ、ローズ母様とベガ父様が結婚したことをきっかけに4家の交流が盛んになったとも聞いてますよ。ラグちゃんとファルちゃんの婚姻だって、その事件を通してリンゴ様がソルベの強さを認めたからですし。」

 うん、名誉のためにここは反論しなくてはならない。

「それは、ミサの言う通りだ。きっかけは父様たちの意地の張り合いだが、ローズ伯母上との関係を認めさせるためにベガ様がどこかで実力を示さないとならなかったのは事実だ。そして二人の婚姻があったからこそ、今の俺たちの関係があるわけだからな。」

 ライオネル殿下も思うところがあるのか、フォローに回ってくれた。まあ、この人がしていることって、まんま父様の暴れっぷりと同じだし。

「ちなみにだけど、ミサ。訓練場に斜めに切られた柱があるのは知っているかしら?」

 マリアンヌ様も深入りはせず話題を変えた。

「ええっとあれですよね、吹き抜け通路の一部が斜めに切れてるやつ。」

「あれをやったのはローズ様とベガ様よ。」

「はい?」

 あれって頑丈な石材でそれなりに太かったよね。しかもかなり鋭利な断面だったような。

「技比べといって、お二人が剣をふるって柱を切り落としたというのは、学園の伝説ですわ。」

「ああ、縁結びの石材でしたっけ、お二人の縁にあやかってその石材が代々のお守りになって学生たちの間に伝えられているっていう。」

「ファルちゃん、なにそれ?」

 20年も伝えられる石材ってなによ。というか修繕しようよ。

「なにはともあれ、4家の行動は目立つ。そして記録と記憶に残るということだ。」

「だからね、ミサ。くれぐれも自重しなさいね。」

 お兄さんとお姉さんの顔をした二人にそう諫められれば私も反省するしかない。

「ちなみにだけど姉さん、お二人にはお二人でいろいろあるんだよ。」

 励ますようにラグが何か言おうとしたが、急に黙った。うん、命は惜しいよね。

 こうして、当事者は語らず、周囲の人たちによって語り継がれながら私たちの日々は記録と記憶になっていくのだろう。

 そんなことを思う昼下がりだった。


 

 雨降って地固まる。親のふりを見て、子どもたちは冷静だったという話。

 大武闘会の詳細はいずれ。

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