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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
学園編

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52 ミサ 1年生 マナー講座を受ける。

 学園生活をえんじょいするミサさんです。

 教育リソースが限られている世界だからこそ、学園出身というのはそれだけでかなりのステータスとなる。なぜなら、入学を許された時点で国に対して有用な人材、エリートである証明となるからだ。それが学力なのか、実力なのか財力なのかはそれぞれの素質によるものだ。だからこそ、足りないことは補わねばならないし、長所を伸ばすなんて教育もある。

 そんな学園の中で、全生徒に共通して求められる資質として、戦闘能力と礼儀作法がある。 

 この世界は割りと物騒だし、戦闘能力を基準とした身体能力と健康な身体が将来性なのだ。そして礼儀作法は、人間関係を円滑に進めるためのもので、人の上に立つ上で外せない要素だ。

「では、食事の仕方から始めましょう。」

 というわけで、マナー教室、もとい礼儀作法の授業というのは必修科目だ。

「では、はじめてください。」

 といっても私たちのクラスは全員貴族、最低限のマナーは入学前に教え込まれている。そのため教わるというよりもはマナーチェック的な授業となる。用意されたテーブルにグループごとに座り食事をする。担当の教官が近くに立ち、レポートを書いたり、口頭で注意をしたりする。

「ミサさん、おかげんはいかがですか?」

「ありがとう、メイカさん。おかげ様でこの通りよ。」

 授業、そして会食であるために今日はちゃんづけはなし。真面目な紳士淑女の社交の場では学生は平等ということになっている。入学前はソルベの姫という立場で私はかなりのVIPとなるのだけれど、在学中は平等となる。

「なんだか、不思議です。こうして皆さんと席を共にするというのは。」

 ファス君は毎回そういってガチガチである。まあ、学生は平等なんて考えは建前だしねー。

「ああ、このスープおいしい。海鮮系なのね?」

「お義姉さま、さすがです。なつかしのファムアットの味ですわ。」

 海鮮系の味がしみ込んだスープの味に驚きつつ、私は声を上げる。料理を見抜き産地と素材を誉めるのはホストに対する礼儀だ。逆に料理の出し方で相手の意図を読み解くのも求められマナーだ。

「私、海鮮系というのは初めてですが、お肉よりもあっさりしていておいしいです。」

「スープにした場合は、海鮮系の方が味が濃いからねー。」

 メイカちゃんのように初めて口にする場合も感想が求めらるが、何かと比較するのはNGだ。とっさにラグがフォローする。こういった助け合いもマナーだ。

「海のものは生のままですと痛みやすいので、干したり凍らせたものをスープなどに戻していただくのが王都では一般的です。ファムアットでは新鮮なものが食べれるんでしょうか?」

 ファス君の感想は満点だ。そして先生たちの意図することを理解し、会話の中心はファルちゃんになる。

「ええ、これはカツオというファムアットでよく獲れる魚をいぶして干したものをスープにしています。ファムアットでは朝獲れたカツオを捌いて食べることがありますわ。焼いてもおいしいですが、とれたてのものを消毒して生で食べたりもするんです。」

「生で、ですか?」

「氷締めみたいなものね、火を通すのではなくて、凍らせたり酸味の強い調味料で消毒するの。触感がどくどくだけど、おしいのよ。」

「ああ、あれはなかなか面白い食べかただね。」

 食べ物を生のままで食べることは危険とされている。とれたての野菜や果物でも熱を通したりお酒に着けたりして消毒して食べることはこの世界の常識だ。特に動物の乳や肉は加熱して安全にしてから食べないと病気になる。

「火を通すのが一番安全かもだけど、氷などで冷やすことでも消毒はできるのよ。」

 それを開発したのはほかでもないソルベだ。山間部で燃料が貴重な冬。雪や氷の中に保管することで食材を長持ちさせたり消毒したりしたのだ。まあ、主役ではないので口にはださない。

「あとは塩ですね。海水には消毒の効果があると言われているので、獲物を海水で洗ってから市場や食卓に持ち込むのがファムアットのマナーですね。それこそ、「洗わず仕舞い。」というのは、礼儀を知らない人のことを指すんです。」

「へえ、面白いですわ。お魚と言えば、干物を焼いたり、スープでいただくものだとばかりおもっていましたけど、いろんな食べ方があるんですねー。」

 メイカさんは、初めて聞く話に興味津々で、更なる話を聞きたいというスタンスをとる。これもまた、マナーである。

 社交の場において、ホストは料理や飾り付けなどでお客に目的を伝える。お見合いならこの花を、援助目的ならこの色の調度品を、食事ならば地元の食材や調理法をだすことで歓迎をしめしたり、相手の土地で獲れる食材を利用することで交流をしたい意志をしめしたりする。

 もうお分かりだと思うけど、私たちのテーブルはファムアットの食材で彩られている。だからこそ、ファルちゃんは会話の中心となってファムアットの領地のことを話すし、私たちはそこに興味をもって話しを引き出す。

 ナイフの使い方や座り方なんてものも大事だが、それは基礎技術でしかない。場の空気を察してお互いに楽しく過ごすために配慮しあう。窮屈だけどこれはきっと必要な技術なのだ。

「そういえば、ミサさんたちはご兄弟がいるんですよね?」

 ひとしきり話をしたところで、ファス君が話題を変えた。

「ええ、私は上に腹違いの兄が2人いますわ。だいぶ年上なのですけど。」

「ああ、あの二人か。」

 思い出して、ちょっと嫌な気持ちになる。ファルちゃんのお兄さん二人はそこそこに腕がたつ。同時になかなかに曲者だった。

「そうですよね、いや以前王都でファムアットのご子息が、うちの工房を訪ねられたことがあったんです。」

「まあ、兄たちがですか、失礼がなかったならいいんですけど。」

「いえ、ラス家の鍛冶の技術の高さを大変ほめていただいたと父が言っていました。たしか、「銛」という返しのついた槍を作りたいとのことでした。」

「ああ、あの件ですか。」

 うん、これ私関連だ。

 一年前、もう一年前になるのか、ファムアットに遊びに行ったときに私たちが槍で海の魔物を狩ったときファムアットではなんぞ意識改革というか、技術改革があったのだ。

「ああ、とある一件で、ファムアットの武装が見直されましてね。それはもう兄たちが張り切っていまして、その節はご迷惑を。」

 そう、きっとご迷惑しかかけてないだろうな、あの人達。悪い人じゃないけどともかくせっかちで勢いで動く人だから。ラス家の人には印象にのこったことだろう。

「いえ、あの槍をどのように使うのか、このような美味しい食事につながるなら興味があるなって。」

「そうですか、いつかご招待したいですわ。ファムアットはいつでも歓迎いたしますわ。」

「ええ、それはぜひ。」

 うん、あと一か月もしたら、また長期休みだ。メイカさんたちも誘ってファムアットへ旅行をしてもいいかもしれない。なんならソルベに来てほしい。

「ふふふ、みさなん、社交は満点ですわ。」

 監督の教官からは、和やかな空気に満点をもらった。

 やったぜ!

礼儀=グルメ?

礼儀作法を知っている、習得していると、実践できるは別物という話でした。


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