50 ミサ1年生 動じないがごまかす
後始末ってとても大事
さて狩りも討伐も倒したあとが大事である。
「姉さん、だいじょ、ってなにこれ?」
「ラグ、私は手当をするから、穴をほって。ファルちゃんは周囲警戒しつつ狼煙をお願い、ファス君とメイかちゃんは、動けるようならファルちゃんを手伝って。」
素早く指示をだして私は倒れている先生たちに近づく。
「うう。」
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。多分折れてるけど。」
まずは意識の確認。折り重なるように倒れいる3人の大人を仰向けに並べながら声をかければ、かなり痛そうだけど意識ははっきりしている。
「ファス君、私たちの荷物を、できたら全部、無理なら私のをお願い。」
「は、はい。」
よし、ファス君も動けるようだ。ラグとファルちゃんに関しては問題なくそれぞれの仕事を始めている。
「失礼しますね。」
「いで。」
妙な方向に曲がっている腕に触れば確実に折れていた。恐らくは不意打ち気味に一撃を貰って武器を持っていた腕を折らて、その後に両足も折られたのだろう。上位の魔物の中には獲物をなぶって楽しむことがあると聞いていたけど、今回はそのおかげで先生たちは命拾いしたようだ。
「ちなみにですが、他には誰かいましたか?」
「ぐえ、だ、大丈夫だ。俺たち3人だけだ。ゴブリンもさっきので最後だ。」
「ありがとうございます。ちなみにですが、布要ります。」
「頼むわ。一思いにな。」
代表して話していた1人に他の2人も同意するようにうなづく。骨折の場合の応急処置はかなり痛い、ショックで叫んだり、舌を噛んだりすることがある。私は腰のポーチから出した包帯を適当に丸めてそれぞれの口に入れてしっかりと噛んだことを確認して、おもむろに1人の足を掴む。
「うん、骨が飛び出してるとかはないですね、内出血はしてるけど、うんこれなら。」
ちょっとだけ整えてあげれば大丈夫。
「んんんんんん。」
ただ、めちゃくちゃ痛い。見ているだけでもダラダラと汗が流れてくる。あと8本・・・
「いや、正直助かった、感謝するよ。」
一通りの処置を済ませて氷で即席のギブスを提供。その後細かい出血とかを包帯でぐるぐるして水を飲ませたところで、まともに会話ができるのは1人だけだった。
「何があったか、聞いても?」
寝っ転がるその人を見下ろしながら私は尋ねる。こんなところにゴブリンがいるというのは異常事態だ、まだ意識があるなら早めに情報を共有しておく必要がある。
「ははは、すげえな。完全にプロの動きだぜ嬢ちゃん。」
「おじさんも中々根性があると思いますよ、完全に逆方向でしたよ、足。」
包帯で両腕をつり、足は投げ出すようになっているおじさんは一番重傷だった。正直寝ていてもつらいだろうに、義務を忘れていない。
「予定通りにチェックポイントの設営をして周囲を警戒していたんだ。そしたら、ゴブリンが一匹迷い込んできた。こんなところにって驚いたがそいつの対処は簡単だった。だけどな、そいつを倒して安心したところで10匹のゴブリンが、俺らを囲んでた。先生様達は腰が引けちますし、一匹はあのデカブツだ。抵抗はしたが武器ごと折られてあのざまだ。嬢ちゃんが来てくれなかったらどうなっていたか、想像しただけでもブルッちまうぜ。」
かははと笑って強がる傭兵さんだけど、私がためらったり、遅かったりすればもっとひどいけがをして最悪死んでいただろう。
「お義姉様、狼煙あげますねー。」
安全の確保と火の準備ができたらしいファルちゃんの声に私はうなづく。
「状況は把握しました。あとは任せて休んでください。」
「すまねえ、たしかにそろそろ限界だ。ただ、何かあれば俺たちは置いて行っていいからな。」
「おじさん、いい傭兵さんですね。お名前をうかがっても。」
「ああ、おれはアマンゾだ。ソロで活動しているから何かあったら指名してくれ、格安で引き受けるよ。」
「ええ、私はミサ・ソルベです。アマンゾさんたちのおかげで奇襲ができて助かりました。ありがとうございます。」
「はっ、そんなん必要なかっただろうに、でもよ、ありがとう、報われるよ。」
伝えることを伝えてアマンゾさんは意識を手放す。念のため手を近づけて確認するけど気絶して眠っただけだ。今度こそ私は気を抜いてその場にしゃがみこんだ。
「慣れないなーこういうの。」
ソルベの兵士は万能とまで行かなくてもなんでもできる。戦うことはもちろん野営や陣地の作成、応急処置やケガの治療、現場での連携のためのホウレンソウ。アマンゾさんが私に情報を伝えてくれたから今後の対応もそれなりにスムーズにはなる。
ただ人のケガというのはいつも慣れない。私の氷の魔法は治療にこそ向いているけどケガを癒すなんて便利な魔法は存在しない。強化魔法は自身にしか効果はない。だから止血とかギブスなど応急処置はできてもここからの回復はアマンゾさんや先生たちの体力次第だ。私にできることはもうない。
「まあ、命は拾えるでしょ。」
それでも戦闘の何倍も集中しないとだし、疲れた。
「姉さん、穴はほったよ。ゴブリンも小さいのはとりあえず。」
「そうね、メイカさん。」
近寄ってきたラグの姿を確認して近くでぼーっとしていたメイカさんに声をかける。だけど反応がない。
「メイカさん!!。」
「ひゃい、なんですか。」
やや語尾を強めてもう一度声をかける。そして跳ね起きたメイカさんに指示をだす。
「穴の中のゴブリンを燃やしてもらえる。ちょっと強火でいちゃって。」
「わ、わかりました。」
すぐに詠唱をはじめるメイカさんを確認して、私は立ち上がってファルちゃんとラグに近づく。
「ラグ、お疲れ、手袋も一緒に燃やしてもらって。ファルちゃん、狼煙は大丈夫だと思うから風を上にだせる?」
「火の勢いがつけば大丈夫だと思いますけど、補助は任せてください。」
大量に魔物を倒した場合は、すぐに死体を処理しないと、匂いで他の魔物を引き寄せたり、健康を害することがある。よくない魔素が発生するとか、魔物の体液が気化して体内にはいるとも言わているけど詳しいことは分からない。だから持ち帰る分以外は、基本的には穴を掘ってすぐに焼くことが推奨されている。
「一段落ね。みんなお疲れ。」
ごうごうと燃え上がる火を横目にゴブリン大の死体にテントの残骸と思われる布をかけながら私はそう宣言した。応急処置も救援も呼んだし、学生の仕事はここまでだ。
「あ、あのミサさん。これは。」
へたりこみながらファス君が燃える火を見ながらそう切り出した。うん、みんなも気になるよね。
「ゴブリン、先生たちが襲われてたから助太刀したの。」
「ああ、なるほど?」
「ファス、姉さんの行動は異常だから、戸惑っていいんだよ。」
ラグよ失礼じゃないか?
「ゴブリンは上位魔物だったよね。しかも姉さんだって初見の魔物だったはずなのに、それを遠くから違和感に気づいて、さらに飛び込んでいく時点でおかしいよね。しかもなにあれ、あんなの完全に化物じゃん。」
「クラーケンが陸いたらあんな感じでしょうか?」
クラーケンが陸にいるときは大体死体だからねー。ちなみにクラーケンは上位ではない。海には人魚よかマーマンという上位魔物がいるしいけど、よっぽど沖にでないと遭遇しないらしい。
「ミサさんはすごいですね、先生たちがある程度倒していたんでしょうけど、こんな恐ろしい場面に飛び込むなんて。」
ファス君がいい感じの勘違いをしてくれているようなので、そのままにしておこう。
「うん、流石に人型の魔物を倒したのは、初めてだったから、緊張したよ。」
なぜかラグが胡乱げな目をして私を見ていたけど、私は気にせず魔法の発動で脱力しているメイカちゃんに近づいて、氷で冷やした水を渡す。
「おつかれ、メイカさん、流石だね。こんな火力は私たちには出せないから憧れるよ。」
「はは、ありがとうございます。」
うん、メイカちゃんはいてくれたらから、無事にゴブリンも処理できた。ゴブリン大は流石に残しておいて証拠にする必要があるけど、ほとんどはアマンゾさんたちがケガをさせておいたことにすれば、私は目立たない。
「姉さん、気づいてないかどうか知らないけど、学生それも一年生が上位魔物に出会って生き残っているという時点でかなりの問題だからね。きっと色々聞かれるし、バレると思うよ。」
まあラグとファルちゃんはゴブリンたちの死体の状況である程度は察しているようだ。これはもうしっかりと口止めと買収をしなくてはならない。
人知れず悪い顔をしながら、私は狼煙の煙を見上げ、先生や護衛の人達が慌ててくるのを待っていたのであった。
魔物とかケモノの処理はこの世界の独自のルールです。実際に森や外で不用意に火を使うのは大抵の場合は条例などにひっ狩ります。あと死体って普通に燃えません、魔法ってすごい。・




