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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
学園編

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47 ミサ 1年生 やりすぎる。

ぼちぼちスタンバイな武闘派さん

 2日ほどでたどり着いた森はそれなりの大きさだった。ただソルベの山と違い見通しがいい。森周辺の木は材木用に人の手がかなり入っているからと事前に説明を受けていたけれどまっすぐに伸びる木が並ぶその様はなかなかに物珍しい。

「姉さん、実習自体がもっと奥でやるみたいだよ。」

「なるほど。」

 ラグの説明を聞きながら、荷物を担いで馬車から降りる。森までは馬車で、その後は徒歩で森の中心にある野営地を目指す。今日はそこで野営の準備をし、明日以降は森でのフィールドワークとなるらしい。 

「数時間程度歩くみたいだけど、みんなは荷物は大丈夫?」

 最後に降りたファス君が渡したり、とくにメイカちゃんを見てそう尋ねるが全員が首をふる。

「ふふふ、このくらいの荷物なら問題ないくらいには鍛えてますわ。」

 なんだかんだメイカちゃんも頼もしい。まあ、まっとうに育った貴族ならこのくらいの運動はできる。

「はい、そこの君に荷物チェックしようか。ああ、やっぱり食料を積みすぎだね。」

「お前にこの剣は大きすぎたようだな。交換だ。」

「そんな鉄装備はいらん、おいていけ。」

「自分の分は自分で持たないとだめだよー。」

 ただ見渡せばさっそくへばっている生徒が先生たちから指導を受けている。必要以上に荷物を持ちこもうとしている子や身の丈に合っていない装備をしている子はまだいい。グループのほかのメンバーに荷物を押し付けて飄々としている子は失格だな。

「山や海にいるときに身分なんてものは役に立たないのに。」

 偉い立場だから襲われないなんてことはない。逆にそういう弱いのを狙うのがオオカミだし、猿たちはキラキラした装飾品を狙う。大きく立派な剣でも身の丈に合わなければただの重しだ。

「みなさまがお義姉様ほどストイックではありませんから。」

 はははと笑う一同だが、さすがに私たちのクラスの面々はそういった指導は入っていない。指導されているのは下級クラスの子たちだが、あきらかに勉強不足だ。

「実力に不安がある子は先生たちが先導するらしいですよ。あと一部のお家の人が独自に護衛を雇って付き添わせているみたいですね。」

 メイカさんが呆れたように目線を向ける先には明らかに場慣れした様子の大人たちだった。なるほど心配性な親もいるのか。もちろんだが私たちはそんなものを雇っていない。

「正直ミサさんたちが御連れになっていないことを侮ったり、不審がったりしている人もいるみたいですわ。そういう人ほど私たちにはマウントをとってくるから。」

「今頃、青ざめてるんじゃないかな?」

 メイカちゃんとファス君の家はそこそこの家なので護衛を雇う余裕はないというか余計な出費と考えていたらしい。逆に4家の跡継ぎである私たちが護衛の1人も連れていないことが波紋を呼んだらしい。

 曰く、4家は護衛を雇う余裕もないだとか。

「馬鹿らしい、この程度で護衛を雇うとか、子どもの遠足じゃないんだから。」

 しかも護衛の質もイマイチだ。たぶん1対1でヘイルズ先輩といい勝負。ラグやファルちゃんなら複数相手でもどうとでもなるレベルだ。

「傭兵さんとしては、僕らとお近づきになりたいみたいだけどね。」

 力量を見抜き、ちらちらとこちらを見ている護衛の人たちにラグを呆れている。

「野営やら、フィールドワークで困ったときに助けて、あわよくばお近づきになれば傭兵としては安泰ですからねー。」

 ファルちゃんもあきれ顔だ。というか護衛の人たちもここに大した獲物がいないことが分かっているのか緊張感がない。

「ふう。」

 慢心はよくない。そして自らを高めるのではなくコネを求めることや権力でどうにかしようとする態度が気に入らない。あれだ、始まる前から私はイライラしているらしい。

「さて、ラグ、ファルちゃん、ここは私がやるね。」

 だからだろう、ソルベの山で遊びまわっていたときの習慣を私は実践することにした。

「えっ、ちょっと姉さん。ここではまずいぞ。」

「ファス君、メイカさんこちらへ、できれば耳をふさいで目も閉じて。」

 慌てて対応する二人だが、うんちょっと気が抜けてない?

 深呼吸をして、気を練る。というのはよくわからないけどイメージはそんな感じ。身体の中に魔力とか気力とかを圧縮し凝縮する。やがてそれが限界を超えて溢れそうなタイミングで森に向かって口を開く。

「アオーーーン。」

 音量自体はそんなに大きくない。ちょっと大きな声ぐらい。大声を出す獣ほど実は弱い。真の実力者はただその存在だけで相手を威圧して制圧する。そして、獣は本能で強者の存在を理解して逃げ出す。

『威圧』 ある程度の実力があるものなら当然のようにこなせる技術で、大規模な狩猟や間引き、森の探検などの前に行われる、ソルベの必須技術だ。

 ざわざわと木々が揺れ、わずかにいた動物の気配が私から離れるように遠ざかっている。

「ふう、やっぱり大した獲物はいないわね。ほとんどが奥へ逃げていったわ。」

 ふふんと得意げに胸を張る私だが。

「姉さん、バカなにやってんの。」

「何言ってるの、森に入る前に威圧をするのは基本よ。」

「やりすぎ。」

「ちゃんと加減したわ。」

 まあ、やりすぎだけどね。何人かの生徒が何かの異常を感じ取りキョロキョロとし、森のざわめきに悲鳴を上げる子もいた。ただ一番の被害者は中途半端な実力の護衛達だったろう。中途半端に知覚する技能があるので私の威圧をもろに受けてしまったのだ。

 威圧はハッタリである。だがそれ相応の実力がなければ行えないし、人がそれを理解してしまえばパニックになる。

「鍛えかたが足りないわ。」

 満足げに私は護衛達を見てそう結論づけた。まあこれで気を引締めてくれればいいし、森もしばらくは安全だろう。

「威圧は使いどころを考えなさい。もうめちゃくちゃだよ。」

 この後、ラグと先生たちから怒られた。当然と言えば当然だ。



正史のミサさんは野営などの知識はないのですが、そのあたりは周囲が補っています。

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