46 ミサ 1年生 グループと交流する。
いよいよ旅行編
透き通るように雲一つない空。どこまでも青い空は絶好のお出かけ日和と見えなくもない。校外学習の初日はそんな快晴から始まった。風もなく穏やかな天気を前に生徒や職員もリラックスした表情であった。
「ファルちゃん、実際のところはどう?」
馬車に揺られながら私は隣に座ていたファルちゃんに声をかけた。
「そうですねー。お義姉様少々失礼しますね。」
私の意図を理解したファルちゃんはゴロンと寝転がって私の膝に身体を預けて空を見上げる。やがて
「上空の方は東からの風が吹いています。このまま気温は上がるでしょうし、数日したら雨がふるかもれません。」
「ありがとう。」
ちょうどいい位置にあったファルちゃんの頭をなでながら私を御礼をいった。
ファムアットの魔法は「流水」と言われている。風や水の流れを読み解き、ときにその流れを変える。基本となる風や水の魔法では、術者から一定の方向に風や水を生み出したり動かすことしかできない。ファムアットはそこから一歩進んで任意の流れを作ったり流れを読むことで、海の航海や天気を予想したりする。こと環境を把握するという点では、ファムアットは国で一番なのだ。
「そうなのですか、ファムアットの人はそういっていただけるなら、校外学習の間は安心ですね。」
向かいに座るメイカちゃんは感心したように答えた。魔法に関りの深いラス家の彼女もファルちゃんの魔法のすごさはわかるのだろう。
「ただ、少々暑いのが気になりますね。南へ行くとどうしても暑さが気になります。」
馬車の中というのは意外と暑い。暑さに強いメイカちゃんが感じるほどだからそれなりなんだろう。
「たしかにこの日差しだと、馬が疲れやすいでしょうね。」
窓の外を見ていたファス・ファーストことファス君は馬を見て心配そうな様子だった。彼も兵士の家の出身なので、行軍などにおける馬の重要性とか天気の重要性も分かっている。
「まあ、大丈夫じゃないかな。先生たちも御者の人もそのあたりを考慮して予定を組んでると思うよ。」
その隣で同じく外を見ていたラグが補足する。もっともな話だ、初夏から夏にかけて気温が上がり日差しが強くなればそれだけ馬への負担は大きくなる。だからこそ水や飼い葉などの量や休憩のタイミングなどは季節ごとに適切なものがある。学園の関係者がそのあたりを怠るとは思えない。
「ふふ、これだけ慎重な人たちだと、安心ですわ。」
起き上がりながらファルちゃんが話をしめ、馬車の中は少しだけ和やかな空気になった。
なお私を含めてこの5人で同じ馬車に乗っているのは、校外学習で過ごす同じグループだからだ。人グループ5人から10人。それぞれが馬車を利用しているので一年生の一部だけとはいえその列は長い。そしてその工程も長い。最初は緊張していたメイカちゃんとファス君だったけど、否応なしになじんだ。もとい馴染めるようにした。
「それにしてもすごい車列よね。これだけの規模だと、獣も逃げるわ。」
それこそソルベでは絶対に見ることのない光景だ。ラグも興味津々といった感じで見ていたし、私も眺めて飽きないものだ。
「王都では、学園の馬車の列がこの時期の風物詩なんですわ。それこそ私も小さい頃はこの車列を見てあこがれたものです。」
「ああ、わかります、僕もです。いつかあの車列にのって冒険に行くんだって。」
メイカちゃんとファス君は王都出身なので見慣れたものらしい。それでも二人からしても憧れの光景だったようだ。
冒険といっても、この人数の移動ならまず危険はないし護衛も手配されている。現地の森もソルベと比べたら庭先のようなものだけど。
「お義姉様、王都の人にとって森や海はあこがれつつも危険な場所なんですよ。」
表情を読んだのか何か言う前にファルちゃんに窘められる。
「うん、まあ事前に勉強したけど、いるのはウサギとカエルなんでしょ、それほど怖くはないわ。
「ホーンラビットとジャイアントトードですね。スパイクラビットは動きが早く、ジャイアントトードは剣が効きづらいから魔法か火で対処する必要があるんですよね。」
「メイカさん、さすがです。あとは数が多い場合があるので撤退のタイミングが大事なんです。」
そうなのか、ソルベだとオオカミとかクマの餌になっているけど。
「正直カエルにはあまり触りたくないから、メイカさんの魔法が頼りになるね。僕たちの中で遠距離の火魔法を使えるのはメイカさんだけだから。」
「前衛は僕とラグさんが努めます。スパイクラビットぐらいならどうとでもなりますから。」
頼もしいぞ男子たち。基本的に私たちって近接特化だからね、投げてもいいならどうとでもなるけど。
「そんな、お三方を差し置いて私なんか。」
謙遜するメイカちゃんだけど、入学時の魔法試験を見ていたからこそ彼女は割と優秀なのだ。そしてこの一か月でかなり努力している。
「大丈夫だよ、何かあってもこのメンバーならだいたいのことは乗り越えられるから。」
謙遜でも油断でも慢心でもなく、私はそう思っていた。
そうこのときまでは。
なんだかんだ、ミサさんたちは貴族の流儀を理解しています。




