EX8 オータム学園 それぞれの人間関係の裏側
正史ルート 乙女ゲームでヒロインが好感度を上げている裏側ってきっとこんな感じに冷めてるんだろうなって。
(マリアンヌ ライオネル)
ロムレスのゲストハウスの客間と言えば、学園、いや国内でも屈指の豪華さと上品さを持つ格式ある部屋だ。そしてそれを利用する二人もまた屈指のVIPである。
「今日は、特別に機嫌がよいですね。」
上品に紅茶を飲みながらマリアンヌは冷めためでライオネルを見ながらそういった。
「ああ、ちょっとな。」
それに気づいているのか、気にしていないのかライオネルは何かを思い出しかのように楽し気に笑う。誰のことを思い出しているのかはマリアンヌには明らかだ、だがあえて口にはしない。
「そうだ、今日は贈り物があるんだ。珍しい花が手に入ってな。」
そういってライオネルは、従僕に指示をだして花束をマリアンヌに渡す。
「まあ、リコの花ですか、今年も咲いたんですね。」
「ああ、夏を告げる花らしいな、珍しいし美しいからお前に似合うと思って。」
うそばっかり。マリアンヌはその花を投げ捨てたいと思う気持ちをぐっとこらえた。
確かにリコの花は珍しい、夏前の短い季節に咲く花で、香りも色も素敵だ。だが、この花はもともと北、ソルベの地から国に広がった花。見識の高いマリアンヌはそれを理解していた。
そして、目の前のライオネルに花を理解する甲斐性などない。
では、どうなのか、誰かがその知恵を吹き込んだに違いない。
「そうですか、ありがとうございます。」
ロムレスとクラウンの関係を考えた政略結婚の許嫁。それはマリアンヌも分かっている。ライオネル殿下の人柄もそれなりに尊敬できるし、こうして穏やかにお茶をするのも嫌いではない。プレゼントだってうれしい。
ただ、目の前の男が、自分よりもあの子に感心を持っている。いな、最初から自分への興味がない。ライオネルがマリアンヌに求めているのは国母としての実務能力であり、両家とのつながりだ。
それでもいい。そう割り切っているつもりではある。
「世間にはこんなにもきれいな花があるものだな。」
どこか優し気に花をめでる目が自分ではない誰かを向いていること。その事実を受け止められるほど、マリアンヌは大人ではなかった。
(ファルベルト ラグ)
ラグ・ソルベの一日は、ミサ・ソルベの行動によって決まる。学園の生徒でありながら授業も予定もミサを見守れることが絶対条件で、他のさじは一切興味がない。
「ラグ様、お久しぶりです。」
だが、彼もソルベの人間であり、そこには人間関係もある。許嫁との時間を取ることも大切だ。
「ファルベルトさん、お久しぶりです。」
彼の行動原理を理解し、その上で自分に時間を取ってくれることがファルベルトにはうれしくてたまらなかった。それがただのお茶の時間であり、ラグが時間を気にしていることも含めてファルベルトはうれしい。
「ラグ様のご活躍は日々耳にしていますわ。お義姉様は最近は薬草にも興味をもたれたとか。」
媚びを売るわけでもなく、この場に限っては対等になるように気をつかいながらファルベルトは言葉を選ぶ。地雷を踏んだ場合の恐怖は身に染みている。
「そうですね、お嬢様はソルベでも薬学を勉強されていました。気温による薬効の違いに興味を持たれて勉強されています。」
「そうなんですか、ファムアットは温暖な気候なので、ソルベと取り扱っている薬草とは異なると先日教えていただいたんですが、そういうことなんですね。」
ほんとはもっと違う話をしたい。だが、ラグの口から語られるのはミサのことばかりだ。ミサを崇拝し、姉弟でありながら従僕であるようにふるまうラグ。そんな彼がファルベルトは好きであり寂しかった。
「ファルベルトさん、以前もお伝えしたことですが、私はこの生涯をお嬢様にささげると決めました。本来ならばこのような時間も無駄と思っています。ですがお嬢様の近くにいるためには貴族の義務もこなさねければなりません。」
ラグはそこだけは誠実に伝える。
「だから、私との縁談など断ってくれて構いません。私があなたを愛することもなければ、愛されたいとも思っていません。これがずっとです。永遠です。」
どこか覚悟ともとれる言葉と態度。女性に対してあまりにも失礼で誠実な態度。
「ええ、わかっていますわラグ様。」
愛されない。そうわかっていてもファルベルトは思いを止められなかった。だから
「わたしもお義姉様を尊敬しています。だからラグ様とともに、支えていきたいと思っています。」
心にもない嘘を吐ける。嫉妬と絶望で狂いそうになりながらもそれがどこか心地よい。
「あなたは変わっていますね。」
「それはラグ様もでしょ。」
恋とは愛とは、その苦痛すらも快楽に変えていく。あるいはそう思い込んでいるのか、破滅にも近い将来を夢見ながらファルベルトはぞくぞくするのであった。
(レイランド ヘイルズ)
近衛騎士とは力と名誉が求められる騎士だ。ただ敵を屠るならば兵士でいい、守るだけならば頑丈な建物があればいい。王族やその関係者の身と心、そして立場を守り、国の威信を示す。ただの腕力だけでは近衛騎士は務まらない。礼節やふるまい、なにより平等に王家を守るその精神が求めらる。
「ヘイルズ、張り切っているな。」
職務の合間をぬって久しぶりに学園を訪ねてみると、許嫁にして弟分のヘイルズは熱心に訓練していたことにレイランドは驚いていた。
「おお、レイランドじゃないか。相変わらず強いな。」
何を見て判断したのかわからないが、ヘイルズの「強いな」は「かわいい」とか「美人」にそうとうする誉め言葉、お世辞であるのでレイランドの心は動かない。
「この時間に鍛錬とは珍しい、殿下の追っかけはやめたのか?」
「人聞きの悪い、いやいやただ単に己の力不足を感じて鍛えているだけだ。」
「ほう。」
その殊勝な態度にレイランドは感心した。以前のヘイルズならば殿下と同年代ということを笠に着てなにかと殿下のあとを追いかけては側近のように振る舞っていた。それが悪いことではないが、それ訓練がおろそかになっていることが周囲の悩みであった。
「少しは近衛を目指す覚悟ができたということだな。」
その成長はうれしいものだ。もともと恵まれた体格をしていたヘイルズはそこに胡坐をかくことが多く、そのたびにレイランドやほかの同輩とともに鍛えていたものだった。だからこそレイランドはその成長はうれしくも少し寂しくもあった。
「ああ、あれだ、騎士として守るべきものというのがわかったんだ。」
うん?とレイランドは違和感を感じた。だが、それは些細なものだった。
「守るべきものを守るためには俺の力はまだまだ足りない。ただ強くなるだけでなく、心も鍛え、教養を備え、ともに歩けるようにならなければならない。」
「なかなか立派な考えだな。」
騎士を志すなかで最初に習うこと、ただそれを言葉として理解することと志にすることは違う。だからこそ、レイランドはヘイルズの成長を喜ばしく思った。
「そう、私が守らねばならないのだ。」
ヘイルズの瞳、そしてその志が特定の誰かに対して集中しているという事実に気づかないまま。
(ライナー = ローズ)
たった数か月の間にジャネット家は更なる発展を遂げた。それは跡継ぎであり商品開発のトップに立つライナー・ジャネットの活躍によるものだというのは周知の事実だ。
「うん、この穏やかな香り、これはハンドクリームに良さそうだ。」
学園に特設された温室は彼の研究室であり城だ。実家からの援助をもとに建てられたこの場所でライナーはありとあらゆる植物を研究し、美容や健康に関わる画期的な新商品をいくつも生み出していた。
神童、幼少よりも植物関連に関して類まれなる才能を発揮していた彼を人々はそういう。一方で可愛いものや女性的なものを好む彼の嗜好は周囲から奇異の目で見られ、学園へ入学と同時に与えられた温室はある意味では隔離施設であった。
金の卵を生み出す変わった子。見た目はいいが、中身は理解されない。そんな評価を受けていたはずのライナーは今となっては国中の女性のあこがれの的である。
曰く、美の救済者。曰く女性の味方。曰く、男性の財布を空にする男。
たった数か月で様々な異名を欲しいままにしていたライナーは今日も温室で研究に励む。
「ふふ、これは日焼け止めの効能がありそうだ。白い肌は赤くなりやすいからな。」
ただ、多くの人は知らない。最近のライナーの様子の変化を
フリルやレースなどで飾り付けられていた制服はいつのまにか通常の男子生徒のものと変わらなくなり、ふわりと飾り付けられていた髪は短く切られ後ろで一本に縛られている。派手な化粧はなくなり、うっすらと地肌の美しさを活かす男向けの化粧になっていること。
「そうだ、リコの花が咲いていたな。あれの香りでアロマなんてものを作ったらどうだろう。」
手札をさらすように、次々と発表される美容品の数々が、派手さよりも実用性とおしとやかなイメージを持っていること。逆にもともと売り出されていた濃い目のルージュや強い香りの香水などの新作がすくなくっていること。
「あの子は喜んでくれるかな?」
作っているライナーの瞳に移っているのだ、ただの1人であることを。
彼が思い描き、着飾ろうとしている相手も含めてその気持ちが温室から漏れることはない。
正史 攻略対象はミサに惚れているので他をないがしろにしがち
改変後 ライバルヒロインたちがミサにかまっているので、攻略対象たちの立場が薄い。




