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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
学園編

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44 ローズ母様 息子を心配する。

 一方その頃 実家の人たちはという話

 自然が多いソルベの景色は季節ごとに変わる。

「ああ、リコの花が咲いている。ということはもうすぐ一か月たつのね。」

 庭園の庭を見回りながらローズ・ソルベは時間の流れを感じてほほを緩ませた。リコの花は初夏を告げる黄色の花で、この花が咲くと気温が上がり夏が近づいてくる。

「王都は今頃賑やかなんでしょうねー。」

 そういってどこかへ 思いをはせる横顔は、3人も子どもを産んだとは思えないほどに若々しく、それでいて母親という知性と慈愛に溢れていた。傍に控えている侍女たちは、その顔が見れた幸運に感謝し、のちに同僚に自慢するのだ。ソルベの宝石とも称えられる美貌は未だに健在である。

「「かあさまーーー。」」

 そんな宝石がさらに輝くのは、彼女を求めて走り寄ってくる双子たちと接するときだ。

「あらあら、ルネったらミーちゃんを引き摺ってるじゃない。リッカソはラッ君を振り回しているし。」

 3歳になりしっかりしてきた足取りの双子はそれぞれに人形を抱えながら近づいてきていた。視線がローズに固定されて周囲への注意がおろそかになっているが、そこは世話役のマリーが見舞っている。わんぱくな娘たちの様子を見守りながらローズは笑顔で歩み寄る。

「おひるのじかん。」

「とおさま、よんでるーー。」

 抱き着きながら、双子は舌足らずで要件を伝える。

「あらあら、ありがとうね、二人とも。」

「きゃーーーー。」

 二人まとめて抱き上げ、その重さを感じながらローズはとろけるような笑顔になる。

「二人は何をしていたの?」

「ええっとね、おさんぽ。」

「きのぼりー。」

「そうなんだ、げんきいっぱいねー。」

 ニコニコと双子を抱えたまま歩き出すローズに慌てるのは周囲だ。

「お、奥様は、ご無理は。」

「大丈夫よ、防具と比べたら軽い軽い。」

「ですが・・・。」

 慌てるのは周囲である。まだ3歳とは言え双子ならそれなりの重量だ。そして、3歳と言えば、ソルベの人間ならばもっともけ、心配したくなる時期だ。

「ローズ、マリー達の言うことももっともだぞ。」

「あら、あなた。心配性ね。」

 いつの間にか現れたベガにローズは慌てることなくリカッソを預ける。

「とおさま、かあさまよべた。」

「いいぞリカッソ、無事に任務をやり遂げたな、さすがはソルベの子だ。」

「るかも、るかも。」

「ええ、ルカも立派ですよ。」

 娘と息子とともに、微笑ましくも語る領主夫婦。平和で幸せな光景だが、どこか物足りない。

「・・・やはりミサ様とラグ君がいないと少し寂しいですねー。」

「ええ、平和で穏やかなんでけど、お二人の元気な声がないとどうにも。」

「兵士長さんたちもちょっと気が抜けているらしいですからねー。正直ベルカさんとラニーニャさんがうらやましい。」

 ソルベで一番やかましく、そして愛されているであろう二人が学園へ入学して、一か月。まだ一か月なのである。成長の喜びや振り回されないことへの安堵よりも寂しさが残るころだ。

「かあさま、かあさま、ねえさま。」

「そうね、ミーちゃんも一緒に食べましょうねー。」

 例えば双子の手にあるぬいぐるみがそうだろう。双子が持ち運べるほどの大きさのそれはデフォルメされたミサとラグである。

「ねえさん、いっしょ。」

「らぐもいっしょ。」

 それらを抱えてゴキゲンな双子は寝るときもそれぞれのぬいぐるみを抱えるほど大切にしている。昨年の旅行の際にミサたちとはぐれることで大泣きした双子のために一年かけて開発されたぬいぐるみ。完成度の高さもあるがモデルの人気もあって城内で秘密裏に量産され配給されている。

「そういえば、あなた、リコの花が咲いていましたわ。」

「そうか、もうすぐ夏、王都だろ校外学習の準備をしているころだろうな。」

 季節の流れや城内の様子、それらを領主にさりげなく伝えるのもローズの役割である。そして二人は、どこか懐かしい気持ちになった。

「懐かしいわー、キャンプ。」

「いや行軍と野営の訓練だったからね。」

「冗談ですよ。」

 冗談で言っているが、校外学習については二人とも心配していない。行軍や野営の訓練ならミサとラグは何度もしていたし、体力や実力についても心配はしていない。準備や行程も同行させたベルカとラニーニャが抜かりなくやるだろう。

「今更、男女一緒の野営だからといって恥ずかしがることもないだろうしな。」

 実際の野営で男女の差は考慮や配慮はあっても差別はない。見回りも平等だし、準備は女子もする。いや、ミサの場合は嬉々してやるだろう。とローズは思う。

「まあ今頃は、学園のレベルに驚いてることじゃないかな?」

「ええ、いろんな意味でミサにとっては衝撃でしょうね。」

 あまりのレベル差に落胆する娘の顔を想像し、両親は苦笑する。

 可愛い娘にしてソルベの長子。ソルベで二番目に大事にされるべきミサ。だが同時に、一番心配がいらない娘でもある。

「となると、ラグが大変になりそうね。ファルちゃんとかマリアンヌ様が止めてはくれるでしょうけど。」

 ミサの訓練についてこれる同世代と言えば、ラグとその許嫁のファムアットの令嬢。

「まあ殿下も何かと気を向けてくれると思うぞ。」

 光栄なことに、ラグは殿下と仲がいい。男友達もたくさんできるだろう。

「ただ、振り回されるでしょうね。」

「振り回されるな。確実に。」

「らーぐー」

「きゃーーー。」

 ブンブンと振り回されていたラッ君ことラグを模したぬいぐるみがリカッソの手から離れて飛んでいく。

「ああ、ラッ君が。」

 慌てて侍女が拾ってリカッソに戻されるが、リッカソはまたブンブンと振り回す。そう遠くないうちにまた飛ばされるだろう。

「せめて手紙の一つでも送ってくれたら安心なんですけど。」

「はは、今は学園生活が楽しいんだろ。きっとそろそろ来るさ。」

 実の息子、いやそれ以上にソルベに必要と思う義息子を暗示するような光景に二人は内心不安になっていた。ミサの暴走を受け止める、いや付き合えるのはラグだけかもしれないという思いがあるのだ。

「ラグ、どうか元気で。」

 祈るようにローズは王都の方角を見た。

 もっとも半月後に届いた便りに書かれた王都と学園での二人の振る舞いに腰を抜かしかけ。送られた化粧品の質の高さに驚き、新作スイーツのレシピに目を輝かせるローズ夫人の姿が見られることになるのだが、このときはまだ娘たちが何をしでかしているか知らずにいるのであった。

 



 ソルベはソルベ。ミサはミサなので、彼女のわんぱくさと実家の環境はあんまり関係ない。

 次回は、ミサたちを見守る人達のお話です。

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